王国戦国物語

遠野 時松

文字の大きさ
47 / 148
本編前のエピソード

武の道 3 肉

しおりを挟む
 日が沈んだ頃に船への積み込みが終わり、フビットと街を探索した。
 アンカレ港同様に港街だが、都市となっているので規模が違う。嵐の影響が少ないのか建物も高い。ベイナイ家で土をやってた時にマルセールへはきたことがあるが、街に足を運んだのはこれが初めてだ。
 頻繁に乗っていた半島の西側と湾内を結ぶ荷船は、荷を積み込んだら直ぐに出港する。速度より安定性に重点を置いている船なので、多少海が荒れていても航海できる。風と波さえ良ければ船の上が休憩場所だ。
 どこもこんな感じで、ホロイ家の船も次からは荷を積み込み次第出港となる。港で腹を満たし、船の上で一夜を明かせば暖流がアンカレ港まで運んでくれる。
 金など持っていないが、街には金があったら欲しいなというものがいくつかあった。良いものが沢山あるから、家族がいるならお土産を買っていこうと思うだろう。
 金など持っていないなりにこれだけは食べたいと思っているものがあって、それだけは食べた。あれは美味かった。
 隣国から取り寄せた質の良いハオス牛にカルマドの塩をかけただけの串だが、塩とは美味いものなのだなと思った。
 漁村に住んでいる者なら分かってもらえると思うが、主なタンパク源は魚だ。干し肉では味わえない肉汁が、体全体に染み渡る。体が肉を欲していたのが分かる。
 あれは何度でも食べたい。
 朝飯を食べたが腹が減ってきた。
 俺は今、教わった灯台への道を街から離れるように岬の先へと歩いている。
 フビットはというと、昨日行った店の中にどうしても忘れられないものがあったらしく、それをもう一度見るために街に向かった。手持ちがなければホロイ家が用立ててくれるし、給金から差し引いてくれたりもする。
 取引先に一円でも多く金を落とすところも家の格の一つとしてみられため、今日に限ってはこの辺りはだいぶ緩い。賭け事は禁止されているので借金を抱えるものはいないが、給金のほとんどを使ってしまう者もいる。良い品が他よりも安く買えるし、期間中は食の心配がないので財を貯えるのには良い方法かもしれない。
 飯の時間を減らして買い付けをし、戻ってから売れば小遣い以上に稼げる。大きい荷はアスキ家が格安で運んでくれる。
 財の築き方は人それぞれだが、俺は俺の道を行く。
 広場の近くに、飾り気のない無骨な建物が並んでいるのが見える。さらに奥へと進むと、港と隣接するように海軍の基地がある。
 先ほどの建物で見えないようになっていた理由が分かる。街の雰囲気にそぐわない物々しい塀が、異様さを引き立てている。
 衛兵に身分を示す鯱の紋と書状を見せ、中に入れてもらう。土の影響か教えを乞うために門を叩く者にこの国は優しい。
 もちろん重要な施設なので誰でも入れる訳がない。使えるものは使わせてもらう。
 家の恥にならなければ、どんなことに使っても許される。むしろ進んで紋を使えとさえ言われる。そこで評価を得れば、家の評価につながり喜ばれる。
 無論、評価を得れば、の話だ。実力が見合わなければその先は無い。
 衛兵より、この時間はガフォレ隊が訓練をしていると伺った。先ずはガフォレ様の元へ挨拶に伺う。
「体はどうだ?」
 簡単な挨拶を済ませた後に、ガフォレは尋ねた。
「温めてきています」
「よし」
 兵達の輪に加われと、手で合図をする。
 木剣を使用した基本的な訓練を終えると、ガフォレはリュートを呼び寄せた。
「大体のことは分かった。次はそれを使うところを見せてくれ」
 ホロイ家の長剣を模した木剣を使えと指示をする。
「まどろっこしいことは嫌いだろ?」
 相対する兵の手にも木剣が握られている。
 同じ長剣だが反りはなく真っ直ぐで、両方に刃の部分がもうけられている。先端は弧を描いて細くなっている。
 先ずは、身をもって感じろとのことだ。
「リュートです。お願いします」
 リュートが木剣を上段に構えると、兵は弓を引くように構えた。
「緊張せずに、ぶつかっていけばよい」
 さっさと仕掛けろと、尻を叩くようにガフォレは声を掛ける。
 賊との争いでは先手必勝だ。被害を最小に抑え、最短で事を済ませる必要がある。わざわざ自分の武器を丁寧に説明してくるような、気の毒な賊などいない。初見の武器に対してどう戦うかも、訓練の一つだ。
 俺は半身だけ身を進める。相手には動く素振りはない。
 ありがたい。
 構え通りに突きが主であるなら、とっくに届く距離である。こちらの仕掛けを待ってくれている。それと共に、待てるほどの武に対し身が引き締まる。
 意を決して、相手の木剣の動きを抑えるように袈裟斬りを仕掛ける。
 相手はそれを木剣の腹でいなすと、剣先を弧のように描いて前に出ている俺の左足を狙ってくる。それを払い落としたと同時に相手の剣が引かれる。次を払い上げることは叶わず、首の横に痛みを残して相手の木剣は俺の横を通っていった。
 剣の特徴以前の話で、武そのものの腕が違う。
「ありがとうございました」
「まあ、こんな感じだ」
 ガフォレは答える。「それでは見せてやってくれ」
 兵は頷くと型を始めた。突きが主体の、踊っているような型だった。
「この港に入ってくる船は大型船が多い。相手の船に乗って制圧するより、乗り込んでくる賊を相手にすることが多い。乗り込まれる前に先ずは突き、そして船から落とす。甲板上は強い突きを打てるぐらいに足場はいいとなると」説明の途中でガフォレは用意していた長剣を手に取る。「これになる」
 兵は型を終わらせ、再びリュートと相対する。
「コイツはエイスローといってコヌセール出身だ。マルセールを使わせたら隊で一番上手い」
 ガフォレは長剣の柄を振って、何度か鞘を手に打ちつける。
 エイスローは何も言わずに先ほどの構えをする。
「では、続けようか。まずは先ほど同様にお主から袈裟斬りから行うといい」
「エイスロー殿、お願いします」
 リュートは木剣を強く握る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

処理中です...