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覚醒編
能力考察
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未知の世界、未知の生物、未知の現象。
分からないことだらけのこの状況。
だが、今起きたものを使えば覆せるかもしれない。
よって今行うべきは状況整理。
だがシンキングタイムは恐らく足らない。
ならば今やるべきことは。
「ふん…俺の『投石者』をよくぞ防いだな」
牛男は俺に近づいてくる。
「だが、そう何度も防げると思うなよ」
そんな牛男に対し、僕は距離を取る。
できる限り、奴からも斧からも遠い位置に。
「まだ逃げるのか?」
「いいや、これは対策さ、お前の『投石者』とやらに対するな」
「どういうことだ」
僕はあえて折れている方の手で指を指す。
「お前の能力の弱点、恐らく見切った」
「何ぃ!?」
これはハッタリだ。
弱点なんて何も分かってはいない。
だがこういうことで奴は少し躊躇してくれるかもしれない。
奴には通用しないのではないかと。
現に偶然とはいえ一回防いでいるのだ。
このハッタリは説得力を増している。
さてこの躊躇から何をするのか。
それは状況整理だ。
少しでも能力の発動条件を見出す。
思考時間は長ければ長いほどいい、無ければ作り出す。
これも予測の鉄則だ。
ただこれには大変なことがある。
「ほう、その弱点とやら教えてもらおうか」
牛男が問いかけてくる。
「…不思議に思ったんだ、なぜ武器が斧なのだと」
これが大変なことだ。
僕は今から能力について考える。
だが同時に、ハッタリの説得力を持たす言葉を考えなければならない。
「『投石者』の能力は投げた場合必中だが、ならばもっといい武器があるはずだ」
僕はそれっぽいことを言う。
その間に始めよう。
能力の推察を。
①能力は予知である
②能力は予測である
③能力じゃない実力だ
さてこの中でーー
「例えば全体に尖っているものなら、さっきみたいに持ち手の部分にわざと当たるみたいな攻略法がないはずだ」
よしこれもうまく言えているはずだ。
ーーこの中で違うのは何だ?
まず③だろう。
あれが実力じゃないのは自分が一番よく分かっている。
つまりこれは除外、二択だ。
それとーー
「他にも爆弾のような武器なら、相手に必ず当ててその後爆発により更なるダメージを与えられるはずだ」
っとこっちも忘れないようにしなければ。
ーーそれと違うのは、恐らく①だ。
予知っぽい能力ではあるが、恐らく違う。
根拠は奴が投げた後に情報が追加されたこと。
もし予知であるなら、奴が投げる前に斧の速さが分かっていたはずだ。
だが投げた後に、速さが明確に出た。
160km/hと。
更に耐える方法も投げた後、つまり斧の明確な動きが判明した時に分かった。
ならば恐らくだが事前情報、自分が今まで生きていて見てきたものによる情報、今その場で起こったことにより生まれた情報を高速で処理する能力。
つまり②である可能性が高い。
よしこれを仮定とし次にーー
「つまりだが、その能力は斧によってしかできない、違うか?」
「ぐっ!?」
どうやら図星らしい。
案外ハッタリも捨てたもんじゃない。
ーー次にこの能力の発動条件だ。
今までどういうタイミングで発動したか。
①殺人犯と対峙したとき
②牛男に首をとられかけたとき
③斧を投げてきたとき
この三回だ。
この三つの共通点。
簡単だ、命の危機に迫った時だ。
このままでは死ぬ。
そんなタイミングで僕の能力は発動している。
だがーー
「だけどよぉ!俺の能力が斧だけだとしてそれで弱点はあるのかい?」
牛男は痛いところをついてくる。
ぶっちゃけ言うなら斧だって十分強い。
その大きさは十分な破壊力がある。
それだけなら弱点はない。
「まぁそれだけならこんな余裕じゃないさ、ただもう一つの弱点がある」
「んな!?」
「そしてその弱点が斧と相性が悪い」
またもやハッタリだ。
だがここまで来たらやるしかない。
ーーだがさっきの中で一つ仲間はずれがある。
それは②だ。
①と③の時、僕は心の中でしっかり死を感じた。
殺される、そう恐怖した。
だが②の時、僕はそんなこと思っていなかった。
あの時はまだそんな実感が湧いていなかった。
だが確かに能力は発動した。
つまりこれは自動操縦。
認識してる認識してないにかかわらず、命の危機が迫ったら自動で発動する。
だとしたら少し安心だ。
今の状況はいつ爆発してもおかしくない。
そんな状況で起きてしまったら大変だ。
