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11~20
(16)神父と悪魔
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真夜中の教会に現れた病弱な少年のために、神父は一緒に祈りを捧げる。それが数日続いた後、教会に異変が起き……。
神父受けです。
ーーーーーーーーーーーーーー
あるところに神父がいました。神父はもう何年もの間、街の教会で慈悲深く人々を導くために奉仕を尽くし、生きてきました。街の人々も、そんな神父のことを敬愛し、信頼していました。
ある日の夜。
神父がいつものように祈りを捧げていると、一人の少年が教会を訪ねてきました。
「こんな時間に出歩くなんて、危ないですよ?」
「僕、あと少ししか生きられなくて……。それで、少しでもお祈りしたくて……。昼間は暑くて歩けないから……」
そう言って弱々しく微笑む少年は、雪のように真っ白く、今にも溶けて無くなってしまいそうなくらい危うい雰囲気を纏っていました。
「ですが、無理はしない方が……」
「お願い、少しだけでいいから……」
ごほごほと咳き込む背中をさすってやると、少年は苦しみに目を潤ませながら神父に縋りました。
「それなら、少しだけ……」
気の毒に思った神父は、少年のために教典を開き、唱え始めました。
それは、翌日も、その次の日も続きました。
一人でいることが当たり前だった暗闇は、いつしか少年との他愛もない時間になり。
そしてそれが習慣となった頃には、神父にとって、夜は待ち遠しいものになってゆきました。
しかし、少年が来るようになった時期と同じくして、教会に不穏な力を感じるようになり、気分が悪くなる信徒が少しずつ現れました。
一人、また一人と体調を崩す人数が多くなり、数日もすると、教会を訪れようという人はめっきり減ってしまいました。
『お前の怠慢のせいじゃないか?』『穢れているんじゃないの?』
「そんな、ことは……」
神父は、胸を張って否定のできない自分にハッとしました。
そっと自分の胸に手を当て、目を閉じると、必ずそこにはあの少年がいるのです。
「そんな馬鹿なことが……。私が、あの子に……?」
そんなはずはないと祈る手に力を込めてみても、全く集中できず、外ばかり眺めてしまうのです。
神父は、気づかぬうちに少年に惹かれてしまっていた自分を悔いました。
「ああ、神様……」
それから、神父は必死になって教典を読み始めました。
それは夜になっても変わらずに……、いや、夜になるにつれ、なおさら早口に唱え続けました。
そして。
誰もが寝静まる深夜。神父は教典から顔を上げ、静かな外をじっと見つめました。
コンコン。
教会に響く軽いノック音。神父は、それを聞いて心が高鳴る自分に吐き気がしました。
「神父さま……」
ドアから遠慮がちに覗く少年の顔。
それを見るだけで、やはり嬉しくなってしまう自分が怖くて……。
「あ、ああ……。来るな……!」
神父は震える自分の体を抱きながら、一歩後ずさりました。
「えっ? どうかしましたか?」
「あ……。い、いえ。すみません。なんだか少し、疲れているみたいで……」
ああ、この子はこんな気持ち、少しも抱いてないだろうに。八つ当たりなど……。
神父は、少年の心配そうな瞳から目を逸らし、自分を恥じながら教典に目を落としました。
私は今、本当に神に仕える資格があるのだろうか……。
「貴方は、もし私が祈ることをやめてしまったとしても、一人で祈り続けてくれますか?」
「えっ。どうして?! 神父さん、どこか行っちゃうの?」
「……いえ、どこにも。そうですね。私の居場所はここしかありませんから、ね」
神父は落ちてしまった神力を思い、そっと自分の手を撫でると、いつものように少年と祈りを捧げ始めました。
それから数日。神父はやはり少年を遠ざけることもできずに、一人悩み、悔いていました。
「神様。どうか私をお許しください……。ああ。どうして、どうして私は……」
コンコン。
「っ……!」
神父が朝早くから祈りを捧げていると、ふいにドアを叩く音が聞こえてきました。
ここ最近、全く人が訪ねてくることもなくなった教会のドアを叩くのは、彼以外いませんでした。
まさか、彼は夜しかこないはずじゃ……。
神父が恐る恐るドアを開いてみると、そこにいたのは……。
『神父さん! お願い! わたしの、お兄ちゃんが、大変なの!』
