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獣人族戦編
飛空狩人ホーク②
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16人の分身。
その力は圧倒的だった。
俺はとにかくワープして攻撃のチャンスをうかがっていた。
だがすぐに対応されて逆に攻撃される。
その度にうずくまってしまう。
また起き上がるが…。
まあ同じ繰り返しだ。
何が起きているのか。
何となくは分かってきていた。
恐らくだが分身はしゃべらずとも意思疎通が取れる。
まず俺の能力は見ているところに飛べる能力。
そのことがバレたのだろう。
俺がワープする前に見ている方向をしっかりと確かめている。
そして16人のうち、一番近い奴がそれに対応する。
俺が剣を振りかぶってる途中にワープし、そのまま攻撃する俺の戦術。
それを使っても、俺が振りかぶるところで何が起きるか分かる奴らは回転して全方向に攻撃をしている。
普通にワープしてから斬りつけても奴にとっては遅いのかガードされてしまう。
あまりにも強すぎる。
16体それぞれのパワーだけでもとんでもない強さなのにそれだけじゃない。
それ以上に初めて見る能力に対する対応力。
俺の能力を始めてみただろうに、すぐに対処法を考察し実行する。
その能力があまりにも高すぎる。
つまりだ…。
俺に…勝ち目がない…。
本当は諦めることは好きじゃない。
負けを認めるという行為を簡単にはしたくない。
だが、そう思わざるをえない。
全身がずきずきする。
腕は一本おられた。
よりによって利き腕の方だ。
剣をまともにふれない。
さっき頭を殴られた。
そのせいか常にグワングワンと気持ち悪い感覚が残っている。
それに眩暈だ。
そのせいでまともに戦いずらい。
背中は打ち身だ。
そのせいで全身に痺れも少し来ている気もする。
ただでさえあっちが圧倒的な状況。
その中でこっちはハンデを背負っている。
負けたと思うのも無理ないだろ。
俺はもう疲れてしまった。
氷の上で倒れたまま起き上がらない。
一部溶けていたようでビショビショだ。
だが気にしない。
もう俺の負けなのだから。
「やっと終わったかー」
ホークがぼやく。
「人間族にしては中々だったと思うぜ、よく頑張ったな」
何でかこいつは俺の事を褒めている。
俺は単純だ。
ちょっとうれしく思った。
けどこの言葉。
逆に言えばもう終わりという事だ。
今から俺に止めをさすのか?
それも仕方ないか…。
『諦めるにはまだ要素が残りすぎてないかい?』
…そういえば、諦めるのっていつ以来だっけ。
昔はもっと諦めてたな…。
小学生にとって、足が速いというのは最強のステータスだ。
俺は誰よりも早い自信があった。
50m走も持久走も。
どっちも学年一位だ。
何なら3年生の時に俺は学校一になった。
上にいる高学年全てぶっちぎって一番早かった。
そんな奴を周りはちやほやした。
かっこいいとかすげーとか。
中には悔しかったのだろう、俺を攻撃してきた奴だっていた。
だがそんな奴もひょいひょいと対処した。
我ながら最強だと思ったよ。
ぶっちゃけ周りを下に見てた。
優越感に浸っていた。
そんな俺に誰かがこういった。
「絶対オリンピック出れるよ」
悪くないなって思ったよ。
学園一位は簡単になれたんだ。
そしたら目指すべきは日本一、そして世界一だ。
俺は親に頼んで早速大会に出ることにした。
全国小学生マラソン。
距離は5km。
持久走より長いが、こんぐらいはよく走っていたから余裕だと思った。
そしてこの大会は学年別に分かれて行われる。
別に6年生混じっていてもいいんだけどな。
でも学年別なら行ける。
人数は50人。
多いとは思うけど、ノープログレム。
俺は意気揚々と走りだした。
…数百m走ったあたりで違和感を感じる。
何故俺は…集団を走っている…?
