ヒキアズ創作BL短編集

ヒキアズ

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21~30

(28)チャラポーカー

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朝比奈 旭(あさひな あさひ)はチャラくて女好きな高校生。クラスメイトの可愛い女子、篠原 来夢(しのはら らいむ)と付き合うために、淡白眼鏡の明崎 真理(あきざき しんり)と友達になれと言われて……。

旭×真理
ーーーーーーーーーーーーー

「だからさあ、来夢ちゃんと付き合うためなんだよ! 明崎、人助けだと思って! 頼むっ!」
 しっかりと頭を下げて頼み込む。
「……だから、何回言われても無理」
 しかしながら、帰ってくるのは冷めた回答。
「あ、おい! 明崎!」
 今日もダメか。
 がっくりと肩を落とす。
「いや、これくらい、慣れてるし……」
 ははは、と一人で笑いながら自分を励ますように呟く。
 俺、朝比奈 旭(あさひな あさひ)は、クラスで一番可愛いマイアイドル篠原 来夢(しのはら らいむ)に惚れていた。
 惚れているからこそ、もう何度やったかわからないくらいに告白をした。
 だけど、いつも帰ってくるのはノー。
 それでもしつこくアタックしていたら、うんざりした来夢ちゃんが『明崎と友達になれたら付き合ってもいいよ』とチャンスをくれた。
 だから!
「せっかく貰ったこのチャンス! 絶対モノにしてやるんだ!」


「あのさあ、だから。さっきも断ったよね?」
「うん。だからこうしてもう一度アタックしてる」
「何度も言うけど。しつこい」
「うん。来夢ちゃんにもよく言われる」
「君さ。篠原さんにあしらわれてるだけだぞ、それ。あの人、絶対お前と付き合う気なんかない」
「でも、言質は取った」
「だから、効果ないって。僕と友達になるなんて絶対に無理だ。篠原さんは、君と付き合いたくないからそう言ったんだよ。万が一僕が折れて友達になれたとしても、彼女は君を伝って僕と仲良くなることしか考えないぞ?」
「うわ。すげーモテます発言」
「僕はうんざりしてるんだ」
 本当に嫌そうに呟いた彼、明崎 真理(あきざき しんり)は俺とは何もかもが真逆だった。
 そして、そんな彼は来夢ちゃんにモテていた。むしろ、クラスの女子の大半はコイツのことが好きなんだという噂を聞いたことがある。
 彼は所謂、地味ガリ勉眼鏡属性なのだが。一つだけ重要なことがあって全てが覆っている。そう。“顔が良い”のだ。
「は~。自分の顔が綺麗だからって、目が肥えすぎてんじゃね~の?」
「それはどうもありがとう」
「は~。なんでこんなんがいいんだよ、来夢ちゃんは~!」
「顔が綺麗だからなんだろ?」
「自分で言うなっての」
「君がそう言ったろ」
「そうだけど!」


