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とある王国の エピソード
とあるエピソード 察知(下)
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「山中で出会う女の人は、神の侍女だから無闇に話しかけたらいけないと言ってました」
「それなら俺も」別の兵が手を挙げる。「俺の生まれ故郷には顔の変わった川魚がいるんですが、山の神様は面白い事が大好きだからと、豊穣を願う時にその魚を捧げる風習があります」
「俺もいいですか?」
リュゼーは軽く顎をしゃくる。
「曾祖父さまが猟師だったのですが、「獲物が狩れない時は、ズボンを下ろして自分のモノを見せると獲物が飛び出してくる」などと酒を飲みながら話していました」
「ほぉ、面白い話だな。今度試してみるかな」
微笑みを湛えながら、リュゼーは話をした兵に顔を向ける。
「腰を横に振ると、尚更効果が上がるみたいですよ」
突然、チェロスが「ぶっ」と吹き出す。
「お前、俺がそれをしているところを想像しただろ?」
リュゼーが睨むと、チェロスは顔を手で押さえながら頷く。
ゴン。
鈍い音が辺りに響く。
チェロスは頭を押さえながら、「クックックッ」と肩を震わせる。
笑うのを堪えているのか、周りにいる兵達の顔は奇妙に歪んでいる。
「全く、お前たちはしょうがないやつらだ。何ならここでやってやろうか?酒の肴が一品増えるかもしれんぞ」
ブハッ!
堪えきれずにチェロスが大声で笑い出す。
「リュゼー様すみません」「申し訳ありません」
それにつられて笑い出した兵達が、異口同音に謝罪の言葉を言いながら笑い出す。
「おい、お前ら」リュゼーは大きく腕を横に振る。「全員ズボンを脱げ。こうなったら今夜はここで宴を開くぞ」
「リュゼー様」
狩りの話をした兵が、ズボンに手を掛けたリュゼーに話しかける。
「なんだ?」
ここで止めたとて俺はやるぞ。リュゼーの顔がそう物語っている。
「曾祖父さまは「脱いだ途端に飛び出してくるから、大概の獲物は逃してしまう」とも言っていました」
笑いながら兵は言う。
「それならば、出し損ではないか」
「はい。曾祖父さまもそう言っていました」
笑い声がより一層大きくなる。
「くだらぬことを教えおってからに。俺のモノでお前達を縮み上がらせてやろうかと思ったが、やめだやめだ」
兵達は腹を抱えて笑う。
隊以外の者がいると将たる姿を見せるリュゼーだが、自分達の前では一人のガキ大将に戻る。そんなリュゼーを兵達は心より好いている。だからこそ、どんなに過酷な命令でも将の後をついていき、どんなに熾烈を極める戦場でも嬉々として剣を振るう。だからこそリュゼー隊は強い。
「曾祖父さまは「獲物が身を潜めている時は、こちらの気が感じ取られているからだ。それをすると、その『気』が紛れて獲物が飛び出してくるのだ」とも言っていました」
「伏兵の心得と通じるものがあるな」
またぎや猟師、山の民とは違い、兵からは独特の雰囲気が漏れ出すため山の生き物たちは息を潜める。いかにその気が漏れぬ様にするのかが、山で身を隠す重要な技ともいえる。獣が森から飛び出したり、鳥が飛び立つのを見て伏兵がそこにいることに気が付く、といった話があることからも如何にそれが大切なのかが分かるだろう。
リュゼー隊は軍の中で飛び切りそれが上手い。
「勉強になります」
新兵が声を上げる。
その顔をチェロスはまじまじと見つめる。
「女神は楽しい事が好きだというのならば、猟師が慌てふためく様子を見て楽しんでいるのかもしれんな。これだけ皆が笑ったのだ、この戦は山の女神の加護が得られるかもな」
リュゼーはチェロスから酒瓶を奪うと「ほれ、飲め」と兵達に酒を注ぐ。
「兵の指導のために、そんな話を集めてみても面白いかもしれないな」
そう言うと、チェロスはリュゼーに注いでもらった酒を美味そうに飲む。
「海の神様の話でしたら俺もあります」
杯に口を付けた後、新兵が恐る恐る手を挙げる。
「あっ、俺も」
手を上げる者がちらほらと出てくる。
「何だ?どんどんと出てくるな、皆もこの類の話は好きなのだな」
興味深そうな顔をしてリュゼーは自分で杯に酒を注ぎ、クイっと杯を傾ける。
例え兵に教えを受けたとしても、リュゼーは頭の良さと手先の器用さで直ぐにその者よりも上達してしまう。言語能力の高さから、気がつけば教えた兵が教わる立場になってしまうことも多々ある。
どんなに努力しようが追いつけない位置にチェロスがいて、その先にリュゼーがいる。兵が憧れぬわけが無い。
「しかし、今日はやたらと森が静かだな」
遠くの山で鹿が鳴くものの、近くでは自分たちの笑い声以外に何も聞こえてこない。
辺りを見渡していたリュゼーがはたと動きを止める。
「おい、伝令を呼べ」
敵がいるはずの方角にある山々が、やけに静かなのに気が付く。
伝令が来るまでの間、リュゼーは今いる現在地と戦場と予想されている場所を記し、静まり返っている山の場所を丸で囲う。次に、丸で囲った場所に向かって大きく迂回するように線を書き、戦場から反対の位置となる丸の端にバツ印を書く。そして何やら暗号のようなものを書き足す。
「お呼びでしょうか」
伝令がリュゼーの元に到着する。
「これをファトストの元に早急に届けろ。付近に敵兵や斥候がいるやもしれん。気を付けて向かえ」
「はっ!」
伝令は、懐にそれを忍ばせると頭を下げてその場から離れる。
「暇つぶしは不要になったな」
リュゼーの一言により兵達は竈などの痕跡を跡形も無く消し去り、一人、また一人と夜の闇に溶け込んでいった。
「それなら俺も」別の兵が手を挙げる。「俺の生まれ故郷には顔の変わった川魚がいるんですが、山の神様は面白い事が大好きだからと、豊穣を願う時にその魚を捧げる風習があります」
「俺もいいですか?」
リュゼーは軽く顎をしゃくる。
「曾祖父さまが猟師だったのですが、「獲物が狩れない時は、ズボンを下ろして自分のモノを見せると獲物が飛び出してくる」などと酒を飲みながら話していました」
「ほぉ、面白い話だな。今度試してみるかな」
微笑みを湛えながら、リュゼーは話をした兵に顔を向ける。
「腰を横に振ると、尚更効果が上がるみたいですよ」
突然、チェロスが「ぶっ」と吹き出す。
「お前、俺がそれをしているところを想像しただろ?」
リュゼーが睨むと、チェロスは顔を手で押さえながら頷く。
ゴン。
鈍い音が辺りに響く。
チェロスは頭を押さえながら、「クックックッ」と肩を震わせる。
笑うのを堪えているのか、周りにいる兵達の顔は奇妙に歪んでいる。
「全く、お前たちはしょうがないやつらだ。何ならここでやってやろうか?酒の肴が一品増えるかもしれんぞ」
ブハッ!