全員ぶっちぎていくつもりだった。
最初から圧倒的な差をつけて完全勝利するのが狙いだった。
なのに俺は集団の中から抜け出せない。
決して前に邪魔されているとかではない。
俺の速度がその集団には丁度よかった。
この中の30人ぐらいはこの速度が普通なのだ。
更に前にはぶっちぎりの5人。
そいつらには追いつける気がしない。
どうなっている…?
俺は学校一速いんだぞ。
負けたことないんだぞ。
なのに…同じ学年で…何で?
絶望しながら走っていた。
気が付いたら、集団の人数が少し減っていた。
後で分かった事なのだが彼らの中には体力を温存するために集団にあえて合わせていた子もいるらしい。
つまり、俺の本気の速さがそいつらの手抜いた力だったんだ。
初めて感じた敗北感。
しかも勉強でとかじゃなく、得意だと思っていた足で。
頭が真っ白になり、いつの間にかゴールしていた。
順位は27位。
中途半端な数字。
親はすごいと言っていた。
レベルの高い大会で中間なんだからと。
でも3年生だから流石に分かる。
半分より下だった。
一番早いと思っていたのに。
耐えきれなかった俺は思わず走り出していた。
後ろから声が聞こえたが無視した。
とにかくこの場から離れたかった。
こんなのは嘘であってほしかった。
世界一どころか日本一が遠く見えたから。
俺が一番早くなきゃいけないのに。
しばらく走っていると転んでしまった。
前に倒れ、顔が痛い。
顔を上げると見たことない景色だった。
周りには広い田んぼしかなくて、いつも見る建物や人がどこにも見当たらない。
誰も見てない、俺は泣いていた。
とにかく大声で泣いていた。
俺の取柄が無くなったような感じがして。
俺の未来が真っ暗になったような感じがして。
「もう嫌だ!!勝てないならやりたくない!!」
「何で勝てないと思うの?」
気が付いたら後ろに人が立っていた。
20代ぐらいの知らないお兄さん。
「一回やっただけでしょ?」
「うるさい!」
そんな知らない人に思わず怒鳴ってしまった。
幼い俺は八つ当たりしたい気分だった。
「お前何も知らないのに!!」
「知ってるよ」
そいつは即答で答えた。
「君は北小で足の速さ一番の少年、自信を持ったからマラソン大会に出たけどボロ負けしてしまった」
「っっ!!!!」
今思うと何でこの人全部知ってたんだろう?
そん時の俺はそんな疑問を持たず図星を言われたことでよりぐずってしまった。
「知ってんならほっとけよ!!」
「いやーほっといてもいいんだけどね」
そいつは俺の目をしっかり見た。
「君の事を見てるとね、イラっとするんだよ」
「え?」
流石にビックリして固まってしまった。
泣いている子に対してイラっとするなんて言うのか?
しかもはっきりと。
「君はさ、マラソンで勝てないって言ってたけどそれは無いんだよ」
「な、何で…?」
「君はここまで走ってきただろ、マラソンの後にさ」
「それが…?」
「上位の子はね、走り終わった後フラフラでまともに歩けなかったよ」
「え?」
「決して体力が無いわけじゃないよ、彼らは毎日走っているから」
「…」
「彼らは全てを出し切ったんだ、この大会で勝つために」
「…それが?」
流石に分かったよ。
今こいつが何を言いたいか。
でもウザく思ってしまった俺は聞き返してしまった。
「…君さゴールの後走るって、何でそんなことできるの?」
「う、うるさい」
そいつは俺の頭をポンと叩いて、目線を俺に合わせるように座る。
「うるさいか、ねー」
そん時の顔はすごく怖かった。
あの時に見た目。
今でもトラウマになっている。