さてーー
「もう一つの弱点、それは当たり方は選べないということ」
そうだ思い出した。
僕はさっきそれを実践したじゃないか。
「必中というのはもちろんとても強い、だがそれは刃物の部分ではなく持ち手でもいい」
「っ!?」
どうやらこれも図星らしい。
「さっきは思いつかなかったが、これがかすっただけでも当たった判定だとしたら?」
「っ…!!」
またまた図星。
これは実際そうだった経験があったっぽいな。
「さて斧は大きく破壊力はあるが、その分破壊力の弱い持ち手の部分も大きい」
よし、こっちも大分まとまってきた。
ここまで来たらラストスパートだ。
ーーさて、自動操縦の能力ということは分かった。
だが、だとするとこっちが狙って発動できないことになる。
それは大分困った事態だ。
狙って発動できないならこの状況の打破がとても難しくなる。
ではこの能力をもっと有効活用する方法は無いか。
この自動高速情報処理能力、予測能力を。
情報処理…そうか情報か。
これは僕の脳内の情報を有効的に使う能力だ。
ならば情報をできる限り増やしたら。
命の危機の前にもっと材料を増やせたら。
そうすればさっきより遥かに素晴らしい結果にたどり着くかもしれない。
そうと決まればーー
「つまり、その能力の弱点は『必中だが判定はシビアではないこと』『斧ゆえにそれを可能にしやすいこと』違うかな?」
「ほう……」
ふー何とかハッタリを完成させることができた。
能力考察のほうも何とかなりそうだし、時間稼ぎは成功と言っていいだろう。
後は、、
『能力発動まであと数秒』
「っ!!」
今のはビジョン。
つまり能力が発動している。
命の危機ということか?
だがどうして。
「なっ!?」
その原因はすぐ分かった。
いつの間にか牛男は斧を手にしていた。
僕が考察とハッタリに脳のキャパを使っている間に拾いに行ったのだろう。
通常なら見逃していないのだが。
大分まずいことになった。
「貴様のその知性、それは認めてやるよ」
牛男の腕にオーラが現れる。
「だが!!俺の力はそれをねじ伏せれるほどある!!」
牛男は俺の左腕を見る。
「それは貴様のその腕が証明してるなぁ!!」
しまった。
こいつ思ったほどアホじゃない。
ハッタリにそんなに流されない。
「食らいやがれ!!『投石者』!!」
「くっ!!」
やばい、またあれが来てしまう。
正直これ以上のけがは勘弁だ。
だがどうすれば。
『投球フォームは先ほどと一緒』『恐らく先ほどの避け方で可能』
くそ、能力もけがを推奨している。
それじゃじり貧だ。
けがだらけになり、最終的に殺されるほど衰弱するだろう。
どうすればいい。
どうすれば。
いや、だめだ。
冷静になれ。
さっき気づいた情報があるじゃないか。
『かすりでも可能』『持ち手にかすらせる』
そうだ、そうすればまだ何とかなるはずだ。
他には情報は無いか。
一瞬、刹那の時間。
僕は周りを見渡す。
そして後ろをちらっと見たときだ。
「あっ」
僕は一つ見つけた。
さっきまで気づかなかったものに。
『ーーー』
ビジョンもそれに書き換わった。
「どりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
牛男は斧を投げた。
『時速160km/h』『先ほどの地面のえぐれかたから恐らく可能』
よし、速度まで一緒だ。
ということは、さっきより視覚情報は持っている状態。
ということは。
『後ろに一歩下がった状態』『腰を落とし』『のけぞる』
やはり検索結果も早い。
僕はその言葉通り、後ろに下がり、腰を落とし、のけぞった。
結構きつい体制だが、命には代えられない。
結果、縦回転の斧は僕の上をしっかりと通る。
持ち手の部分が少し腹と鼻を掠らせた。
「っ!」
ちょっと痛かったが、骨折より断然ましだ。
僕は体制を楽にするため、そのまま寝転んだ。
「あああ!!本当によけやがったか」
牛男は分かりやすくショックを受ける。
「だがまた同じことを繰り返すだけだ、いつまでも続かないだろうこんな奇跡は!!」
牛男は余裕そうに言う。
「そうだな、いつまでも続かないな」
僕はニヤリと笑う。
「だからここで終わりにしようと思う」
僕はそう言いながら体を起こす。
「終わり?どういうことだ?」
「お前の能力の弱点だが、もう一つ分かった」
「弱点…?」
「あぁ、それは『相手に当たった後はただの投げられた斧だということ』だ」
僕はさっきの光景を思い出した。
斧は僕に当たった後、そのまま落ちてゆき、地面に突き刺さった。