堪えきれずにチェロスが大声で笑い出す。
「リュゼー様すみません」「申し訳ありません」
それにつられて笑い出した兵達が、異口同音に謝罪の言葉を言いながら笑い出す。
「おい、お前ら」リュゼーは大きく腕を横に振る。「全員ズボンを脱げ。こうなったら今夜はここで宴を開くぞ」
「リュゼー様」
狩りの話をした兵が、ズボンに手を掛けたリュゼーに話しかける。
「なんだ?」
ここで止めたとて俺はやるぞ。リュゼーの顔がそう物語っている。
「曾祖父さまは「脱いだ途端に飛び出してくるから、大概の獲物は逃してしまう」とも言っていました」
笑いながら兵は言う。
「それならば、出し損ではないか」
「はい。曾祖父さまもそう言っていました」
笑い声がより一層大きくなる。
「くだらぬことを教えおってからに。俺のモノでお前達を縮み上がらせてやろうかと思ったが、やめだやめだ」
兵達は腹を抱えて笑う。
隊以外の者がいると将たる姿を見せるリュゼーだが、自分達の前では一人のガキ大将に戻る。そんなリュゼーを兵達は心より好いている。だからこそ、どんなに過酷な命令でも将の後をついていき、どんなに熾烈を極める戦場でも嬉々として剣を振るう。だからこそリュゼー隊は強い。
「曾祖父さまは「獲物が身を潜めている時は、こちらの気が感じ取られているからだ。それをすると、その『気』が紛れて獲物が飛び出してくるのだ」とも言っていました」
「伏兵の心得と通じるものがあるな」
またぎや猟師、山の民とは違い、兵からは独特の雰囲気が漏れ出すため山の生き物たちは息を潜める。いかにその気が漏れぬ様にするのかが、山で身を隠す重要な技ともいえる。獣が森から飛び出したり、鳥が飛び立つのを見て伏兵がそこにいることに気が付く、といった話があることからも如何にそれが大切なのかが分かるだろう。
リュゼー隊は軍の中で飛び切りそれが上手い。
「勉強になります」
新兵が声を上げる。
その顔をチェロスはまじまじと見つめる。
「女神は楽しい事が好きだというのならば、猟師が慌てふためく様子を見て楽しんでいるのかもしれんな。これだけ皆が笑ったのだ、この戦は山の女神の加護が得られるかもな」
リュゼーはチェロスから酒瓶を奪うと「ほれ、飲め」と兵達に酒を注ぐ。
「兵の指導のために、そんな話を集めてみても面白いかもしれないな」
そう言うと、チェロスはリュゼーに注いでもらった酒を美味そうに飲む。
「海の神様の話でしたら俺もあります」
杯に口を付けた後、新兵が恐る恐る手を挙げる。
「あっ、俺も」
手を上げる者がちらほらと出てくる。
「何だ?どんどんと出てくるな、皆もこの類の話は好きなのだな」
興味深そうな顔をしてリュゼーは自分で杯に酒を注ぎ、クイっと杯を傾ける。
例え兵に教えを受けたとしても、リュゼーは頭の良さと手先の器用さで直ぐにその者よりも上達してしまう。言語能力の高さから、気がつけば教えた兵が教わる立場になってしまうことも多々ある。
どんなに努力しようが追いつけない位置にチェロスがいて、その先にリュゼーがいる。兵が憧れぬわけが無い。
「しかし、今日はやたらと森が静かだな」
遠くの山で鹿が鳴くものの、近くでは自分たちの笑い声以外に何も聞こえてこない。
辺りを見渡していたリュゼーがはたと動きを止める。
「おい、伝令を呼べ」
敵がいるはずの方角にある山々が、やけに静かなのに気が付く。
伝令が来るまでの間、リュゼーは今いる現在地と戦場と予想されている場所を記し、静まり返っている山の場所を丸で囲う。次に、丸で囲った場所に向かって大きく迂回するように線を書き、戦場から反対の位置となる丸の端にバツ印を書く。そして何やら暗号のようなものを書き足す。
「お呼びでしょうか」
伝令がリュゼーの元に到着する。
「これをファトストの元に早急に届けろ。付近に敵兵や斥候がいるやもしれん。気を付けて向かえ」
「はっ!」
伝令は、懐にそれを忍ばせると頭を下げてその場から離れる。
「暇つぶしは不要になったな」
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