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本編前のエピソード
未来の将達 2 マクベ襲来
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「嫌な音だ」
耳の良いリュゼーが顔を顰める。「群れじゃない、一頭。しかもデカい」
それを聞いた他の二人は目を見合わせる。
ロウは群れで狩りをする。単独で狩りをする場合があるが体躯はそれほど大きくない。この山にもロウ以外の肉食獣は数多くいるが、そのほとんどはさして危険ではない。人里近いこの場所でリュゼーの眉根を寄せる存在といえば一つしかない。三人は共通の獣を思い浮かべる。
「マクベか?」
「多分な」
リュートの問いにリュゼーは静かに答える。
それを聞いたファトストが顔を歪めると、答え合わせのように音がする方から黒い塊が姿を現す。
「おいリュート、俺が思ったよりデカぞ」
「あぁ、その辺のマクベより一回りも二回りもでっかい体をしてやがる」
「お前らってやつは、全く」
釣り上げた魚の大きさを語っているかのように、危機感の薄い二人にファトストは苦笑いを浮かべる。
マクベは雑食のため魚や肉も食べるが、狩りが下手なため基本的に木の実などを主食としている。しかし、巨体で力は強く鋭い爪を有しているために、出会した時の危険度は高い。
「何だあいつ?こっちに向かってくるけれど、お散歩か?」
「さあな」
巨体ゆえに直線での速度はかなり出るが、木々の間を走るとなると俊敏性に欠けるためあまり早く走れない。まだ距離が離れているというのもあるが、山間部の移動になれた二人にとってそこまでの脅威が感じられないのはそこに理由がある。
「そんな訳ないだろ」
しかし、ファトストは違う。「俺達の方に向かってくるっていうのは、何かしらの理由があるはずだ。先ずは相手の出方をみよう」
そう言うとファトストは威嚇のために矢を射る。しかしマクベは目の前に刺さる矢に気が付かぬかのように、三人の方へゆっくりと歩みを続ける。
「これは決まりだな。肉の味を覚えちまった個体だ」
ファトストが二人を見る。
「あぁ、俺の手柄を横取りしようとしてやがる」
「俺達の、な。…ん?」
リュゼーは目を少し細め、マクベをじっと見つめる。「おい、見てみろよあいつの耳」
マクベの左の耳が矢で射抜かれたように欠けている。よく見ると背中に薄らと白い毛が混じっている。
「リュート、あいつオソ爺のシップ襲ったやつじゃねえか?」
「ああ、間違いねぇ。あいつだ」
リュートとリュゼーの雰囲気が変わる。
村ではマクベによる家畜や畑を荒らされる被害が起きている。リュートの遠縁にあたるオソもその被害にあった一人である。ほとんどのシップはマクベの手にかけられてしまったのだが、食べられたのはその内の数頭だけだったのである。愛する家畜を失ったオソは元気を無くし、床に臥せがちとなってしまった。
「許せねよな、あいつ」
「ああ、許せねえ」
「どんだけオソ爺がシップのことを可愛がってたと思ってんだ」
「おう。俺も水の一環でオソ爺のシップの毛刈りを何度もやったから、その気持ちはわかるぜ」
「やるか?」
「おう、それ以外にあるか?」
リュートとリュゼーは顔を見合わせて頷きあう。
「ちょっと待ってって」
ファトストは慌てて二人を宥める。
ここで状況が少しだけ変わる。マクベが動きを止めたのだ。
二人の殺気を感じたためか、逃げ出さない三人の様子を窺うためなのか。どちらにせよ三人にとって時間の余裕が生まれた。
「何言ってんだよ、冷静に考えてみろよ。ここには剣も矛も無い。イノ狩りだからって短弓しか持ってきてない。威力のある長弓じゃなければ、あいつに致命傷なんて与えられないんだぞ。悔しいけれど、この状況じゃ退く以外に選択肢は無いんだよ」