それまでは必中というバカげたスキルだからか、物理法則を無視したような空中を等速にまっすぐに飛んでいた。
だが当たってから落ちたということは、そこからは物理法則が働いている、つまり能力下に無いということだ。
「それがどうしたんだ!?」
牛男はイライラしたように問う。
「まだ分かんねーか、僕の後ろを見てみろ」
僕は後ろを指さす。
「あぁ?…岩山があんな?それがどうした?」
そう僕のちょっと後ろには岩山があった。
それも少し高めの岩山だ。
「あんたのパワーはすごいよな、さっき投げた後の斧がぶっ刺さっていた」
「あぁ、それが俺の本来の力だ」
「そのパワーで投げたら、あの岩山、壊せるんじゃないのか?」
「そりゃまあ…まさか!?」
「そういうことだ」
飛んで行った斧は岩山に当たる。
そこにひびが入り、そのひびは広がっていく。
「僕はきつい体制ながらものけ反った、それは勢いをあまり落としたくなかったからだ」
そしてドカーンというけたたましい音ともに岩山は壊れる。
「そうすれば、あの岩山までパワーをあまり落とさず届くと考えたんだ」
そして岩山は崩れ、斧を下敷きにする。
「何だよこれ…!?貴様どこまで!!」
「どこまで?全てだ」
僕は立ち上がる。
「能力の使い道、『投石者』の攻略、斧の封じ込め方、僕の被害最小限」
あまりの出来に僕はニヤリと笑う。
「全て予測通りだ」
決まった。
ここに来てから初めて決まった気がする。
これは恐らくフラグではない、しっかりとした勝利宣言だろう。
「…どこまでちょこざいな!!」
牛男は憤慨する。
「まあいいだろう!!貴様なぞスキルを使わなくても嬲り殺せるからな!!」
…ん?
「貴様の身体能力、腕のケガ!!その状態では俺の身体能力には勝てないだろうが!!」
……確かにそうだ。
僕は『投石者』には勝った。
だが根本的な問題はこの牛男をどうするかだ。
僕は喧嘩は弱い、たいしてあっちは筋肉ダルマだ。
普通に戦えば、負けるのは僕のほうだ。
あれ?さっきのセリフ、やっぱフラグだった?
「さぁ!さぁ!さぁ!!殴らせろ割らせろ破裂させろぉぉ!!俺の怒りは収まらない!!」
しかも大変怒ってらっしゃる。
何故か能力も発動しない。
もしかしてあれ?回数制限とかあったりする?
あれ?つんだか?
「くっそぉぉ!!こうなったらやけだ!!」
僕は構える。
「見してやるよ!!昔ほんの少しだけかじった自己流護身術を!!」
僕は昔、護身術を覚えようと思ったことがある。
それさえあればいつ襲われても大丈夫だと思ったからだ。
だが道場とかは恐らくしんどい。
なのでネットで調べ、実践しようと思った。
だが相手がいなければ護身術は成立しない。
つまり無理だったので諦めた。
ようするにかじってすらいない。
行けるのか?通用するのか?未来流柔術『受け流しの極意』は。
これは実力が伴ってないうちに妄想で考えた名前だ。
「うおおおおお!!」
僕は諦めの気持ちで立ち向かった。
そんな時だった。
「その必要はないぞ青年!」
僕の後ろから声が聞こえた。
女性の声だった。
「へ?」
後ろを振り返るとそこには、鎧を着た、金髪ロングの青めの女性が立っていた。
背も高く、恐らく足も長い。
剣をもって僕の後ろに颯爽と登場した。
「よくここまでがんばった、上出来だぞ青年!」
その女性は僕の頭をポンと叩きほめてくれた。
「え、あ、あの」
「だがこっからはこの銀等級騎士に任せろ!」
そう言って女性は牛男に剣を向ける。
「人間の剣士か!!今は貴様に用はない!!どきな!!」
牛男は息を荒げる。
「そうは行かない!あの悪魔的な斧使いのタウロスを討ち取るチャンスなのだ!逃すわけなかろう!」
女性はにやりと笑う。
なぜかこの人余裕そうだ。
相手はいかにも力があるタイプ。
一方こっちは剣があるとはいえ、普通の女性だ。
一見勝て無さそうなのに。
「ならば!!貴様ごと葬ってやるわ!!」
牛男は拳を握り、女性の顔面を狙う。
直感で分かった。
あれに当たったらひとたまりも無い。
下手すれば死んでしまう。
「危ない!!」
僕は思わず叫んだ。
すると。
シャキン
とするどい音が響く。
打撃音には似合わない音だ。
何が起こったのか、見てみると。
牛男の腕が消えていた。
「なっ…!?」
牛男も何が起きたか分かっていないようだ。
「ふっやはり頭に血が上っているなタウロス!」
女性は不敵にほほ笑む。
「斧のない貴様の短絡的な攻撃で、私を殺せるわけが無かろう」
そういって女性は剣を構える。
その剣にはべったりと血がついていた。
まさか切ったのか、あの一瞬で!?