「まともに言い返せないなら黙ってろよ」
「…っ!!??」
本当に子供に対して容赦ない。
普段なら何か言い返そうとしたんだが、そん時は黙った。
「…君は全力を出し切らず負けたとか言っているんだ、勝てないとか言っているんだ、馬鹿らしくないか?」
「…」
「それに君は彼らが練習していた間ゲームをしていた、漫画を読んでいた、友達とくだらない話をしていた」
「…」
「そりゃ負けるでしょ、誰が見ても分かりやすい」
「…うっ」
情けなくなった。
その時はそういう感情が分からなかったが、まあ今思うとそういう感情だったんだろ。
俺はまた泣いてしまった。
「君は勝てないって諦めてたけど、それをするには要素が多すぎる」
「…要素?」
「えーと、今で言うと勝てる方法ってこと」
「…うん」
「諦めはね肝心だよ、タイミングを間違えたら取り返しのつかないことになる」
「…うん」
「でもそれは諦めざるをえない時だけだ、要素が残っていたらしちゃいけない」
「…分かった」
コクンとうなずく。
「よし、それじゃあお父さんお母さんのところに戻ろう、心配してるよ」
「ねぇ」
「ん?」
「名前なんて言うの?」
「えーと、信楽 仁、そういう名前だ」
それから俺は練習しまくり、来年、同じ大会で優勝した。
そっからは陸上に本気になり、オリンピック選手を目指すようになった。
今まではノリだったけど、そん時からは本気だ。
俺はオリンピックで優勝する。
絶対かなえてやる。
諦めかけるたびに仁さんの言葉を思い出して。
…あぁそうだった。
俺は今、諦めようとしていた。
その前にやることを忘れて。
要素を探せ。
諦めなくていい要素を。
本当に勝つ方法が無いのか…。
ホークが俺を見下している。
逃げるには、ホークの上を見れば。
あぁもう分身が待機している。
じゃあ他は?
ホークが俺にパンチを繰り出そうとしている。
「…じゃあな」
奴は俺にそう言った。
じゃあな?
何言っているんだ?
本気で殺すなら何も言わずに殺すべきだ。
それを言っている時間で何されてもおかしくないんだから。
ということは奴は勝利を確信している。
もう俺が反撃できないと思い込んでいる。
あった。
要素が。
まだ諦めなくていい要素が。
俺は利き手と逆の手で持っていた剣をしっかりと握り。
バッと上半身を起き上がらせる。
「な!?」
ホークは驚いている。
油断していたんだな。
俺はその隙を逃さない。
そして焦らない。
利き手と逆なんだ。
焦ったらうまく出来ず不意打ちが失敗してしまう。
そしたら本当に要素が無くなるかもしれない。
丁寧に。
正確に。
狙いに向かって。
俺は。
剣を振る。
ザシュッ
そんな音が聞こえた。
手ごたえがある。
「うおおおおお!!」
奴は叫んだ。
顔に当たったかな?
片手で顔半分抑えているから多分そうだ。
「てめぇ!まだやるのか!?」
怒っているのか、怒号が飛んできた。
「じゃあ分かったよ、徹底的にやってやるよ!!」
また16体分身に戻す。
俺の能力を封じるつもりだ。
どうやら瞬間移動は要素には無いらしい。
だったら…。
俺はワープをする。
それはかく乱のためではなく。
「…あ?」
奴の目の前に速く行くために。
もう一度斬りつける。
「うおっ!?」
咄嗟の事なのに素早い。
後ろに避けられた。
だがここがチャンスだろう。
俺はもう一度奴の目の前にワープする。
「ちょ!?」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
奴の腹をめがけて。
思い切りぶっさす!