息を切らし、つっかえながら必死にしゃべる小さな女の子でした。
「お嬢さん。ここはもはや祈りの場ではないのです。危ないので、早く引き返した方が……」
『イヤ! お兄ちゃんの病気を治してって、神様にお祈りするの! お願い、神父さん。一緒にお祈りして!』
泣きじゃくりながら、縋りつかれた神父は、そっと女の子の頭を撫でてやりました。
『お願い……。神様に、お祈りさせて……』
「……わかりました。私で良ければお付き合いしましょう」
神父は女の子を放っておくこともできず、覚悟を決めて教会に向き直りました。
「少しお待ちください」
女の子をドアで待たせると、神父は神力を使い、悪い気を一時的に寄せ付けないように施しました。
そして、教典を唱え、女の子に寄り添って一緒に祈りを捧げました。
『これでお兄ちゃん治るかな?』
「ええ、きっと良くなることでしょう」
にこ。
神父の柔らかい微笑みを受けて、女の子の不安そうな顔は花が咲いたように、ぱあっと明るくなりました。
『神父さん、ありがとう!!!』
大きく手を振り、そう叫んだ少女に、神父も手を振って見送りました。
そして、少女が見えなくなったところで。
どさ。
糸が切れたかのように、神父は床に倒れ込みました。
ああ。この程度でこれ程消耗するなんて……。
「やっぱり、私は……」
神父は自分の手を見つめた後、目を閉じると、そのまま深い眠りへと誘われてゆきました。
コンコン。
「う、うう……」
神父が次に目覚めたとき、辺りはもう真っ暗で、明かりをつけていない教会の中は酷く不気味でした。
あれ、今。ノックの音が聞こえた気がしたけれど……。
「あ、」
気だるい体を動かしてドアの方を向くと、そこには少年が立っていました。
「大丈夫、ですか?」
「す、すみません……っ。お見苦しい、ところを、」
神父は自分が床の上で寝てしまっていたことを思いだし、慌てて立とうと身を起こし……。
とっ。
「え?」
冷めた目の少年に肩を押された神父は、訳もわからないまま再び床に横たわりました。
「っ、」
「ふふ。ほんとに落ちたみたいですね、力」
「え……?」
暗闇の中、鋭く光る少年の目に戸惑う神父。その体に覆いかぶさりながら、少年は神父の手をゆっくりと撫で上げ、笑いました。
「神父さん。僕はね、貴方がいつそうなるか、楽しみに待ってたんですよ」
「なに、言って……」
妖艶な声音で囁く少年に神父は戸惑いながら、胸元のロザリオに手を伸ばしました。
しかし触れる前に手を取られ、神父が怯んだ隙にロザリオは、ぶちりと首から引きちぎられてしまいました。
「今の貴方は、羽のない天使そのものですね。悪魔から逃げられずに、もがき、叫ぶ、可哀想な天使」
そう言って少年はロザリオをぽいと投げ捨てると、神父の首にくちづけを落としました。
「!」
びりっ。
「な、」
なんだ、これは……?
少年の唇が触れた途端、神父は電撃が走ったかのように体をびくりと揺らしました。
「かわいそうに」
「な、なにをしたんですか? か、らだが、」
「体が?」
「なにか……」
変な感じが……。気持ち悪いような、心地よいような、体も心も麻痺してしまったように震えて……。
「そんなに苦しそうにして、どうしました?」
徐々に息が上がってゆく神父をにやにやと観察しながら、少年はわざとらしく問いかけました。
「あ……」
言葉を発したくても掠れた声が出るだけで。神父は、額に汗を浮かばせながら必死に自我を保とうとしました。
どうして今まで気がつかなかったのだろう。悪魔のように笑う異様な雰囲気。纏った力の気配はやはり……。
「やっと気づきました? そ、僕は悪魔なんです」
意地悪く微笑んだ少年が、ぐっと背を伸ばしたかと思うと、そこから翼が生えてきて……。
「ずうっと邪魔だったんですよ。貴方の力が」
暗闇に交じったその翼は、空気を震わせ、その場を圧迫してゆきます。
「う……」
「貴方のせいで、ここには悪魔が近寄れなかった。だけど、僕は違う。僕は人を魅了する力があるんです」
「……!」
闇の中でしっかりと合った瞳。それはやはり神父の心を捕らえて。
まさか、私のこの気持ちは……。
「そう。貴方が僕のことを好きだというその気持ち。それはぜーんぶ嘘偽り。あなたは悪魔に騙されて力を失った、可哀想な仔羊なんです」
「ま……」
まさかこんな……。
「残念でしたね」
もう一度神父に口づけた悪魔は、ねっとりと微笑み、そして……。
「これで貴方は完全に力を失った」
「……」
