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(26)天使と悪魔の証明
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天使と悪魔の血が混じったセフィナ。魔界の牢獄に入れられていた彼だったが、天界に潜入することに。そこで大天使リファルシエに気に入られ……。
BL度は薄目です。悲劇メイン。
セフィリファです。
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あるところに、天使と悪魔の間に生まれた子がいました。
魔界で育ったその子は、悪魔たちから酷い差別を受けながら何とか生き延びていました。
一方その頃、悪魔たちによる天界征服の動きが活発化しており、天界の内情を知るために数名の悪魔たちが天使に紛れ込み、暗躍を試みました。
しかし、悪魔の血は隠すことが難しく、すぐに天使たちにより取り押さえられてしまいました。
そこで、悪魔たちは思いつきました。
あの子ならば、半分天使の血が流れているあの子ならば。きっとバレることなく行けるだろうと、牢に入れられたままのその子を大天使の秘書候補として送り込むことにしたのです。
*
ちゃぷんという音を立て、水瓶の中に天使たちの手が次々と沈められる。
『よし。次!』
天使たちが順に手を聖水に浸してゆくその光景は、奇怪だ。
そう、この光景は全くもって異常だった。
先日、天界で天使のフリをした悪魔が捕まるという事件が起こった。
この中にも悪魔が紛れているかも、と怯えた天使たちは急遽、大天使の秘書となろう者たちの中から悪魔を炙り出す方法として、この絵踏みのような取り締まりを行ったのだった。
こんなことで悪魔が割り出せるのだろうか。
少なくとも、俺を炙り出すことができない。なぜなら――。
「これでよろしいでしょうか」
聖水に手をつける。平然と。その立ち振る舞いは、傍から見ても他の天使と変わらないだろう。
痛みも特にないな。
水に浸かった自分の手を見つめる。
本当に。自分には“天使の血が半分流れている”のだと、認めざるを得ないな。まあ、だからこそ、この仕事を与えられたんだけど。
半分は天使。もう半分が悪魔。“そんなものが存在するはずがない”。“普通”ならばそう思うだろうけど。
『よし。次!』
見事に何もなく通り抜けた。半分は悪魔の血だ。反応するかとも思ったが、どうやらセーフだったらしい。自分としては、ここでさっさとくたばるのも悪くはなかったのだが。
浸した手を拭き、特にこれといった感情も湧かないままにその場を離れようとしたが。
そのとき。
『う、うぐああああああああ!!!!』
後ろの天使、今聖水に手を突っ込んだ者が、断末魔のような叫び声を上げて苦しみ出す。
『誰か取り押さえろ!』
正義感に燃える若い天使の叫び声。
それを聞き、ここぞと悪魔の前に立ちはだかる。ここで同じ悪魔を捕まえる素振りでもすれば、疑われる確率も低くなるだろう。いや、むしろここで捕まえないでぼんやりしている方が疑われるというもの。
『お前、助けてくれ! お前も同じ、あく……』
ボッ。
悪魔が言い終わるより先に、その体に炎が灯る。残念だが、俺は悪魔に温情など抱けない。
『ぎゃあああああああああ!!!』
『おぉ』
燃える燃える。
その魔力の手際に、感心したような天使たちの声。
「見事ですね」
ふと、後ろから肩を叩かれ、振り返る。
「あ……。大天使、様……」
全てを慈しむような神々しい光を纏った天使が、そこに立っていた。
息を飲む。
天界に来て何度も冷や汗を掻いたが、大天使と対峙した今、それらと比べ物にならないぐらいに緊張する。
ここでバレたら、自分はあの悪魔のようになるのだろうか。
自分の手を見つめる。
まさか自分が魔力を使えるとは思わなかった。
いつも餓えていたから力を蓄える余裕などなかった。力を使う場面もなかった。
だから、自分の力が他人と比べてどうなのかもわからなかった。
今ここでこの大天使と戦ったとして、自分は勝てるのだろうか。
いや……。勝てないだろう。なんせ、魔界の誰もが敵わないのだ。閉じ込められていた身の自分が敵うはずなどない。
それに、目の前に溢れる光。これが恐ろしくも美しく。それに自分の邪悪を打ち付けるのは躊躇われる。
「名は何と?」
「え……。っと、セフィナです」
優しい問いかけに、自然と口が開く。
この人の秘書となって、情報を探り出せ? そんなことが、自分にできるのだろうか。
完璧を形にしたような、神のようなその存在に、ふとそんな疑問が湧き上がる。
今からでも逃げてしまおうか。いや、でもどうせ逃げたとしても、自分一人では生きていけやしない。それに、悪魔からも追われて、きっと無残に殺されて……。
「決めました。貴方を第一秘書にします」
「え……?」
ぽん、と肩を叩かれ、悪い方向に進んでいく思考が遮られる。
綺麗な人だなあ……。じゃなくて!
「俺が、第一秘書、ですか??」
「ええ。その力もですが……」
ふいに大天使が優しく手を取る。そして。
「貴方のことが気に入りましたので」
ふんわりと花が咲くような笑みでそう告げた。
秘書に就いて数週間。情報を探りつつ、大天使リファルシエの仕事を手伝って。
くたくたになりながらも、充実した日々を過ごした。
天使の世界は暖かく、優しく。魔界にいたときと比べ物にならないぐらいに心地よく過ごしやすい。
ここにいる限りは、自分が本当の天使になったような気がした。自分が居るべきはこの世界なのではないかとも思った。
でも。
自分が悪魔だと知ったら天使たちだって、きっと……。
自分の手首を見る。袖で隠れていたそこには、無数の傷跡。
「どうかしましたか?」
びくっ。
「いえ、なんでも」
いきなり後ろから声を掛けられ、咄嗟に手首を隠す。
声の主は大天使。一番見られてはいけない相手。
「ええと。リファルシエ様、いつからそこに……」
「今しがた。セフィナが立ち止まっていたので何事かと思いまして」
いつもと変わらぬ優しい口調。
見られていなかったみたいだな。
「いえ。特に何事も」
そっと安堵の息を漏らしながら、大天使に微笑む。
「そうですか。それはそうと。ここは慣れましたか?」
「えっ、ええ。それなりに」
「それはよかった。この城は広いですからね。迷ってしまったのではないかと思いまして」
「いえ。今のところは大丈夫です」
視線が彷徨いそうになるのを何とか堪え、笑顔を張り付けたまま当たり障りのない返答をしていく。
この人は何を考えているのかわからないな。
ずっとニコニコと相手を包み込むような微笑みを浮かべる大天使に、そんなことを思ってしまう。
「貴方の評判は聞いています。どうやら随分と城の使用人たちに気に入られているようですね」
「え、いえ。そんなことは」
自分が気に入られるなんてこと、あるのだろうか。
今まで忌み嫌われて生きてきた。人からの好意など、貰った記憶がない。
そんな自分が、ここ数日で気に入られるだなんて、そんなことがあるようには思えなかった。
「もちろん私も貴方のこと、気に入ってますよ」
透き通った優しい音。それが心にすっと入ってくる。
「えっと」
慣れない言葉に、あたふたとしている隙に、手を取られる。
「だから、どこにも行かないでくださいね?」
ぎゅっと手を握られた瞬間、忘れかけていた恐怖がせり上がってくる。
「ど、どこにもって……?」
「いえ、なんだか貴方がどこかに行ってしまいそうな顔をしていたものですから」
優しいはずの音が、首にナイフをあてがわれたような圧迫感を呼び起こす。
「……そんな顔していましたか? すみません」
どこか。どこかとは、例えば。魔界、だろうか。
全てを知っているような神々しさを前に、焦らざるを得ない。
この大天使は、本当は知っているんじゃないのか?
