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月の光に思うこと
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少し行くと車が通れる道まで出たので、僕はあっちゃんの横に並んだ。
足元が悪い中で虫籠を揺らさない様に歩いたり、後ろを振り向いたりしなくてよくなり気持ちにも余裕が出てきた。
「カブトムシ全部持ってくればよかったね」
どれだけ大漁だったか二人に見せてから逃した方が良かったな、と気が付いた。
「あそこで逃がしたので良かったんじゃね」
予想とは違い、気のない答えが返ってくる。
「少ないってバカにされそうじゃん」
自分の考えを肯定して欲しくて言葉を付け加える。
「いや、朱音は虫が嫌いだから、そんな事全然気にしないと思うぜ」
先ほどよりさらに気のない返事だった。
そうだった。
その事に気が付つくと、次の言葉が出てこなかった。
会話が途切れたまま俯きがちに歩いていると、僕が歩きやすいように懐中電灯を照らしてくれていることに気が付いた。歩く速度もいつもより遅い。
なんか自分がかっこ悪く思えた。
踏み出すたびに足から伝わる感触と、風でサワサワと葉が擦れ合う音が心をより一層苦しめた。
「あっちゃん、あのさ」
たまらず僕はあっちゃんに話しかけた。
「何だよ?」
「今日さ、すげー楽しみにしてたんだ」
そこまで言ったけれど、思うように言葉が続かない。
再び二人が歩く音だけになってしまった。
「おぅ、それで?」
「うんとさ、うんと…。日和がわがままばっか言ってむかついてたんだけど、なんか日和の事言えないかもって思った」
「どうしたんだよ急に?」
「何となく思った」
「へー、クソガキから少しは成長したじゃん」
「そうなのかな」
あっちゃんはさっきからこっちを見ないで歩いている。
僕もなぜだか、大好きなあっちゃんの顔を見て話すことができない。
「まあ、ほんの少しだから、まだまだだけどな」
「うん」
どの辺が成長したのか聞きたかったけれど、それをしたらカッコ悪いんじゃないかと思った。
あっちゃんにバレないようにそっとパンツの中に手を突っ込んでみたけれど、いつもと全然変わらなかった。
「女はわがままな生き物なんて言われてるだろ?そのわがままに対して文句を言うより、鼻唄交じりでちゃっちゃと済ませてから、空いた時間で自分の好きな事をする方がカッコいいとは思うけどな」
二人で遊んでいる時に、「やる事やってりゃ怒られない」ってよく言ってる。
「それによ、ただぼーっと過ごしてるより刺激があった方が楽しいだろ?」
僕は黙って頷く。
何となくだけれど、言っている意味が分かる気がした。
顔を上げるとあっちゃんの車が見える所まで来ていた。
「この辺でいいか」
その言葉に僕たちは振り返って手を合わせた。
「今日はありがとうございました。しっかり育てますので安心して下さい」
ほんの少しの間、目を瞑る。
「よし、行くか」
「うん」
僕はもう一度頭を下げた。
振り返るとみんなが近くにいるという安心感からか、背中の違和感はだいぶ和らいだ。
敦仁は懐中電灯の光を何回か車にぶつけた。その光で二人が帰ってきた事に気が付いた朱音は、後部座席からそーっと体を伸ばし運転席のロックを解除した。その場所に留まり、ドアを開けて乗り込もうとしてくる敦仁に向かって人差し指を唇につけた顔を見せる。それに気が付いた敦仁は首を突っ込んで後部座席を確認すると、親指と人差し指で輪を作り朱音に見せた。
僕がドアを開けると「日和が寝てるから静かにな」と声が聞こえた。他にどんな虫がいたとか、どれだけ捕れたとか自慢してやろうと思ったのに、その相手はすでに寝ていた。
車に乗る前にふと見上げたら、木の葉が月の光で星が見えない灰色な空を、黒く縁取っていた。
今度も上手くいかなくて嫌な気持ちのはずなのに、なぜだか分からないけれど、少しかっこいいなと思った。
みんなと色々な事話したかったのに、帰りは日和を起こさないように車の中は静かだった。
膝に置いてある虫籠の上を街路灯の光が通る。黒い塊は元気に動いている。
