1 / 40
振り返る
不安の種
しおりを挟む
「じいちゃん、飯よそっちゃうよ」
「あぁ」
俺は息子に呼ばれて、リビングに向かう。
階段はまだ登れる。
いつもの椅子に座って、目の前に出されたおつまみをつまみ、決まったテレビ番組を見て晩酌を嗜む。
今日は火曜日か、なら、あのクイズ番組を見よう…
「これの答えはDだな」
「違うよ、Cだよ」
「答えは…Cです!」
「ほらね、でもDは惜しかった」
「悠斗は頭いいな、まあ中学生だもんな」
悠斗も、来年で高校生か…
孫が高校生になるというのは、何とも感慨深い。
それと同時に、時の流れの早さを実感する。
宏樹が結婚したかと思えば、一週間後にはもう孫が産まれた。そんな感覚だ。
もう自分でも分かっているが、俺の人生の残り時間は少ないのだろう。
そんな事はあまり良いことじゃないから、考えないようにしているが、やはりそろそろ視野に入れるべきか…
思えば、あいつが居なくなってから時間の経ち方が早くなった気がする。
久子は俺の妻で、いつも宏樹に優しかった。
チビ助だった宏樹が、部屋の壁に落書きした時、俺は叱った。
久子は俺から宏樹を庇って、俺が叱り終わるとリビングにいって遊ばせていた。
一緒に家事をこなして、働いて宏樹の成長を見守ってきた。
だが、ある日に病院にかかっちまって、入院したんだ。
その頃には宏樹がもう成人だったから、よくお見舞いに行ったな。
何回も何回もお見舞いにいったが、久子の容態は良くならなかった。
咳をした時に血を吐きはじめて、焦った事を覚えている。
看護師を呼んで、先生に駆けつけてもらった。
それでも久子は落ち込む事なく、行く度に笑顔を見せてくれた。
痩せ細っていく久子の姿を見るのは辛かったが、あの笑顔は確かに元気をくれた。
でも、あの日の夜、最悪な事が起きた。
夜になって病院から出ようとしたときだった。
───────
宏樹「こんな遅くなるなんて、まずいな」
幸次「お、あそこから出られるんじゃないか?」
宏樹「本当だ、じゃあ、あそこから…」
「すいません!渡辺様ですか?」
宏樹「はい、そうですけど」
「久子の容態が…」
俺達は看護師に案内されすぐに久子の元へ向かった。
宏樹「母さん!」
久子のいる部屋にたどり着いた。
しかし、中には入れなかった。
看護師に言われた通りに、部屋の外で待っていた。
心電図の音、アラームの音、荒い息遣い、数々の指示、足音…医者達が慌ただしく部屋を出入りしている。
外からでも伝わる緊迫感、外にいても聞こえる忙しない音の数々。
「久子さーん、分かりますかー?久子さーん」
宏樹「状況は?」
幸次「どうだろうな…」
「発作後に心肺停止」
「圧迫開始」
「エピを投与、圧迫を中止し脈の確認」
「はい」
「圧迫」
「1,2,3,4…」
「中断、脈の確認」
「圧迫」
「150にチャージしろ」
「離れろ、離れろ」
「エピを追加、」
「全員クリア、全員クリア」
「圧迫を深めろ…」
俺達は、出入りする看護師達をただ眺めることしか出来なかった。
医者が救命処置を施しているが、中からは同じ音しか聞こえてこない。
とうとうこの時が来たのか…?