自分が悪魔だってこと。情報を引き出したら、魔界に帰ること。
「きっと疲れているのでしょうね。今日はもういいですから、しっかり休んでください」
「ですが」
「これは命令ですよ」
「……わかりました」
きっぱりと言われては、抵抗するのも不自然か。
そう思い、設けられた自室に足を進める。
怖い。
そんな思いが、自分の鼓動を早くさせてゆく。
あの大天使は美しい。優しい。だけれども。反面、怖くもあるのだ。
やはり大天使にはバレているのかもしれない。
でも。だからといって情報もなしに、のこのこ魔界に帰ることもできない。
それに、魔界に帰ったとしても、また牢獄に入れられて管理されるだけだ。
それは嫌だ。
今の恐怖よりも、数倍の恐怖、そして憎悪が心の中に渦を巻く。
魔界での暮らしは、酷いものだった。たまに悪魔が来たと思えば揶揄われ。時間の流れなど、わからない。餓えで気が狂いそうな一人ぼっちの世界。
もうあんな思いは……。
「うう、嫌だ……。怖い……。出して、ここから、早く!!!」
どっ。
目が覚める。
「夢、か……」
大量に掻いた冷や汗を拭いながら呼吸を整える。
頭が割れるように痛い。
魔界の牢獄での恐怖。それが、天界に来た今も夢に現れて苦しみを蘇らせる。
今は大丈夫。まだ大丈夫。だって、ここは天界で。やらなくてはいけないことがあって。
手首をそっと撫でる。
――もちろん私も貴方のこと、気に入ってますよ――
ふと昨日、大天使が言った言葉を思い出す。
あの言葉は、本心だろうか。
初めて自分に向けられた好意。それがもし本心からの言葉だったとしたら、どんなにいいだろうか。どんなに自分の存在を肯定できることだろうか。
そんな取り止めのないことを考えてから首を振る。
しっかりしろ。自分はただ与えられたことをやるまで。どうせ居場所などない。
天使たちだって、悪魔だと知れば容赦なく殺しにかかってくるだろう。
だから、全て諦めればいい。ただ死んだように生きればいい。
「それでは、今日は森の奥にある教会への護衛を頼みます。セフィナ」
「はい」
起きてしばらく、準備を整え、大天使の元へ赴き朝食を共にする。そこで今日のスケジュールについて話すのが日課となっていた。
最初は、大天使とわざわざ朝食をとるなんて、と断った。しかし、強引に推し進められ、今ではすっかり慣れてしまった。
「まぁ、滅多に魔物など出ないので安心していいですよ」
「……」
天界には魔物などいないと思っていたが、どうやらそこは魔界と変わらず、森などに住んでいるらしく。
ただ、魔界と違って滅多なことがない限り、人を襲うことはないとか。
それだったら、確かに安心していいのかもしれない。
そんなことを思いながら、大天使が語り掛けてくるのに当たり障りのない返事をしていく。
だが。やはり。俺は不幸を背負っているようで。
もう少しで教会に辿り着こうというとき、それは襲い掛かってきた。
翼を持った獣。どうやらこれが天界の魔物らしい。魔界のものより邪悪さを感じさせないが、その形相はやはり怖い。
「っ!」
覚悟を決めて、手に力を込める。
すると、赤々と渦巻く炎が数匹の魔物を飲み込み、塵と化す。
「はっ!」
一方では他の護衛天使や、大天使自らが応戦。
そのおかげで、魔物はみるみる減り、ついに全てを倒すに至る。
「ありがとうセフィナ。君が居てよかったよ」
「はっ、お役に立てて、はぁ、光栄、ですっ……」
肩で息をしながら、なんとか大天使に答える。
ああ。かっこ悪いな。こんなに体力消耗しちゃって。
でも、なんか、こう、体が、しんどくて、頭、熱く……。
「セフィナ、危ない!!」
「え?」
大天使が叫び、こちらに向けて魔法を放とうと構えるのが見える。
なんだ。殺されるのか……。
ふらふらになった体では、到底避けきれそうにない。
ざっ。
「うぐっ!」
鋭い何かで身を切られる。
背中に走ったその痛みに耐えられず、地面に伏す。
あれ。背中……? 大天使が放った魔法じゃ、ない……。
霞む視界で、大天使がこちらに近づいてくるのを捉える。
「……フィナ!……っかり……て……さい。セフィ――」
大天使が俺の体を抱き起して叫んでいる。だけど、駄目だ。聞き取れないや。
ひた、と大天使の手が俺の背中に添えられる。
温かい。でも駄目だ、痛い。熱い。意識が……。
「ん……」
目を開く。
眩しいほどに辺りが白く、寝起きの眼には辛くて目を細める。
どうやらここは自室のようだ。自室が与えられて久しいというのに、中々その壁の白さと窓から差す神々しい陽の光に慣れることができずにいる。
「目が覚めましたか?」
びくっ。
いきなり掛けられた声に肩を震わす。
「あぁすみません、脅かすつもりは。背中はまだ痛みますか?」
「あ……」
そうだ、魔物に襲われて……。
「すみませんっ、リファルシエ様にご迷惑をっ!」
起き上がろうとするが、途端に眩暈がして頭を押さえる。
「駄目ですよ。熱もあるんですから。きっと熱のせいで注意力が低下していたのでしょう。すみません、私が無理をさせてしまいました。もっと早くに貴方の不調を見抜くべきでしたのに」
「いえ……」
大天使が悲し気に目を伏せる。その愁いだ表情もやはり例外なく美しい。
「きっと新しい環境に体も戸惑っているのでしょう」
「ええ……。恥ずかしながら」
曖昧に微笑みながら、その顔から目を逸らす。“新しい環境”というのは、仕事のことか、それとも土地のことか。魔界から天界へと移ったのならば、体を壊すのも無理はないという意味を含んではいないだろうか。
そんなことを疑っていると、大天使がふっと微笑む。
「ですが、傷が残らなくてよかった」
「っ!」
その微笑みをまともに見てしまった瞬間、胸が高鳴る。
ああ、だからあまり見ないようにしていたというのに。
いや、これは仕方がないこと。きっと大天使を見ては誰もがこうなってしまう。これは、そういう類の才能といっていい。人を惹きつけて止まない彼だからこそ大天使として君臨しているのだろう。
「でも、不調であの火力が出せるというのは素晴らしい。やはり、貴方を秘書にしてよかったと思っています」
どうやら俺の力は、自分が思っているほど弱いものではなかったらしい。
だけど、きっと逆だ。
不調で火力が出せたんじゃなく、あの火力を出したから不調になったんだ。
確かに、環境の変化も悪夢で良質な睡眠が取れていなかったことも要因の一つだ。でも多分、初めて力をまともに使ったから、というのが大きいのだろう。
そんなことを考え込んでいると、ふいに大天使の顔が近づく。
「え?」
「どうか早く癒えますよう」
ちゅ。
静かな祈りと共に、額に口づけが落とされる。
「っ!」
その一連の動作に、母との数少ない思い出がぶわりと蘇る。
怪我をする度に、今のようなキスをしてくれていた。
恐らく天使のまじないのようなものなのだろう。
今更そんなこと、わかってもどうしようもないというのに。
どうしようもなく胸が痛かった。
堕天使になった母と魔界で生きていた頃は、まだ俺も母も天使とバレておらず、父はいなくとも幸せに暮らしていた。
でもある日、お金が足りなくなってどうしようもなくなった母は、二人を見捨てた父に縋った。そして、あっさりと殺された。
父は、母を殺しただけじゃ飽き足らず、留守番をしていた俺の元に現れて。
「お前は利用価値がありそうだな。飯の種になりそうだ。コイツみたいになりたくなかったら、大人しく言うことを聞け」
そう言って、担いでいたものを目の前に投げた。
母の死体だった。
幼かった俺は、どうすることもできなくて。
それから、偶に見世物のように扱われ。死なない程度に生かされ。牢獄に閉じ込められて。
「お母様……」
自分の父が憎かった。悪魔が憎かった。自分の血が憎かった。
手首を切った。ズタズタに。血が流れた。
もちろん痛かったけれど、その汚い真っ赤な血が全部流れてしまえばいいと思った。
そのまま死ねば良かったのに、結局今まで生きてしまった。
でも。
「こうして天界に来れたのは良かったかもしれないな」
母親が生きていた頃の優しい思い出の一つ一つを思い出して、ぽつりと呟く。
やはり母親は堕天したと言っても、心は天使そのものだった。大天使の仕草や優しい物言い、天使特有のオーラが母親のものとそっくりだった。