絶対に失敗しない。
「絶対に諦めねぇぇぇぇぇ!!」
剣は見事、奴の腹に当たり。
そして少しずつ深く刺さっていく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!????」
奴は俺を蹴った。
それはあまり強くなく、攻撃と言うよりは押し出すために咄嗟に出たという感じだ。
だからあまりきかなかった。
その代わり剣は抜けてしまった。
「はぁ…はぁ…」
ホークは逃げるように遠くへ飛んで行ってしまう。
だが有効的だ。
「てめぇ…まじで狂ってんのか?」
「あぁ?」
「俺の力は知ってんだろ!?いざとなったらてめぇを殺せるって事は散々食らったから分かんだろ!!??」
「まあな」
「それじゃあ何でそんなことできんだよ!!??」
俺はしゃべっているそいつの目の前。
再びワープする。
「な!?」
そして剣を構え。
「何で?それは…」
持っている剣で
「その顔を見るためだよ!!」
思い切り斬りつけた。
その力は圧倒的だった。
俺はとにかくワープして攻撃のチャンスをうかがっていた。
だがすぐに対応されて逆に攻撃される。
その度にうずくまってしまう。
また起き上がるが…。
まあ同じ繰り返しだ。
何が起きているのか。
何となくは分かってきていた。
恐らくだが分身はしゃべらずとも意思疎通が取れる。
まず俺の能力は見ているところに飛べる能力。
そのことがバレたのだろう。
俺がワープする前に見ている方向をしっかりと確かめている。
そして16人のうち、一番近い奴がそれに対応する。
俺が剣を振りかぶってる途中にワープし、そのまま攻撃する俺の戦術。
それを使っても、俺が振りかぶるところで何が起きるか分かる奴らは回転して全方向に攻撃をしている。
普通にワープしてから斬りつけても奴にとっては遅いのかガードされてしまう。
あまりにも強すぎる。
16体それぞれのパワーだけでもとんでもない強さなのにそれだけじゃない。
それ以上に初めて見る能力に対する対応力。
俺の能力を始めてみただろうに、すぐに対処法を考察し実行する。
その能力があまりにも高すぎる。
つまりだ…。
俺に…勝ち目がない…。
本当は諦めることは好きじゃない。
負けを認めるという行為を簡単にはしたくない。
だが、そう思わざるをえない。
全身がずきずきする。
腕は一本おられた。
よりによって利き腕の方だ。
剣をまともにふれない。
さっき頭を殴られた。
そのせいか常にグワングワンと気持ち悪い感覚が残っている。
それに眩暈だ。
そのせいでまともに戦いずらい。
背中は打ち身だ。
そのせいで全身に痺れも少し来ている気もする。
ただでさえあっちが圧倒的な状況。
その中でこっちはハンデを背負っている。
負けたと思うのも無理ないだろ。
俺はもう疲れてしまった。
氷の上で倒れたまま起き上がらない。
一部溶けていたようでビショビショだ。
だが気にしない。
もう俺の負けなのだから。
「やっと終わったかー」
ホークがぼやく。
「人間族にしては中々だったと思うぜ、よく頑張ったな」
何でかこいつは俺の事を褒めている。
俺は単純だ。
ちょっとうれしく思った。
けどこの言葉。
逆に言えばもう終わりという事だ。
今から俺に止めをさすのか?
それも仕方ないか…。
『諦めるにはまだ要素が残りすぎてないかい?』
…そういえば、諦めるのっていつ以来だっけ。
昔はもっと諦めてたな…。
小学生にとって、足が速いというのは最強のステータスだ。
俺は誰よりも早い自信があった。
50m走も持久走も。
どっちも学年一位だ。
何なら3年生の時に俺は学校一になった。
上にいる高学年全てぶっちぎって一番早かった。
そんな奴を周りはちやほやした。
かっこいいとかすげーとか。
中には悔しかったのだろう、俺を攻撃してきた奴だっていた。
だがそんな奴もひょいひょいと対処した。
我ながら最強だと思ったよ。
ぶっちゃけ周りを下に見てた。
優越感に浸っていた。
そんな俺に誰かがこういった。
「絶対オリンピック出れるよ」
悪くないなって思ったよ。
学園一位は簡単になれたんだ。
そしたら目指すべきは日本一、そして世界一だ。
俺は親に頼んで早速大会に出ることにした。
全国小学生マラソン。
距離は5km。
持久走より長いが、こんぐらいはよく走っていたから余裕だと思った。
そしてこの大会は学年別に分かれて行われる。
別に6年生混じっていてもいいんだけどな。
でも学年別なら行ける。
人数は50人。
多いとは思うけど、ノープログレム。
俺は意気揚々と走りだした。
…数百m走ったあたりで違和感を感じる。
何故俺は…集団を走っている…?
全員ぶっちぎていくつもりだった。
最初から圧倒的な差をつけて完全勝利するのが狙いだった。
なのに俺は集団の中から抜け出せない。
決して前に邪魔されているとかではない。
俺の速度がその集団には丁度よかった。
この中の30人ぐらいはこの速度が普通なのだ。
更に前にはぶっちぎりの5人。
そいつらには追いつける気がしない。
どうなっている…?