あっちゃんに「気持ち悪くなるからあんまり下を見すぎるなよ」と言われたけれど、僕は虫籠を見つめていた。
足元が悪い中で虫籠を揺らさない様に歩いたり、後ろを振り向いたりしなくてよくなり気持ちにも余裕が出てきた。
「カブトムシ全部持ってくればよかったね」
どれだけ大漁だったか二人に見せてから逃した方が良かったな、と気が付いた。
「あそこで逃がしたので良かったんじゃね」
予想とは違い、気のない答えが返ってくる。
「少ないってバカにされそうじゃん」
自分の考えを肯定して欲しくて言葉を付け加える。
「いや、朱音は虫が嫌いだから、そんな事全然気にしないと思うぜ」
先ほどよりさらに気のない返事だった。
そうだった。
その事に気が付つくと、次の言葉が出てこなかった。
会話が途切れたまま俯きがちに歩いていると、僕が歩きやすいように懐中電灯を照らしてくれていることに気が付いた。歩く速度もいつもより遅い。
なんか自分がかっこ悪く思えた。
踏み出すたびに足から伝わる感触と、風でサワサワと葉が擦れ合う音が心をより一層苦しめた。
「あっちゃん、あのさ」
たまらず僕はあっちゃんに話しかけた。
「何だよ?」
「今日さ、すげー楽しみにしてたんだ」
そこまで言ったけれど、思うように言葉が続かない。
再び二人が歩く音だけになってしまった。
「おぅ、それで?」
「うんとさ、うんと…。日和がわがままばっか言ってむかついてたんだけど、なんか日和の事言えないかもって思った」
「どうしたんだよ急に?」
「何となく思った」
「へー、クソガキから少しは成長したじゃん」
「そうなのかな」
あっちゃんはさっきからこっちを見ないで歩いている。
僕もなぜだか、大好きなあっちゃんの顔を見て話すことができない。
「まあ、ほんの少しだから、まだまだだけどな」
「うん」
どの辺が成長したのか聞きたかったけれど、それをしたらカッコ悪いんじゃないかと思った。
あっちゃんにバレないようにそっとパンツの中に手を突っ込んでみたけれど、いつもと全然変わらなかった。
「女はわがままな生き物なんて言われてるだろ?そのわがままに対して文句を言うより、鼻唄交じりでちゃっちゃと済ませてから、空いた時間で自分の好きな事をする方がカッコいいとは思うけどな」
二人で遊んでいる時に、「やる事やってりゃ怒られない」ってよく言ってる。
「それによ、ただぼーっと過ごしてるより刺激があった方が楽しいだろ?」
僕は黙って頷く。
何となくだけれど、言っている意味が分かる気がした。
顔を上げるとあっちゃんの車が見える所まで来ていた。
「この辺でいいか」
その言葉に僕たちは振り返って手を合わせた。
「今日はありがとうございました。しっかり育てますので安心して下さい」
ほんの少しの間、目を瞑る。
「よし、行くか」
「うん」
僕はもう一度頭を下げた。
振り返るとみんなが近くにいるという安心感からか、背中の違和感はだいぶ和らいだ。
敦仁は懐中電灯の光を何回か車にぶつけた。その光で二人が帰ってきた事に気が付いた朱音は、後部座席からそーっと体を伸ばし運転席のロックを解除した。その場所に留まり、ドアを開けて乗り込もうとしてくる敦仁に向かって人差し指を唇につけた顔を見せる。それに気が付いた敦仁は首を突っ込んで後部座席を確認すると、親指と人差し指で輪を作り朱音に見せた。
僕がドアを開けると「日和が寝てるから静かにな」と声が聞こえた。他にどんな虫がいたとか、どれだけ捕れたとか自慢してやろうと思ったのに、その相手はすでに寝ていた。
車に乗る前にふと見上げたら、木の葉が月の光で星が見えない灰色な空を、黒く縁取っていた。
今度も上手くいかなくて嫌な気持ちのはずなのに、なぜだか分からないけれど、少しかっこいいなと思った。
みんなと色々な事話したかったのに、帰りは日和を起こさないように車の中は静かだった。
膝に置いてある虫籠の上を街路灯の光が通る。黒い塊は元気に動いている。
あっちゃんに「気持ち悪くなるからあんまり下を見すぎるなよ」と言われたけれど、僕は虫籠を見つめていた。
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