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四方山亭
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アルスガルド帝国。世界最大の大陸であり、約2000年前に帝国初代皇帝が大陸統一を成したこの地は500年程前に突如として現れた魔王率いる魔族の襲撃を受けた。それから100年以上にわたる永い戦いの末、他国の協力もあり終に魔王軍を討ち果たすことに成功した。しかし魔王の残した爪痕も大きかった。魔王軍の拠点となっていた砦や洞窟は、魔王が討たれる直前に放った膨大な魔力により魔窟≪ダンジョン≫と化した。帝国は魔族蔓延るダンジョンを調査、制圧するため当時血気に逸っていたモノ達を集め調査団を組織した。これが冒険者ギルド並びに冒険者の始まりである。
ギルド発足から今日に至るまで様々だダンジョンが踏破された。金銀財宝や珍しい魔道具、はたまた呪いの装備品から魔術書まで多岐に渡るお宝が冒険者の手によって発見された。その功績はさらに冒険者たちをダンジョンに駆り立て、世はまさに大冒険時代となった……。
帝国第二都市ヴェルセブルグ。帝国流通の拠点都市でもあるこの街は、冒険者ギルドの本部が置かれていることから『冒険者の街』としても言われている。昼間はダンジョンへ向かう冒険者が準備のため街中を闊歩し、夜は戦利品を持ち帰った冒険者が報酬片手に呑みあかす。そんな街の中心部から少し離れた宿屋通りの一角、比較的安価な宿が建ち並ぶ場所に、その宿はあった。
屋号は『四方山亭』。極東のヤルパン列島連邦で「色々な」という意味を持つ言葉をつけられた宿は、様々な人が来て様々な話をしていけるようにと先代店主が名付けた通り、日々様々な人種の冒険者たちが、各々の戦利品や土産話を片手にやってくる。
「店主! エールおかわり!」
「こっちは蜜酒だ!」
「肴をくれ!」
「こっちのが先だ!」
客たちの喚声が響く。テーブルが6卓にカウンターが6席と言う決して広くはない店内だが、既にできあがった客で埋まりつつある。禿頭の強面の戦士からローブを纏った魔術師、さらには虎の亜人まで文字通りの多種多様な人相がそこにあった。彼らは皆冒険者。今日もダンジョン攻略の戦果を片手に情報交換の為に集まっている。と言うのは建前で、結局はやれ倒した魔物がどれ程強かっただの、手に入れたお宝がどれ程素晴らしかっただのといった自慢話や無事に帰還した喜びに浸りつつ一杯やりたいモノだらけであるが。
「はーい! ただいま!」
そんな彼らの合間をぬう様に給餌するのは、エプロンドレス姿の黒猫の亜人の少女である。
「ミェンちゃん見てくれよ。今日狩ったクリスタルリザードの鱗。あまりにも立派だったから記念に剥ぎ取ってきたんだ」
「そんなのよりこの剣を見てくれよ。この前奮発して買った名工の品なんだ。切れ味抜群で今日の討伐も楽勝だったよ」
ミェンは酔客の自慢話をキレイですね、凄いですねと嫌みにならない程度にしかしちゃんと感心を見せてあしらいつつ、テーブルに酒や料理を運んでいく。
「ミェン! 次あがっぞ!」
そんな賑わいを見せる店を仕切るのは、黒髪を後ろで纏めた人間の男、名前はロイド。隠居した先代の老夫婦から四方山亭を引き継いで数年になる若店主はカウンターに仕上がった料理と酒を置き、すぐさま次の仕込みに入った。そんな時、来客を知らせるドアベルがカランとなった。
「いらっしゃいませ!」
ミェンの声でロイドが顔を上げると、そこには見知った顔の四人組がいた。
「ただいま、ロイド。ミェンちゃん」
先頭にいた板金鎧に金髪の人間の男がロイドとミェンに帰還をつげる。その後ろにはドワーフの男戦士、ハーフリンクの魔女、ハイエルフの女神官が続く。彼らはほかの客とも軽く挨拶を交わしながらテーブルの間を進み、まっすぐにカウンターに向かった。そこが彼らの定位置であった。
