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獣人族戦編
崩壊拳エレファン②
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「まずね、僕の目的は二つあるんだ」
魔族はピースするかのように二本の指を立てる。
「一つは同士討ち」
「同士討ちだと…」
「あぁ、まず僕は人間族を壊滅状態へ追い込んだ」
あぁそうだ。
俺達は多くの隊を潰し、再起不能へ追い込んだ。
外交班さへしっかりしていればあの戦いは俺達の勝ちで終わっていたはずなんだ。
「そして次は君達獣人族が壊滅状態になるように仕向けたんだ」
「…」
俺はこの時キレそうになった。
自分たちの種族を滅ぼそうとしたことじゃない。
こいつが、ふざけているということにだ。
「どうやってかっていうと、まず人間族に有利な状態にしたんだ」
「…例えば?」
「隠密部隊が動いていたから、わざと彼らに情報が渡るようにしたり、とかね」
…これもだ。
こいつの話にはある矛盾がある。
だからかこいつがふざけているとしか思えない。
「後はタウロスを殺したのは人間族だと言ったけど、その証明とかはしなかった」
「何故だ?」
「理由は君達の士気を下げるため、本当に人間族で合ってるのか?っていうね」
どんどん確信に変わっていった。
これは負け惜しみだ。
口が達者ゆえにそれっぽく聞こえるだけだ。
そう思うとイライラが収まらない。
「…そして俺たちはまんまと術中にハマり、人間族の新戦力に潰されたって事か?」
「そういう事だよ」
「そうか」
俺は目の前のこいつをぶん殴った。
喋っている途中ぐらいに、間髪入れずだ。
さっきは何故か避けられたが、これなら。
「そして君たちは見事、壊滅状態というわけだ」
だが魔族は避けていた。
余裕をアピールするように話を続ける。
その態度に腹が立ち、俺は攻撃を続ける。
「更に言えば君を隊長という立場にしたのもそれさ」
殴っても殴っても。
奴はひょいひょいとかわす。
「…ふざけるな!!」
「ん?」
「俺をなめているのか!?そんな話で納得できるわけないだろ!?」
「ほう?」
「貴様の話にはおかしなところがある!!」
「マジで?」
魔族は馬鹿にするように驚いたふりをした。
棒演技だったのでふりだということは分かった。
「貴様の作戦は人間族を壊滅させた後、逆に反撃食らうようにしたってことだろ!」
「そうだけど?」
「それがおかしいんだ!!」
「何でー?」
「それは人間族にその反撃する力があるという前提の話だ!」
だが壊滅状態、現に新戦力が来るまでの奴らにはその力は無かった。
出来るやつはせいぜい戦闘姫ぐらいだろう。
そんな奴らだからこそ俺達は油断した。
新戦力なんてイレギュラーに対応できなかった。
「お前は分かっていたのか!?その新戦力が!?」
「うん」
「は?」
「知ってたよ、だから相打ち作戦は成功すると思った、矛盾してないよ」
…つまり以前から分かっていたということか。
ということは。
「ああちなみに新戦力は僕が送ったというわけでもないよ」
な!?
それは今俺が考えていたことだった。
「僕は彼らに会ったことないよ、正直会ってみたいぐらいさ」
「じゃあなぜ知っていた?」
「予測だよ」
ますます分からない。
こいつは何を言っている。
「新戦力が東京から来ることを予測したんだ」
「…何を根拠にそんな予測ができたんだ?」
「さあ?」
「は!?」
やっぱこいつはふざけている。
予測と言う言葉を使うぐらいだったら根拠ぐらい言ってみろってものだ。
「まあ待って、それは仕方ないんだ」
「仕方ない?」
「根拠や筋道、情報処理の全ての過程を代わりに行い予測できるのが予測者だからね」
「…それが貴様の能力ということか?」
「うーん、ちょっとごめんね」
そういうと奴は突然俺の頭に指先を埋め込んだ。
…は?
「大分ややこしい話でめんどくさくなった、だから直接送るね」
「何を……!!!???」
その時だ。
俺の脳に電流が走ったような感覚が走った。
立っていられなくなるぐらい痛く、気持ち悪くなる感覚。
それと同時に流れ込んでくる情報。
予測者とは何なのかという事…。
「がっがっがっ」
どういうことだ…?
これは本当に能力なのか?
俺は今、何かとんでもないものを見ているのでは…?
