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とある王国の物語 プロローグ
軍評定 中
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「一人だけ事を楽しむのは感心しないな」王は笑う。「レンゼストよ、ここには帝国の戦い方を知らぬ者もいる。策を聞く前にその者達のため、帝国兵について教えてやってくれないか?」
「王がその様に申されるのであれば、喜んで」
レンゼストは振り返って皆に体を向ける。
「帝国軍と戦うとなれば、まず思い浮かぶのが中央に配置される歩兵だ。その戦い方は単純だが中々厄介でな、憎たらしいの一言だ。先ずはそれについて話をする」
レンゼストは机に体を向き直す。
「長槍と盾を手にした兵を密集させ横に列を作りそれを幾重にも重ね、唯ひたすらに前進し圧により相手を崩し、重装歩兵で決着をつける。というものだ」
ファトストは、敵の中央部にある歩兵の駒を前に進める。
「両翼の騎兵で側背を狙うこともあるが、主に相手の騎兵を封じることに使われる。弓兵や軽装歩兵もいるが援護の役割が強く、中央の歩兵が主戦力となる」
引き続きファトストは、騎兵の駒を前に出し、傭兵の駒を歩兵の両端に押し進める。
「人が密集した陣形のため側面からの攻撃に弱いが、それを防ぐために傭兵が配置される。この傭兵が敗走しそうになると、後ろに控えている重装歩兵が救済に入る。ひたすらに我慢比べをするだけの、地獄のような戦い方じゃ」
レンゼストは、顔を歪ませる。
「レンゼストよ、だいぶ嫌そうだな」
「土を耕して食物を得る民族らしい考え方をする相手だと、頭に入れて戦っておりました。イノを狩るのにも、手の込んだことをして追い詰めるぐらいだったら、矢を数本でも多く撃ち込んだ方がましだと思わないのが、不思議でしょうがありませんでした。しかし、こちらが有利と思っていても、じっくりゆっくりと戦果を挙げ、気付けば逆転してくる相手でした。植物を相手にしていると、時間の流れが違うのだなと感じました」
レンゼストは椅子に腰を掛ける。
「興味深い事を教えてもらった、例を言う。その言葉は、さすが歴戦の将と言わざるを得ないな。レンゼストには長生きしてもらわねばならないな」
「他意はござらぬな?」
「そこまで捻くれてはない」
二人は笑う。
一瞬、場が和むが、レンゼストは雰囲気を崩さず、ファトストの顔を見つめる。
「そういった奴を手玉に取るのが上手そうだが、どうなんだ?」
「あれこれ考えなくて良いので、策は考えやすくなります」
これを聞いたレンゼストは、不敵に片方の口角を上げる。
「その顔からすると、面白いことを思い付いてはいそうだ。そうだ、王よ。御自身、中央軍を率いて戦いなされ。若い内は何事も経験ですぞ。何、安心しなされ。我が王の後ろに控えるので、何かあったら直ぐにでもお助けに向かいますぞ」
己れがその場に就かなければ、勝ちは難しいという自信の表れか、自分を年寄り扱いした王へのいつもの意趣返しなのか、捲し立てるように言った後、レンゼストは声を出して笑う。
「そうか、そう言ってくれるとこちらも助かる。ファトストとそのことについて話していてな、どうやって伝えようか、ほとほとまいっていたところだ。そちらから言ってくれて助かったぞ」
王も笑う。
「おや、王よ。幼きところが出ておりますぞ」
「なに、意趣返しなどではない。レンゼストの協力で、先ほど決まったことだ」
レンゼストは、少し間を置く。
「本気で言っておられるのか? 王よ」
低く空気を震わせるレンゼストの一言で、場の空気が一瞬で変わる。
「本気だ」
王は笑顔のまま答える。
「相手は帝国兵ですぞ。何処ぞの盗賊ではないのですぞ」
「帝国式についてはファトストより教わった。策についても納得している」
「戦は盤上の話ではないですぞ」
「戦った経験のある老兵にも教えを乞うた。その者達を交えて、模擬戦を幾度もした。そして、先ほどのレンゼストの言葉は実にありがたかった。後は戦場にて認識のずれを調整するだけだ」
