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鑑みる
非日常の決断
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相変わらず、合唱コンクールの練習中の実玲は暗かった。俺たちも力を尽くしているものの、やはり根本的な解決にはなっていないから、俺達に出来ることは、せいぜい練習が始まる前に会話して実玲の緊張を和らげることだ。
それでも、不安や暗い未来予測が続いているんだろう。実玲は去年と同じ様に落胆していった。
───
合唱コンクール本番の日。
またやってきた。去年と同じ様に歌い、同じ様に終わるんだろうと思っていた。
去年と同じく、実玲の母親も来ていて、実玲の方をじっと見ながら腕を組み、足も組み、静かに座って聴いていた。
そして俺達のクラスは歌い終わり、席に付いた。
しばらくして、ふと後ろを振り向いて見ると、実玲の母親は席に居なかった。
その後、何回か振り向いて、体育館から退場する時も見たが、やはり実玲の母親は居なかった。
その後、帰宅する時に、俺は陽希と先に合流して実玲を待っていたが、中々来ない。
陽希「実玲君、来ないなぁ…いつもならもうとっくに来てるのに」
悠斗「トイレに行ってるんじゃないの?」
陽希「まあ、そうかもしれないね…もう先に帰っちゃう?」
悠斗「…いや、もう少し待ってみよう…後5分だけ」
陽希「分かった…」
普段ならトイレだろうと納得するのに、今日だけはどうも腑に落ちない。練習中の時の暗い実玲、途中から居なくなった実玲の母親、去年に見た不思議な親子関係…どうしても邪推してしまう。
4分30秒が経った。
陽希「もしかして、先に帰ったのかな…いやでも、下駄箱には靴あったしなぁ…」
悠斗「…俺が教室を見てくる」
陽希「…待ってるよ」
何かしら、実玲の身に起きているんじゃないか?
俺達二人は微かにそう考えていた。
俺が教室に実玲がいるか見に行こうとした時だった。
実玲「ごめん、お待たせ」
陽希「実玲君!流石に待ったよ」
悠斗「俺が見に行こうとしたくらいにはね」
実玲「いや…ごめんごめん、待たせちゃったし、早く帰ろう」
陽希「なんで遅かったの?トイレ?」
実玲「…そうだよ」
悠斗「…」
俺は実玲の目をじっと見ていた。
長く実玲と関わっているが、これは悲しい時の目だ。目の奥に後ろめたさを秘め、朧気に地面を見つめながら口を閉じて、後悔を閉じ込めている。
去年のあの時の目と同じだ。
実玲は嘘をつくことを嫌っている。だからこそ、嘘を言う事に対しての後悔と自己嫌悪が混ざった、申し訳なさそうな顔だ。
実玲はすぐに顔を直して、話題を切り替えた。
実玲「…そういえば、陽希の指揮は凄く良かった」
陽希「本当に?ありがとう」
悠斗「努力が伝わってきたよ。特に最後の部分は…」
陽希「ちょっと、馬鹿にしてるでしょ」
実玲「ははっ、悠斗は変なことばっか言ってるからな」
そうして、三人で笑い溢れる雑談をしながら帰宅した。
陽希「じゃあ、僕はここで。また明日!」
悠斗「またね」
実玲「うん、また」
陽希と別れた後、俺は実玲に質問を投げ掛けた。
申し訳ないけど多分、陽希が居ると話辛いんだろう。だから、このタイミングで質問をした。
悠斗「…実玲、さっき…」
実玲「うん、トイレに行ったっていうのは嘘だよ。本当は、母さんを探してた。」
悠斗「…陽希にも話したのに、なんで隠したの?」
実玲「俺も、陽希をハブってる気がして嫌なんだけど…この事はやっぱり陽希みたいに、健気な人には話せないよ。」
悠斗「まあ、その気持ちは分かるよ…それで、なんで探してたの?」
実玲「いや…いつもは何か言ってから帰るけど、今日はいつの間にか居なくなってて、それで探してたんだ。結局、先に帰ったみたいだけど…」
悠斗「…そうなんだ。」
…さっきの顔だ。でも、さっきよりも深い影を作っている。そこまでして…
悠斗「…家に帰った後、大丈夫?」
実玲「…」
悠斗「去年聞いた話の限りだと、機嫌が悪かったら…」
実玲「…その事だけど、もう大丈夫だよ。」
悠斗「…?それはつまり、やめてくれたの?」
実玲「いや…明日からはもうそういうことはされなくなるから…だから大丈夫だよ。」
悠斗「…」
…なにか変だ。辻褄が合わないというか、納得がいかない。実玲を疑いたくはないけど、言う内容にひたすら違和感を感じる。
実玲「そう…大丈夫だから、今まで心配してくれてありがとう、悠斗と…後は陽希君。」
悠斗「…いや、親友として当たり前の事をしたまでだよ。」
実玲「じゃあ…また明日。」
悠斗「…」
やはり…おかしい。
話してて、違和感が増幅するだけだった。話題の内容が内容だから、あまり深く探るような事は言えないけど、さっきからの実玲は、絶対に何かを隠している。
でも、実玲が別れ際に見せた顔は、悲しい顔では無かった。何が違うのか…それは、少しだけ、ほんの少しだけ、希望のような感情を感じた。
一体、実玲は何を考えているんだろう?