「お帰りなさい、アレスさん」
配膳を終えたミェンが金髪の男、アレス達の手元に木皿を置き、そこに蒸らした布巾を乗せた。程よく湿って暖かいそれで手を拭きながらアレスは改めてただいまと返す。
「お疲れさん。首尾はどうだった?」
「上々だよ。さっきギルドに報告してきた」
「そりゃあよかった」
軽く会話を交わしたところで、ミェンが「ご注文は」と尋ねる。
「いつもので」
返事は即答。しかも全員一致である。それだけで、彼らがこの店をよく利用しているのがわかる。ロイドはあいよと返し酒をあける。ミェンは直ぐにお通のナッツとドライフルーツのミックスを小皿に盛った。酒の客にはミックスナッツ、飯の客にはスープがこの店のお通しだ。
四人とも注文は一緒だが、中身は種族同様バラバラだ。アレスは定番のエール。ドワーフの戦士ダンクは酒精の強い火酒をストレートで。甘い味を好むハーフリンクの女魔女エステルはりんご酒。ハイエルフの女神官のラファエラは白湯、ではなく葡萄酒。各々の好みのを酒が注がれるのをカウンター越しにソワソワと待っている。
「お待ちどうさま!」
ミェンが四人の前に酒の入った杯を置く。それを受け取るや否や四人はすぐさま杯を少し掲げ、
「乾杯!」
アレスの音頭で呷る。疲れた体に酒精がよく染みる。半分ほど飲み干し感嘆のため息を吐く。冒険を終えた彼らに至福の一時が訪れた。
「さて、今日のおすすめはっと……」
ナッツを摘みつつアレは壁に掛けられた黒板に目を向ける。そこには『本日のメニュー』と書かれ数品の料理名があげられていた。料理名の前に星印がついているのが今日のおすすめだ。
「俺はポークソテーにしよう。あとエールのおかわり」
「ワタシはほうれん草とベーコンのキッシュ」
「私にはひよこ豆と茄子のトマト煮を」
ダンク以外の三人はそれぞれ料理を注文した。ダンクは杯を空にすると
「ワシは取り敢えず酒だな。何か入ってないか?」
とロイドにたずねた。ドワーフらしく酒好きのダンクは料理よりも先ずは酒だ。
「今日はラガーが入ってるよ」
「ラガーか。酒精は強くないが、久しく飲んでないな。それをもらおうか。肴は適当に見繕ってくれ」
「あいよ。ミェン、手伝ってくれ」
「はーい!」
ミェンは厨房に入ると手際よく皿を用意いし、小鍋に一人分のトマト煮を入れると火にかける。保温箱からあらかじめ切り分けられたキッシュを一切れよそいキノコのバターソテーと玉ねぎのマリネを添えた。
「キッシュお待ちどうさまです」
エステルの前にフォークと共にキッシュの皿が置かれる。タルト生地でできたそれは一見菓子のようだが、漂う焦げたチーズの香りと断面から見えるほうれん草の緑、ベーコンのピンク色が歴とした一品料理であることを主張している。
お先に、とエステルは仲間に一言告げキッシュにフォークを入れ口に運ぶ。
先ず感じたのは卵と牛乳、チーズで出来たソースの味。ともすればくどくなりがちなその味を、ベーコンの塩気、ほうれん草のほのかな苦味、胡椒の辛みが引き締めてくれる。ソテーと一緒に食べれば、キノコの食感と香り、バターの風味が加わりまた違った味わいになり、マリネの酸味が口の中をサッパリとさせてくれる。当然、酒にも合う。
「トマト煮あがったよ」
ラファエラにもトマト煮の盛られた皿が渡された。トマトの赤の中にひよこ豆の黄色、茄子の深い紫がのぞくその皿からはほんのりあがる湯気に混じってハーブの香りがする。ラファエラは待ちきれないとばかりにスプーンで掬うと人目も気にせず頬張った。
トマトの酸味にひよこ豆の甘味とトロトロに煮込まれた茄子のうま味。それらを繋ぐ玉ねぎの甘さと食感に、ラファエラはウットリとした表情になる。勿論、葡萄酒との相性も良い。