「そんなことは十分に分かってるよ。それじゃあオソ爺の仇は誰が晴らすんだ?お前は悔しく無いのか?」
「オソ爺は爺さまの従兄弟だし、俺だってオソ爺のことが好きだから悔しいよ。お前と同じく、仇を討ちたいと思っている。でも、今じゃ無いんだ。リュート、分かってくれよ」
ファトストはリュゼーの肩に手を置く。「おい、リュゼー。お前も考え直せって」
リュゼーはファトストの手を握ると、肩からそっと手を除けた。
「ファトスト、それは無理ってもんだよ。俺たちは決めちまったんだ」
「おいリュゼー、いつものお前はどこにいったんだよ」
「俺はいつもと変わらないぜ」
リュゼーはいつものように、飄々と笑って答える。「お前も考えてみろって。あいつは臆病で狡賢い。耳を撃ち抜かれてからは、何度も村人総出で探しても見つからなかったのに、そいつが目の前にいるんだぜ。どうすればいいと思う?」
ファトストはため息を吐く。
「たまにお前が分からなくなるよ」
「俺は思いついたままに行動してるだけだからな」
リュゼーは白い歯を見せる。
飄々としているかと思えば、核心を突いたりする。しかし、確かに言えることは、こうと決めたら動かない頑固者ということだ。
「それもそうだけどよ」
リュートは二人の話に割って入り、そのまま捲し立てる。「あいつは大人達がいる時にはびびって隠れてるのに、俺達の前に姿を現した。それって俺達が舐められてるってことだろ?そんなの我慢ならねえ。それにみろよあいつの手慣れた態度。ああやっていつもロウの獲物を横取りしてるんだろうな。そんなの許せると思うか?」
再びファトストはため息を吐く。
「お前達の考えは分かったよ。でもどうやってあいつを倒すんだよ」
リュートとリュゼーはお互いに目を合わせてから、ファトストの方を向く。
そして、二人同時に口を開く。
「それはお前が考えるんだろ?」
耳の良いリュゼーが顔を顰める。「群れじゃない、一頭。しかもデカい」
それを聞いた他の二人は目を見合わせる。
ロウは群れで狩りをする。単独で狩りをする場合があるが体躯はそれほど大きくない。この山にもロウ以外の肉食獣は数多くいるが、そのほとんどはさして危険ではない。人里近いこの場所でリュゼーの眉根を寄せる存在といえば一つしかない。三人は共通の獣を思い浮かべる。
「マクベか?」
「多分な」
リュートの問いにリュゼーは静かに答える。
それを聞いたファトストが顔を歪めると、答え合わせのように音がする方から黒い塊が姿を現す。
「おいリュート、俺が思ったよりデカぞ」
「あぁ、その辺のマクベより一回りも二回りもでっかい体をしてやがる」
「お前らってやつは、全く」
釣り上げた魚の大きさを語っているかのように、危機感の薄い二人にファトストは苦笑いを浮かべる。
マクベは雑食のため魚や肉も食べるが、狩りが下手なため基本的に木の実などを主食としている。しかし、巨体で力は強く鋭い爪を有しているために、出会した時の危険度は高い。
「何だあいつ?こっちに向かってくるけれど、お散歩か?」
「さあな」
巨体ゆえに直線での速度はかなり出るが、木々の間を走るとなると俊敏性に欠けるためあまり早く走れない。まだ距離が離れているというのもあるが、山間部の移動になれた二人にとってそこまでの脅威が感じられないのはそこに理由がある。
「そんな訳ないだろ」
しかし、ファトストは違う。「俺達の方に向かってくるっていうのは、何かしらの理由があるはずだ。先ずは相手の出方をみよう」
そう言うとファトストは威嚇のために矢を射る。しかしマクベは目の前に刺さる矢に気が付かぬかのように、三人の方へゆっくりと歩みを続ける。