俺は学校一速いんだぞ。
負けたことないんだぞ。
なのに…同じ学年で…何で?
絶望しながら走っていた。
気が付いたら、集団の人数が少し減っていた。
後で分かった事なのだが彼らの中には体力を温存するために集団にあえて合わせていた子もいるらしい。
つまり、俺の本気の速さがそいつらの手抜いた力だったんだ。
初めて感じた敗北感。
しかも勉強でとかじゃなく、得意だと思っていた足で。
頭が真っ白になり、いつの間にかゴールしていた。
順位は27位。
中途半端な数字。
親はすごいと言っていた。
レベルの高い大会で中間なんだからと。
でも3年生だから流石に分かる。
半分より下だった。
一番早いと思っていたのに。
耐えきれなかった俺は思わず走り出していた。
後ろから声が聞こえたが無視した。
とにかくこの場から離れたかった。
こんなのは嘘であってほしかった。
世界一どころか日本一が遠く見えたから。
俺が一番早くなきゃいけないのに。
しばらく走っていると転んでしまった。
前に倒れ、顔が痛い。
顔を上げると見たことない景色だった。
周りには広い田んぼしかなくて、いつも見る建物や人がどこにも見当たらない。
誰も見てない、俺は泣いていた。
とにかく大声で泣いていた。
俺の取柄が無くなったような感じがして。
俺の未来が真っ暗になったような感じがして。
「もう嫌だ!!勝てないならやりたくない!!」
「何で勝てないと思うの?」
気が付いたら後ろに人が立っていた。
20代ぐらいの知らないお兄さん。
「一回やっただけでしょ?」
「うるさい!」
そんな知らない人に思わず怒鳴ってしまった。
幼い俺は八つ当たりしたい気分だった。
「お前何も知らないのに!!」
「知ってるよ」
そいつは即答で答えた。
「君は北小で足の速さ一番の少年、自信を持ったからマラソン大会に出たけどボロ負けしてしまった」
「っっ!!!!」
今思うと何でこの人全部知ってたんだろう?
そん時の俺はそんな疑問を持たず図星を言われたことでよりぐずってしまった。
「知ってんならほっとけよ!!」
「いやーほっといてもいいんだけどね」
そいつは俺の目をしっかり見た。
「君の事を見てるとね、イラっとするんだよ」
「え?」
流石にビックリして固まってしまった。
泣いている子に対してイラっとするなんて言うのか?
しかもはっきりと。
「君はさ、マラソンで勝てないって言ってたけどそれは無いんだよ」
「な、何で…?」
「君はここまで走ってきただろ、マラソンの後にさ」
「それが…?」
「上位の子はね、走り終わった後フラフラでまともに歩けなかったよ」
「え?」
「決して体力が無いわけじゃないよ、彼らは毎日走っているから」
「…」
「彼らは全てを出し切ったんだ、この大会で勝つために」
「…それが?」
流石に分かったよ。
今こいつが何を言いたいか。
でもウザく思ってしまった俺は聞き返してしまった。
「…君さゴールの後走るって、何でそんなことできるの?」
「う、うるさい」
そいつは俺の頭をポンと叩いて、目線を俺に合わせるように座る。
「うるさいか、ねー」
そん時の顔はすごく怖かった。
あの時に見た目。
今でもトラウマになっている。
「まともに言い返せないなら黙ってろよ」
「…っ!!??」
本当に子供に対して容赦ない。
普段なら何か言い返そうとしたんだが、そん時は黙った。
「…君は全力を出し切らず負けたとか言っているんだ、勝てないとか言っているんだ、馬鹿らしくないか?」
「…」
「それに君は彼らが練習していた間ゲームをしていた、漫画を読んでいた、友達とくだらない話をしていた」
「…」
「そりゃ負けるでしょ、誰が見ても分かりやすい」
「…うっ」
情けなくなった。
その時はそういう感情が分からなかったが、まあ今思うとそういう感情だったんだろ。
俺はまた泣いてしまった。
「君は勝てないって諦めてたけど、それをするには要素が多すぎる」
「…要素?」
「えーと、今で言うと勝てる方法ってこと」
「…うん」
「諦めはね肝心だよ、タイミングを間違えたら取り返しのつかないことになる」