「がっがっ…はっ!!」
気が付いたら奴は手を抜いていた。
それと同時に不快な感覚も無くなっていた。
「…今のが、予測者…?」
「そう、ちなみに新戦力の一人がそうだよ」
「な!?」
こいつの言う事が本当なら…。
「…さっき目的は二つと言っていたな」
「うん」
「その目的というのは…?」
「実験」
やはりそうか。
俺達の命はこいつらに弄ばれていた。
全ては、高橋未来。
奴を中心に回っていた実験だったんだ。
「…ふざけるな」
こんな理不尽な事があるか。
獣人族は、この訳の分からない事態によって終わりを迎えそうになっている。
「俺達は、そんな安く見られているのか!!??」
許せない。
こんなにコケにされているのは初めてだ。
「…ふふ」
魔族の奴が少し笑い出す。
それが俺をより怒らせる。
「何だ!!??」
「いやね、君がすごいなって」
「ああ!!??」
そういうと魔族は突然俺の目の前に来る。
そして、指を、今度は胸部に埋め込んだ。
「な!?」
「この予測は賭けだった、そして君は最高の結果を出してくれた」
な、何が起きている。
俺の体に電流が走ってくる。
だが今回は痛いものではない。
むしろ心地いいような…。
そんな不思議な感覚。
「利害が一致したため、獣人族に最後のチャンスを与えるよ」
「一致だと…?」
「高橋未来、彼への実験はまだ途中でね、これから第二フェイズに移行したい」
奴の話を聞いている間も電流は流れる。
その間に、どんどん体が大きくなってくる気がする。
いや、気じゃなく、実際にデカくなっている。
「その結果、高橋未来を殺しても構わない」
「…ほう」
「どころか、君らが本気で殺そうとすればするほど、僕もありがたい」
奴が指を抜く。
気が付いたら俺の体はとんでもなく、恐ろしい力を手にしていたようだ。
「よって君に力をプレゼントしてあげる」
その言葉は恐らく本当だ。
だが少し実験しなければならない。
俺は部屋から出て階段を上る。
「おや?」
魔族も追いかけてくる。
「どこへ行くんだい?」
「俺も少し実験だ」
「…へぇ」
さっきまで長く感じていた階段。
だが意外とそんなこともなく。
思ったより早く上にたどり着いた。
「おうエレファン、な、なんじゃその体?」
長の一人が俺の体を見て驚いている。
「そうかキュルヴィリア様に与えられたのだな?」
「それは素晴らしい!ありがとうございますキュルヴィリア様」
長達は後ろにいるやつにペコペコしている。
だから俺は。
思い切り殴った。
近くにいた長は3人ぐらい。
彼らは全て首が無くなっていた。
ほう、能力無しでも人体を破壊できるのか。
「…な、何を…」
「何をしているのだ?エレファン?」
「ひっ、ひっ…」
生き残った長の反応はそれぞれだった。
だが共通点がある。
全て、へっぴり腰で逃げようとしていることだ。
誰一人、俺に強いまなざしを向けるもの、立ち向かおうとするものがいなかった。
「…ふふふふ」
笑えて来た。
俺が今まで従ってきた長はこんなものなのか。
こんな奴に俺は下手に出ていたのか。
これなら何も悲しくない。
実験は続行する…。
その後俺は、長が助けを呼ぶ間も無く、逃げ出す間も無く。
10人全て滅ぼした…。
「どうだ予測者!!これは!!これはぁ!?」
「うおおおおお!!」
僕は今、エレファンに追いかけられている。
奴は家を破壊しながらこっちに向かっている。
おかげで僕が隠れられるところがない。
その過程で通りすがりの人々もどんどん殺されていく。
それでも僕は逃げるしかない。
奴に対抗する手段が見つからない。
『上空より瓦礫が飛来』『立ち止まっても追いつかれる可能性大』『よってヘッドスライディングで超えるべき』
「うおおおおおお!!」
なんとか予測者のおかげで逃げ切れている。
でもこのままではじり貧だ。
くっそ、タウロスやレオンより絶対強いぞこいつ。
弱点が今のところ一つも見つからない。
やはり舐めすぎていたのか?
