81 / 132
71~80
(78)封印された魔王と騎士
しおりを挟む
騎士ニールソレユは、魔王の生贄に選ばれた娘サシェリアに恋をする。なんとか彼女を助けるべく、魔王を倒そうと踏み入れた森で、彼は不審な男アルカと出会い……。
騎士×魔王
善良な魔王が被害者してるのが好きです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あるところに騎士がいました。騎士の名をニールソレユ。彼は若くして国を渡り歩き、人々を助けるものですから、民衆から大変慕われていました。
剣の腕で彼の右へ出る者はいないというくらい強く、顔立ちも整った優しい青年だったため、その名は国から国へと伝わり、彼は行く先々で歓迎されました。
いつものように彼が新たな町を訪れたときのことです。
その町に足を踏み入れた途端に、彼はその異様な空気に気づきました。
そこにいた住人たちは皆おいおいとすすり泣いていました。
彼は、すぐに何か困っていることがあるのだと勘づき、
「これは一体どうされたのですか?」
と一同に問いかけました。
すると、人々が一斉にこちらを向き、一瞬こちらが殺されるのではないかというくらい強烈な視線を突き刺し――、どうやら彼が敵ではないことに気づき、取り繕ったように困った顔で微笑みました。
「どうもこれはすみません。いえね、もう魔王が来てしまったのかと思いまして」
「魔王、ですか?」
彼の顔を申し訳なさそうにチラチラと伺う住人に彼がさらに問いかけると、
「ええ、ええ。ここには来るのですよ。あの恐ろしい悪魔が」
と老人がガタガタと体を震わしながら声を絞り出しました。
「それは……」
彼は更に言葉を紡ごうとしましたが、人々の中心にいた少女と目が合ったことで頭が真っ白になりました。
すすり泣く住民たちに囲まれた少女。その金色に光る髪の毛、どこまでも澄んだ湖のように蒼い瞳、透き通るほどに真っ白い肌、桃色に染まった頰、悲しげに結ばれた唇。どれもがとても可憐で、とても儚く、今までに見たこともないくらい美しかったのです。
その美しさはたくさんの女性に言い寄られてきた彼をも魅了するほどで……。
「ああ、美しい……」
彼は彼女を一目見て、すっかり恋に落ちてしまったのです。
「あら、貴方はもしや、ニールソレユ様ではありませんか!?」
「本当だ! これは間違いない!」
「ああ! まさかこの町に来てくださるとは!」
「なんて運命的なタイミング!」
ふいに少女の隣にいた女性の声があがり、その縋るように紡がれた希望は、瞬く間に周りを巻き込み、膨れ上がりました。こうなれば、彼も答えないわけにはいきません。
「ええ、いかにも。もしお困りなれば、このニールソレユが騎士の名において皆様のお力になりましょう!」
彼が高々と宣言すると、人々はわっと湧き上がりました。
「よかった!」「もう怯えなくていいんだ!」「ああ! 神様!」
話を聞くとこの町には魔王が封印されていて、十年に一度だけ魔王が目覚める年があり、その時に町から一人生贄を捧げるシキタリがあるようでした。
「封印された魔王は、生贄を取り込むことにより、再び眠りにつくんです」
「それが丁度今年であり、魔王はこの子を生贄として選んだというわけでして……」
美しい少女の傍で、人々の顔は暗く沈んでゆきました。
「ワタシたちは、彼女が大好きなんです」「彼女はこの町の希望なんです」
「もしも、魔王を無視すればどうなるのですか?」
「そんな! 恐ろしい! この町どころか国までもが滅ぼされてしまうでしょう……。魔王を怒らせてはいけないのです!」
「昔、ご先祖様が一度だけ魔王を怒らせてしまったことがあるらしく、それはもう酷い有様だったと記されておりました」
「そうか」
「あの、だから、やはり騎士様でも危険かと……」
「いいや、問題ない。私が必ずや魔王を討ち取ってみせよう」
「ああっ。ニールソレユ様!」「なんと慈悲深い!」「ありがたや!」
再び湧き上がった住人たちが肩を抱き合い安堵し合う中、彼は少女に目を向けました。
周りにいた人々によかったよかったと頭を撫でられ背中を叩かれ幸せそうにする彼女の笑顔を見て、彼は絶対に魔王を討ち、少女を守ろうと決意しました。
そして。彼は住人たちに促されるままに、魔王が封印されているという森の中へと足を踏み入れました。
「ああ、なんて薄暗く不気味な森だろうか」
彼は、進むごとに襲ってくる魔物たちを払いながら、不安な気持ちになりました。
払っても払っても襲い来る魔物たちは、次第にその強さを増してゆき……。
『ギシャアアアアアア!』
「っ、しまっ……!」
不快な姿をした魔物の爪を受け止めきれず、ついに彼は己の死を悟り、目を閉じました。が。
「退け!」
「え……?」
ざしゅ、と肉を切る音がして目を開けると、目の前で血が躍り、剣が煌き……。突然現れた男は、見事魔物を切り伏せました。
「あの……。ありがとう、ございます……」
「帰れ。ここはお前のような未熟者が来るような場所ではない」