王の言葉には、確信めいた力がある。
レンゼストは静かに息を吸い込む。
「おい小僧、説明しろ」
ファトストは胸の前で手を重ね、レンゼストに向かって深々と頭を下げる。そして、空いた隙間に王の駒を置く。
レンゼストは、しばらくその駒を見つめる。
「レンゼスト様が率いるのであれば、敵の駒がいた位置、畑もまばらになった、比較的に平らな地が広がる場所を戦場に選びます。しかし今回は、それよりもこちら側に広がる畑を、民には申し訳ないですが使わせていただきます」
騎兵を使い広く陣を敷き、幾度となく帝国兵を退けてきたレンゼストが軍を率いるなら当然である。しかし、平地の奥には都市があり、内密に食物の提供を取り付けている。戦火が飛び火するのだけは避けたい。
「それについては理解する。敵の行軍が早く、直ぐにこちらが向かってもその場所に着くと同時に開戦になる。それなら、兵を休ませた方が利がある。そのためにも、この場所が良いというわけでだな」
「はい」
食糧を十分に確保してから、平地を越えた辺りに砦攻略の防衛陣地を築く予定だったため、ここまで休まず進軍をしてきた。当然、兵には行軍の疲れが溜まっている。
「敵も陣を引くなら、平らな地の方がいいだろう。奴らは畑程度の荒れ具合なら、ものともしないだろうな。次」
「敵が仕掛けてくるのを待ちます」
「待つか……、いや。まあ、次を聞こう」
「こちらは山や海が出身の者が多数います。畑の中で隊列を組んだ帝国兵に白兵戦を仕掛けても、こちらに勝ち目はありません。荒れた地はそのまま、敵の乱れに使います」
「もうよい、その程度ならば言わずとも理解できる。弓兵が前にいることからも、待ちなのは分かる。流れを遮らないために、言い止まったのだ」
「失礼しました」
「それから、そんな細かなことまで聞いていたら、これが終わる頃には敵兵がここまで来てしまう。必要なことを掻い摘んで申せ」
レンゼストは策の続きを促す。
「何もない畑で相対すれば、敵はこちらを侮って進軍してくるでしょう」
「確かにそうだな」
「敵が動き出したら、妨害工作を開始します」
ファトストは、木の破片で作った小さな柵を平地部分に並べた。
「王がその様に申されるのであれば、喜んで」
レンゼストは振り返って皆に体を向ける。
「帝国軍と戦うとなれば、まず思い浮かぶのが中央に配置される歩兵だ。その戦い方は単純だが中々厄介でな、憎たらしいの一言だ。先ずはそれについて話をする」
レンゼストは机に体を向き直す。
「長槍と盾を手にした兵を密集させ横に列を作りそれを幾重にも重ね、唯ひたすらに前進し圧により相手を崩し、重装歩兵で決着をつける。というものだ」
ファトストは、敵の中央部にある歩兵の駒を前に進める。
「両翼の騎兵で側背を狙うこともあるが、主に相手の騎兵を封じることに使われる。弓兵や軽装歩兵もいるが援護の役割が強く、中央の歩兵が主戦力となる」
引き続きファトストは、騎兵の駒を前に出し、傭兵の駒を歩兵の両端に押し進める。
「人が密集した陣形のため側面からの攻撃に弱いが、それを防ぐために傭兵が配置される。この傭兵が敗走しそうになると、後ろに控えている重装歩兵が救済に入る。ひたすらに我慢比べをするだけの、地獄のような戦い方じゃ」
レンゼストは、顔を歪ませる。
「レンゼストよ、だいぶ嫌そうだな」
「土を耕して食物を得る民族らしい考え方をする相手だと、頭に入れて戦っておりました。イノを狩るのにも、手の込んだことをして追い詰めるぐらいだったら、矢を数本でも多く撃ち込んだ方がましだと思わないのが、不思議でしょうがありませんでした。しかし、こちらが有利と思っていても、じっくりゆっくりと戦果を挙げ、気付けば逆転してくる相手でした。植物を相手にしていると、時間の流れが違うのだなと感じました」
レンゼストは椅子に腰を掛ける。
「興味深い事を教えてもらった、例を言う。その言葉は、さすが歴戦の将と言わざるを得ないな。レンゼストには長生きしてもらわねばならないな」
「他意はござらぬな?」