いやそれにしても強すぎる。
こんなにパワーがあるなら恐らくだがもっと色んな作戦が、戦法が変わっていたはずだ。
現に家を破壊しながらそれを投げつけてくるって。
そんな力業があったら資料に残ってるはずだ。
「くっそ、どうすれば…」
頼みのつなの宮垣は別に逃げてもらっている。
彼女は貧血気味でフラフラだ。
幸い僕の方を狙っているらしく生きているが。
あぁぁ、貧血が治まる時間ってどんくらいだ。
なったこと無いから分からないぞ。
それにしても。
何故奴は僕を狙っている。
さっき奴は予測者とはっきり言っていたが、それに関係が…
『後方より家ごと投球』『全速力で右方への逃亡』『早急でなきゃ死亡』
「な、うおおおおおお」
その予測通り、僕が逃げた直後に家が吹き飛んできた。
あぁゆっくり予測する時間が作れない。
「ふはははははは、楽しいなぁ予測者ぁ!!!」
「何がだよ!?」
「やはり圧倒的な力というものは!!弱者をじわじわ追い詰めるというのはとても楽しい!!!」
「それは良かった!だったらもっといい弱者を紹介してやろうか!?」
「いいや!!お前ほど追いかけがいのあるものもいないなぁ!!」
「お誉めの言葉どうも!!!」
僕は逃げている間も色々見ていたつもりだ。
どこに行けばいい?
どこに?
そうだ、王城。
王城の中に入れれば。
王の能力なら倒せるか…?
いやでもそれはだめだ。
考えなしに連れて行っても外部から破壊される可能性がある。
どうにかして僕の力で対処する方法は。
…ない。
まず傷はつけられない。
ルインさんでも駄目だったんだ。
攻撃の線は無し。
油断させて何かしらを狙うか?
油断はどうやってさせる?
そもそも何かしらって何だよ?
ああもう僕だけじゃ何もできない。
何とか、何かしらがあれば。
僕がそんなことを考えながら、角を曲がった時だ。
「あ」
「あ」
そこに獣人族がいた。
最悪だ。
この虎頭。
間違いない…馬鹿力のタイガーだ。
くっそ、こんなところに奴がいるとは。
一体どうすれば…。
「いいか、静かにしてろ」
「え?な?」
突然タイガーが僕を引っ張る。
そして床の蓋を開き、僕と一緒に落ちていった。
この下は確か下水道。
その証明に匂いが結構酷い。
「しっかり捕まっていろ!!」
「んんん!!??」
静かにと言われたから黙っていたが。
落ちる恐怖と困惑の感情がやはり少しは音として出てしまった。
「おおおおい!!どこだ予測者ああああ!!」
上から声が聞こえてくる。
僕はびくっとして漏れる音も押し殺した。
そんなことをやっているうちに。
タイガーが僕を支えたまま着地する。
その衝撃が響いてきて、正直大分痛かった。
「がっ…」
「わりいな、ただ状況が状況だからな」
そう言うと僕を運んだまま下水道の奥の方へ入っていった。
「な、僕をどこへ?」
「ん?あそこに」
タイガーが奥の方を指さす。
「ん?え?」
そこには獣人族と人間族が数人ずつ集まっていた。
どちらも平民っぽい感じだった。
「あ、タイガーさん!」
「タイガーさんが帰ってきた!」
獣人族達がこちらに気づき近寄る。
「おう!何事も無かったか?」
「はい大丈夫でした!」
「そいつぁ良かった」
タイガーは僕を下す。
「あんた、何故僕を助けた…?」
「んん?」
「僕は敵のはずだろ、一体なぜ?」
「だってこんな理不尽な戦争で死にたくねーだろ」
「え?」
タイガーはよっこいせとあぐらをかいて座る。
「色々おかしいだろこの戦争、俺らも人間族もいっぱい死んじまった」
「…」
「戦士が死んじまうのは仕方ねー!そいつぁ自分が選んだ運命だ、けどな」
タイガーは拳を握る。
怒りからかプルプルと震えている。
「一般人が死ぬのはちげーだろ!こっちは農民や学生が駆り出され、そっちはただ普通に暮らしてたら街ごと突然やられちまうんだ」
「…そうか…だから」
「ああだから俺は独断でここに匿うことにした」
「命令無視じゃないのか?」
「勿論!だから独断だ!」
僕は驚いた。
この世界に来てから、倫理観など少し崩れていた。
だが、こんなにもしっかり考えている人がいるんだ。
命について。
「こんな事する人じゃなかったんだけどな…」
「ん?」
「ああいや気にしないでくれ」
こいつは今、こんなことする人と言っていた。
その言葉に、僕は何か思いつきそうになる。
もしかして…。
…試してみる価値はありそうだ。
「……悪い」
「あぁ?」
「僕も兵士だ」
まずは自分の素性を明かしてみた。
多分だが、こいつは僕の事を一般人だと思っている。
まあこんな華奢な体を見たら誰でもそう思うだろう。
だからこそここに匿ってくれたんだ。
だがこの後にやることのためにそう言ってみた。
「…何の冗談だ?」
タイガーが立ち上がる。
冗談と言っているが僕を見る目が、雰囲気が変わった。
周りの反応もざわっと雰囲気に気づいている様だった。
「お前のような筋力が無いやつが何を?」
今は時間が無い。
僕は手っ取り早く証明することにした。
「タウロスとレオン」
その二人の名前を言った瞬間、僕のすぐ右側の壁が壊れた。
どうやらタイガーが殴ったらしい。
「何故あの人達を知っている?」
「知っているさ、僕も関わっているのだから」
「…そうか、ならば」
タイガーは俺の首を持ち、掲げる。
「残念だが俺は貴様を殺さなければいけないようだ」
「っ!!」
「ここで貴様を見逃したら、また同胞が殺されるかもしれない、ならその前に」
「タイガーさん!!」
ここで声を上げたのは獣人族の子だ。
子というぐらい若いのが分かる。
人間で言うと中高生ぐらいか?