…雨が降り始めてきたな。
それでも、不安や暗い未来予測が続いているんだろう。実玲は去年と同じ様に落胆していった。
───
合唱コンクール本番の日。
またやってきた。去年と同じ様に歌い、同じ様に終わるんだろうと思っていた。
去年と同じく、実玲の母親も来ていて、実玲の方をじっと見ながら腕を組み、足も組み、静かに座って聴いていた。
そして俺達のクラスは歌い終わり、席に付いた。
しばらくして、ふと後ろを振り向いて見ると、実玲の母親は席に居なかった。
その後、何回か振り向いて、体育館から退場する時も見たが、やはり実玲の母親は居なかった。
その後、帰宅する時に、俺は陽希と先に合流して実玲を待っていたが、中々来ない。
陽希「実玲君、来ないなぁ…いつもならもうとっくに来てるのに」
悠斗「トイレに行ってるんじゃないの?」
陽希「まあ、そうかもしれないね…もう先に帰っちゃう?」
悠斗「…いや、もう少し待ってみよう…後5分だけ」
陽希「分かった…」
普段ならトイレだろうと納得するのに、今日だけはどうも腑に落ちない。練習中の時の暗い実玲、途中から居なくなった実玲の母親、去年に見た不思議な親子関係…どうしても邪推してしまう。
4分30秒が経った。
陽希「もしかして、先に帰ったのかな…いやでも、下駄箱には靴あったしなぁ…」
悠斗「…俺が教室を見てくる」
陽希「…待ってるよ」
何かしら、実玲の身に起きているんじゃないか?
俺達二人は微かにそう考えていた。
俺が教室に実玲がいるか見に行こうとした時だった。
実玲「ごめん、お待たせ」
陽希「実玲君!流石に待ったよ」
悠斗「俺が見に行こうとしたくらいにはね」
実玲「いや…ごめんごめん、待たせちゃったし、早く帰ろう」
陽希「なんで遅かったの?トイレ?」
実玲「…そうだよ」
悠斗「…」
俺は実玲の目をじっと見ていた。
長く実玲と関わっているが、これは悲しい時の目だ。目の奥に後ろめたさを秘め、朧気に地面を見つめながら口を閉じて、後悔を閉じ込めている。
去年のあの時の目と同じだ。
実玲は嘘をつくことを嫌っている。だからこそ、嘘を言う事に対しての後悔と自己嫌悪が混ざった、申し訳なさそうな顔だ。
実玲はすぐに顔を直して、話題を切り替えた。
実玲「…そういえば、陽希の指揮は凄く良かった」
陽希「本当に?ありがとう」
悠斗「努力が伝わってきたよ。特に最後の部分は…」
陽希「ちょっと、馬鹿にしてるでしょ」
実玲「ははっ、悠斗は変なことばっか言ってるからな」
そうして、三人で笑い溢れる雑談をしながら帰宅した。
陽希「じゃあ、僕はここで。また明日!」
悠斗「またね」
実玲「うん、また」
陽希と別れた後、俺は実玲に質問を投げ掛けた。
申し訳ないけど多分、陽希が居ると話辛いんだろう。だから、このタイミングで質問をした。
悠斗「…実玲、さっき…」
実玲「うん、トイレに行ったっていうのは嘘だよ。本当は、母さんを探してた。」
悠斗「…陽希にも話したのに、なんで隠したの?」
実玲「俺も、陽希をハブってる気がして嫌なんだけど…この事はやっぱり陽希みたいに、健気な人には話せないよ。」
悠斗「まあ、その気持ちは分かるよ…それで、なんで探してたの?」
実玲「いや…いつもは何か言ってから帰るけど、今日はいつの間にか居なくなってて、それで探してたんだ。結局、先に帰ったみたいだけど…」
悠斗「…そうなんだ。」
…さっきの顔だ。でも、さっきよりも深い影を作っている。そこまでして…
悠斗「…家に帰った後、大丈夫?」
実玲「…」
悠斗「去年聞いた話の限りだと、機嫌が悪かったら…」
実玲「…その事だけど、もう大丈夫だよ。」
悠斗「…?それはつまり、やめてくれたの?」
実玲「いや…明日からはもうそういうことはされなくなるから…だから大丈夫だよ。」
悠斗「…」
…なにか変だ。辻褄が合わないというか、納得がいかない。実玲を疑いたくはないけど、言う内容にひたすら違和感を感じる。
実玲「そう…大丈夫だから、今まで心配してくれてありがとう、悠斗と…後は陽希君。」
悠斗「…いや、親友として当たり前の事をしたまでだよ。」
実玲「じゃあ…また明日。」
悠斗「…」
やはり…おかしい。
話してて、違和感が増幅するだけだった。話題の内容が内容だから、あまり深く探るような事は言えないけど、さっきからの実玲は、絶対に何かを隠している。
でも、実玲が別れ際に見せた顔は、悲しい顔では無かった。何が違うのか…それは、少しだけ、ほんの少しだけ、希望のような感情を感じた。
一体、実玲は何を考えているんだろう?
…雨が降り始めてきたな。
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