「その穢れた体で奉仕にはつけないでしょ? 僕の勝ちですよ」
悪魔に穢された神父は体を抱き、静かに泣きました。
ああ、神様……。私は穢れてしまいました。
それならば。もう綺麗でなくなってしまったのならば……。
神父は、よろよろと立ち上がり、置いてあったナイフを手に取りました。
「何してるんですか……?」
「私が、貴方を殺します……。ああ、私が、やらなくては、いけないのです……。どうか、お許しを……!」
全く動じない悪魔に、神父はその鋭い切っ先を思い切り突き刺しました。
「ああ、ごめんないさい……」
どさりと倒れた悪魔に、神父は祈りを捧げ、頬を撫でてやりました。
そして神父は、悪魔からナイフを引き抜くと、何のためらいもなく自分にナイフを突き刺しました。
「馬鹿だな」
神父が動かなくなったのを確認してから、ため息をつくと、悪魔はむくりと体を起こしました。
「こんなことをしても僕は死なないっての」
まったく、勝手に死んでしまうなんて……。
悪魔は神父の頬を撫でると、そのまま口づけを落としてやりました。
悪魔の血がついたナイフで自害するということが、どういうことかわかってないんだろうな。
「まぁ、僕としては楽しみが増えたけれど」
無知で無垢な人間の突拍子もない悲劇に、悪魔は心の底まで血が湧き煮え立つような気さえしました。
くつくつと楽しそうに笑う悪魔の横で、神父の体は尋常ではない早さで朽ちてゆき……。
そして。
ごぼり。
悪魔の目の前に、新しい悪魔が生まれました。
「……? 私は、これは……いったい」
「今度は簡単に死なせませんよ、神父さま」
自分の姿に戸惑う神父に、悪魔は嬉しそうに翼を揺らし……。
「一緒にこの街の人間たちを殺しましょうね。止めないでくださいよ。僕はそのためにここを潰したんですからね」
神父に甘く口付けました。
街が滅びた後には、何も残らず。その後、二人の悪魔がどうなったのか、知る人はいません。
神父受けです。
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あるところに神父がいました。神父はもう何年もの間、街の教会で慈悲深く人々を導くために奉仕を尽くし、生きてきました。街の人々も、そんな神父のことを敬愛し、信頼していました。
ある日の夜。
神父がいつものように祈りを捧げていると、一人の少年が教会を訪ねてきました。
「こんな時間に出歩くなんて、危ないですよ?」
「僕、あと少ししか生きられなくて……。それで、少しでもお祈りしたくて……。昼間は暑くて歩けないから……」
そう言って弱々しく微笑む少年は、雪のように真っ白く、今にも溶けて無くなってしまいそうなくらい危うい雰囲気を纏っていました。
「ですが、無理はしない方が……」
「お願い、少しだけでいいから……」
ごほごほと咳き込む背中をさすってやると、少年は苦しみに目を潤ませながら神父に縋りました。
「それなら、少しだけ……」
気の毒に思った神父は、少年のために教典を開き、唱え始めました。
それは、翌日も、その次の日も続きました。
一人でいることが当たり前だった暗闇は、いつしか少年との他愛もない時間になり。
そしてそれが習慣となった頃には、神父にとって、夜は待ち遠しいものになってゆきました。
しかし、少年が来るようになった時期と同じくして、教会に不穏な力を感じるようになり、気分が悪くなる信徒が少しずつ現れました。
一人、また一人と体調を崩す人数が多くなり、数日もすると、教会を訪れようという人はめっきり減ってしまいました。
『お前の怠慢のせいじゃないか?』『穢れているんじゃないの?』
「そんな、ことは……」
神父は、胸を張って否定のできない自分にハッとしました。
そっと自分の胸に手を当て、目を閉じると、必ずそこにはあの少年がいるのです。
「そんな馬鹿なことが……。私が、あの子に……?」
そんなはずはないと祈る手に力を込めてみても、全く集中できず、外ばかり眺めてしまうのです。
神父は、気づかぬうちに少年に惹かれてしまっていた自分を悔いました。
「ああ、神様……」
それから、神父は必死になって教典を読み始めました。
それは夜になっても変わらずに……、いや、夜になるにつれ、なおさら早口に唱え続けました。
そして。
誰もが寝静まる深夜。神父は教典から顔を上げ、静かな外をじっと見つめました。
コンコン。
教会に響く軽いノック音。神父は、それを聞いて心が高鳴る自分に吐き気がしました。