「止めて!そんなの見たくない!」
「悪い、だがそれが俺達の生き方だから…」
「…そんな事思ってないんだろ…」
「な!?」
僕は首を絞められている状態で口を挟む。
「あんたは優しい奴だ、今、この場で殺すなんてことしたくないんだろ!」
「な、何を!」
あんたは優しい奴だ。
それはこの一瞬でも分かる。
だって馬鹿力のタイガーだ。
そんな奴が首絞めたら僕は一瞬で死ぬはずだ。
だが、今も生きている。
それどころか。
予測者が発動しない。
命の危機に瀕してないということだ。
「ここにいる一般人にそんな残酷なものを見せたくない!そもそも本当は殺しに抵抗がある!違うか!?」
「っ!!」
どうやら図星らしい。
全く、あいつといいこいつといい。
優しいやつがなんでこんなことをやっている。
「そんなことをするより、頼みがあるんだ!」
「頼み…?」
「エレファンを、一緒に止めること」
「な!?」
これが僕の思いついた苦肉の策。
「あんたは止めれるなら止めたい、そう思っているんじゃないのか?」
「…ああ」
やっぱりそうだ。
さっき言っていたこんなことする人、その人はエレファンだ。
奴の姿を見るに、今は何かしらの暴走状態に入っている。
その状態にタイガーは止めたいと思っている。
ならば。
「俺もこんな戦争はもう終わらせたい!利害の一致だ!」
「あんたまじで言ってんのか?」
タイガーが俺を見つめる。
「そいつぁ利敵行為にあたるだろ、そんなことするとでも?」
「あんたはするはずだ」
僕は上を指さす。
「聞こえるかこの地響き」
「…」
「こいつはエレファンだ!現在も僕を探して暴れている!」
「…」
「沢山の血が今も流れているはずだ!」
「…」
タイガーは無言で何かを考えているようだ。
だがうまく行けているはず。
僕を首絞める力が弱くなっていっている。
「あんたが実力に不安があるなら僕が指揮する!」
「指揮…?」
「ああ!僕の能力は、予測者…一種の予知能力のようなもの」
「!!、あんた!?」
僕は自分の能力を明かす。
まあ詳しい説明はちょっと難しいだろうからパスした。
「その力があればあんたを勝たせられる!止めさせられる!!」
「…」
「僕を信じてくれ!!!タイガー!!!」
「俺は…」
奴はどこだ。
確かさっきそこの角を曲がっていた。
俺も見失わないようすぐに追いかけたさ。
だが結果見失っていた。
そんなに素早い動きができたか?
それとも誰かに助けられたか。
それとも…。
「こういうところに隠れてるのかぁぁ!?」
俺は家をとにかく壊す。
どこかに入っているならこれで殺せるはずだ。
だがさっきから映る死体は奴のものではない。
「おおおおおい!!出てきやがれぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は叫んだ。
どこかで聞いてんなら出て来いよ。
この俺に、殺されろよ。
「…ああ出てきてやるよ」
「!?」
奴の声だ。
どうやら後ろに。
振り返ろうとした。
そんな時だ。
「がっ?」
俺の脇腹に衝撃が走った。
とても強い衝撃が。
「ぐおっ!?」
思わず倒されてしまう。
どういうことだ?
奴は何か武器を手にして…?