もしもう逃れられないとしても、認めたくない。
直視したくない。
理解したくない。
覚悟はしていたものの、心の奥底では生きていてほしいと願う。
「反応がない」
「圧迫再開」
「1,2,3,4…」
「圧迫」
「止めろ、手は尽くした。」
「死亡時刻を確認、渡辺さんに伝えよう」
───────
あれからは、何も考えたくなかったような。
いや、宏樹の事をしっかりと見てやらないといけない。
そう思って、宏樹を心の支えにして、今まで生きてきたんだ。
宏樹の結婚も、宏樹の妻が子どもを産んで俺達が叔父と叔母になったことも、久子は知らない。
けど、毎年行く墓参りでずっと久子に伝えてきた。
幸せな事も、悪いことも、全部語りかけた。
返答がなくとも、久子をずっと愛し続けてきた。
周りから"愛妻家"と言われる程にはな。
───
最近、悩み事がある。
俺は遅れを取らないように、ゲームやらスマホやらに触れてみているが、若者には敵わない。
現代の日本は少子高齢化に伴って、65歳以上になると支払われ始める年金が社会保証料が歳出をかなり占めている。
そのせいで、我々老人は人括りに"税金泥棒"だと蔑称される。
実際、この老体じゃ力仕事はもちろん、判断力やらの能力も落ち込むから長年やってきて身体に染み込みきったような事以外、管理職も出来ない。
だから、そう呼ばれても致し方ないとは思っているが…
問題は、悠斗にもそう思われているか、だ。
俺は別にいいが、もし悠斗がそう思っているなら、"税金泥棒"の俺が視界に入るだけイラつかせてしまうだろう。
でも、悠斗は頭がいい。
そういう事に対して、無意味な批判はしないはず。
少し勇気を出して、聞いてみようか。
ただ、直接的すぎると困惑されるだろうから、遠回しに聞こう。
悠斗と会うのは夕飯の時だけだ。
いつもの呼び声がかかって、階段を登り俺は夕飯を食べに向かった。
予想通り、悠斗が先に座って食い始めていた。
ニュースもそれらしい内容になってきたから、タイミングを見計らって、話しかける。
「社会保障料が占めている事にSNSでは…」
幸次「俺たちは年金使って生きてるからなぁ…」
悠斗「じいちゃんはいいんだよ、ちゃんと働いてるじゃん」
悠斗「こういう、SNSしか見てなくて、信憑性もない影響力だけのインフルエンサーを盲信してる奴らがバカなだけ」
幸次「…」
ホッとしたような、少し怖かったような、そんな気分だ。
悠斗は頭がいい。
しかし、相当恨んでるというか怒ってるような口調だった。
何故だろう。俺の心配か?
心配されるのはありがたいが…
俺はただ息子の脛を囓ってるだけのダメ親父だがな…
「あぁ」
俺は息子に呼ばれて、リビングに向かう。
階段はまだ登れる。
いつもの椅子に座って、目の前に出されたおつまみをつまみ、決まったテレビ番組を見て晩酌を嗜む。
今日は火曜日か、なら、あのクイズ番組を見よう…
「これの答えはDだな」
「違うよ、Cだよ」
「答えは…Cです!」
「ほらね、でもDは惜しかった」
「悠斗は頭いいな、まあ中学生だもんな」
悠斗も、来年で高校生か…
孫が高校生になるというのは、何とも感慨深い。
それと同時に、時の流れの早さを実感する。
宏樹が結婚したかと思えば、一週間後にはもう孫が産まれた。そんな感覚だ。
もう自分でも分かっているが、俺の人生の残り時間は少ないのだろう。
そんな事はあまり良いことじゃないから、考えないようにしているが、やはりそろそろ視野に入れるべきか…
思えば、あいつが居なくなってから時間の経ち方が早くなった気がする。
久子は俺の妻で、いつも宏樹に優しかった。
チビ助だった宏樹が、部屋の壁に落書きした時、俺は叱った。
久子は俺から宏樹を庇って、俺が叱り終わるとリビングにいって遊ばせていた。
一緒に家事をこなして、働いて宏樹の成長を見守ってきた。
だが、ある日に病院にかかっちまって、入院したんだ。
その頃には宏樹がもう成人だったから、よくお見舞いに行ったな。
何回も何回もお見舞いにいったが、久子の容態は良くならなかった。
咳をした時に血を吐きはじめて、焦った事を覚えている。
看護師を呼んで、先生に駆けつけてもらった。
それでも久子は落ち込む事なく、行く度に笑顔を見せてくれた。