「神父さま……」
ドアから遠慮がちに覗く少年の顔。
それを見るだけで、やはり嬉しくなってしまう自分が怖くて……。
「あ、ああ……。来るな……!」
神父は震える自分の体を抱きながら、一歩後ずさりました。
「えっ? どうかしましたか?」
「あ……。い、いえ。すみません。なんだか少し、疲れているみたいで……」
ああ、この子はこんな気持ち、少しも抱いてないだろうに。八つ当たりなど……。
神父は、少年の心配そうな瞳から目を逸らし、自分を恥じながら教典に目を落としました。
私は今、本当に神に仕える資格があるのだろうか……。
「貴方は、もし私が祈ることをやめてしまったとしても、一人で祈り続けてくれますか?」
「えっ。どうして?! 神父さん、どこか行っちゃうの?」
「……いえ、どこにも。そうですね。私の居場所はここしかありませんから、ね」
神父は落ちてしまった神力を思い、そっと自分の手を撫でると、いつものように少年と祈りを捧げ始めました。
それから数日。神父はやはり少年を遠ざけることもできずに、一人悩み、悔いていました。
「神様。どうか私をお許しください……。ああ。どうして、どうして私は……」
コンコン。
「っ……!」
神父が朝早くから祈りを捧げていると、ふいにドアを叩く音が聞こえてきました。
ここ最近、全く人が訪ねてくることもなくなった教会のドアを叩くのは、彼以外いませんでした。
まさか、彼は夜しかこないはずじゃ……。
神父が恐る恐るドアを開いてみると、そこにいたのは……。
『神父さん! お願い! わたしの、お兄ちゃんが、大変なの!』
息を切らし、つっかえながら必死にしゃべる小さな女の子でした。
「お嬢さん。ここはもはや祈りの場ではないのです。危ないので、早く引き返した方が……」
『イヤ! お兄ちゃんの病気を治してって、神様にお祈りするの! お願い、神父さん。一緒にお祈りして!』
泣きじゃくりながら、縋りつかれた神父は、そっと女の子の頭を撫でてやりました。
『お願い……。神様に、お祈りさせて……』
「……わかりました。私で良ければお付き合いしましょう」
神父は女の子を放っておくこともできず、覚悟を決めて教会に向き直りました。
「少しお待ちください」
女の子をドアで待たせると、神父は神力を使い、悪い気を一時的に寄せ付けないように施しました。
そして、教典を唱え、女の子に寄り添って一緒に祈りを捧げました。
『これでお兄ちゃん治るかな?』
「ええ、きっと良くなることでしょう」
にこ。
神父の柔らかい微笑みを受けて、女の子の不安そうな顔は花が咲いたように、ぱあっと明るくなりました。
『神父さん、ありがとう!!!』
大きく手を振り、そう叫んだ少女に、神父も手を振って見送りました。
そして、少女が見えなくなったところで。
どさ。
糸が切れたかのように、神父は床に倒れ込みました。
ああ。この程度でこれ程消耗するなんて……。
「やっぱり、私は……」
神父は自分の手を見つめた後、目を閉じると、そのまま深い眠りへと誘われてゆきました。
コンコン。
「う、うう……」
神父が次に目覚めたとき、辺りはもう真っ暗で、明かりをつけていない教会の中は酷く不気味でした。
あれ、今。ノックの音が聞こえた気がしたけれど……。
「あ、」
気だるい体を動かしてドアの方を向くと、そこには少年が立っていました。
「大丈夫、ですか?」
「す、すみません……っ。お見苦しい、ところを、」
神父は自分が床の上で寝てしまっていたことを思いだし、慌てて立とうと身を起こし……。
とっ。
「え?」
冷めた目の少年に肩を押された神父は、訳もわからないまま再び床に横たわりました。
「っ、」
「ふふ。ほんとに落ちたみたいですね、力」
「え……?」
暗闇の中、鋭く光る少年の目に戸惑う神父。その体に覆いかぶさりながら、少年は神父の手をゆっくりと撫で上げ、笑いました。
「神父さん。僕はね、貴方がいつそうなるか、楽しみに待ってたんですよ」
「なに、言って……」
妖艶な声音で囁く少年に神父は戸惑いながら、胸元のロザリオに手を伸ばしました。
しかし触れる前に手を取られ、神父が怯んだ隙にロザリオは、ぶちりと首から引きちぎられてしまいました。
「今の貴方は、羽のない天使そのものですね。悪魔から逃げられずに、もがき、叫ぶ、可哀想な天使」
そう言って少年はロザリオをぽいと投げ捨てると、神父の首にくちづけを落としました。
「!」
びりっ。
「な、」
なんだ、これは……?