そういえば、お母様は何故堕天使になってしまったのだろうか。
ふいに生まれた疑問。それが、じわじわと気になりはじめる。生きていた頃は、自分の過去についてほとんど語ることのなかった母。
もちろん、俺から聞いてみたこともあった。でも、答えは帰ってこなかった。過去について問うと、必ず悲しい表情をするものだから、幼心にも聞くべきではなかったのだと後悔した。
そうして結局、母親の過去がわからぬままにいたけれど。
今ならば。この天界でならば、その要因を探ることは容易なはず。
コンコン。
そこまで考えたところで、ドアをノックする音が聞こえた。
「大分よくなったみたいですね」
「リファルシエ様……」
やんわりと微笑む大天使の顔が、母親のものと重なる。
この大天使を裏切るのは心苦しいが、本来の任務もある。
調べごとをするのならば、信頼を得た今が頃合いだろう。
「セフィナ?」
「あ、いえ。まだ少しばかり体調が優れないので、よろしければもう少しだけ休みをくださいませんでしょうか」
「わかりました。セフィナ、しっかりと安静にしておくのですよ?」
「ええ。もちろん」
口先だけの言葉に微笑みを乗せる。
そう。自分は悪魔だ。嘘で心を痛めることもない。穢れた血。目の前の純白を欺くことなど容易にできる。
天使ごっこもそろそろ終わりだ。天界の重要機密を何としてでも盗み出し、悪魔の勝利に加担する。それが自分の役目なのだから。
結論から言うと、悪魔に恋をした。それが彼女の罪だった。それは天界の誰もが忌み嫌うタブー。
しかし彼女の罪は、それだけではない。
彼女は、大天使までもを誑かしたのだ。
皮肉にも、彼女が天使だった頃の役職は自分と同じ第一秘書。その立場を使い、悪魔だけでなく大天使までもを惑わせた。そして、彼女は悪魔と天使の子をそれぞれ一人ずつ産み落としたのだった。
「こんなことが……」
眩暈のする頭を押さえ、気を保つ。
母親に関する記述もそうなのだが、それよりも揺さぶられる記述があった。
それが。
「先代の大天使とお母様との子が、リファルシエだなんて」
彼女は悪魔の子どもを産み落とした後、それを隠して天界で生活していた。それを知った大天使は、あろうことかその子どもごと彼女を匿った。大天使は、このときすでに彼女の毒牙にかかっていた。だから、再び過ちを犯してしまったのだ。
そこで身籠ったのがリファルシエ。ここまで上手く隠し通せていたことも、それでついに明るみに出て。リファルシエを産み落とした後すぐに、彼女はその羽をもがれ、悪魔の子どもと共に魔界へと堕とされた。
ここで普通ならば大天使との子どもも堕とされるところだが、彼の力は赤子の頃から強かったらしく、その純粋で膨大な力を理由に、大天使は彼を天界に留まらせた。
それからは知っての通り、彼は持ち前の人を惹きつける容姿とその人柄で天使たちの信頼を得て、先代の後押しもあり大天使になった。
「一方、自分は母親の死を見て、牢獄に閉じ込められて、か」
資料を静かに閉じ、ため息をつく。
まさか大天使が母の血で繋がった自分の弟だったなんて……。
自分に兄弟がいたなどと、今更知ってもどうしようもない。頭ではわかっているはずなのに、心がまだ衝撃を受け止めきれていない。
いや、それより。そんなことよりも早く天界の機密について調べなければ。
そうしないと、魔界に帰ることはできない。
資料に目星をつけて手を伸ばす。が。
「知ってしまったのですね……」
耳元で静かに呟かれる言葉。すぐさま振り向くと、そこには大天使が立っていた。
「な……。リファルシエ様が何故ここに……?」
慌てて伸ばした手を引っ込める。だが、上手く誤魔化せるはずもない。
遠征というから、大天使の居ぬ間にと書庫に忍び込んだというのに。
「……罠だったのか」
すっと声のトーンを落とし、天使らしく作った顔を捨て、睨んでみる。
「策と言って欲しいですね」
挑発を軽く流した大天使は、特に動じることもなく、いつも以上に胡散臭い微笑みを湛える。
これは恐らく全てを知っているのだろう。どれだけ天使として繕おうと無駄だ。
「アンタは気づいてたのか?」
「えぇ。すぐにわかりましたよ。貴方が私の弟だと。先代様の魔力の気配がしましたので」
「先代の魔力? そんなのが宿っているわけないだろ」
「いいえ。宿っているのです。貴方が見せた力は間違いなく神聖。あれは紛れもない大天使の力でした」
「大天使って。それこそ、そんなのが俺に宿っているわけがない。天使の力だと言うのなら母親の血によるものだろう。あの人は堕天する前に二人を産んだからな」
「違うのです」
「何が違う?」
「違うのです。セフィナ、貴方の方なのです」
「……リファルシエ?」
胸を押さえた大天使が苦しそうに顔を歪める。その瞳はまるで海のようにゆらゆらと揺れ、彼の美しさを引き立てる。
「貴方こそが、本来大天使になるべく者なのです。私こそが、魔界に堕ちるべきだったのです」
「待てよ。何言ってんだよ。まるでアンタが悪魔の子で、自分が天使の子だって言ってるように聞こえ……」
「その通りですよ、セフィナ」
静かに呟かれたその言葉に息を飲む。
「待てよ。アンタの力は間違いなく天使の力で、それが認められたから天界に留まれたんだって、ここに書いて……」
「それは、私が病弱だったからなのです」
「病弱だったから?」
聞き返して大天使を見つめる。確かに今の彼はどこか儚げで、その一言一言が終わりを迎えるための準備、遺言のような重さと苦しさを秘めている気がした。
「私は体が弱かったのです。だから母は、あろうことか、私を助けるために、私を“天使の子”セフィナを“悪魔の子”と“逆”に仕立て上げたのです」
「何言ってんだよ……。アンタが、悪魔の子だって?」
「先代様は天使の力が少ない私に、自分の力を注ぎました。そのおかげで、私は大天使として振る舞うことができたのです。そう、魔界で苦しむ貴方をよそに、私は天界で先代様や天使たちの愛を受けて、弱い体で恥ずかしくも生きてきたのです……」
目を伏せて肩を震わす大天使は、演技をしているようにも思えない。
「じゃあ、アンタが兄で、ほんとに悪魔で……」
「だから言ったじゃないですか。貴方が私の弟だと。セフィナ。ああ、セフィナ。私は貴方になんと言って謝ればいいのか……。私の体が弱かったせいで、貴方が私の代わりになって酷い地獄を味わった。私はそれが、この上なく苦しいのです」
「……」
だからといって、悪魔だと言われてすぐには信じられなかった。心の在り方も、容姿も天使そのもので、全てが美しかった。
「ですが、どうかこの上に重ねて酷いことを頼ませてほしいのです。……お願いです、セフィナ。私の代わりにどうかこの天界を治めてほしい」
「代わりって……。アンタはどうすんだよ。今更魔界にでも行くつもりか?」
「はは。そうして罪を償いたいのは山々なのですが……。駄目なんです」
からりと笑って見せたのも束の間、すぐに大天使は悲しそうな顔をしてそれを隠すように俯く。
「おい?」
「すみません。でも、もう、私の穢れた力では、どうしようもないのです。先にも申した通り、先代様は私に魔力を与えてくださいました。ですが、先代様が死んでからというもの、私は、足りなくなったその力を、命と引き換えにして保ってきたのです。でも、所詮私は悪魔。自分で天使としての力を作るのは当に限界が来ていました」
ですが、と顔を上げた大天使に、そっと手を取られ両手で包み込まれる。
「そんなときに貴方が現れたのです。やはり、本物は救いの神のように、ですね」
弱々しく微笑む大天使に胸が詰まる。
どうしてアンタがそんな神に縋るような顔をするんだ。
神というならば明らかに大天使の方だ。それなのに。
「改めて、セフィナ様、どうか、天界をお救いください」
「やめろ。俺にそんな力はない。それに、アンタのせいでどれだけ苦労したと……。アンタの頼みなんか俺が聞くと本気で思っているのか?」
大天使に握られた手を振りほどく。すると、一瞬だけ傷ついたような表情をした後、大天使はまた静かに胸に手を当て透き通るような声を紡ぐ。
「おっしゃるとおりです。私の罪は消えることはありません。どれだけ努めようとも。私は、綺麗にはなれません」