「これは決まりだな。肉の味を覚えちまった個体だ」
ファトストが二人を見る。
「あぁ、俺の手柄を横取りしようとしてやがる」
「俺達の、な。…ん?」
リュゼーは目を少し細め、マクベをじっと見つめる。「おい、見てみろよあいつの耳」
マクベの左の耳が矢で射抜かれたように欠けている。よく見ると背中に薄らと白い毛が混じっている。
「リュート、あいつオソ爺のシップ襲ったやつじゃねえか?」
「ああ、間違いねぇ。あいつだ」
リュートとリュゼーの雰囲気が変わる。
村ではマクベによる家畜や畑を荒らされる被害が起きている。リュートの遠縁にあたるオソもその被害にあった一人である。ほとんどのシップはマクベの手にかけられてしまったのだが、食べられたのはその内の数頭だけだったのである。愛する家畜を失ったオソは元気を無くし、床に臥せがちとなってしまった。
「許せねよな、あいつ」
「ああ、許せねえ」
「どんだけオソ爺がシップのことを可愛がってたと思ってんだ」
「おう。俺も水の一環でオソ爺のシップの毛刈りを何度もやったから、その気持ちはわかるぜ」
「やるか?」
「おう、それ以外にあるか?」
リュートとリュゼーは顔を見合わせて頷きあう。
「ちょっと待ってって」
ファトストは慌てて二人を宥める。
ここで状況が少しだけ変わる。マクベが動きを止めたのだ。
二人の殺気を感じたためか、逃げ出さない三人の様子を窺うためなのか。どちらにせよ三人にとって時間の余裕が生まれた。
「何言ってんだよ、冷静に考えてみろよ。ここには剣も矛も無い。イノ狩りだからって短弓しか持ってきてない。威力のある長弓じゃなければ、あいつに致命傷なんて与えられないんだぞ。悔しいけれど、この状況じゃ退く以外に選択肢は無いんだよ」
「そんなことは十分に分かってるよ。それじゃあオソ爺の仇は誰が晴らすんだ?お前は悔しく無いのか?」
「オソ爺は爺さまの従兄弟だし、俺だってオソ爺のことが好きだから悔しいよ。お前と同じく、仇を討ちたいと思っている。でも、今じゃ無いんだ。リュート、分かってくれよ」
ファトストはリュゼーの肩に手を置く。「おい、リュゼー。お前も考え直せって」
リュゼーはファトストの手を握ると、肩からそっと手を除けた。
「ファトスト、それは無理ってもんだよ。俺たちは決めちまったんだ」
「おいリュゼー、いつものお前はどこにいったんだよ」
「俺はいつもと変わらないぜ」
リュゼーはいつものように、飄々と笑って答える。「お前も考えてみろって。あいつは臆病で狡賢い。耳を撃ち抜かれてからは、何度も村人総出で探しても見つからなかったのに、そいつが目の前にいるんだぜ。どうすればいいと思う?」
ファトストはため息を吐く。
「たまにお前が分からなくなるよ」
「俺は思いついたままに行動してるだけだからな」
リュゼーは白い歯を見せる。
飄々としているかと思えば、核心を突いたりする。しかし、確かに言えることは、こうと決めたら動かない頑固者ということだ。
「それもそうだけどよ」
リュートは二人の話に割って入り、そのまま捲し立てる。「あいつは大人達がいる時にはびびって隠れてるのに、俺達の前に姿を現した。それって俺達が舐められてるってことだろ?そんなの我慢ならねえ。それにみろよあいつの手慣れた態度。ああやっていつもロウの獲物を横取りしてるんだろうな。そんなの許せると思うか?」
再びファトストはため息を吐く。
「お前達の考えは分かったよ。でもどうやってあいつを倒すんだよ」
リュートとリュゼーはお互いに目を合わせてから、ファトストの方を向く。
そして、二人同時に口を開く。
「それはお前が考えるんだろ?」
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