隘路

橘華 玲慧

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思い出す

あの日、あの場所へ

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 莉奈「ここが宏樹君の家?」

 宏樹「そう、片付いてなくてごめん」

 莉奈「いや、香音の気持ちが分かる気がしてさ」

 宏樹「…それはどういう意味だ?」

 莉奈「実家よりもここの方が落ち着くって意味」

 宏樹「何でなんだろうな。こんなとこ、落ち着く要素が分からない。」

 夜の海で気分を落ち着かせた後、時間も遅かったから莉奈さんは俺の家に泊まる事になった。

 莉奈「元から興味はあったけど、香音に勧められて、初めて宏樹君の小説を読んだ」

 宏樹「そうか…それで…」

 莉奈「他のWeb小説とは違って、本格的で、矛盾が無くて、読んでると引き込まれちゃう。」

 莉奈「宏樹君の小説は危険。特に夜はね。」

 宏樹「なるほど…ありがとう」

 莉奈「ああいうシリアスな小説は皆読まないけど、私達は結構読んでたよ。でも、宏樹君の小説は一段とクオリティが高かった。」

 宏樹「はは…そんなに褒められるとは、俺もまだ捨てたもんじゃないのかもな」

 莉奈「はぁ…もっと早く気付いてあげれば良かった…」

 宏樹「…」

 莉奈「傷の事は気になって香音に言ったけど、転んだ時の怪我だって言われて、傷も大したこと無かったし私も深くは考えなかった。」

 莉奈「…でも、まさかあいつらにやられてたとはね。しかも、私が言いふらした事にされそう。香音ももういないし…」

 香音の手帳にも書いてあった、恵、楓、明子、この3人が主犯だろう。会って直接話したいが、事故の関係で何らかの影響があるだろうし、そもそも俺はそいつらの顔も声も知らない。

 宏樹「俺に出来ることがあれば何でも言ってほしい。」

 莉奈「うん…じゃあ、しばらく宏樹君の近くにいさせてほしい。香音がいなくなった今、私は独りだから。何が起きるか分からない。」

 宏樹「…わかった。ただ、家に来る時は…」

 莉奈「勿論、ちゃんと言ってから来るよ。」

 莉奈「あと、"さん"は付けなくていいから」

 宏樹「気を付けるよ、莉奈さ…莉奈」

 莉奈「うん、それでいい」

 それから、莉奈は俺の近くに居るようになった。

 身近に異性がいるというのは、最近までそうだったから少し慣れてはいる。しかし、莉奈は香音の頃とは違って大学の中でも俺の近くに居るようになった。

 確かに、あの3人が他の女子に及ぼした影響があるなら大学内も用心するのも当たり前だろうが、それでも…少し緊張する。

 ───

「いや…宏樹大丈夫か?」

 宏樹「何の事だ?」

「あの…俺らが前まで彼女とか言っていじってた子の事だよ…」

 宏樹「あー…」

「あんな事になるなんて…とにかく、すまなかった」

 宏樹「いいよ、気にしてないから」

「それで…いつも隣にいる子は…」

 宏樹「彼女じゃない。また言うつもりだったろ」

「なんだ、バレたか!」

 相変わらず、こいつらはこの調子だ。でも、前よりは大分マシになったな。前はただいじってくるだけのやつだと思ってたが、しっかりしている様だ。

 莉奈「新しい話聞いた。」

 宏樹「新しい話?」

 莉奈「あの3人、事故した時に飲酒運転してたらしい。それで退学処分だって」

 宏樹「そうなのか」

 莉奈「それに、コソコソ香音をいじめてたのもバレて、みんなからの評判も悪いらしい」

 宏樹「でも、ああいうのは退学処分うけても…」

 莉奈「まあ、少なくとも香音にとってはいい結果になったのかな」

 香音…
 香音の書いていた仕返しというのの結果これなんだろうか。でも、香音の望む通り、俺と莉奈には手が及ばなかったし、あの3人への仕返しも出来た。

 香音がそれでいいなら、俺も何も思わない。思っても意味がない。

 香音はもういないから。

 ───

 木の葉が枯れ落ちて、雪が降っている。冬だ。

 莉奈が家に泊まりに来ていて、俺の後ろにいる。
 秋のあの日からずっと一緒にいるが…こうして二人でいると、何故か安心感があって落ち着く。

 お互いに大切な人を失った。その人を通して知り合い、お互いに心の傷を治し合った。だからこそ、親近感も抱くし、他の人とは違う感覚だ。

 莉奈「今日の日付は?」

 宏樹「12月19日だけど…」

 莉奈「何の日か知ってる?」

 宏樹「アポロ19号の地球帰還日?」

 莉奈「バカ。あなたが天体好きなのは知ってるけどそうじゃない。」

 莉奈「今日は香音の誕生日。」

 宏樹「そうだったのか、香音から聞いてなかったから知らなかった…」

 莉奈「そう。だから行きたいとこがあるの」

 珍しく、莉奈が積極的に行きたいとこがあると言う。
 香音の誕生日という事で、特別な日だ。今日くらい、何でもしようじゃないか。

 莉奈が俺を連れてきた場所は、普通のケーキ屋。
 登下校中に何度か見たことはあるが、入ったことはない。

 莉奈「ここで香音と一緒に働いてた。」

 宏樹「そうなんだな」

 莉奈「香音はここのケーキが一番好きで、毎年の誕生日はここのケーキを買ったり、店長からもらったり、自分で作って食べてた。」

 宏樹「そうか…香音はどれが好きだったんだ?」

 そう問いかけると、奥から店員がやってきた。

「莉奈さーん!頼まれてたケーキです」

 莉奈「ありがとう、店長」

 この人が店長らしい。
 中年と青年の間みたいな見た目で、サッパリした印象の店長は、莉奈にケーキを渡す。

 店長「いや~…まさかね。まあでも、今日は特別な日だから!気を落とさないで、祝ってあげて!その方があの子も喜ぶだろうし」

 莉奈「うん。そうするつもりだよ。ありがとう店長。はい、これ…」

 店長「いやいや、お代なんて貰えないよ」

 莉奈「でも…」

 店長「お代なら、君たちがここで働いてくれた時にもう払われてるよ。感謝してる」

 莉奈「店長…」

 店長「気にしないで、これは私なりのお礼だと思って受け取ってほしいんだ。」

 莉奈「…本当にありがとうございます。」

 店長「それじゃ、またのご来店をお待ちしております!」

 莉奈はボックスに入ったケーキを丁重に持って、俺の車に乗った。時間も夕方で、家に帰るのかと思った時。

 莉奈「次も私に決めさせて」

 宏樹「わ、わかった…」

 そう言って莉奈がナビで設定したのは、何やら見覚えのある気がする場所。

 俺は地図を滅多にみないから、この場所が何処なのかサッパリだが、莉奈が決めた場所だから車を走らせた。

 宏樹「でも、ここに着く頃には日が沈むぞ?」

 莉奈「それでいいの。丁度いい。」

 何を考えているのかは、その場所に着いてから、か。

 しばらく車を走らせていると、いつの間にか知っている場所に出た。

 ここは俺の登下校ルートだ。
 知っている街並みが明かりを灯していて、見覚えのある道を走りながらどんどん目的地へ近付いていく。

 やがて目的地に着いた。

 宏樹「ここは…」

 莉奈「私に着いてきて。こっち」

 そう言って莉奈はケーキの入った箱を持ちながら暗い中を一人で歩いていく。

 莉奈についていくと、ここが何処なのかがハッキリ分かった。

 ここは…香音と初めて合ったあの公園だ。
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