「ダンクさんどうぞ」
「おお。これよこれ」
ラガーのジョッキがダンクの前に現れる。自分の顔程の大きさはあろうそのジョッキに口をつけ、豪快に黄金色の酒を呑む。口当たりが柔らかくフルーティーな味わいのエールに対し、ラガーはのど越しにキレがあり、独特の苦味がある。酒精こそ火酒ほと強くはないが、そののど越しと苦味でゴクゴクと水の様に胃の腑に染みていく。
「おかわり!」
これまた一気に飲み干したダンクは直ぐに次をたのむ。
「あいよ。それとこれな」
ダンクに出されたのはチーズをささみで巻き衣をつきて揚げ焼きにしたフリッター。揚げ物の脂っこさもラガーの苦味が洗い流してくれる。酒が食指が動き、さらに酒ががよく進むようになる。口直しに添えられたキャベツの酢漬けもその循環に一役買っている。
「ほいよ。アレス、お待ちどうさん」
最後になったアレスの前に、焼き立てのポークソテーが出された。鉄板の上でジュージューと音を立てる肉に香るにんにくと生姜のソース。付け合わせのマッシュポテトにニンジンのグラッセとブロッコリーで見た目からして美味しさが伝わってくる。
「いただきます!」
出されるや否やナイフを入れる。フライパンで焼き目をつけた後休まされた肉はほんのりとロゼ色だが生焼けではない。噛み締めるとジュワっと溢れる肉汁を生姜の辛みがスッキリとさせ、にんにくの香りが食欲をさらに刺激する。ソースに使われている細かく刻まれた玉ねぎのシャキシャキとした食感と胡椒のピリッとした辛さも良いアクセントとなる。これでエールが進まないわけがない。
四人は一心不乱に料理を食べ、酒を呑んだ。ロイドはその様子を少し呆れながらも微笑みながら見ていた。毎度のことながら料理人冥利につきる光景である。
「アレス! 今回の旅はどうだったよ」
四人の食事が一息ついたところで、客の一人がアレスに声をかけた。彼らも冒険者。自慢話を話すのも好きだが、聞くのも好物だ。アレスの冒険譚を肴にまだまだ飲む気が満々だ。
「ああ。今回は……」
アレスもそれをよく理解しているので朗々と自分達の冒険を語り出す。アレスの語りに誰かが質問を投げエステルやラファエラが答え時折ダンクの解説が入る。一通り語れば今度は他の客が語り出す。そうして賑やかにも四方山亭の夜は更けていく。
ギルド発足から今日に至るまで様々だダンジョンが踏破された。金銀財宝や珍しい魔道具、はたまた呪いの装備品から魔術書まで多岐に渡るお宝が冒険者の手によって発見された。その功績はさらに冒険者たちをダンジョンに駆り立て、世はまさに大冒険時代となった……。
帝国第二都市ヴェルセブルグ。帝国流通の拠点都市でもあるこの街は、冒険者ギルドの本部が置かれていることから『冒険者の街』としても言われている。昼間はダンジョンへ向かう冒険者が準備のため街中を闊歩し、夜は戦利品を持ち帰った冒険者が報酬片手に呑みあかす。そんな街の中心部から少し離れた宿屋通りの一角、比較的安価な宿が建ち並ぶ場所に、その宿はあった。
屋号は『四方山亭』。極東のヤルパン列島連邦で「色々な」という意味を持つ言葉をつけられた宿は、様々な人が来て様々な話をしていけるようにと先代店主が名付けた通り、日々様々な人種の冒険者たちが、各々の戦利品や土産話を片手にやってくる。
「店主! エールおかわり!」
「こっちは蜜酒だ!」
「肴をくれ!」
「こっちのが先だ!」
客たちの喚声が響く。テーブルが6卓にカウンターが6席と言う決して広くはない店内だが、既にできあがった客で埋まりつつある。禿頭の強面の戦士からローブを纏った魔術師、さらには虎の亜人まで文字通りの多種多様な人相がそこにあった。彼らは皆冒険者。今日もダンジョン攻略の戦果を片手に情報交換の為に集まっている。と言うのは建前で、結局はやれ倒した魔物がどれ程強かっただの、手に入れたお宝がどれ程素晴らしかっただのといった自慢話や無事に帰還した喜びに浸りつつ一杯やりたいモノだらけであるが。