痩せ細っていく久子の姿を見るのは辛かったが、あの笑顔は確かに元気をくれた。
でも、あの日の夜、最悪な事が起きた。
夜になって病院から出ようとしたときだった。
───────
宏樹「こんな遅くなるなんて、まずいな」
幸次「お、あそこから出られるんじゃないか?」
宏樹「本当だ、じゃあ、あそこから…」
「すいません!渡辺様ですか?」
宏樹「はい、そうですけど」
「久子の容態が…」
俺達は看護師に案内されすぐに久子の元へ向かった。
宏樹「母さん!」
久子のいる部屋にたどり着いた。
しかし、中には入れなかった。
看護師に言われた通りに、部屋の外で待っていた。
心電図の音、アラームの音、荒い息遣い、数々の指示、足音…医者達が慌ただしく部屋を出入りしている。
外からでも伝わる緊迫感、外にいても聞こえる忙しない音の数々。
「久子さーん、分かりますかー?久子さーん」
宏樹「状況は?」
幸次「どうだろうな…」
「発作後に心肺停止」
「圧迫開始」
「エピを投与、圧迫を中止し脈の確認」
「はい」
「圧迫」
「1,2,3,4…」
「中断、脈の確認」
「圧迫」
「150にチャージしろ」
「離れろ、離れろ」
「エピを追加、」
「全員クリア、全員クリア」
「圧迫を深めろ…」
俺達は、出入りする看護師達をただ眺めることしか出来なかった。
医者が救命処置を施しているが、中からは同じ音しか聞こえてこない。
とうとうこの時が来たのか…?
もしもう逃れられないとしても、認めたくない。
直視したくない。
理解したくない。
覚悟はしていたものの、心の奥底では生きていてほしいと願う。
「反応がない」
「圧迫再開」
「1,2,3,4…」
「圧迫」
「止めろ、手は尽くした。」
「死亡時刻を確認、渡辺さんに伝えよう」
───────
あれからは、何も考えたくなかったような。
いや、宏樹の事をしっかりと見てやらないといけない。
そう思って、宏樹を心の支えにして、今まで生きてきたんだ。
宏樹の結婚も、宏樹の妻が子どもを産んで俺達が叔父と叔母になったことも、久子は知らない。
けど、毎年行く墓参りでずっと久子に伝えてきた。
幸せな事も、悪いことも、全部語りかけた。
返答がなくとも、久子をずっと愛し続けてきた。
周りから"愛妻家"と言われる程にはな。
───
最近、悩み事がある。
俺は遅れを取らないように、ゲームやらスマホやらに触れてみているが、若者には敵わない。
現代の日本は少子高齢化に伴って、65歳以上になると支払われ始める年金が社会保証料が歳出をかなり占めている。
そのせいで、我々老人は人括りに"税金泥棒"だと蔑称される。
実際、この老体じゃ力仕事はもちろん、判断力やらの能力も落ち込むから長年やってきて身体に染み込みきったような事以外、管理職も出来ない。
だから、そう呼ばれても致し方ないとは思っているが…
問題は、悠斗にもそう思われているか、だ。
俺は別にいいが、もし悠斗がそう思っているなら、"税金泥棒"の俺が視界に入るだけイラつかせてしまうだろう。
でも、悠斗は頭がいい。
そういう事に対して、無意味な批判はしないはず。
少し勇気を出して、聞いてみようか。
ただ、直接的すぎると困惑されるだろうから、遠回しに聞こう。
悠斗と会うのは夕飯の時だけだ。
いつもの呼び声がかかって、階段を登り俺は夕飯を食べに向かった。
予想通り、悠斗が先に座って食い始めていた。
ニュースもそれらしい内容になってきたから、タイミングを見計らって、話しかける。
「社会保障料が占めている事にSNSでは…」
幸次「俺たちは年金使って生きてるからなぁ…」
悠斗「じいちゃんはいいんだよ、ちゃんと働いてるじゃん」
悠斗「こういう、SNSしか見てなくて、信憑性もない影響力だけのインフルエンサーを盲信してる奴らがバカなだけ」
幸次「…」
ホッとしたような、少し怖かったような、そんな気分だ。
悠斗は頭がいい。
しかし、相当恨んでるというか怒ってるような口調だった。
何故だろう。俺の心配か?
心配されるのはありがたいが…
俺はただ息子の脛を囓ってるだけのダメ親父だがな…
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる