夏の思い出

遠野 時松

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兄妹と兄妹

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 線路が分岐していき駅が近づいてきたことを知らせる。

「そろそろ駅に着くから支度をしてね」

 新幹線に乗っている時みたいにテーブルの上に物を置いたりしていないから、支度といってもリュックを持つだけだ。それより、今から仙人が住む街に足を踏み入れる。それの方が重要だ。

「忘れ物は大丈夫ね?」
「うん、大丈夫」

 お母さんに促されて日和が通路に出た後に、忘れ物がないかもう一度確認してから後に続く。

 改札を出ると、駅の出入り口付近で降りてくる人の顔を見回している、細身で背が高く、どことなくお母さんに似ている男の人が立っていた。

「兄さんありがとう」

 お母さんはその人の方へと近付いていく。

「おー詩織、しばらくぶりだな。元気だったか?」
「おかげさまで。兄さんは?」
「まあ、こっちも変わりなくだな。海のもの送ってくれてありがとな、みんな喜んでたぞ」
「こちらこそ、毎年美味しいお米をありがとう」

 どことなく気恥ずかしそうに、よそよそしさも醸し出して挨拶を交わす二人。そんな二人をお母さんと手を繋いだまま、日和は見上げていた。

 岩手のおじちゃんの事を知らない人を見る目で見ていたから、日和はおじちゃんの顔を覚えていないのかもしれない。

「日和、岩手のおじちゃんが迎えにきてくれたよ。挨拶して」
「おじちゃん、こんにちは。迎えにきてありがとう」

 日和はお母さんの手を離しておじちゃんに近づき、丁寧にお辞儀をする。ニコリと笑うほっぺには、可愛らしい小さなくぼみができている。

 岩手のおじちゃんは、、日和の目の高さに合わせるようにしゃがみ込んだ。
 くっきりとした二重の大きな目は線のように細くなり、頬には似たような窪みができている。

「どういたしまして。ようこそいらっしゃいました。挨拶が出来て偉いなぁ」

 そう言うと、ポンポンと日和の頭を撫でた。日和はえへへと笑い返す。

 おじちゃんは、岩手の大学を出ると、神奈川県の会社に就職した。結婚して従兄弟の亮兄ちゃんが生まれると同じくらいに、岩手に戻ってきた。都会に住んでいたからか、さっきのおじちゃんほど訛りが強くない。

 岩手のおばちゃんは確か秋田県出身だったと思う。

「おじちゃん、こんにちは」

 僕も、立っていたお母さんの斜め後ろぐらいから挨拶をする。
 おじちゃんは立ち上がってこちらを見る。

「おー、ヒロ君こんにちは。見違えたな。いくつになった?」
「十歳です」
「すっかりお兄ちゃんだな」

 僕は何も言わずにこくりと頷く。

「ヒロ、あんた緊張してんの?」
「無理もねえ、久しぶりだもんなぁ?」

 僕もちょっと無愛想かなと思ったけれど、おじちゃんは気にもせず、お母さんとそれぞれの家族の近況報告をしていた。

 一通り話し終えると、立ち話も何だからと近くに止めている車へと向かった。

 日和はおじちゃんと手を繋いで歩いている。おじちゃんは日和の話に楽しそうに「うんうん」と相槌を打ちながら、日和のリュックを手に持っていた。

「うん、そうそう。兄さんと会えたから、今からそっちに向かうね」

 お母さんは岩手んばぁに電話しているから、僕がゴロゴロとキャリーバッグを引きながらその横を歩く。僕も話に混じりたかったけれど、タイルで舗装されている歩道に車輪が取られて歩くので精一杯だ。

「ヒロ、ありがとう」

 電話を終えたお母さんにキャリーバッグを返す。

「日和ったらもう兄さんと仲良くなってるのね。兄さんも娘が欲しかったって言ってたから嬉しそうね」

 お母さんはチラリとこっちを見る。また、人見知りだとか言いたいんだろう。

「僕も話したいけれど、キャリーバッグ引いてたから出来なかったんだよ」
「今はもう引いていないんだから、話に混じってくれば?」

 お母さんは小さく二人の方へ顎をしゃくる。

 おじちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえた。どんな話をしているのか気になるけれど、今から話に交じるのは気が引ける。

「うるさいなぁ、おじちゃんは娘が欲しかったんでしょ?それなら、今は日和と話をしてた方がいいじゃん。後でゆっくりと話をするよ」
「あらあら。それならこっちはこっちで楽しい話をしましょうか?」
「今は別にいいや。そんな気分じゃない」

 この状況で話をしたって楽しいのはお母さんだけで、僕は全然楽しくならないのは経験上分かりきっている。

 それに、僕が緊張しているのは久しぶりに会ったからじゃない。さっきのあれは、仙人かもしれないおじゃちゃんから、必殺技を教えてもらうために失礼がないようにしないと、と思ったら言葉がでてこなかったからだ。今も二人が楽しそうに話をしているのに、突然僕が話に交じっていっておじちゃんの気を悪くさせないためだ。

 おじちゃんならそんな事はありえないのは分かっているけれど、二人の会話に交じる勇気が出ない僕は、僕に言い訳をする。


「手伝ってくれるのか?ありがとな」
「いえ、大丈夫です」

 普段使わない言葉に、僕の舌はむず痒くなる。

 車のトランクを開けてみんなの荷物を積み込んでいるおじちゃんを、密かに横目で確認する。

 仙人の研究家じゃないから確かな事は言えないけれど、やっぱりおじちゃんは、おじちゃんだ。今までもそうだったけれど、これからもそうだと思う。
 絵に出てくるような着物を着ているところなんて見たこと無いし、白くて見事な髭もない。他に知っている仙人と見比べてみても、髪の毛も黒々としていて亀みたいにツルツルじゃない。それに、杖も持っていないし、サングラスもかけていない。そして、お話に出てくるように、片方の目を細めて話したりもしない。

 あっちゃんの言ってた事は本当なんだろうか。

「シートベルトの仕方は分かるか?」
「うん、大丈夫」

 最近チャイルドシートを卒業した日和は、慣れた手つきでカチャリと締める。

「それじゃあ出発するか」
「レッツゴー!」

 僕が荷物を積むのを手伝っている隙に、我先にと助手席を占領した日和が人差し指を進行方向に向ける。

 やられたと思ったけれど、こうなったらどうしようもできない。
 僕は大人しく後部座席に座った。
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