揺れる瞳で尚も微笑もうとする大天使は、見ているこっちが辛くなるほどに痛々しく。
「私のことはどうしたって構いません。貴方の言うことを全て聞きます。貴方の気が済むまで殴ってもらって構いません。殺したって構いません。貴方が望むならば、この先のない命、喜んで捧げましょう」
「それは……」
「ですが、お願いは取り消せません。貴方しかいないのです。この天界の民を、どうかお守りください」
大天使が膝をつき、首を垂れ、そのまま地面へ指と額を押し付ける。
「待て、土下座しろだなんて、誰が言った?!」
慌てて大天使の腕を取り、そのまま持ち上げる。
「すみません……。でも、私にはもう、これくらいしか……」
よろよろと自分の足で立ち上がった大天使の瞳から、はらりと涙が零れ落ちる。
「なんでアンタはそこまでするんだよ」
「先代様の遺言なのです……」
溢れる涙を袖で押さえながら大天使がぽつりと呟きはじめる。
「先代様は、私が穢れていることを知りながらも、自分の子どものように愛してくださいました。本当は貴方に向けられるはずだったその愛を、私に向けてくださったのです。死ぬ前に先代様は言いました。 貴方に本当のことを伝えてほしいと。そして、二人で天界を治めてほしいと」
ちらりと見せた瞳は赤く、未だ涙が溢れては流れを繰り返す。
「私は、貴方をずっと探していました。ですが、魔界は遠く、先代様でも無理だったそれを私の能力で叶えられるはずもなく……。能力も衰える一方で、焦っていたところ、貴方の方から来てくれた。これは、運命なのだと思いました」
大天使がにこりと笑った瞬間、その身がぐらりと傾く。
「おいっ!」
とっさに大天使を受け止め、抱きしめる。
「すみません、ようやく……、ようやく、お話しできたので、つい、力が抜けて……」
「大丈夫か?」
「正直に申し上げると、立ってるのもままならないくらいには、ガタが来ていて。もう使えないですね、はは」
そう言って力なく笑う大天使の体は言葉の通り、こちらがしっかり支えていないとずり落ちてしまうぐらいに伸し掛かっている。
「ごめんなさい。私にもっと力があれば、こんな醜態晒さずに、上手く貴方を動かせたんですけど……。もう、駄目ですね。こうなってしまえば、貴方に縋ることしかできない。貴方の同情を誘う卑怯なやり方しか、できない。でも、どうか、願わせてください。貴方が大天使としてこの天界を治めてくださることを」
「おい、そんな願い、聞けるわけ……」
「いいえ。貴方は純粋な血をお持ちです。だから、断ることなど、できるはずがない」
「……少し時間をくれ」
自身が力を失おうとも、真っすぐにこちらを信じる瞳が、その言葉の強さが怖かった。
だから、迷った。大天使の言葉を鵜呑みにすることも、大天使を恨んで殺すこともできなかった。
*
いくつもの剣戟の響き。魔力がぶつかる衝撃。そして天使と悪魔、双方の叫び声。
天界の地は、ついに悪魔に攻められて、その守りは今まさに崩れようとしていました。
『大天使様! 結界が!』
「……っ!」
大天使は自分を奮い立たせ、もうとっくに枯れてしまった魔力を絞り出そうと試みました。
しかし、大天使がどんなに頑張っても、結界は修復することもなく。
ついに天界を守る壁は、悪魔たちの攻撃を受けて消え去ってしまいました。
「っ。私は、私がやらねばならないのに!」
大天使は武器を手に、天界に侵入してくる悪魔を蹴散らそうとしましたが。
あっさりと悪魔に刺されて、地面に倒れてしまいました。
「あ……」
その傷口からは、おびただしい量の血が流れ出しました。
そう。黒く濁った悪魔の血が。
『大天使、様……?』
『なんだコイツ、悪魔の血じゃねえか』
その場にいた天使も悪魔も、大天使の血を見て驚きました。
「私は……」
大天使は見ました。自分を見下ろす天使たちの目が冷めてゆくのを。
『大天使様じゃないぞ、コイツ』『悪魔だ!』『コイツも悪魔だ!』
天使たちは持っていた聖水を大天使に躊躇いもなく零しました。
「ぐ、あ……!」
大天使は、その焼けるような痛みに耐えながら、最後の力で立ち上がりました。
そして。
「そう、私は悪魔。私、リファルシエは悪魔だったのです。セフィナこそが本当の大天使なのですよ。天使の皆さん」
にこり、と笑顔を張り付けて、全てを受け入れるように手を広げました。
『殺せーーー!』
天使たちの叫びと共に、大天使の体は無数の槍で突き刺されました。
それでも、大天使が微笑みを崩すことはありませんでした。
*
外の騒ぎは気づいていた。それでも、まだ大天使と顔を合わせる勇気がなく、自室に閉じこもっていた。自分が大天使として天界を率いる義理はない。だけど、大天使の頼みを無為にもできない。だから……。
「何だよ、これ……」
外に出て、攻め入る悪魔たちをねじ伏せ、大天使がいるであろう最前線へ向かった。
そこにあったのは、酷い光景だった。天使たちの槍にくし刺しにされたリファルシエ。その体からは黒い血を流し、その瞳からは黒い涙を流していた。
『セフィナ様!』
「どうして、こんな、ことを……?!」
駆け寄ってくる天使たちに問い詰める。
『これは悪魔です』『本当にリファルシエ様かはわかりません』『ですが、どちらにせよ、悪魔なので』『本物であったとしたら、私たちは騙されていたのでしょうか』『セフィナ様、もう私たちにはわからないのです』『いえ、セフィナ様こそが大天使』『そのお力、私たちにはわかります』
『どうか、お守りくださいセフィナ様』『我らが天界を』『ああ大天使セフィナ様』
天使たちの鬱陶しい信仰に黙って腕を振るう。
途端に、天使たちが悪魔たちを巻き込んで消し飛ぶ。
『な、にを……。セフィナ様?』『貴方は天使では……?』
『おい、セフィナだろ、お前! 情報を掴むのはもういい! 結界が消えたんだ!』『さっさと悪魔側につけ!』『また牢獄に入れられてえのか?!』
「うるさいな……。黙れよ。俺には天使とか悪魔とか、もうどうでもいいんだよ」
『セフィナ様……?』『セフィナ、何言ってやが……』
「消えろ」
「ん……。あ、れ……?」
「リファルシエ。大丈夫?」
腕の中で目を覚ました兄に微笑む。
「あの、悪魔は……?」
「倒したよ」
「天使たちは……」
「大丈夫。俺が大天使になったよ。アンタは心配しなくていい」
「そう、ですか。良かった……。やっぱり、当たり前ですが、貴方の方が大天使に相応しい……」
「そうでもないさ」
焦点の合っていないところをみると、恐らくもう目が見えていないのだろう。
天使の血だからといって穢れがない訳ではない。それは天使たち見た今ならわかる。そして、俺も。
辺りには天使と悪魔の屍。全てを燃やし尽くした。あっけなかった。今まで苦しまされていた全てのしがらみも一瞬にして滅ぼせた。
「ああ、私は、本当に、貴方に何をすることもできない。貴方は、こんなにも、立派なのに……。ああ、どうか、どうか天使たちを、お願いします。ああ神よ、どうか、穢れた私を……いえ、許しを乞うなど、私がやってよいことでは、ありませんね……。では、全ての罪を、どうか……私に。セフィナ、私の、弟、可愛い子よ……。どうか、幸あらんことを……」
最後の力でいつかのように俺の額に口づけ、リファルシエが力尽きる。
力を使って傷口を塞いだけれど、やはり手遅れだった。死を少しばかり遅らせるのがせいぜいだった。
「ああ、全てを裏切ってしまったね」
ぐったりと全てを預けたリファルシエに語り掛ける。
悪魔も天使も、母親も父親も。そして、目の前のたった一人の愛しい兄さえも。全てを裏切った。
「でも。俺は他人の幸せなんかよりも、アンタの命が欲しいんだ」
美しい人形のようなリファルシエ。その頬を撫で、口づける。
「ずっと囚われてきた。過去に、悪魔に、天使に。そしてアンタに。だからさ。これからの人生は自分勝手でいいよな。この力だってさ。きっとこのためにあるんだよ。そうだ。リファルシエだって言ってたじゃないか。俺の幸せを願っていたじゃないか。それなら、いいよね?」
リファルシエの胸に手を当てる。すると、禍々しい闇が溢れ出し。リファルシエの真っ白い羽根が真っ黒に染まって抜け落ちる。銀色に輝いていた髪も、青い瞳も、全てが闇に染まる。それと同時に、周りの屍が急激に干乾びてゆく。