「うおおおおお!エレファン!!」
するともう一度。
今度は顔面に強い衝撃が走る。
「ぶはっ!!」
俺の頭は思い切り地面にぶつかる。
そこに小さいクレーターのようなものが出来ていた。
その攻撃の正体。
分かった。
何故そんなことをしているか分からない。
だが正体は分かった。
あの殴られる直前。
一瞬見えたあの模様。
「タイガぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「エレファン!!!!!」
俺はもう一度殴られた。
魔族はピースするかのように二本の指を立てる。
「一つは同士討ち」
「同士討ちだと…」
「あぁ、まず僕は人間族を壊滅状態へ追い込んだ」
あぁそうだ。
俺達は多くの隊を潰し、再起不能へ追い込んだ。
外交班さへしっかりしていればあの戦いは俺達の勝ちで終わっていたはずなんだ。
「そして次は君達獣人族が壊滅状態になるように仕向けたんだ」
「…」
俺はこの時キレそうになった。
自分たちの種族を滅ぼそうとしたことじゃない。
こいつが、ふざけているということにだ。
「どうやってかっていうと、まず人間族に有利な状態にしたんだ」
「…例えば?」
「隠密部隊が動いていたから、わざと彼らに情報が渡るようにしたり、とかね」
…これもだ。
こいつの話にはある矛盾がある。
だからかこいつがふざけているとしか思えない。
「後はタウロスを殺したのは人間族だと言ったけど、その証明とかはしなかった」
「何故だ?」
「理由は君達の士気を下げるため、本当に人間族で合ってるのか?っていうね」
どんどん確信に変わっていった。
これは負け惜しみだ。
口が達者ゆえにそれっぽく聞こえるだけだ。
そう思うとイライラが収まらない。
「…そして俺たちはまんまと術中にハマり、人間族の新戦力に潰されたって事か?」
「そういう事だよ」
「そうか」
俺は目の前のこいつをぶん殴った。
喋っている途中ぐらいに、間髪入れずだ。
さっきは何故か避けられたが、これなら。
「そして君たちは見事、壊滅状態というわけだ」
だが魔族は避けていた。
余裕をアピールするように話を続ける。
その態度に腹が立ち、俺は攻撃を続ける。
「更に言えば君を隊長という立場にしたのもそれさ」
殴っても殴っても。
奴はひょいひょいとかわす。
「…ふざけるな!!」
「ん?」
「俺をなめているのか!?そんな話で納得できるわけないだろ!?」
「ほう?」
「貴様の話にはおかしなところがある!!」
「マジで?」
魔族は馬鹿にするように驚いたふりをした。
棒演技だったのでふりだということは分かった。
「貴様の作戦は人間族を壊滅させた後、逆に反撃食らうようにしたってことだろ!」
「そうだけど?」
「それがおかしいんだ!!」
「何でー?」
「それは人間族にその反撃する力があるという前提の話だ!」
だが壊滅状態、現に新戦力が来るまでの奴らにはその力は無かった。
出来るやつはせいぜい戦闘姫ぐらいだろう。
そんな奴らだからこそ俺達は油断した。
新戦力なんてイレギュラーに対応できなかった。
「お前は分かっていたのか!?その新戦力が!?」
「うん」
「は?」
「知ってたよ、だから相打ち作戦は成功すると思った、矛盾してないよ」
…つまり以前から分かっていたということか。
ということは。
「ああちなみに新戦力は僕が送ったというわけでもないよ」
な!?
それは今俺が考えていたことだった。
「僕は彼らに会ったことないよ、正直会ってみたいぐらいさ」
「じゃあなぜ知っていた?」
「予測だよ」
ますます分からない。
こいつは何を言っている。
「新戦力が東京から来ることを予測したんだ」
「…何を根拠にそんな予測ができたんだ?」
「さあ?」
「は!?」
やっぱこいつはふざけている。
予測と言う言葉を使うぐらいだったら根拠ぐらい言ってみろってものだ。
「まあ待って、それは仕方ないんだ」
「仕方ない?」
「根拠や筋道、情報処理の全ての過程を代わりに行い予測できるのが予測者だからね」
「…それが貴様の能力ということか?」
「うーん、ちょっとごめんね」
そういうと奴は突然俺の頭に指先を埋め込んだ。
…は?
「大分ややこしい話でめんどくさくなった、だから直接送るね」
「何を……!!!???」
その時だ。
俺の脳に電流が走ったような感覚が走った。
立っていられなくなるぐらい痛く、気持ち悪くなる感覚。
それと同時に流れ込んでくる情報。
予測者とは何なのかという事…。
「がっがっがっ」
どういうことだ…?
これは本当に能力なのか?
俺は今、何かとんでもないものを見ているのでは…?