「そこまで捻くれてはない」
二人は笑う。
一瞬、場が和むが、レンゼストは雰囲気を崩さず、ファトストの顔を見つめる。
「そういった奴を手玉に取るのが上手そうだが、どうなんだ?」
「あれこれ考えなくて良いので、策は考えやすくなります」
これを聞いたレンゼストは、不敵に片方の口角を上げる。
「その顔からすると、面白いことを思い付いてはいそうだ。そうだ、王よ。御自身、中央軍を率いて戦いなされ。若い内は何事も経験ですぞ。何、安心しなされ。我が王の後ろに控えるので、何かあったら直ぐにでもお助けに向かいますぞ」
己れがその場に就かなければ、勝ちは難しいという自信の表れか、自分を年寄り扱いした王へのいつもの意趣返しなのか、捲し立てるように言った後、レンゼストは声を出して笑う。
「そうか、そう言ってくれるとこちらも助かる。ファトストとそのことについて話していてな、どうやって伝えようか、ほとほとまいっていたところだ。そちらから言ってくれて助かったぞ」
王も笑う。
「おや、王よ。幼きところが出ておりますぞ」
「なに、意趣返しなどではない。レンゼストの協力で、先ほど決まったことだ」
レンゼストは、少し間を置く。
「本気で言っておられるのか? 王よ」
低く空気を震わせるレンゼストの一言で、場の空気が一瞬で変わる。
「本気だ」
王は笑顔のまま答える。
「相手は帝国兵ですぞ。何処ぞの盗賊ではないのですぞ」
「帝国式についてはファトストより教わった。策についても納得している」
「戦は盤上の話ではないですぞ」
「戦った経験のある老兵にも教えを乞うた。その者達を交えて、模擬戦を幾度もした。そして、先ほどのレンゼストの言葉は実にありがたかった。後は戦場にて認識のずれを調整するだけだ」
王の言葉には、確信めいた力がある。
レンゼストは静かに息を吸い込む。
「おい小僧、説明しろ」
ファトストは胸の前で手を重ね、レンゼストに向かって深々と頭を下げる。そして、空いた隙間に王の駒を置く。
レンゼストは、しばらくその駒を見つめる。
「レンゼスト様が率いるのであれば、敵の駒がいた位置、畑もまばらになった、比較的に平らな地が広がる場所を戦場に選びます。しかし今回は、それよりもこちら側に広がる畑を、民には申し訳ないですが使わせていただきます」
騎兵を使い広く陣を敷き、幾度となく帝国兵を退けてきたレンゼストが軍を率いるなら当然である。しかし、平地の奥には都市があり、内密に食物の提供を取り付けている。戦火が飛び火するのだけは避けたい。
「それについては理解する。敵の行軍が早く、直ぐにこちらが向かってもその場所に着くと同時に開戦になる。それなら、兵を休ませた方が利がある。そのためにも、この場所が良いというわけでだな」
「はい」
食糧を十分に確保してから、平地を越えた辺りに砦攻略の防衛陣地を築く予定だったため、ここまで休まず進軍をしてきた。当然、兵には行軍の疲れが溜まっている。
「敵も陣を引くなら、平らな地の方がいいだろう。奴らは畑程度の荒れ具合なら、ものともしないだろうな。次」
「敵が仕掛けてくるのを待ちます」
「待つか……、いや。まあ、次を聞こう」
「こちらは山や海が出身の者が多数います。畑の中で隊列を組んだ帝国兵に白兵戦を仕掛けても、こちらに勝ち目はありません。荒れた地はそのまま、敵の乱れに使います」
「もうよい、その程度ならば言わずとも理解できる。弓兵が前にいることからも、待ちなのは分かる。流れを遮らないために、言い止まったのだ」
「失礼しました」
「それから、そんな細かなことまで聞いていたら、これが終わる頃には敵兵がここまで来てしまう。必要なことを掻い摘んで申せ」
レンゼストは策の続きを促す。
「何もない畑で相対すれば、敵はこちらを侮って進軍してくるでしょう」
「確かにそうだな」
「敵が動き出したら、妨害工作を開始します」
ファトストは、木の破片で作った小さな柵を平地部分に並べた。
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