「死ぬのを止めることはできなかったけれど。“生まれ変わらせる”ことはできそうなんだ。まぁ、色々犠牲にした上で、だけどね」
黒髪をそっと撫でる。すると、全てを吸収し終えた彼の瞼が震えて。
「ん……。ここは……? 私、は……?」
不思議そうに辺りを伺う瞳とすぐにかち合う。
「おはよう。リファルシエ」
「貴方は……。誰、です……? 天使、様……?」
その言葉に、ゆっくりと微笑む。
そう。貴方は何も知らないままでいい。
「そう。俺は天使だよ。見えるかい。あの死屍累々が。その中から君を助けたんだ」
「どうして、私だけ……」
「それはね、君しか“助からなかった”んだ。そう。もうみんな手遅れだったんだよ。そう心が穢れすぎていて、ね?」
柔らかい黒髪をねっとりと撫で上げてやる。
さあリファルシエ。君との出会いをもう一度やり直そう。
BL度は薄目です。悲劇メイン。
セフィリファです。
ーーーーーーーーーーーーー
あるところに、天使と悪魔の間に生まれた子がいました。
魔界で育ったその子は、悪魔たちから酷い差別を受けながら何とか生き延びていました。
一方その頃、悪魔たちによる天界征服の動きが活発化しており、天界の内情を知るために数名の悪魔たちが天使に紛れ込み、暗躍を試みました。
しかし、悪魔の血は隠すことが難しく、すぐに天使たちにより取り押さえられてしまいました。
そこで、悪魔たちは思いつきました。
あの子ならば、半分天使の血が流れているあの子ならば。きっとバレることなく行けるだろうと、牢に入れられたままのその子を大天使の秘書候補として送り込むことにしたのです。
*
ちゃぷんという音を立て、水瓶の中に天使たちの手が次々と沈められる。
『よし。次!』
天使たちが順に手を聖水に浸してゆくその光景は、奇怪だ。
そう、この光景は全くもって異常だった。
先日、天界で天使のフリをした悪魔が捕まるという事件が起こった。
この中にも悪魔が紛れているかも、と怯えた天使たちは急遽、大天使の秘書となろう者たちの中から悪魔を炙り出す方法として、この絵踏みのような取り締まりを行ったのだった。
こんなことで悪魔が割り出せるのだろうか。
少なくとも、俺を炙り出すことができない。なぜなら――。
「これでよろしいでしょうか」
聖水に手をつける。平然と。その立ち振る舞いは、傍から見ても他の天使と変わらないだろう。
痛みも特にないな。
水に浸かった自分の手を見つめる。
本当に。自分には“天使の血が半分流れている”のだと、認めざるを得ないな。まあ、だからこそ、この仕事を与えられたんだけど。
半分は天使。もう半分が悪魔。“そんなものが存在するはずがない”。“普通”ならばそう思うだろうけど。
『よし。次!』
見事に何もなく通り抜けた。半分は悪魔の血だ。反応するかとも思ったが、どうやらセーフだったらしい。自分としては、ここでさっさとくたばるのも悪くはなかったのだが。
浸した手を拭き、特にこれといった感情も湧かないままにその場を離れようとしたが。
そのとき。
『う、うぐああああああああ!!!!』
後ろの天使、今聖水に手を突っ込んだ者が、断末魔のような叫び声を上げて苦しみ出す。
『誰か取り押さえろ!』
正義感に燃える若い天使の叫び声。
それを聞き、ここぞと悪魔の前に立ちはだかる。ここで同じ悪魔を捕まえる素振りでもすれば、疑われる確率も低くなるだろう。いや、むしろここで捕まえないでぼんやりしている方が疑われるというもの。
『お前、助けてくれ! お前も同じ、あく……』
ボッ。
悪魔が言い終わるより先に、その体に炎が灯る。残念だが、俺は悪魔に温情など抱けない。
『ぎゃあああああああああ!!!』
『おぉ』
燃える燃える。
その魔力の手際に、感心したような天使たちの声。
「見事ですね」
ふと、後ろから肩を叩かれ、振り返る。
「あ……。大天使、様……」
全てを慈しむような神々しい光を纏った天使が、そこに立っていた。
息を飲む。
天界に来て何度も冷や汗を掻いたが、大天使と対峙した今、それらと比べ物にならないぐらいに緊張する。
ここでバレたら、自分はあの悪魔のようになるのだろうか。
自分の手を見つめる。
まさか自分が魔力を使えるとは思わなかった。
いつも餓えていたから力を蓄える余裕などなかった。力を使う場面もなかった。
だから、自分の力が他人と比べてどうなのかもわからなかった。
今ここでこの大天使と戦ったとして、自分は勝てるのだろうか。
いや……。勝てないだろう。なんせ、魔界の誰もが敵わないのだ。閉じ込められていた身の自分が敵うはずなどない。
それに、目の前に溢れる光。これが恐ろしくも美しく。それに自分の邪悪を打ち付けるのは躊躇われる。
「名は何と?」
「え……。っと、セフィナです」
優しい問いかけに、自然と口が開く。
この人の秘書となって、情報を探り出せ? そんなことが、自分にできるのだろうか。
完璧を形にしたような、神のようなその存在に、ふとそんな疑問が湧き上がる。
今からでも逃げてしまおうか。いや、でもどうせ逃げたとしても、自分一人では生きていけやしない。それに、悪魔からも追われて、きっと無残に殺されて……。
「決めました。貴方を第一秘書にします」
「え……?」
ぽん、と肩を叩かれ、悪い方向に進んでいく思考が遮られる。
綺麗な人だなあ……。じゃなくて!
「俺が、第一秘書、ですか??」
「ええ。その力もですが……」
ふいに大天使が優しく手を取る。そして。
「貴方のことが気に入りましたので」
ふんわりと花が咲くような笑みでそう告げた。
秘書に就いて数週間。情報を探りつつ、大天使リファルシエの仕事を手伝って。
くたくたになりながらも、充実した日々を過ごした。
天使の世界は暖かく、優しく。魔界にいたときと比べ物にならないぐらいに心地よく過ごしやすい。
ここにいる限りは、自分が本当の天使になったような気がした。自分が居るべきはこの世界なのではないかとも思った。
でも。
自分が悪魔だと知ったら天使たちだって、きっと……。
自分の手首を見る。袖で隠れていたそこには、無数の傷跡。
「どうかしましたか?」
びくっ。
「いえ、なんでも」
いきなり後ろから声を掛けられ、咄嗟に手首を隠す。
声の主は大天使。一番見られてはいけない相手。
「ええと。リファルシエ様、いつからそこに……」
「今しがた。セフィナが立ち止まっていたので何事かと思いまして」
いつもと変わらぬ優しい口調。
見られていなかったみたいだな。
「いえ。特に何事も」
そっと安堵の息を漏らしながら、大天使に微笑む。
「そうですか。それはそうと。ここは慣れましたか?」
「えっ、ええ。それなりに」
「それはよかった。この城は広いですからね。迷ってしまったのではないかと思いまして」
「いえ。今のところは大丈夫です」
視線が彷徨いそうになるのを何とか堪え、笑顔を張り付けたまま当たり障りのない返答をしていく。
この人は何を考えているのかわからないな。
ずっとニコニコと相手を包み込むような微笑みを浮かべる大天使に、そんなことを思ってしまう。
「貴方の評判は聞いています。どうやら随分と城の使用人たちに気に入られているようですね」
「え、いえ。そんなことは」
自分が気に入られるなんてこと、あるのだろうか。
今まで忌み嫌われて生きてきた。人からの好意など、貰った記憶がない。
そんな自分が、ここ数日で気に入られるだなんて、そんなことがあるようには思えなかった。
「もちろん私も貴方のこと、気に入ってますよ」
透き通った優しい音。それが心にすっと入ってくる。
「えっと」
慣れない言葉に、あたふたとしている隙に、手を取られる。
「だから、どこにも行かないでくださいね?」
ぎゅっと手を握られた瞬間、忘れかけていた恐怖がせり上がってくる。
「ど、どこにもって……?」
「いえ、なんだか貴方がどこかに行ってしまいそうな顔をしていたものですから」
優しいはずの音が、首にナイフをあてがわれたような圧迫感を呼び起こす。
「……そんな顔していましたか? すみません」
どこか。どこかとは、例えば。魔界、だろうか。
全てを知っているような神々しさを前に、焦らざるを得ない。
この大天使は、本当は知っているんじゃないのか?