「…うん」
「でもそれは諦めざるをえない時だけだ、要素が残っていたらしちゃいけない」
「…分かった」
コクンとうなずく。
「よし、それじゃあお父さんお母さんのところに戻ろう、心配してるよ」
「ねぇ」
「ん?」
「名前なんて言うの?」
「えーと、信楽 仁、そういう名前だ」
それから俺は練習しまくり、来年、同じ大会で優勝した。
そっからは陸上に本気になり、オリンピック選手を目指すようになった。
今まではノリだったけど、そん時からは本気だ。
俺はオリンピックで優勝する。
絶対かなえてやる。
諦めかけるたびに仁さんの言葉を思い出して。
…あぁそうだった。
俺は今、諦めようとしていた。
その前にやることを忘れて。
要素を探せ。
諦めなくていい要素を。
本当に勝つ方法が無いのか…。
ホークが俺を見下している。
逃げるには、ホークの上を見れば。
あぁもう分身が待機している。
じゃあ他は?
ホークが俺にパンチを繰り出そうとしている。
「…じゃあな」
奴は俺にそう言った。
じゃあな?
何言っているんだ?
本気で殺すなら何も言わずに殺すべきだ。
それを言っている時間で何されてもおかしくないんだから。
ということは奴は勝利を確信している。
もう俺が反撃できないと思い込んでいる。
あった。
要素が。
まだ諦めなくていい要素が。
俺は利き手と逆の手で持っていた剣をしっかりと握り。
バッと上半身を起き上がらせる。
「な!?」
ホークは驚いている。
油断していたんだな。
俺はその隙を逃さない。
そして焦らない。
利き手と逆なんだ。
焦ったらうまく出来ず不意打ちが失敗してしまう。
そしたら本当に要素が無くなるかもしれない。
丁寧に。
正確に。
狙いに向かって。
俺は。
剣を振る。
ザシュッ
そんな音が聞こえた。
手ごたえがある。
「うおおおおお!!」
奴は叫んだ。
顔に当たったかな?
片手で顔半分抑えているから多分そうだ。
「てめぇ!まだやるのか!?」
怒っているのか、怒号が飛んできた。
「じゃあ分かったよ、徹底的にやってやるよ!!」
また16体分身に戻す。
俺の能力を封じるつもりだ。
どうやら瞬間移動は要素には無いらしい。
だったら…。
俺はワープをする。
それはかく乱のためではなく。
「…あ?」
奴の目の前に速く行くために。
もう一度斬りつける。
「うおっ!?」
咄嗟の事なのに素早い。
後ろに避けられた。
だがここがチャンスだろう。
俺はもう一度奴の目の前にワープする。
「ちょ!?」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
奴の腹をめがけて。
思い切りぶっさす!
絶対に失敗しない。
「絶対に諦めねぇぇぇぇぇ!!」
剣は見事、奴の腹に当たり。
そして少しずつ深く刺さっていく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!????」
奴は俺を蹴った。
それはあまり強くなく、攻撃と言うよりは押し出すために咄嗟に出たという感じだ。
だからあまりきかなかった。
その代わり剣は抜けてしまった。
「はぁ…はぁ…」
ホークは逃げるように遠くへ飛んで行ってしまう。
だが有効的だ。
「てめぇ…まじで狂ってんのか?」
「あぁ?」
「俺の力は知ってんだろ!?いざとなったらてめぇを殺せるって事は散々食らったから分かんだろ!!??」
「まあな」
「それじゃあ何でそんなことできんだよ!!??」
俺はしゃべっているそいつの目の前。
再びワープする。
「な!?」
そして剣を構え。
「何で?それは…」
持っている剣で
「その顔を見るためだよ!!」
思い切り斬りつけた。
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ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
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