「がっがっ…はっ!!」
気が付いたら奴は手を抜いていた。
それと同時に不快な感覚も無くなっていた。
「…今のが、予測者…?」
「そう、ちなみに新戦力の一人がそうだよ」
「な!?」
こいつの言う事が本当なら…。
「…さっき目的は二つと言っていたな」
「うん」
「その目的というのは…?」
「実験」
やはりそうか。
俺達の命はこいつらに弄ばれていた。
全ては、高橋未来。
奴を中心に回っていた実験だったんだ。
「…ふざけるな」
こんな理不尽な事があるか。
獣人族は、この訳の分からない事態によって終わりを迎えそうになっている。
「俺達は、そんな安く見られているのか!!??」
許せない。
こんなにコケにされているのは初めてだ。
「…ふふ」
魔族の奴が少し笑い出す。
それが俺をより怒らせる。
「何だ!!??」
「いやね、君がすごいなって」
「ああ!!??」
そういうと魔族は突然俺の目の前に来る。
そして、指を、今度は胸部に埋め込んだ。
「な!?」
「この予測は賭けだった、そして君は最高の結果を出してくれた」
な、何が起きている。
俺の体に電流が走ってくる。
だが今回は痛いものではない。
むしろ心地いいような…。
そんな不思議な感覚。
「利害が一致したため、獣人族に最後のチャンスを与えるよ」
「一致だと…?」
「高橋未来、彼への実験はまだ途中でね、これから第二フェイズに移行したい」
奴の話を聞いている間も電流は流れる。
その間に、どんどん体が大きくなってくる気がする。
いや、気じゃなく、実際にデカくなっている。
「その結果、高橋未来を殺しても構わない」
「…ほう」
「どころか、君らが本気で殺そうとすればするほど、僕もありがたい」
奴が指を抜く。
気が付いたら俺の体はとんでもなく、恐ろしい力を手にしていたようだ。
「よって君に力をプレゼントしてあげる」
その言葉は恐らく本当だ。
だが少し実験しなければならない。
俺は部屋から出て階段を上る。
「おや?」
魔族も追いかけてくる。
「どこへ行くんだい?」
「俺も少し実験だ」
「…へぇ」
さっきまで長く感じていた階段。
だが意外とそんなこともなく。
思ったより早く上にたどり着いた。
「おうエレファン、な、なんじゃその体?」
長の一人が俺の体を見て驚いている。
「そうかキュルヴィリア様に与えられたのだな?」
「それは素晴らしい!ありがとうございますキュルヴィリア様」
長達は後ろにいるやつにペコペコしている。
だから俺は。
思い切り殴った。
近くにいた長は3人ぐらい。
彼らは全て首が無くなっていた。
ほう、能力無しでも人体を破壊できるのか。
「…な、何を…」
「何をしているのだ?エレファン?」
「ひっ、ひっ…」
生き残った長の反応はそれぞれだった。
だが共通点がある。
全て、へっぴり腰で逃げようとしていることだ。
誰一人、俺に強いまなざしを向けるもの、立ち向かおうとするものがいなかった。
「…ふふふふ」
笑えて来た。
俺が今まで従ってきた長はこんなものなのか。
こんな奴に俺は下手に出ていたのか。
これなら何も悲しくない。
実験は続行する…。
その後俺は、長が助けを呼ぶ間も無く、逃げ出す間も無く。
10人全て滅ぼした…。
「どうだ予測者!!これは!!これはぁ!?」
「うおおおおお!!」
僕は今、エレファンに追いかけられている。
奴は家を破壊しながらこっちに向かっている。
おかげで僕が隠れられるところがない。
その過程で通りすがりの人々もどんどん殺されていく。
それでも僕は逃げるしかない。
奴に対抗する手段が見つからない。
『上空より瓦礫が飛来』『立ち止まっても追いつかれる可能性大』『よってヘッドスライディングで超えるべき』
「うおおおおおお!!」
なんとか予測者のおかげで逃げ切れている。
でもこのままではじり貧だ。
くっそ、タウロスやレオンより絶対強いぞこいつ。
弱点が今のところ一つも見つからない。
やはり舐めすぎていたのか?