僕は心底驚いた。
「っ!?貴様《《戦闘姫》》か!?」
「今更気づいたのか間抜け」
戦闘姫…?
さっきから横文字が多く、段々ついていけなくなっていた。
「私のことを知っているなら、この後どうなるかも分かるだろ?」
彼女が構えた剣が光っていく。
その光はどんどん強くなっていく。
「っっっ!!!くそが!!!!!」
ミノタウロスは叫ぶ。
そして、、
「『光速斬』」
彼女がそう言うと、ほんの一瞬。
一瞬瞬きしたうちに、牛男の体はズタズタに切られていた。
「がはっ…」
牛男は白目をむき、そのまま倒れた。
「とどめだ」
女性はそういうと牛男の首をはねた。
一瞬の出来事に、僕は情報の整理が追い付かなかった。
「…敵は取ったぞ…」
彼女は空を見上げそう呟いた。
とりあえず、助かったのだろうか。
僕は腰が抜け、へなへなと座り込んだ。
分からないことだらけのこの状況。
だが、今起きたものを使えば覆せるかもしれない。
よって今行うべきは状況整理。
だがシンキングタイムは恐らく足らない。
ならば今やるべきことは。
「ふん…俺の『投石者』をよくぞ防いだな」
牛男は俺に近づいてくる。
「だが、そう何度も防げると思うなよ」
そんな牛男に対し、僕は距離を取る。
できる限り、奴からも斧からも遠い位置に。
「まだ逃げるのか?」
「いいや、これは対策さ、お前の『投石者』とやらに対するな」
「どういうことだ」
僕はあえて折れている方の手で指を指す。
「お前の能力の弱点、恐らく見切った」
「何ぃ!?」
これはハッタリだ。
弱点なんて何も分かってはいない。
だがこういうことで奴は少し躊躇してくれるかもしれない。
奴には通用しないのではないかと。
現に偶然とはいえ一回防いでいるのだ。
このハッタリは説得力を増している。
さてこの躊躇から何をするのか。
それは状況整理だ。
少しでも能力の発動条件を見出す。
思考時間は長ければ長いほどいい、無ければ作り出す。
これも予測の鉄則だ。
ただこれには大変なことがある。
「ほう、その弱点とやら教えてもらおうか」
牛男が問いかけてくる。
「…不思議に思ったんだ、なぜ武器が斧なのだと」
これが大変なことだ。
僕は今から能力について考える。
だが同時に、ハッタリの説得力を持たす言葉を考えなければならない。
「『投石者』の能力は投げた場合必中だが、ならばもっといい武器があるはずだ」
僕はそれっぽいことを言う。
その間に始めよう。
能力の推察を。
①能力は予知である
②能力は予測である
③能力じゃない実力だ
さてこの中でーー
「例えば全体に尖っているものなら、さっきみたいに持ち手の部分にわざと当たるみたいな攻略法がないはずだ」
よしこれもうまく言えているはずだ。
ーーこの中で違うのは何だ?