「なあ、頼むって!」
 下駄箱で明崎に遭遇して開口一番、いつもの台詞を押し付ける。
「本当に君はしつこいな……」
 それをいつものように明崎がうんざりしながら聞き流す。
 自分でも毎日同じことを言って、あしらわれるのは楽しくはない。でも。
 なぜか飽きるということはなかった。
「で、今日の返事は?」
「駄目に決まってるだろ……」
 やっぱりいつもと変わらない。はっきりとした拒絶。
「あれ、明崎なんか今日は……」
「明崎くん、おはよう!」
 ふいに来夢ちゃんが現れ、明崎の肩を叩いて挨拶をする。
「うわっ。来夢ちゃん!」
「ああ。篠原さんおはよう」
 顔を赤くして来夢ちゃんと朝イチで会えた幸運を噛みしめる俺をよそに、明崎は涼しげな顔で挨拶を返す。
「むぐぐ。来夢ちゃん、俺には?」
「ああ。旭いたの?」
「ああ~。相変わらず冷たい!」
「明崎くん、私ね今日クッキー焼いたんだ~。後で配るから食べて?」
「ああ。わかったよ」
「来夢ちゃん、俺には?」
「消しゴムでも食べてれば?」
「必要以上に冷たい!」
 凍える心を温めるように、腕をさするジェスチャーをしてみせるが、来夢ちゃんはそれをも無視してさっさと教室に向かう。
「君、消しゴム食べれるの?」
「食べれるわきゃねーだろっ!」
 突然の明崎によるすっとこどっこいな質問に、勢いよくツッコむ。
「ふっ」
「な、お前、笑ってんじゃねーよ!」
「ごめん。くだらないなって思ってさ」
「お前が言ったんだろーが!! って……。明崎が笑ってんの初めて見た」
「……」
 一瞬、明崎の表情が凍り付く。そして、こっちが何か言う前にくるりと踵を返す。
「あ、おい。明崎まで俺を見捨てんのかよ!!」
 慌てて靴を履き替えて追おうとしたけれど、ふとさっきの明崎を思い返して手が止まる。
「……やっぱ笑った方が可愛げあるよな、アイツ」
 いつもの冷たさと比べてみて、断然あっちの方がいい。というか……。
「というか、俺が何でンなこと考えてんだ!」
 頭をぶんぶん振って、思考を止める。
 考えるなら来夢ちゃんのことだ。そう。来夢ちゃんのクッキー。なんとしてでもゲットしたい!
 そして、あわよくば来夢ちゃんのハートまで!!


 昼休み。
「ちょっと旭。明崎くん探してきてよ」
 来夢ちゃんのクッキーにありつこうといの一番に飛んでった矢先、そんな気のない返事をいただく。
「え~。そんなことより来夢ちゃんのクッキーを……」
 来夢ちゃんの手にある包装されたクッキーを見つつ、喉を鳴らす。
「連れてきてくれたらあげるわよ」
 それを聞いた来夢ちゃんがこれ見よがしに、目の前でクッキーを振って見せる。
「うお~! 来夢ちゃんのためなら喜んで!」
 我ながらクッキーごときで恋敵をわざわざ見つけに行くなんて安すぎるとは思うけど、目の前の欲に忠実な性格は抑えられない。

「と言ってもなあ。アイツがどこにいるかなんて」
 俺にわかるわけがないよな。
 図書館や職員室も見て回ったけど、いない。となれば……。
「センセー、明崎来てたりしないよね?」
 保健室のドアを控えめに開けて、保険医に尋ねる。
「そこで寝てるわよ」
「マジか!」
 いや、やっぱ俺天才なのでは??
 はやる気持ちを抑えてベッドに近づき、カーテンを開ける。
「明崎……」
 ベッドに横たわる明崎を見て、息を飲む。
 朝、一瞬顔色悪そうにしていたから、もしかしたら体調崩して保健室に行ったのかもとは思っていた。
 推理は当たった。でも、こんなに苦しそうだとは思わなかった。
 目の前の彼は、あからさまに顔色が悪い。元々白い肌がもっと白く、せっかくの整った顔が歪んだままで。
「明崎、おい。マジか。大丈夫かよ」
「う……。うるさい」
「こら朝比奈くん。邪魔しない」
 見かねた保険医が俺の頭に手を乗せ、制止する。
「先生、明崎どうしたの?」
「風邪だと思うわ。明崎くん。熱もあるし、今日は帰って休んだ方がいいわよ?」
「……そうですね」
「お母さんに連絡したら来てもらえそうかしら?」
「いえ。一人で帰れます」
「何言ってんだよ明崎。お前、熱あんだろ?」
「ご両親来れなそうかしら?」
「はい。一人暮らしなので。親戚はみんな遠くにいますし……。タクシーでも呼んでもらえれば僕は大丈夫……」
「だったら俺が一緒に行く」
「え?」
「……」
 強引に話をぶった切って明崎を睨んでやる。
「センセー。それでいいだろ?」
「いや、朝比奈くんは授業がまだあるでしょ?」
「サボります」
「堂々と言うねえ」
「君はただでさえ、授業をサボり気味なんだ、しっかりと、受けろ……」
「普段サボってる分、別に今日サボってもなんの不思議もないだろ? それに、今日はもう帰ろうと思ってたとこだし」
「朝比奈くん……。それじゃあもうお願いしちゃおっかな」
「せ、先生?!」
 あっさりと折れた保険医に明崎が思わずと言ったように声を上げる。
「いや。だってこの子、止めても無駄なタイプだもの。どうせ言ったって明崎くんにくっついて行くわよ。それに、私も午後からは出張でね。無責任かもしれないけど、朝比奈くんなら大丈夫そうだものね」
「さっすがわかってる。んじゃ俺、鞄取ってくるから」
「おいっ」
 まだ何か言いたげな明崎を無視してさっさと保健室を出る。
「あ~。俺なにやってんだろ」
 自分でも呆れるほどのお節介にため息をつく。
 いや、恋敵にまで情けを掛けるとか人間出来過ぎかよ。
 そんな自虐で笑ってみるけど、どうも心が落ち着かない。
 明崎の具合の悪さはマジだった。いつも何言われたって平気な顔してるアイツが、あんなに弱ってるところを見たら、なんだか急に心配になって。