自分が悪魔だってこと。情報を引き出したら、魔界に帰ること。
「きっと疲れているのでしょうね。今日はもういいですから、しっかり休んでください」
「ですが」
「これは命令ですよ」
「……わかりました」
きっぱりと言われては、抵抗するのも不自然か。
そう思い、設けられた自室に足を進める。
怖い。
そんな思いが、自分の鼓動を早くさせてゆく。
あの大天使は美しい。優しい。だけれども。反面、怖くもあるのだ。
やはり大天使にはバレているのかもしれない。
でも。だからといって情報もなしに、のこのこ魔界に帰ることもできない。
それに、魔界に帰ったとしても、また牢獄に入れられて管理されるだけだ。
それは嫌だ。
今の恐怖よりも、数倍の恐怖、そして憎悪が心の中に渦を巻く。
魔界での暮らしは、酷いものだった。たまに悪魔が来たと思えば揶揄われ。時間の流れなど、わからない。餓えで気が狂いそうな一人ぼっちの世界。
もうあんな思いは……。
「うう、嫌だ……。怖い……。出して、ここから、早く!!!」
どっ。
目が覚める。
「夢、か……」
大量に掻いた冷や汗を拭いながら呼吸を整える。
頭が割れるように痛い。
魔界の牢獄での恐怖。それが、天界に来た今も夢に現れて苦しみを蘇らせる。
今は大丈夫。まだ大丈夫。だって、ここは天界で。やらなくてはいけないことがあって。
手首をそっと撫でる。
――もちろん私も貴方のこと、気に入ってますよ――
ふと昨日、大天使が言った言葉を思い出す。
あの言葉は、本心だろうか。
初めて自分に向けられた好意。それがもし本心からの言葉だったとしたら、どんなにいいだろうか。どんなに自分の存在を肯定できることだろうか。
そんな取り止めのないことを考えてから首を振る。
しっかりしろ。自分はただ与えられたことをやるまで。どうせ居場所などない。
天使たちだって、悪魔だと知れば容赦なく殺しにかかってくるだろう。
だから、全て諦めればいい。ただ死んだように生きればいい。
「それでは、今日は森の奥にある教会への護衛を頼みます。セフィナ」
「はい」
起きてしばらく、準備を整え、大天使の元へ赴き朝食を共にする。そこで今日のスケジュールについて話すのが日課となっていた。
最初は、大天使とわざわざ朝食をとるなんて、と断った。しかし、強引に推し進められ、今ではすっかり慣れてしまった。
「まぁ、滅多に魔物など出ないので安心していいですよ」
「……」
天界には魔物などいないと思っていたが、どうやらそこは魔界と変わらず、森などに住んでいるらしく。
ただ、魔界と違って滅多なことがない限り、人を襲うことはないとか。
それだったら、確かに安心していいのかもしれない。
そんなことを思いながら、大天使が語り掛けてくるのに当たり障りのない返事をしていく。
だが。やはり。俺は不幸を背負っているようで。
もう少しで教会に辿り着こうというとき、それは襲い掛かってきた。
翼を持った獣。どうやらこれが天界の魔物らしい。魔界のものより邪悪さを感じさせないが、その形相はやはり怖い。
「っ!」
覚悟を決めて、手に力を込める。
すると、赤々と渦巻く炎が数匹の魔物を飲み込み、塵と化す。
「はっ!」
一方では他の護衛天使や、大天使自らが応戦。
そのおかげで、魔物はみるみる減り、ついに全てを倒すに至る。
「ありがとうセフィナ。君が居てよかったよ」
「はっ、お役に立てて、はぁ、光栄、ですっ……」
肩で息をしながら、なんとか大天使に答える。
ああ。かっこ悪いな。こんなに体力消耗しちゃって。
でも、なんか、こう、体が、しんどくて、頭、熱く……。
「セフィナ、危ない!!」
「え?」
大天使が叫び、こちらに向けて魔法を放とうと構えるのが見える。
なんだ。殺されるのか……。
ふらふらになった体では、到底避けきれそうにない。
ざっ。
「うぐっ!」
鋭い何かで身を切られる。
背中に走ったその痛みに耐えられず、地面に伏す。
あれ。背中……? 大天使が放った魔法じゃ、ない……。
霞む視界で、大天使がこちらに近づいてくるのを捉える。
「……フィナ!……っかり……て……さい。セフィ――」
大天使が俺の体を抱き起して叫んでいる。だけど、駄目だ。聞き取れないや。
ひた、と大天使の手が俺の背中に添えられる。
温かい。でも駄目だ、痛い。熱い。意識が……。
「ん……」
目を開く。
眩しいほどに辺りが白く、寝起きの眼には辛くて目を細める。
どうやらここは自室のようだ。自室が与えられて久しいというのに、中々その壁の白さと窓から差す神々しい陽の光に慣れることができずにいる。
「目が覚めましたか?」
びくっ。
いきなり掛けられた声に肩を震わす。
「あぁすみません、脅かすつもりは。背中はまだ痛みますか?」
「あ……」
そうだ、魔物に襲われて……。
「すみませんっ、リファルシエ様にご迷惑をっ!」
起き上がろうとするが、途端に眩暈がして頭を押さえる。
「駄目ですよ。熱もあるんですから。きっと熱のせいで注意力が低下していたのでしょう。すみません、私が無理をさせてしまいました。もっと早くに貴方の不調を見抜くべきでしたのに」
「いえ……」
大天使が悲し気に目を伏せる。その愁いだ表情もやはり例外なく美しい。
「きっと新しい環境に体も戸惑っているのでしょう」
「ええ……。恥ずかしながら」
曖昧に微笑みながら、その顔から目を逸らす。“新しい環境”というのは、仕事のことか、それとも土地のことか。魔界から天界へと移ったのならば、体を壊すのも無理はないという意味を含んではいないだろうか。
そんなことを疑っていると、大天使がふっと微笑む。
「ですが、傷が残らなくてよかった」
「っ!」
その微笑みをまともに見てしまった瞬間、胸が高鳴る。
ああ、だからあまり見ないようにしていたというのに。
いや、これは仕方がないこと。きっと大天使を見ては誰もがこうなってしまう。これは、そういう類の才能といっていい。人を惹きつけて止まない彼だからこそ大天使として君臨しているのだろう。
「でも、不調であの火力が出せるというのは素晴らしい。やはり、貴方を秘書にしてよかったと思っています」
どうやら俺の力は、自分が思っているほど弱いものではなかったらしい。
だけど、きっと逆だ。
不調で火力が出せたんじゃなく、あの火力を出したから不調になったんだ。
確かに、環境の変化も悪夢で良質な睡眠が取れていなかったことも要因の一つだ。でも多分、初めて力をまともに使ったから、というのが大きいのだろう。
そんなことを考え込んでいると、ふいに大天使の顔が近づく。
「え?」
「どうか早く癒えますよう」
ちゅ。
静かな祈りと共に、額に口づけが落とされる。
「っ!」
その一連の動作に、母との数少ない思い出がぶわりと蘇る。
怪我をする度に、今のようなキスをしてくれていた。
恐らく天使のまじないのようなものなのだろう。
今更そんなこと、わかってもどうしようもないというのに。
どうしようもなく胸が痛かった。
堕天使になった母と魔界で生きていた頃は、まだ俺も母も天使とバレておらず、父はいなくとも幸せに暮らしていた。
でもある日、お金が足りなくなってどうしようもなくなった母は、二人を見捨てた父に縋った。そして、あっさりと殺された。
父は、母を殺しただけじゃ飽き足らず、留守番をしていた俺の元に現れて。
「お前は利用価値がありそうだな。飯の種になりそうだ。コイツみたいになりたくなかったら、大人しく言うことを聞け」
そう言って、担いでいたものを目の前に投げた。
母の死体だった。
幼かった俺は、どうすることもできなくて。
それから、偶に見世物のように扱われ。死なない程度に生かされ。牢獄に閉じ込められて。
「お母様……」
自分の父が憎かった。悪魔が憎かった。自分の血が憎かった。
手首を切った。ズタズタに。血が流れた。
もちろん痛かったけれど、その汚い真っ赤な血が全部流れてしまえばいいと思った。
そのまま死ねば良かったのに、結局今まで生きてしまった。
でも。
「こうして天界に来れたのは良かったかもしれないな」
母親が生きていた頃の優しい思い出の一つ一つを思い出して、ぽつりと呟く。
やはり母親は堕天したと言っても、心は天使そのものだった。大天使の仕草や優しい物言い、天使特有のオーラが母親のものとそっくりだった。
そういえば、お母様は何故堕天使になってしまったのだろうか。
ふいに生まれた疑問。それが、じわじわと気になりはじめる。生きていた頃は、自分の過去についてほとんど語ることのなかった母。
もちろん、俺から聞いてみたこともあった。でも、答えは帰ってこなかった。過去について問うと、必ず悲しい表情をするものだから、幼心にも聞くべきではなかったのだと後悔した。