少年の唇が触れた途端、神父は電撃が走ったかのように体をびくりと揺らしました。
「かわいそうに」
「な、なにをしたんですか? か、らだが、」
「体が?」
「なにか……」
変な感じが……。気持ち悪いような、心地よいような、体も心も麻痺してしまったように震えて……。
「そんなに苦しそうにして、どうしました?」
徐々に息が上がってゆく神父をにやにやと観察しながら、少年はわざとらしく問いかけました。
「あ……」
言葉を発したくても掠れた声が出るだけで。神父は、額に汗を浮かばせながら必死に自我を保とうとしました。
どうして今まで気がつかなかったのだろう。悪魔のように笑う異様な雰囲気。纏った力の気配はやはり……。
「やっと気づきました? そ、僕は悪魔なんです」
意地悪く微笑んだ少年が、ぐっと背を伸ばしたかと思うと、そこから翼が生えてきて……。
「ずうっと邪魔だったんですよ。貴方の力が」
暗闇に交じったその翼は、空気を震わせ、その場を圧迫してゆきます。
「う……」
「貴方のせいで、ここには悪魔が近寄れなかった。だけど、僕は違う。僕は人を魅了する力があるんです」
「……!」
闇の中でしっかりと合った瞳。それはやはり神父の心を捕らえて。
まさか、私のこの気持ちは……。
「そう。貴方が僕のことを好きだというその気持ち。それはぜーんぶ嘘偽り。あなたは悪魔に騙されて力を失った、可哀想な仔羊なんです」
「ま……」
まさかこんな……。
「残念でしたね」
もう一度神父に口づけた悪魔は、ねっとりと微笑み、そして……。
「これで貴方は完全に力を失った」
「……」
「その穢れた体で奉仕にはつけないでしょ? 僕の勝ちですよ」
悪魔に穢された神父は体を抱き、静かに泣きました。
ああ、神様……。私は穢れてしまいました。
それならば。もう綺麗でなくなってしまったのならば……。
神父は、よろよろと立ち上がり、置いてあったナイフを手に取りました。
「何してるんですか……?」
「私が、貴方を殺します……。ああ、私が、やらなくては、いけないのです……。どうか、お許しを……!」
全く動じない悪魔に、神父はその鋭い切っ先を思い切り突き刺しました。
「ああ、ごめんないさい……」
どさりと倒れた悪魔に、神父は祈りを捧げ、頬を撫でてやりました。
そして神父は、悪魔からナイフを引き抜くと、何のためらいもなく自分にナイフを突き刺しました。
「馬鹿だな」
神父が動かなくなったのを確認してから、ため息をつくと、悪魔はむくりと体を起こしました。
「こんなことをしても僕は死なないっての」
まったく、勝手に死んでしまうなんて……。
悪魔は神父の頬を撫でると、そのまま口づけを落としてやりました。
悪魔の血がついたナイフで自害するということが、どういうことかわかってないんだろうな。
「まぁ、僕としては楽しみが増えたけれど」
無知で無垢な人間の突拍子もない悲劇に、悪魔は心の底まで血が湧き煮え立つような気さえしました。
くつくつと楽しそうに笑う悪魔の横で、神父の体は尋常ではない早さで朽ちてゆき……。
そして。
ごぼり。
悪魔の目の前に、新しい悪魔が生まれました。
「……? 私は、これは……いったい」
「今度は簡単に死なせませんよ、神父さま」
自分の姿に戸惑う神父に、悪魔は嬉しそうに翼を揺らし……。
「一緒にこの街の人間たちを殺しましょうね。止めないでくださいよ。僕はそのためにここを潰したんですからね」
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