まず③だろう。
あれが実力じゃないのは自分が一番よく分かっている。
つまりこれは除外、二択だ。
それとーー
「他にも爆弾のような武器なら、相手に必ず当ててその後爆発により更なるダメージを与えられるはずだ」
っとこっちも忘れないようにしなければ。
ーーそれと違うのは、恐らく①だ。
予知っぽい能力ではあるが、恐らく違う。
根拠は奴が投げた後に情報が追加されたこと。
もし予知であるなら、奴が投げる前に斧の速さが分かっていたはずだ。
だが投げた後に、速さが明確に出た。
160km/hと。
更に耐える方法も投げた後、つまり斧の明確な動きが判明した時に分かった。
ならば恐らくだが事前情報、自分が今まで生きていて見てきたものによる情報、今その場で起こったことにより生まれた情報を高速で処理する能力。
つまり②である可能性が高い。
よしこれを仮定とし次にーー
「つまりだが、その能力は斧によってしかできない、違うか?」
「ぐっ!?」
どうやら図星らしい。
案外ハッタリも捨てたもんじゃない。
ーー次にこの能力の発動条件だ。
今までどういうタイミングで発動したか。
①殺人犯と対峙したとき
②牛男に首をとられかけたとき
③斧を投げてきたとき
この三回だ。
この三つの共通点。
簡単だ、命の危機に迫った時だ。
このままでは死ぬ。
そんなタイミングで僕の能力は発動している。
だがーー
「だけどよぉ!俺の能力が斧だけだとしてそれで弱点はあるのかい?」
牛男は痛いところをついてくる。
ぶっちゃけ言うなら斧だって十分強い。
その大きさは十分な破壊力がある。
それだけなら弱点はない。
「まぁそれだけならこんな余裕じゃないさ、ただもう一つの弱点がある」
「んな!?」
「そしてその弱点が斧と相性が悪い」
またもやハッタリだ。
だがここまで来たらやるしかない。
ーーだがさっきの中で一つ仲間はずれがある。
それは②だ。
①と③の時、僕は心の中でしっかり死を感じた。
殺される、そう恐怖した。
だが②の時、僕はそんなこと思っていなかった。
あの時はまだそんな実感が湧いていなかった。
だが確かに能力は発動した。
つまりこれは自動操縦。
認識してる認識してないにかかわらず、命の危機が迫ったら自動で発動する。
だとしたら少し安心だ。
今の状況はいつ爆発してもおかしくない。
そんな状況で起きてしまったら大変だ。
さてーー
「もう一つの弱点、それは当たり方は選べないということ」
そうだ思い出した。
僕はさっきそれを実践したじゃないか。
「必中というのはもちろんとても強い、だがそれは刃物の部分ではなく持ち手でもいい」
「っ!?」
どうやらこれも図星らしい。
「さっきは思いつかなかったが、これがかすっただけでも当たった判定だとしたら?」
「っ…!!」
またまた図星。
これは実際そうだった経験があったっぽいな。
「さて斧は大きく破壊力はあるが、その分破壊力の弱い持ち手の部分も大きい」
よし、こっちも大分まとまってきた。
ここまで来たらラストスパートだ。
ーーさて、自動操縦の能力ということは分かった。
だが、だとするとこっちが狙って発動できないことになる。
それは大分困った事態だ。
狙って発動できないならこの状況の打破がとても難しくなる。
ではこの能力をもっと有効活用する方法は無いか。
この自動高速情報処理能力、予測能力を。
情報処理…そうか情報か。
これは僕の脳内の情報を有効的に使う能力だ。
ならば情報をできる限り増やしたら。
命の危機の前にもっと材料を増やせたら。
そうすればさっきより遥かに素晴らしい結果にたどり着くかもしれない。
そうと決まればーー
「つまり、その能力の弱点は『必中だが判定はシビアではないこと』『斧ゆえにそれを可能にしやすいこと』違うかな?」
「ほう……」
ふー何とかハッタリを完成させることができた。
能力考察のほうも何とかなりそうだし、時間稼ぎは成功と言っていいだろう。
後は、、
『能力発動まであと数秒』
「っ!!」
今のはビジョン。
つまり能力が発動している。
命の危機ということか?