そうして結局、母親の過去がわからぬままにいたけれど。
今ならば。この天界でならば、その要因を探ることは容易なはず。
コンコン。
そこまで考えたところで、ドアをノックする音が聞こえた。
「大分よくなったみたいですね」
「リファルシエ様……」
やんわりと微笑む大天使の顔が、母親のものと重なる。
この大天使を裏切るのは心苦しいが、本来の任務もある。
調べごとをするのならば、信頼を得た今が頃合いだろう。
「セフィナ?」
「あ、いえ。まだ少しばかり体調が優れないので、よろしければもう少しだけ休みをくださいませんでしょうか」
「わかりました。セフィナ、しっかりと安静にしておくのですよ?」
「ええ。もちろん」
口先だけの言葉に微笑みを乗せる。
そう。自分は悪魔だ。嘘で心を痛めることもない。穢れた血。目の前の純白を欺くことなど容易にできる。
天使ごっこもそろそろ終わりだ。天界の重要機密を何としてでも盗み出し、悪魔の勝利に加担する。それが自分の役目なのだから。
結論から言うと、悪魔に恋をした。それが彼女の罪だった。それは天界の誰もが忌み嫌うタブー。
しかし彼女の罪は、それだけではない。
彼女は、大天使までもを誑かしたのだ。
皮肉にも、彼女が天使だった頃の役職は自分と同じ第一秘書。その立場を使い、悪魔だけでなく大天使までもを惑わせた。そして、彼女は悪魔と天使の子をそれぞれ一人ずつ産み落としたのだった。
「こんなことが……」
眩暈のする頭を押さえ、気を保つ。
母親に関する記述もそうなのだが、それよりも揺さぶられる記述があった。
それが。
「先代の大天使とお母様との子が、リファルシエだなんて」
彼女は悪魔の子どもを産み落とした後、それを隠して天界で生活していた。それを知った大天使は、あろうことかその子どもごと彼女を匿った。大天使は、このときすでに彼女の毒牙にかかっていた。だから、再び過ちを犯してしまったのだ。
そこで身籠ったのがリファルシエ。ここまで上手く隠し通せていたことも、それでついに明るみに出て。リファルシエを産み落とした後すぐに、彼女はその羽をもがれ、悪魔の子どもと共に魔界へと堕とされた。
ここで普通ならば大天使との子どもも堕とされるところだが、彼の力は赤子の頃から強かったらしく、その純粋で膨大な力を理由に、大天使は彼を天界に留まらせた。
それからは知っての通り、彼は持ち前の人を惹きつける容姿とその人柄で天使たちの信頼を得て、先代の後押しもあり大天使になった。
「一方、自分は母親の死を見て、牢獄に閉じ込められて、か」
資料を静かに閉じ、ため息をつく。
まさか大天使が母の血で繋がった自分の弟だったなんて……。
自分に兄弟がいたなどと、今更知ってもどうしようもない。頭ではわかっているはずなのに、心がまだ衝撃を受け止めきれていない。
いや、それより。そんなことよりも早く天界の機密について調べなければ。
そうしないと、魔界に帰ることはできない。
資料に目星をつけて手を伸ばす。が。
「知ってしまったのですね……」
耳元で静かに呟かれる言葉。すぐさま振り向くと、そこには大天使が立っていた。
「な……。リファルシエ様が何故ここに……?」
慌てて伸ばした手を引っ込める。だが、上手く誤魔化せるはずもない。
遠征というから、大天使の居ぬ間にと書庫に忍び込んだというのに。
「……罠だったのか」
すっと声のトーンを落とし、天使らしく作った顔を捨て、睨んでみる。
「策と言って欲しいですね」
挑発を軽く流した大天使は、特に動じることもなく、いつも以上に胡散臭い微笑みを湛える。
これは恐らく全てを知っているのだろう。どれだけ天使として繕おうと無駄だ。
「アンタは気づいてたのか?」
「えぇ。すぐにわかりましたよ。貴方が私の弟だと。先代様の魔力の気配がしましたので」
「先代の魔力? そんなのが宿っているわけないだろ」
「いいえ。宿っているのです。貴方が見せた力は間違いなく神聖。あれは紛れもない大天使の力でした」
「大天使って。それこそ、そんなのが俺に宿っているわけがない。天使の力だと言うのなら母親の血によるものだろう。あの人は堕天する前に二人を産んだからな」
「違うのです」
「何が違う?」
「違うのです。セフィナ、貴方の方なのです」
「……リファルシエ?」
胸を押さえた大天使が苦しそうに顔を歪める。その瞳はまるで海のようにゆらゆらと揺れ、彼の美しさを引き立てる。
「貴方こそが、本来大天使になるべく者なのです。私こそが、魔界に堕ちるべきだったのです」
「待てよ。何言ってんだよ。まるでアンタが悪魔の子で、自分が天使の子だって言ってるように聞こえ……」
「その通りですよ、セフィナ」
静かに呟かれたその言葉に息を飲む。
「待てよ。アンタの力は間違いなく天使の力で、それが認められたから天界に留まれたんだって、ここに書いて……」
「それは、私が病弱だったからなのです」
「病弱だったから?」
聞き返して大天使を見つめる。確かに今の彼はどこか儚げで、その一言一言が終わりを迎えるための準備、遺言のような重さと苦しさを秘めている気がした。
「私は体が弱かったのです。だから母は、あろうことか、私を助けるために、私を“天使の子”セフィナを“悪魔の子”と“逆”に仕立て上げたのです」
「何言ってんだよ……。アンタが、悪魔の子だって?」
「先代様は天使の力が少ない私に、自分の力を注ぎました。そのおかげで、私は大天使として振る舞うことができたのです。そう、魔界で苦しむ貴方をよそに、私は天界で先代様や天使たちの愛を受けて、弱い体で恥ずかしくも生きてきたのです……」
目を伏せて肩を震わす大天使は、演技をしているようにも思えない。
「じゃあ、アンタが兄で、ほんとに悪魔で……」
「だから言ったじゃないですか。貴方が私の弟だと。セフィナ。ああ、セフィナ。私は貴方になんと言って謝ればいいのか……。私の体が弱かったせいで、貴方が私の代わりになって酷い地獄を味わった。私はそれが、この上なく苦しいのです」
「……」
だからといって、悪魔だと言われてすぐには信じられなかった。心の在り方も、容姿も天使そのもので、全てが美しかった。
「ですが、どうかこの上に重ねて酷いことを頼ませてほしいのです。……お願いです、セフィナ。私の代わりにどうかこの天界を治めてほしい」
「代わりって……。アンタはどうすんだよ。今更魔界にでも行くつもりか?」
「はは。そうして罪を償いたいのは山々なのですが……。駄目なんです」
からりと笑って見せたのも束の間、すぐに大天使は悲しそうな顔をしてそれを隠すように俯く。
「おい?」
「すみません。でも、もう、私の穢れた力では、どうしようもないのです。先にも申した通り、先代様は私に魔力を与えてくださいました。ですが、先代様が死んでからというもの、私は、足りなくなったその力を、命と引き換えにして保ってきたのです。でも、所詮私は悪魔。自分で天使としての力を作るのは当に限界が来ていました」
ですが、と顔を上げた大天使に、そっと手を取られ両手で包み込まれる。
「そんなときに貴方が現れたのです。やはり、本物は救いの神のように、ですね」
弱々しく微笑む大天使に胸が詰まる。
どうしてアンタがそんな神に縋るような顔をするんだ。
神というならば明らかに大天使の方だ。それなのに。
「改めて、セフィナ様、どうか、天界をお救いください」
「やめろ。俺にそんな力はない。それに、アンタのせいでどれだけ苦労したと……。アンタの頼みなんか俺が聞くと本気で思っているのか?」
大天使に握られた手を振りほどく。すると、一瞬だけ傷ついたような表情をした後、大天使はまた静かに胸に手を当て透き通るような声を紡ぐ。
「おっしゃるとおりです。私の罪は消えることはありません。どれだけ努めようとも。私は、綺麗にはなれません」
揺れる瞳で尚も微笑もうとする大天使は、見ているこっちが辛くなるほどに痛々しく。
「私のことはどうしたって構いません。貴方の言うことを全て聞きます。貴方の気が済むまで殴ってもらって構いません。殺したって構いません。貴方が望むならば、この先のない命、喜んで捧げましょう」
「それは……」
「ですが、お願いは取り消せません。貴方しかいないのです。この天界の民を、どうかお守りください」
大天使が膝をつき、首を垂れ、そのまま地面へ指と額を押し付ける。
「待て、土下座しろだなんて、誰が言った?!」
慌てて大天使の腕を取り、そのまま持ち上げる。
「すみません……。でも、私にはもう、これくらいしか……」