「綺麗な部屋だな~」
「もういいだろ? 帰ってくれ」
「はいはい。病人はベッドに寝とけ」
「……っ」
 自分で立つのもやっとらしい明崎を、ベッドに寝かす。
 何とか明崎を宥めて辿りついたそこは、想像通り物がしっかりと整理され、掃除の行き届いた部屋。……何だかシンプルすぎて物悲しささえ感じる。
「じゃ、俺は何か買ってくるから」
「は?」
「何か食べたいものとかあるか?」
「だから、もう帰れって……」


「寝てる……」
 コンビニから帰ると、明崎は寝ていた。
 てっきり鍵を閉めてるだろうと思ったけど。
「そんな元気もなかったみたいだな」
 荷物を机に置いて、明崎に手を伸ばす。
 髪に手が触れようというとき、携帯の着信音が鳴り響く。
 そのまま手をポケットに突っ込み、携帯を取り出し画面を開く。
「あ。そうだった。来夢ちゃんのクッキー!」
 そこには、来夢ちゃんからのメッセージが表示されていた。
『明崎くんはどうなったのよ!? クッキー、どうすんの??』
 急いで画面に指を滑らせ、返信を打とうとするが……。
「でも今の状況を説明したら、来夢ちゃん絶対お見舞いに来させろ! 住所教えろ! ってなるよな」
 うん。確実になる。看病して好感度アップ! さらには既成事実を作るチャンス! とか来夢ちゃんなら平気で言いそうだ。
 数秒でその光景を想像した後、そっと画面を閉じる。
「あ~。それもこれもお前のせいだぞ、明崎~!」
 むに、と腹いせに明崎の頬を摘まむ。
「柔らかいな~」
 そのまま何度かむにむにと頬の弾力を堪能した後、眼鏡を外してやる。
「う~ん。やっぱ眼鏡外すと更にマズイ。綺麗な顔が悔しいほどに眩しい」
 更にむにむにと頬を押し、額を撫でる。
「汗やばいな」
 これ、絶対着替えさせた方がいいよな。制服だし。
「あ、そうだ」