だがどうして。
「なっ!?」
その原因はすぐ分かった。
いつの間にか牛男は斧を手にしていた。
僕が考察とハッタリに脳のキャパを使っている間に拾いに行ったのだろう。
通常なら見逃していないのだが。
大分まずいことになった。
「貴様のその知性、それは認めてやるよ」
牛男の腕にオーラが現れる。
「だが!!俺の力はそれをねじ伏せれるほどある!!」
牛男は俺の左腕を見る。
「それは貴様のその腕が証明してるなぁ!!」
しまった。
こいつ思ったほどアホじゃない。
ハッタリにそんなに流されない。
「食らいやがれ!!『投石者』!!」
「くっ!!」
やばい、またあれが来てしまう。
正直これ以上のけがは勘弁だ。
だがどうすれば。
『投球フォームは先ほどと一緒』『恐らく先ほどの避け方で可能』
くそ、能力もけがを推奨している。
それじゃじり貧だ。
けがだらけになり、最終的に殺されるほど衰弱するだろう。
どうすればいい。
どうすれば。
いや、だめだ。
冷静になれ。
さっき気づいた情報があるじゃないか。
『かすりでも可能』『持ち手にかすらせる』
そうだ、そうすればまだ何とかなるはずだ。
他には情報は無いか。
一瞬、刹那の時間。
僕は周りを見渡す。
そして後ろをちらっと見たときだ。
「あっ」
僕は一つ見つけた。
さっきまで気づかなかったものに。
『ーーー』
ビジョンもそれに書き換わった。
「どりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
牛男は斧を投げた。
『時速160km/h』『先ほどの地面のえぐれかたから恐らく可能』
よし、速度まで一緒だ。
ということは、さっきより視覚情報は持っている状態。
ということは。
『後ろに一歩下がった状態』『腰を落とし』『のけぞる』
やはり検索結果も早い。
僕はその言葉通り、後ろに下がり、腰を落とし、のけぞった。
結構きつい体制だが、命には代えられない。
結果、縦回転の斧は僕の上をしっかりと通る。
持ち手の部分が少し腹と鼻を掠らせた。
「っ!」
ちょっと痛かったが、骨折より断然ましだ。
僕は体制を楽にするため、そのまま寝転んだ。
「あああ!!本当によけやがったか」
牛男は分かりやすくショックを受ける。
「だがまた同じことを繰り返すだけだ、いつまでも続かないだろうこんな奇跡は!!」
牛男は余裕そうに言う。
「そうだな、いつまでも続かないな」
僕はニヤリと笑う。
「だからここで終わりにしようと思う」
僕はそう言いながら体を起こす。
「終わり?どういうことだ?」
「お前の能力の弱点だが、もう一つ分かった」
「弱点…?」
「あぁ、それは『相手に当たった後はただの投げられた斧だということ』だ」
僕はさっきの光景を思い出した。
斧は僕に当たった後、そのまま落ちてゆき、地面に突き刺さった。
それまでは必中というバカげたスキルだからか、物理法則を無視したような空中を等速にまっすぐに飛んでいた。
だが当たってから落ちたということは、そこからは物理法則が働いている、つまり能力下に無いということだ。
「それがどうしたんだ!?」
牛男はイライラしたように問う。
「まだ分かんねーか、僕の後ろを見てみろ」
僕は後ろを指さす。
「あぁ?…岩山があんな?それがどうした?」
そう僕のちょっと後ろには岩山があった。
それも少し高めの岩山だ。
「あんたのパワーはすごいよな、さっき投げた後の斧がぶっ刺さっていた」
「あぁ、それが俺の本来の力だ」
「そのパワーで投げたら、あの岩山、壊せるんじゃないのか?」
「そりゃまあ…まさか!?」
「そういうことだ」
飛んで行った斧は岩山に当たる。
そこにひびが入り、そのひびは広がっていく。
「僕はきつい体制ながらものけ反った、それは勢いをあまり落としたくなかったからだ」
そしてドカーンというけたたましい音ともに岩山は壊れる。
「そうすれば、あの岩山までパワーをあまり落とさず届くと考えたんだ」
そして岩山は崩れ、斧を下敷きにする。
「何だよこれ…!?貴様どこまで!!」
「どこまで?全てだ」
僕は立ち上がる。
「能力の使い道、『投石者』の攻略、斧の封じ込め方、僕の被害最小限」
あまりの出来に僕はニヤリと笑う。
「全て予測通りだ」
決まった。
ここに来てから初めて決まった気がする。
これは恐らくフラグではない、しっかりとした勝利宣言だろう。
「…どこまでちょこざいな!!」
牛男は憤慨する。
「まあいいだろう!!貴様なぞスキルを使わなくても嬲り殺せるからな!!」
…ん?
