夏の思い出

遠野 時松

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新たな物語

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 前回のことを思い出した僕は、恥ずかしさのあまり窓の外を見る。

 僕が黙ってしまったので自然と会話の中心は日和に移ってき、過去の話から今回の旅のプランについて話し始めている。

 日和の関心事は、紗栄子おばちゃんの娘に興味津々といったところだ。

 首も座ってはいはいを始めたらしく、可愛い盛りを迎えているらしい。そのことをおじちゃんは我が子の事のように可愛らしさを日和に話している。

 僕に旅の目標を聞かれたところで内に秘めた野望を話すことはできないから、この状況は都合がいい。

 この機会を利用して、乱された気持ちを落ち着かせる作業に入る。

 道路と歩道の間に植えられている街路樹が目に入る。前回はすべての葉を散らして幹と枝だけだったのに、黄緑色の葉を沢山身に纏っている。雪で濡れて色の濃くなった木の歩道は、カラカラに乾いて元の色の戻っている。滑らないように木の歩道をおっかなびっくり歩いたことは覚えている。

 覚えている街並みは今と全然違う。

 岩手んばぁが働いている民話を話し聞かせる場所にみんなで遊びに行った後に、予約をしてあったお店に行ってみんなで夕飯を食べた。

 外に出ると、陽が落ちるくらいに降り始めた雪は本降りへと変わっていった。古民家風の建物や海鼠壁の塀に薄らと新しく雪が積もり始めているところもある。

 ほぉーーと息を吐くと白い煙が口から広がり、暗闇に溶けていった。

 出てきた料理や味の感想を話したくても、呼吸をするたびに冷えた空気が口の中に入ってくる。自然と襟元に口を近付ける。お店の中であれだけ楽しそうに話していたみんなも同じことを感じているのか、口数は無くなっていき誰も話す人はいなくなった。

 一歩一歩慎重に足を運ぶため、当然いつもより歩くスピードは落ちる。周りにも人影はなく、雪の中を出歩くよりもお家の中で暖まっているのだろう。

 シーンと静まり返った街に、パラパラと傘やジャンバーに当たる音だけが聞こえる。

 足元を照らすための街灯の光は降る雪に包まれているためか、同じような街路灯より少し暗い。真っ白な雪は街路灯の近くを通る時だけオレンジ色に輝く。丸く輝くオレンジ色の光は等間隔にずっと先まで続いている。

 あの時と同じように立ち並ぶ街路灯の先に、青々とした山が見える。冬の山とは違い生命力に満ち溢れている。右にも左にも、前にも後ろにも同じような山があり、その山の後ろにはさらに大きい山が見える。

 あの山一つ一つにカブトムシは住んでいる。もしかしたら、見たことのない昆虫が住んでいるかもしれない。

 市街から離れていく度に希望は確証に変わる。
 絶対にいる、と。

 今年の夏はいつもと違う。

 慣れ親しんだ海の生き物とは違い、相手は慣れない山の生き物。どんなヤツが僕を待ち受けているのだろう。たとえどんな難敵が来ようとも、挑戦者らしく全力でそいつらにぶつかっていく。

 いつもの自分を取り戻すと、僕は密かに闘争心を燃やす。

 ウキウキ、ワクワクする夏の冒険は、ここから始まるんだ。
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