よろよろと自分の足で立ち上がった大天使の瞳から、はらりと涙が零れ落ちる。
「なんでアンタはそこまでするんだよ」
「先代様の遺言なのです……」
溢れる涙を袖で押さえながら大天使がぽつりと呟きはじめる。
「先代様は、私が穢れていることを知りながらも、自分の子どものように愛してくださいました。本当は貴方に向けられるはずだったその愛を、私に向けてくださったのです。死ぬ前に先代様は言いました。 貴方に本当のことを伝えてほしいと。そして、二人で天界を治めてほしいと」
ちらりと見せた瞳は赤く、未だ涙が溢れては流れを繰り返す。
「私は、貴方をずっと探していました。ですが、魔界は遠く、先代様でも無理だったそれを私の能力で叶えられるはずもなく……。能力も衰える一方で、焦っていたところ、貴方の方から来てくれた。これは、運命なのだと思いました」
大天使がにこりと笑った瞬間、その身がぐらりと傾く。
「おいっ!」
とっさに大天使を受け止め、抱きしめる。
「すみません、ようやく……、ようやく、お話しできたので、つい、力が抜けて……」
「大丈夫か?」
「正直に申し上げると、立ってるのもままならないくらいには、ガタが来ていて。もう使えないですね、はは」
そう言って力なく笑う大天使の体は言葉の通り、こちらがしっかり支えていないとずり落ちてしまうぐらいに伸し掛かっている。
「ごめんなさい。私にもっと力があれば、こんな醜態晒さずに、上手く貴方を動かせたんですけど……。もう、駄目ですね。こうなってしまえば、貴方に縋ることしかできない。貴方の同情を誘う卑怯なやり方しか、できない。でも、どうか、願わせてください。貴方が大天使としてこの天界を治めてくださることを」
「おい、そんな願い、聞けるわけ……」
「いいえ。貴方は純粋な血をお持ちです。だから、断ることなど、できるはずがない」
「……少し時間をくれ」
自身が力を失おうとも、真っすぐにこちらを信じる瞳が、その言葉の強さが怖かった。
だから、迷った。大天使の言葉を鵜呑みにすることも、大天使を恨んで殺すこともできなかった。
*
いくつもの剣戟の響き。魔力がぶつかる衝撃。そして天使と悪魔、双方の叫び声。
天界の地は、ついに悪魔に攻められて、その守りは今まさに崩れようとしていました。
『大天使様! 結界が!』
「……っ!」
大天使は自分を奮い立たせ、もうとっくに枯れてしまった魔力を絞り出そうと試みました。
しかし、大天使がどんなに頑張っても、結界は修復することもなく。
ついに天界を守る壁は、悪魔たちの攻撃を受けて消え去ってしまいました。
「っ。私は、私がやらねばならないのに!」
大天使は武器を手に、天界に侵入してくる悪魔を蹴散らそうとしましたが。
あっさりと悪魔に刺されて、地面に倒れてしまいました。
「あ……」
その傷口からは、おびただしい量の血が流れ出しました。
そう。黒く濁った悪魔の血が。
『大天使、様……?』
『なんだコイツ、悪魔の血じゃねえか』
その場にいた天使も悪魔も、大天使の血を見て驚きました。
「私は……」
大天使は見ました。自分を見下ろす天使たちの目が冷めてゆくのを。
『大天使様じゃないぞ、コイツ』『悪魔だ!』『コイツも悪魔だ!』
天使たちは持っていた聖水を大天使に躊躇いもなく零しました。
「ぐ、あ……!」
大天使は、その焼けるような痛みに耐えながら、最後の力で立ち上がりました。
そして。
「そう、私は悪魔。私、リファルシエは悪魔だったのです。セフィナこそが本当の大天使なのですよ。天使の皆さん」
にこり、と笑顔を張り付けて、全てを受け入れるように手を広げました。
『殺せーーー!』
天使たちの叫びと共に、大天使の体は無数の槍で突き刺されました。
それでも、大天使が微笑みを崩すことはありませんでした。
*
外の騒ぎは気づいていた。それでも、まだ大天使と顔を合わせる勇気がなく、自室に閉じこもっていた。自分が大天使として天界を率いる義理はない。だけど、大天使の頼みを無為にもできない。だから……。
「何だよ、これ……」
外に出て、攻め入る悪魔たちをねじ伏せ、大天使がいるであろう最前線へ向かった。
そこにあったのは、酷い光景だった。天使たちの槍にくし刺しにされたリファルシエ。その体からは黒い血を流し、その瞳からは黒い涙を流していた。
『セフィナ様!』
「どうして、こんな、ことを……?!」
駆け寄ってくる天使たちに問い詰める。
『これは悪魔です』『本当にリファルシエ様かはわかりません』『ですが、どちらにせよ、悪魔なので』『本物であったとしたら、私たちは騙されていたのでしょうか』『セフィナ様、もう私たちにはわからないのです』『いえ、セフィナ様こそが大天使』『そのお力、私たちにはわかります』
『どうか、お守りくださいセフィナ様』『我らが天界を』『ああ大天使セフィナ様』
天使たちの鬱陶しい信仰に黙って腕を振るう。
途端に、天使たちが悪魔たちを巻き込んで消し飛ぶ。
『な、にを……。セフィナ様?』『貴方は天使では……?』
『おい、セフィナだろ、お前! 情報を掴むのはもういい! 結界が消えたんだ!』『さっさと悪魔側につけ!』『また牢獄に入れられてえのか?!』
「うるさいな……。黙れよ。俺には天使とか悪魔とか、もうどうでもいいんだよ」
『セフィナ様……?』『セフィナ、何言ってやが……』
「消えろ」
「ん……。あ、れ……?」
「リファルシエ。大丈夫?」
腕の中で目を覚ました兄に微笑む。
「あの、悪魔は……?」
「倒したよ」
「天使たちは……」
「大丈夫。俺が大天使になったよ。アンタは心配しなくていい」
「そう、ですか。良かった……。やっぱり、当たり前ですが、貴方の方が大天使に相応しい……」
「そうでもないさ」
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「ああ、私は、本当に、貴方に何をすることもできない。貴方は、こんなにも、立派なのに……。ああ、どうか、どうか天使たちを、お願いします。ああ神よ、どうか、穢れた私を……いえ、許しを乞うなど、私がやってよいことでは、ありませんね……。では、全ての罪を、どうか……私に。セフィナ、私の、弟、可愛い子よ……。どうか、幸あらんことを……」
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力を使って傷口を塞いだけれど、やはり手遅れだった。死を少しばかり遅らせるのがせいぜいだった。
「ああ、全てを裏切ってしまったね」
ぐったりと全てを預けたリファルシエに語り掛ける。
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「でも。俺は他人の幸せなんかよりも、アンタの命が欲しいんだ」
美しい人形のようなリファルシエ。その頬を撫で、口づける。
「ずっと囚われてきた。過去に、悪魔に、天使に。そしてアンタに。だからさ。これからの人生は自分勝手でいいよな。この力だってさ。きっとこのためにあるんだよ。そうだ。リファルシエだって言ってたじゃないか。俺の幸せを願っていたじゃないか。それなら、いいよね?」
リファルシエの胸に手を当てる。すると、禍々しい闇が溢れ出し。リファルシエの真っ白い羽根が真っ黒に染まって抜け落ちる。銀色に輝いていた髪も、青い瞳も、全てが闇に染まる。それと同時に、周りの屍が急激に干乾びてゆく。
「死ぬのを止めることはできなかったけれど。“生まれ変わらせる”ことはできそうなんだ。まぁ、色々犠牲にした上で、だけどね」
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「ん……。ここは……? 私、は……?」
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「貴方は……。誰、です……? 天使、様……?」
その言葉に、ゆっくりと微笑む。
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「そう。俺は天使だよ。見えるかい。あの死屍累々が。その中から君を助けたんだ」
「どうして、私だけ……」
「それはね、君しか“助からなかった”んだ。そう。もうみんな手遅れだったんだよ。そう心が穢れすぎていて、ね?」
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さあリファルシエ。君との出会いをもう一度やり直そう。
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