いやそれにしても強すぎる。
こんなにパワーがあるなら恐らくだがもっと色んな作戦が、戦法が変わっていたはずだ。
現に家を破壊しながらそれを投げつけてくるって。
そんな力業があったら資料に残ってるはずだ。
「くっそ、どうすれば…」
頼みのつなの宮垣は別に逃げてもらっている。
彼女は貧血気味でフラフラだ。
幸い僕の方を狙っているらしく生きているが。
あぁぁ、貧血が治まる時間ってどんくらいだ。
なったこと無いから分からないぞ。
それにしても。
何故奴は僕を狙っている。
さっき奴は予測者とはっきり言っていたが、それに関係が…
『後方より家ごと投球』『全速力で右方への逃亡』『早急でなきゃ死亡』
「な、うおおおおおお」
その予測通り、僕が逃げた直後に家が吹き飛んできた。
あぁゆっくり予測する時間が作れない。
「ふはははははは、楽しいなぁ予測者ぁ!!!」
「何がだよ!?」
「やはり圧倒的な力というものは!!弱者をじわじわ追い詰めるというのはとても楽しい!!!」
「それは良かった!だったらもっといい弱者を紹介してやろうか!?」
「いいや!!お前ほど追いかけがいのあるものもいないなぁ!!」
「お誉めの言葉どうも!!!」
僕は逃げている間も色々見ていたつもりだ。
どこに行けばいい?
どこに?
そうだ、王城。
王城の中に入れれば。
王の能力なら倒せるか…?
いやでもそれはだめだ。
考えなしに連れて行っても外部から破壊される可能性がある。
どうにかして僕の力で対処する方法は。
…ない。
まず傷はつけられない。
ルインさんでも駄目だったんだ。
攻撃の線は無し。
油断させて何かしらを狙うか?
油断はどうやってさせる?
そもそも何かしらって何だよ?
ああもう僕だけじゃ何もできない。
何とか、何かしらがあれば。
僕がそんなことを考えながら、角を曲がった時だ。
「あ」
「あ」
そこに獣人族がいた。
最悪だ。
この虎頭。
間違いない…馬鹿力のタイガーだ。
くっそ、こんなところに奴がいるとは。
一体どうすれば…。
「いいか、静かにしてろ」
「え?な?」
突然タイガーが僕を引っ張る。
そして床の蓋を開き、僕と一緒に落ちていった。
この下は確か下水道。
その証明に匂いが結構酷い。
「しっかり捕まっていろ!!」
「んんん!!??」
静かにと言われたから黙っていたが。
落ちる恐怖と困惑の感情がやはり少しは音として出てしまった。
「おおおおい!!どこだ予測者ああああ!!」
上から声が聞こえてくる。
僕はびくっとして漏れる音も押し殺した。
そんなことをやっているうちに。
タイガーが僕を支えたまま着地する。
その衝撃が響いてきて、正直大分痛かった。
「がっ…」
「わりいな、ただ状況が状況だからな」
そう言うと僕を運んだまま下水道の奥の方へ入っていった。
「な、僕をどこへ?」
「ん?あそこに」
タイガーが奥の方を指さす。
「ん?え?」
そこには獣人族と人間族が数人ずつ集まっていた。
どちらも平民っぽい感じだった。
「あ、タイガーさん!」
「タイガーさんが帰ってきた!」
獣人族達がこちらに気づき近寄る。
「おう!何事も無かったか?」
「はい大丈夫でした!」
「そいつぁ良かった」
タイガーは僕を下す。
「あんた、何故僕を助けた…?」
「んん?」
「僕は敵のはずだろ、一体なぜ?」
「だってこんな理不尽な戦争で死にたくねーだろ」
「え?」
タイガーはよっこいせとあぐらをかいて座る。
「色々おかしいだろこの戦争、俺らも人間族もいっぱい死んじまった」
「…」
「戦士が死んじまうのは仕方ねー!そいつぁ自分が選んだ運命だ、けどな」
タイガーは拳を握る。
怒りからかプルプルと震えている。
「一般人が死ぬのはちげーだろ!こっちは農民や学生が駆り出され、そっちはただ普通に暮らしてたら街ごと突然やられちまうんだ」
「…そうか…だから」
「ああだから俺は独断でここに匿うことにした」
「命令無視じゃないのか?」
「勿論!だから独断だ!」
僕は驚いた。
この世界に来てから、倫理観など少し崩れていた。
だが、こんなにもしっかり考えている人がいるんだ。
命について。
「こんな事する人じゃなかったんだけどな…」
「ん?」
「ああいや気にしないでくれ」
こいつは今、こんなことする人と言っていた。
その言葉に、僕は何か思いつきそうになる。
もしかして…。
…試してみる価値はありそうだ。
「……悪い」
「あぁ?」
「僕も兵士だ」
まずは自分の素性を明かしてみた。
多分だが、こいつは僕の事を一般人だと思っている。
まあこんな華奢な体を見たら誰でもそう思うだろう。
だからこそここに匿ってくれたんだ。
だがこの後にやることのためにそう言ってみた。
「…何の冗談だ?」
タイガーが立ち上がる。
冗談と言っているが僕を見る目が、雰囲気が変わった。
周りの反応もざわっと雰囲気に気づいている様だった。
「お前のような筋力が無いやつが何を?」
今は時間が無い。
僕は手っ取り早く証明することにした。
「タウロスとレオン」
その二人の名前を言った瞬間、僕のすぐ右側の壁が壊れた。
どうやらタイガーが殴ったらしい。
「何故あの人達を知っている?」
「知っているさ、僕も関わっているのだから」
「…そうか、ならば」
タイガーは俺の首を持ち、掲げる。
「残念だが俺は貴様を殺さなければいけないようだ」
「っ!!」
「ここで貴様を見逃したら、また同胞が殺されるかもしれない、ならその前に」
「タイガーさん!!」
ここで声を上げたのは獣人族の子だ。
子というぐらい若いのが分かる。
人間で言うと中高生ぐらいか?
「止めて!そんなの見たくない!」
「悪い、だがそれが俺達の生き方だから…」
「…そんな事思ってないんだろ…」
「な!?」
僕は首を絞められている状態で口を挟む。
「あんたは優しい奴だ、今、この場で殺すなんてことしたくないんだろ!」
「な、何を!」
あんたは優しい奴だ。
それはこの一瞬でも分かる。
だって馬鹿力のタイガーだ。
そんな奴が首絞めたら僕は一瞬で死ぬはずだ。
だが、今も生きている。
それどころか。
予測者が発動しない。
命の危機に瀕してないということだ。
「ここにいる一般人にそんな残酷なものを見せたくない!そもそも本当は殺しに抵抗がある!違うか!?」
「っ!!」
どうやら図星らしい。
全く、あいつといいこいつといい。
優しいやつがなんでこんなことをやっている。
「そんなことをするより、頼みがあるんだ!」
「頼み…?」
「エレファンを、一緒に止めること」
「な!?」
これが僕の思いついた苦肉の策。
「あんたは止めれるなら止めたい、そう思っているんじゃないのか?」
「…ああ」
やっぱりそうだ。
さっき言っていたこんなことする人、その人はエレファンだ。
奴の姿を見るに、今は何かしらの暴走状態に入っている。
その状態にタイガーは止めたいと思っている。
ならば。
「俺もこんな戦争はもう終わらせたい!利害の一致だ!」
「あんたまじで言ってんのか?」
タイガーが俺を見つめる。
「そいつぁ利敵行為にあたるだろ、そんなことするとでも?」
「あんたはするはずだ」
僕は上を指さす。
「聞こえるかこの地響き」
「…」
「こいつはエレファンだ!現在も僕を探して暴れている!」
「…」
「沢山の血が今も流れているはずだ!」
「…」
タイガーは無言で何かを考えているようだ。
だがうまく行けているはず。
僕を首絞める力が弱くなっていっている。
「あんたが実力に不安があるなら僕が指揮する!」
「指揮…?」
「ああ!僕の能力は、予測者…一種の予知能力のようなもの」
「!!、あんた!?」
僕は自分の能力を明かす。
まあ詳しい説明はちょっと難しいだろうからパスした。
「その力があればあんたを勝たせられる!止めさせられる!!」
「…」
「僕を信じてくれ!!!タイガー!!!」
「俺は…」
奴はどこだ。
確かさっきそこの角を曲がっていた。
俺も見失わないようすぐに追いかけたさ。
だが結果見失っていた。
そんなに素早い動きができたか?
それとも誰かに助けられたか。
それとも…。
「こういうところに隠れてるのかぁぁ!?」
俺は家をとにかく壊す。
どこかに入っているならこれで殺せるはずだ。
だがさっきから映る死体は奴のものではない。
「おおおおおい!!出てきやがれぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は叫んだ。
どこかで聞いてんなら出て来いよ。
この俺に、殺されろよ。
「…ああ出てきてやるよ」
「!?」
奴の声だ。
どうやら後ろに。
振り返ろうとした。
そんな時だ。
「がっ?」
俺の脇腹に衝撃が走った。
とても強い衝撃が。
「ぐおっ!?」
思わず倒されてしまう。
どういうことだ?
奴は何か武器を手にして…?
「うおおおおお!エレファン!!」
するともう一度。
今度は顔面に強い衝撃が走る。
「ぶはっ!!」
俺の頭は思い切り地面にぶつかる。
そこに小さいクレーターのようなものが出来ていた。
その攻撃の正体。
分かった。
何故そんなことをしているか分からない。
だが正体は分かった。
あの殴られる直前。
一瞬見えたあの模様。
「タイガぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「エレファン!!!!!」
俺はもう一度殴られた。
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