王国戦国物語

遠野 時松

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とある王国の エピソード

神話 拠点建設(上)

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※改行の多い箇所については、神話の章で加筆予定です。

「そそられる土地だ」
 谷を西から東へ流れる小川は、山を抜けると本流の川下となる南側に湿地帯を作りながら、本流へと流れ込む。小川の北側にある平地は、山を背にしていて拠点を築けるほど広い。ここに拠点を築けば南と東は二つの川が堀となり、背後は山で守られる。
「遊牧民が苦手とする沼地も近くにあります。報告通り、最適の土地かと」



 拠点が完成間近というところで、本流の川上と平地の南東にある森の切れ目から、警戒の笛が鳴り響いている。
「そうでるのは当然じゃの」
 拠点より南、小川の合流地点の対岸にある防衛陣地にいる王は、レイモンドに顔を向ける。
「拠点は兵のみで守らせろ」
「はっ!東をアンテノス。西をメトリアス。南をサンドロス。北をプレキレマスとする」
 名を呼ばれた将は、それぞれ声を上げる。
「西は軽装歩兵を使い従者や使用人、工兵たちの渡河の手助けをしつつ、敵兵が騎馬で川沿いへ侵入できぬよう柵を築け。重装歩兵は北へまわし、対岸と連携して拠点を守れ」
「承知」
 メトリアスがその場を離れる。
「北も同様、拠点を死守せよ」
「承知」
 プレキレマスがその場を離れる。
「南は防御柵ができるまで敵を追い払え。挑発には乗っても良いが、敵が距離を取ることを上手く使って追い払ことを肝に銘じて欲しい。この状況では一人でも兵が必要だ」
「承知」
 サンドロスがその場を離れる。
「東は早々に防御を固め、南北の状況に合わせて変えていきたい」
「承知」
 アンテレスは部隊長に指示を飛ばす。



 敵の攻撃が始まる。
 馬の機動力を活かして決して王国軍には近付かず、一定の距離を置いて弓にてじわじわと削ってくる。
 この民族の狩りの仕方なのだろう。騎射、帰還、補給、進軍が、効率良く運用されている。南東の位置を分岐点にして、南へは右回り、北へ向かうには左回りにして弓を射掛ける。弓がなくなり次第、森の切れ目にある補給地点に戻る。補給地点へも、拠点からラクダや馬を使って、絶えず矢が届けられている。



「アラン」
 王は執事の名を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「すまんが喉が渇いてしまってな。水を汲んできてくれぬか」
「お安いご用です」
「すまんなあ」
「いえ、皆が止めるのを振り払って、私が勝手に着いて来たのです。この程度のことは覚悟の上です」
「苦労をかける」
 アランは胸に手を当てる。
「私は王ではなく、ドルリートというお人に着いて来たのです。今後もこの様なことがあった場合はどうぞお気軽に、何なりとお申し付け下さい」
 アランは使用人たちを呼び寄せる。
「レイモンド」
 王は将の名を呼ぶ。
「弓兵、川沿いへ移動し敵を寄せ付けるな。兵は周りを囲み、アランたちを警護しろ」
 レイモンドの指示により、水場への道ができあがる。その道を使用人たちは何度も行き来する。



「アンテノス」
「はっ!」
「メトリアス」
「はっ」
「サンドロス」
「はっ」
「プレキレマス」
「はっ」
 王は敵の矢が飛び交う中、再び己の元に集まった東西南北の将の名を呼ぶ。
「いつまで経っても相手の矢が尽きぬ。こちらから仕掛けるぞ。弓の上手いやつを上から百人選べ。上位十人をワシの元へ寄越し、腕が均等になる様に三十の隊を三つ作れ」
「はっ」
 指揮官たちは持ち場へ戻る。
「マールジョン」
「はっ!」
「プリゲン」
「はっ」
「オインツ」
「はっ」
 王は弓の名手の名を挙げていく。呼ばれた者たちが王の周りに集まる。
「わしに命を預けてくれるか?
「喜んで」
「お前たちはこれから敵の的になるだろう。危険に身を晒すことになるが、頼むぞ。用意した部隊はそれぞれ三十じゃ。それぞれが部隊を率いて、ワシが指示する隊を狩れ」
「はっ!」
 三人は鎧を脱ぐ。それにより弓が扱いやすくなり、飛距離と命中率を上げられる。
「その様なことをさせてすまぬな」
「なにを。相手の弓が届かぬ位置から刈り取るのです。危険などございません」
「その通りですぞ、王。兎に比べたら、なんと容易い的でしょうか」
「あの様な戦い方しかできぬとは、奴らはコヌやイノしか狩ったことしかないのでしょう」
 名を呼ばれた順に、将たちは答える。
「頼もしいことを言ってからに。それでは、奴等にマクベやロウの狩り方を教えてやらねばな」
 狩りの準備が整うと、王を中心にして兵たちが集まる。使用人たちは、水の入った器を将兵に手渡す。
 アランが王に杯を手渡す。
「これより狩りを行う。女神トゥテクレのご加護があらんことを」
 王は水を飲み干し、地に叩きつけて杯を割る。
「あらんことを」
 将兵たちも水を飲み干し、器を割る。アランは参加できない者のための、空の器を粉々に叩き割る。
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