「はーい! ただいま!」
そんな彼らの合間をぬう様に給餌するのは、エプロンドレス姿の黒猫の亜人の少女である。
「ミェンちゃん見てくれよ。今日狩ったクリスタルリザードの鱗。あまりにも立派だったから記念に剥ぎ取ってきたんだ」
「そんなのよりこの剣を見てくれよ。この前奮発して買った名工の品なんだ。切れ味抜群で今日の討伐も楽勝だったよ」
ミェンは酔客の自慢話をキレイですね、凄いですねと嫌みにならない程度にしかしちゃんと感心を見せてあしらいつつ、テーブルに酒や料理を運んでいく。
「ミェン! 次あがっぞ!」
そんな賑わいを見せる店を仕切るのは、黒髪を後ろで纏めた人間の男、名前はロイド。隠居した先代の老夫婦から四方山亭を引き継いで数年になる若店主はカウンターに仕上がった料理と酒を置き、すぐさま次の仕込みに入った。そんな時、来客を知らせるドアベルがカランとなった。
「いらっしゃいませ!」
ミェンの声でロイドが顔を上げると、そこには見知った顔の四人組がいた。
「ただいま、ロイド。ミェンちゃん」
先頭にいた板金鎧に金髪の人間の男がロイドとミェンに帰還をつげる。その後ろにはドワーフの男戦士、ハーフリンクの魔女、ハイエルフの女神官が続く。彼らはほかの客とも軽く挨拶を交わしながらテーブルの間を進み、まっすぐにカウンターに向かった。そこが彼らの定位置であった。
「お帰りなさい、アレスさん」
配膳を終えたミェンが金髪の男、アレス達の手元に木皿を置き、そこに蒸らした布巾を乗せた。程よく湿って暖かいそれで手を拭きながらアレスは改めてただいまと返す。
「お疲れさん。首尾はどうだった?」
「上々だよ。さっきギルドに報告してきた」
「そりゃあよかった」
軽く会話を交わしたところで、ミェンが「ご注文は」と尋ねる。
「いつもので」
返事は即答。しかも全員一致である。それだけで、彼らがこの店をよく利用しているのがわかる。ロイドはあいよと返し酒をあける。ミェンは直ぐにお通のナッツとドライフルーツのミックスを小皿に盛った。酒の客にはミックスナッツ、飯の客にはスープがこの店のお通しだ。
四人とも注文は一緒だが、中身は種族同様バラバラだ。アレスは定番のエール。ドワーフの戦士ダンクは酒精の強い火酒をストレートで。甘い味を好むハーフリンクの女魔女エステルはりんご酒。ハイエルフの女神官のラファエラは白湯、ではなく葡萄酒。各々の好みのを酒が注がれるのをカウンター越しにソワソワと待っている。
「お待ちどうさま!」
ミェンが四人の前に酒の入った杯を置く。それを受け取るや否や四人はすぐさま杯を少し掲げ、
「乾杯!」
アレスの音頭で呷る。疲れた体に酒精がよく染みる。半分ほど飲み干し感嘆のため息を吐く。冒険を終えた彼らに至福の一時が訪れた。
「さて、今日のおすすめはっと……」
ナッツを摘みつつアレは壁に掛けられた黒板に目を向ける。そこには『本日のメニュー』と書かれ数品の料理名があげられていた。料理名の前に星印がついているのが今日のおすすめだ。
「俺はポークソテーにしよう。あとエールのおかわり」
「ワタシはほうれん草とベーコンのキッシュ」
「私にはひよこ豆と茄子のトマト煮を」
ダンク以外の三人はそれぞれ料理を注文した。ダンクは杯を空にすると
「ワシは取り敢えず酒だな。何か入ってないか?」
とロイドにたずねた。ドワーフらしく酒好きのダンクは料理よりも先ずは酒だ。
「今日はラガーが入ってるよ」
「ラガーか。酒精は強くないが、久しく飲んでないな。それをもらおうか。肴は適当に見繕ってくれ」
「あいよ。ミェン、手伝ってくれ」
「はーい!」