「貴様の身体能力、腕のケガ!!その状態では俺の身体能力には勝てないだろうが!!」
……確かにそうだ。
僕は『投石者』には勝った。
だが根本的な問題はこの牛男をどうするかだ。
僕は喧嘩は弱い、たいしてあっちは筋肉ダルマだ。
普通に戦えば、負けるのは僕のほうだ。
あれ?さっきのセリフ、やっぱフラグだった?
「さぁ!さぁ!さぁ!!殴らせろ割らせろ破裂させろぉぉ!!俺の怒りは収まらない!!」
しかも大変怒ってらっしゃる。
何故か能力も発動しない。
もしかしてあれ?回数制限とかあったりする?
あれ?つんだか?
「くっそぉぉ!!こうなったらやけだ!!」
僕は構える。
「見してやるよ!!昔ほんの少しだけかじった自己流護身術を!!」
僕は昔、護身術を覚えようと思ったことがある。
それさえあればいつ襲われても大丈夫だと思ったからだ。
だが道場とかは恐らくしんどい。
なのでネットで調べ、実践しようと思った。
だが相手がいなければ護身術は成立しない。
つまり無理だったので諦めた。
ようするにかじってすらいない。
行けるのか?通用するのか?未来流柔術『受け流しの極意』は。
これは実力が伴ってないうちに妄想で考えた名前だ。
「うおおおおお!!」
僕は諦めの気持ちで立ち向かった。
そんな時だった。
「その必要はないぞ青年!」
僕の後ろから声が聞こえた。
女性の声だった。
「へ?」
後ろを振り返るとそこには、鎧を着た、金髪ロングの青めの女性が立っていた。
背も高く、恐らく足も長い。
剣をもって僕の後ろに颯爽と登場した。
「よくここまでがんばった、上出来だぞ青年!」
その女性は僕の頭をポンと叩きほめてくれた。
「え、あ、あの」
「だがこっからはこの銀等級騎士に任せろ!」
そう言って女性は牛男に剣を向ける。
「人間の剣士か!!今は貴様に用はない!!どきな!!」
牛男は息を荒げる。
「そうは行かない!あの悪魔的な斧使いのタウロスを討ち取るチャンスなのだ!逃すわけなかろう!」
女性はにやりと笑う。
なぜかこの人余裕そうだ。
相手はいかにも力があるタイプ。
一方こっちは剣があるとはいえ、普通の女性だ。
一見勝て無さそうなのに。
「ならば!!貴様ごと葬ってやるわ!!」
牛男は拳を握り、女性の顔面を狙う。
直感で分かった。
あれに当たったらひとたまりも無い。
下手すれば死んでしまう。
「危ない!!」
僕は思わず叫んだ。
すると。
シャキン
とするどい音が響く。
打撃音には似合わない音だ。
何が起こったのか、見てみると。
牛男の腕が消えていた。
「なっ…!?」
牛男も何が起きたか分かっていないようだ。
「ふっやはり頭に血が上っているなタウロス!」
女性は不敵にほほ笑む。
「斧のない貴様の短絡的な攻撃で、私を殺せるわけが無かろう」
そういって女性は剣を構える。
その剣にはべったりと血がついていた。
まさか切ったのか、あの一瞬で!?
僕は心底驚いた。
「っ!?貴様《《戦闘姫》》か!?」
「今更気づいたのか間抜け」
戦闘姫…?
さっきから横文字が多く、段々ついていけなくなっていた。
「私のことを知っているなら、この後どうなるかも分かるだろ?」
彼女が構えた剣が光っていく。
その光はどんどん強くなっていく。
「っっっ!!!くそが!!!!!」
ミノタウロスは叫ぶ。
そして、、
「『光速斬』」
彼女がそう言うと、ほんの一瞬。
一瞬瞬きしたうちに、牛男の体はズタズタに切られていた。
「がはっ…」
牛男は白目をむき、そのまま倒れた。
「とどめだ」
女性はそういうと牛男の首をはねた。
一瞬の出来事に、僕は情報の整理が追い付かなかった。
「…敵は取ったぞ…」
彼女は空を見上げそう呟いた。
とりあえず、助かったのだろうか。
僕は腰が抜け、へなへなと座り込んだ。
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