隘路

橘華 玲慧

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雨の降る夜

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悠斗は俺を疑っていた。最後まで言葉は濁させてもらったから。
きっと、心の中にモヤモヤが残っていて、真実が知りたくてしかたない思いでいっぱいなんだろうな。
でも、これは俺の一家の問題であって、悠斗君や陽希君には極力関わってほしくないんだ。
一家で唯一、解決できる頭脳と力を持ってる俺が解決しなきゃいけないから。

───────
8年前

実玲「ママ!今日のテストで100点取ったよ!」

「偉いじゃな~い!このままいっぱい100点取って、ママに見せてほしいな!」

実玲「うん!ママのために僕、いっぱい頑張るね!」

───────

“俺は母親から褒められたくて、必死に勉強を頑張った。
小学校で100点を取る度に、母親に見せて、褒めてもらってた。それが嬉しくて嬉しくて…。
けど、遊里と友達になってから、徐々に成績が落ちていった。
勉強よりも、遊里と遊んでいる時の方が楽しいと気づいたから。”

───────
6年前

実玲「ママ!今日は90点を取ったよ!」

「…凄いね、でもママは100点が見たいな~、実玲、今よりももっと頑張って、100点取ろ?」

実玲「う、うん。次は絶対に100点取るよ!ママ」

───────

“俺はなんとか90点台をキープしてた。
でも、学年を重ねるにつれ、テストも難しくなっていって、中々100点は取れなかった。
その度に、母親から怒られた。”
───────
4年前

遊里「実玲、顔にある傷、大丈夫?」

実玲「うん。昨日ちょっと転んじゃってさ…」

遊里「ほんとか?お前、最近怪我が多いな!怪我なんかしなそうな体育の授業でも怪我するし、俺が見てない間に廊下でも転んでるし、ちょっと気を付けた方がいいぞ」

実玲「ご、ごめん…」

遊里「別に謝んなくていいんだよ!俺はお前が元気でいてくれるだけでいいと思ってるだけだしな」

実玲「遊里君…ありがとう」

遊里「へへっ、友達なんだから当たり前だろ?」

───────

“嘘だ。
怪我なんて嘘。
絆創膏の裏にあるのは、全部、母親に叩かれたり殴られたり蹴られたりされた時についた傷。
俺に求められた結果は、徐々にテストの点数以外にも及んでいった。
運動会、合唱コンクール、成績…。
常に堅実で、頭脳明晰で、優秀でなければならないと、身をもって頭に叩き込まれた。”

───────

「いっつもいっつも、なんで100点を取ってこないのよ!」

実玲「痛い!ごめんなさい!」

「ただでさえあんたを養う金なんてないのに、あんたがいるともっと貧乏になるわ!」

実玲「…」

「もう家から出てって!あんたみたいな出来損ない、私の子じゃないわ!」

実玲「母さん…」

「私の事を母さんって呼ぶな!あんたの親だなんてなりたくない!」

実玲「…」

───

実玲「…寒いよ…だれか…」

「ぼく、こんな時間に何しているんだい?」

実玲「おじさん…誰?」

「おじさんはね、お巡りさんだよ。」

実玲「僕、何も悪いことしてないから!ごめんなさい許して!」

「あっ、ちょっと待って!おじさんはぼくを捕まえに来たんじゃないよ」

実玲「…そうなの?」

「こんな夜遅い時間に、一人で外を歩いてるなんて…寒いでしょ、おじさんと一緒に交番にいって、お話しよう」

実玲「…うん…分かった…」

───────

“俺は交番に行って、色んな事を聞かれた。
俺の個人情報、住所、外を歩いていた理由。
あらゆる事を聞かれた後、俺の親は児童虐待の疑いが強いという事で罰せられた。でも、逮捕には至らなかった。”

───────

「あんたのせいで、ただ躾てるだけなのに警察に注意されたじゃないの!」

実玲「ご、ごめんなさい…」

「余計なことばっかしやがって…次やったら本当にただじゃおかないからね!」

───────

“それからは、殴る蹴るやらの暴力はなくなった。
でも、その代わりにもっと陰湿な方法で"躾"を受けた。
タバコを押し当てられたり、トイレにずっと閉じ込められたり、精神的なダメージを蓄積させられた。”

───────
1年前

「あんた、今日もダメだったわね。」

実玲「…」

「今日の文化活動発表会のあんたは、0点。
それに、終わって帰る時に、あんたの友達だか誰だか知らないけど着いてきたのよ。」

実玲「…?」

「まさか…あんた誰かに言いふらしたりしてないでしょうね!?」

実玲「言ってないよ!言ってたら先生が気付く!」

「もう…今日は外にいなさい。朝まで入ってきちゃダメだからね。」

実玲「…」

───────

“11月の寒い夜の中、俺はベランダに出されて、そこで一晩を過ごした。

何もないベランダで暇を潰せるものもなく、黒い空の下で、誰にも気付かれる事もなく、ただひたすらに震えながら、無限にも思える時間が刻々と進むのを、虚無となった感情で待っていた。

そして、その日に決断した。

その日は、雨の打ち付ける夜だった。”
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