「ん……」
 目を覚ます。
「ええと」
 ぼんやりする視界で辺りを見渡す。机の上のメモ書きが目に入る。
『食べるものと薬は買ってきたから。ちゃんと寝て早く風邪治せよ』
 乱雑に書かれたその筆跡には見覚えがあった。
「そうだ。僕は熱で、朝比奈が……」
 顔に手を当て、違和感に気づく。
「眼鏡……。それに、制服もか」
 朝比奈がやったのだろうか。
 意外とマメ。そんでもって世話好き。
 最初の頃は、そのチャラい見た目に嫌悪と恐怖を抱いていた。
 一生関わることのない人種だと思っていた。
 だけど、それが女のためにと関わってくるようになって。
 気づいてしまった。彼の良さに。
 自分と正反対で、明るく真っすぐでどんなことにもへこたれない。それでいて力を抜くことを知っていて。誰にでも好かれる彼の性格は、例外なく僕も好きだった。
 でも。その好きがどんどんと僕の中で大きくなって。
 彼との時間が多すぎた。
 特定の人物と深くかかわることを避けていた。それなのに、彼だけは避けても避けても寄ってきた。
 だからこそ、たった一つの好きが余計に特別に見えてしまうのかもしれない。
 そんな簡単な理論。理由付けなんて簡単にできてしまうものなのに。
 彼の書いた文字をそっと撫でる。
 彼ならば、自分を救い出してくれるのではないかと心のどこかで期待していた。
「馬鹿馬鹿しい」
 僕は人間が嫌いだった。人間が信用できなかった。だから、人との付き合いは上辺だけ。
 でも、彼はそんな僕に執着してくれた。だから、本当の僕をわかってくれるのではないか。本当の僕を引っ張って、太陽の下に連れて行ってくれるのではないか。なんて思ったんだ。
 でも、わかっている。彼は僕に興味があるのではない。彼はあくまで彼女のために嫌々やっているにすぎないのだ。だから。
「ああ。こんな感情は無意味だ」
 自分の気持ちの悪い感情を引き裂くように、メモ用紙をびりびりと破り捨てる。
 そう。捨てなければ。この想いも。全部。




「明崎、大丈夫だったか?」
「ああ。看病ありがとう。おかげで助かったよ」
 いつも通り涼しい顔で対応する明崎に、心の中でほっとする。
「んじゃあさ。お礼に俺と友達になってくれよ! なんて」
「いいよ。篠原さんの前でだけ、なら」
「え、マジでやってくれるのか!」
 冗談で言ったつもりだったが、あの明崎がまさか恩返しの真似事なんかできるとは。
 「あぁ。これ以上僕の生活荒らされても困るからね」
「荒らされ……。お前ほんと口悪いな。可愛げのないひでー性格して……」
 言い終わるより前に言葉に詰まる。
 なんで、なんでそんな傷ついたような顔すんだよ。
 一瞬だけ見えたその表情に、心臓がどきりと動く。
 あれはなんだ。あれはなんだった? 明崎が傷ついた? どうして?
「篠原さんに相手にされないからって、八つ当たりするのだけはやめてくれよ?」
「うるさいな。俺はこのチャンスにかけてんだよ。俺の愛は本気だって証明すんだよ」
「ふぅん。頑張ってね」
 上辺だけは滑らかに交わされる言葉。言っている間も、明崎をじっと見つめるが、あの一瞬以外は全くもっていつもの冷たいあの明崎だった。
 見間違えたのだろうか。
 そんな感想がよぎる。だって、俺に罵られたぐらいでコイツが傷つくはずがない。
「って。そんなことより、さっさと来夢ちゃんに報告しないとだ!」


 それから宣言通りに明崎は、来夢ちゃんの前だけは友達として接してくれた。
 来夢ちゃんも初めは疑っていたが、文句のつけようもない明崎の態度に「ほんとに明崎くんと友達になれるなんて、やるじゃん旭!」と褒めてくれて。
 これでようやく来夢ちゃんに迫ることができる。なんせ、材料はたくさんそろっているのだから。

「なんて思ってたのにさ」
「朝比奈……?」
 インターホンを鳴らすと、明崎が出てくる。
「よぉ。明崎」
「……何しに来たんだ?」
 雨でずぶ濡れになった俺を怪訝そうに見つめる彼。
「明崎に慰めてもらおうかと思ってさ」
「振られたんなら、僕と友達ごっこする必要もないだろ」
「友達ごっこだなんて」
「おい。朝比奈?」
 一歩前に踏み出し、明崎の肩に手を乗せる。
「そんな気分じゃないっての」
「痛っ」
 そのまま手に力を込めて、明崎を突き飛ばす。
「やっぱり俺じゃ、駄目だったのかな」
「は……」
 起き上がって、部屋の奥に逃げ出そうとする明崎の手を取る。
「来夢ちゃんってば、俺のこと捨てるなんてさ。お望み通り、お前のケー番まで教えたってのに」
「は? 僕、君に番号教えてないだろ?」
「俺、手ぐせ悪いからね」
「それ、犯罪だからな」
「そう? でもこっちよりは全然マシじゃね?」
 ポケットから出したスマホの画面を明崎の目の前に突き付ける。
「は……?」
 明崎の顔がみるみる青ざめてゆくのを見て、心が躍る。
「なんで、君が、こんな写真を……。あ、僕が、風邪ひいたとき……」
「そ。あのとき着替えさせるついでに、撮ったんだ」
「そんなこと、何で……」
「ほんとは来夢ちゃんへの最終手段として使おうと思ってたんだけど。まあ、安心しろ。まだ見せてない。あんなにすっぱりフラれちゃったらね」
「あ、ありえ、ない」
「これ。どうしよっかな~」
 動揺を隠しきれていない明崎に目を細めながら、画面を指でなぞる。
「や、やめ」
「おっと」
 スマホを取ろうと明崎が襲い掛かってくる。が、逆に腕を取ってねじ伏せる。
「はは。いつも透かしてる明崎がこんなに必死とか」
「や、めろ……! 八つ当たりはするなと言っただろうが!」
「八つ当たり? そんなんじゃない」
「じゃあ、どうして」
「来夢ちゃんが言ったんだよ。お前に手酷くフラれたって」




「それは……」
 別に手酷くした覚えはない、と言おうとしたが思い当たって口を塞ぐ。
 ……そうだ。つい言ってしまったんだ。
『旭と友達になったんだってね! それで、明崎くん良かったら私とも』
 わざとらしい上目遣いをする彼女を冷めた瞳で見つめる。
『僕は朝比奈くんみたいな腑抜けになりたくないんでね。遠慮しておくよ』
 彼は何故この女に好意を抱けるのだろうか。吐き気にも似た感覚が込み上げてくるのを押さえながら、なんとか平静を努める。
『え~。それって、明崎くんが私にメロメロになるかもってこと?』
 見当違いの台詞回しは、きっと意図してのものだろう。この女の狡猾さが見て取れる。
『篠原さんは、僕のことが好きなの?』
『あはは。気づかれちゃった? 恥ずかしいなあ。そう。私ね、明崎くんが好きなの』
 恥じらう彼女は確かに可愛いと言えるのだろう。たとえそれが意識的に作られたものだとしても、普通の男ならばその魅力に逆らえないだろう。
『でも、朝比奈くんは君のことが好きなんだ。君だって気づいているんだろう?』
『それは……。でも、私はやっぱり、明崎くんが……』
『でも。君は、彼に約束したんじゃないのか?』
『……約束って?』
『朝比奈くんと僕が友達になれたら、朝比奈くんの告白を受けるって約束』
 一瞬の間。
『なんだ~。旭ってば言っちゃってんだ。ほんと馬鹿なんだから』
 彼女の仮面が一つ外れる。
『彼、落ち込んでたけど』
『それはいいよ~。だって、あんなのより明崎くんの方が大事……』
 色っぽい表情で寄り添ってくる彼女を侮蔑する。
『僕はあんたの顔も性格も可愛いとは思えないから』

 ああ。確かに酷い言い方をした。
「来夢ちゃんに恥掻かせてタダで済むと思うなよ」
 目の前の彼が残酷なほどに冷たい瞳でこちらを見つめる。
 明るい色をした髪は濡れ、その水滴が僕の頬を濡らしてゆく。
 君のために言ったんだけどな。いや、まあ確かに言いすぎた。
 もっとうまく躱せばよかった。
 でも、あんな女にこいつが囚われてるのが許せなくて。
 覆いかぶさったままの彼が己の拳を固め、振り下ろそうとする。
「殴っても警察に行けば、お前は逮捕されるんだからな」
 冷静を装い、静かな声で彼を制止する。
「それもそうだな」
 しぶしぶといったように彼が拳を収める。その様子にそっと胸を撫で下ろす。
「ほんと明崎って動じないんだな。感情がないみたいだ」
「……そりゃどうも」
 感情がないわけない。今だってこんなに色んな感情がないまぜになって……。
「でもこういうのは効くみたいだからな」
「え?」
 静かにシャツのボタンが外されてゆく。
「何してっ!」
「これだったらお前も警察に言えないだろ?」
 その手を止めようと暴れてみるが、びくともしない。
「は? 何……っ!!」
 脱がされて露わになった肌に朝比奈が触れる。ただ触れるだけで終わるはずもなく、その手はゆっくりと厭らしい手つきで肌を滑る。
 怖くなって、朝比奈の顔を見つめる。いつものように明るくおどけるような色はなく、その瞳にあるのは底冷えするような復讐の念。
 見るんじゃなかった。
 視線を外す。が、朝比奈の手ですぐに戻される。
「フラれたばっかの俺を慰めてくれよ、真理ちゃん」
 目が合うとふざけた口調でそう言って、朝比奈が微笑む。
「やめ……、ろ」
「真理ちゃん、まさかこういうことしたことないとか?」
 くすくすと笑いながら、朝比奈が首に舌を這わせる。
「っ……!」
 かと思うと、吸い付いたり甘く噛んだり。その間も、彼の手は僕の体を撫で上げてゆく。
「待って、くれ……って、朝比奈っ」




 首に噛みつく度に震えながら息を漏らす朝比奈に目を凝らす。
 綺麗な顔。睫毛が長くて、そこらへんの女より……。
「あ、さひな……っ!」
 顔を近づけると、明崎の瞳が大きく揺れ、そしてぎゅっと閉じられる。
 完全に怯えてるじゃん、これ。今時、女でもこんな反応しないだろ。
 これは、なんていうか……。
 どうしようかと迷っていると、明崎が恐る恐る片目を開ける。その表情が、その仕草が……。
 ほんとはちょっと脅せばいいと思ってたけど。
 気づいたら、食いつくように明崎に唇を重ねていた。
「ん、んっ……!」
 ああ。やっぱりだ。
 その下手な息遣いが、真っ赤に染まった顔が、揺れる瞳が。
「明崎」
 解放した後、顔を覗き込む。
「み、見るなっ」
「もしかして、今のが初めてとか?」
「黙れ」
「……マジかよ。お前、ほんと」
 逃げようとする明崎の腕を掴み、壁に追いやる。
「ね、気持ち良かった?」
「うるさい」
「真理ちゃ~ん?」
「っ、わかるわけないだろ、いきなりこんなことされて……」
 逃げ場を失い、じわりと涙を浮かべる明崎の眼鏡を奪い取る。そして、おもむろに立ち上がり……。
「そっか、じゃあ仕方ないね」
「なにす、っわ」
 明崎の腕を掴み、勢いよく引き上げてそのままベッドまで追いやる。
「真理ちゃんがわかるまで、たーっぷり試してあげる。ね?」
 明崎の表情が引きつる。何かを言われる前に押し倒して口を塞ぐ。
 今はとにかく、目の前の彼が可愛くて仕方がない。全部が欲しい。ああ。ついに俺は気づいてしまった。


 それから明崎は来夢ちゃんに謝って、どうにか許してもらった。
 来夢ちゃんもまた明崎に媚びる生活に元通り。
 でも、俺は来夢ちゃんに媚びるのをやめた。
 来夢ちゃんの前で明崎にくっつくのもやめた。
 でも。

「やめろって、言ってるだろ……」
「明崎、俺のこと好きなんだろ? だったら、付き合ってよ」
「そんなこと、言ってな」
「言ったよ。明崎は覚えてないかもだけど。気持ちよくなったとき、いつも言ってるよ?」
「っ! そんなわけ……」
「じゃあ、試してみる?」
 こうして二人になった時はべたべたにくっついている。
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ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

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