ミェンは厨房に入ると手際よく皿を用意いし、小鍋に一人分のトマト煮を入れると火にかける。保温箱からあらかじめ切り分けられたキッシュを一切れよそいキノコのバターソテーと玉ねぎのマリネを添えた。
「キッシュお待ちどうさまです」
エステルの前にフォークと共にキッシュの皿が置かれる。タルト生地でできたそれは一見菓子のようだが、漂う焦げたチーズの香りと断面から見えるほうれん草の緑、ベーコンのピンク色が歴とした一品料理であることを主張している。
お先に、とエステルは仲間に一言告げキッシュにフォークを入れ口に運ぶ。
先ず感じたのは卵と牛乳、チーズで出来たソースの味。ともすればくどくなりがちなその味を、ベーコンの塩気、ほうれん草のほのかな苦味、胡椒の辛みが引き締めてくれる。ソテーと一緒に食べれば、キノコの食感と香り、バターの風味が加わりまた違った味わいになり、マリネの酸味が口の中をサッパリとさせてくれる。当然、酒にも合う。
「トマト煮あがったよ」
ラファエラにもトマト煮の盛られた皿が渡された。トマトの赤の中にひよこ豆の黄色、茄子の深い紫がのぞくその皿からはほんのりあがる湯気に混じってハーブの香りがする。ラファエラは待ちきれないとばかりにスプーンで掬うと人目も気にせず頬張った。
トマトの酸味にひよこ豆の甘味とトロトロに煮込まれた茄子のうま味。それらを繋ぐ玉ねぎの甘さと食感に、ラファエラはウットリとした表情になる。勿論、葡萄酒との相性も良い。
「ダンクさんどうぞ」
「おお。これよこれ」
ラガーのジョッキがダンクの前に現れる。自分の顔程の大きさはあろうそのジョッキに口をつけ、豪快に黄金色の酒を呑む。口当たりが柔らかくフルーティーな味わいのエールに対し、ラガーはのど越しにキレがあり、独特の苦味がある。酒精こそ火酒ほと強くはないが、そののど越しと苦味でゴクゴクと水の様に胃の腑に染みていく。
「おかわり!」
これまた一気に飲み干したダンクは直ぐに次をたのむ。
「あいよ。それとこれな」
ダンクに出されたのはチーズをささみで巻き衣をつきて揚げ焼きにしたフリッター。揚げ物の脂っこさもラガーの苦味が洗い流してくれる。酒が食指が動き、さらに酒ががよく進むようになる。口直しに添えられたキャベツの酢漬けもその循環に一役買っている。
「ほいよ。アレス、お待ちどうさん」
最後になったアレスの前に、焼き立てのポークソテーが出された。鉄板の上でジュージューと音を立てる肉に香るにんにくと生姜のソース。付け合わせのマッシュポテトにニンジンのグラッセとブロッコリーで見た目からして美味しさが伝わってくる。
「いただきます!」
出されるや否やナイフを入れる。フライパンで焼き目をつけた後休まされた肉はほんのりとロゼ色だが生焼けではない。噛み締めるとジュワっと溢れる肉汁を生姜の辛みがスッキリとさせ、にんにくの香りが食欲をさらに刺激する。ソースに使われている細かく刻まれた玉ねぎのシャキシャキとした食感と胡椒のピリッとした辛さも良いアクセントとなる。これでエールが進まないわけがない。
四人は一心不乱に料理を食べ、酒を呑んだ。ロイドはその様子を少し呆れながらも微笑みながら見ていた。毎度のことながら料理人冥利につきる光景である。
「アレス! 今回の旅はどうだったよ」
四人の食事が一息ついたところで、客の一人がアレスに声をかけた。彼らも冒険者。自慢話を話すのも好きだが、聞くのも好物だ。アレスの冒険譚を肴にまだまだ飲む気が満々だ。
「ああ。今回は……」
アレスもそれをよく理解しているので朗々と自分達の冒険を語り出す。アレスの語りに誰かが質問を投げエステルやラファエラが答え時折ダンクの解説が入る。一通り語れば今度は他の客が語り出す。そうして賑やかにも四方山亭の夜は更けていく。
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