鋭い瞳でこちらを睨んだ男は、ボロボロの黒装束に身を包み、きっぱりと言いました。
「ですが、肩に傷が……」
彼を庇ったせいで傷ついた男の肩からは、真っ赤な血が染み出していました。
「これくらいどうということはない」
吐き捨てるようにそう告げた男は、彼から目を逸らし、そのまま去ろうとしましたが。
「待って! せめて手当だけでもさせてくれ!」
「……チッ。わかったよ、ついてきな律儀な騎士サン」
腕を掴み、有無を言わさぬ力強い瞳を向けた彼の気迫に押され、男は森の寂れた小屋へと赴きました。
「貴方はこんなところに一人で住んでいるのか?」
「悪いか?」
「ここは魔王が封印されている森だと聞いている」
「はっ。だからなんだ。お前は魔王を恐れているのか?」
「私は恐れてはいない。だが、住人たちは、それは酷い具合に怯えていた」
「魔王なんて大したことはないさ。滅多に外に出ることもない臆病な奴だよ」
「貴方は魔王を見たことがあるのか?」
「そりゃああるよ。この森に住んでりゃ嫌でも、ね」
「どこにいるのか教えて欲しい」
「それを知ってどうする?」
「私が魔王を討つ」
澄んだ瞳で告げる彼に、男は急につまらなさそうに視線を逸らしたかと思うと、挑発的な瞳でにやりと笑ってみせました。
「いくら魔王が臆病だからって、お前ごときに殺せはしない」
「いいや。私はやると決めた。貴方が口を割るまでここを動かない」
「何を勝手に」
「頼む。貴方が頼りだ」
「駄目だ。ここに住んでいる危険な者は魔王だけではない。お前はきっと取って食われる」
「私は決めたのだ。あの娘を助けると」
「はは。騎士様でも惚れた腫れたにゃ弱いんだな」
「……何故、私が惚れたとわかる」
「なんだ。やっぱりそうだったか」
「……」
「そう怖い顔をするな。誰にも喋りはしない」
喋る相手もいないしな、と呟いた男が少し不憫に思えて、彼は態度を改めました。
「貴方は寂しくないのか?」
「この森じゃ、寂しがってる暇なんかないさ」
「どうしてこんな森にわざわざ一人で暮らしている?」
「そう怪しがるな。俺は一人が性に合っているってだけだ。この森は誰も入ってこないからな。都合がいいんだ」
改めて小屋を見渡すと、あるのは渦高く積まれた本。それも魔導書ばかり。まるで生活感のない小屋で、果たしてどうやって暮らしているのかと、彼は不信感を強めました。
「貴方は変わっている」
「ああ。きっとそうだろうな」
「申し遅れたが、私はニールソレユ。騎士だ」
「……ああそうかい」
「人が名乗ったら自分も名乗るのだと教わらなかったか?」
彼は、差し出したまま掴まれずにいた手を引っ込めて不服を示しました。が。
「生憎、騎士様のようなお堅い教育は受けてないんでね」
男はせせら笑うように肩を竦めるばかりです。
「教育は受けてなくとも本は読めるのか?」
「……は~。そう睨まないでくれよ。俺はアルカ。森に暮らす変人さ」
「アルカは何故私を助けてくれたんだ?」
「別に。森が騒がしいと思えば、未熟な騎士様が魔物に甚振られてたもんで。つい助けちゃったってわけだ」
「……アルカは何故そんなに剣術に長けているんだ?」
「別に。これぐらいは普通さ。騎士様が弱いだけじゃないのか?」
「……私は決して弱くなどないんだが」
彼が苦虫を噛み潰したような顔をしながらアルカの肩に薬を塗り、手を翳すと、みるみるうちに血が止まり、傷が塞がれてゆきました。
「うわ。これはすごい。傷が一瞬で……」
「こういうの意外と得意なんですよね」
「これ! 教えてはくれないか?!」
「え? ちょっと……」
アルカの食い気味な態度に驚きつつ、彼は掴まれた腕をやんわりと解きました。
「あ、すまない。その、まともに白魔術を見たことがなくて……」
「こんなに魔導書があるのに?」
「実は、魔導書通りにやってるのに、白魔術だけは扱えなくて」
「ああ。白魔術はコツが要りますもんね」
「なあ、提案なんだが、俺はお前に剣術を教える。だから代わりにお前は白魔術を俺に教えるってのはどうだ?」
「は? いや、でもそんな時間は……」
「生贄にされんのは二週間後だろ? それまでにお前としても力をつけておきたいはず。悪い話じゃないだろう?」
「……ひとつ。アルカは何のために白魔術を学びたいんです?」
「そりゃ自分のためさ。こんなとこじゃ誰も助けてはくれないからな」
「……なるほど。いいでしょう。その話、謹んでお受けいたします」
こうして、生贄少女を救うための力が欲しい騎士と、自らの身を癒す力が欲しい森の変人の奇妙な関係が出来上がりました。
その修業は決して互いに簡単なものではありませんでしたが、二人は弱音も吐かず、時間を惜しんでそれぞれの修行に取り組んでゆきました。
数日後。白魔術のための材料を探す二人は、未だにぎこちない距離感でありながらも、少しずつ互いを認め合い、軽口を叩くまでになりました。
「ううん、植物なんて全部一緒に見えるんだが……」
「全然違うでしょう? アルカ、花とか見ないタイプですか?」
「花を見たって腹は満たされない」
「貴方ね、女性に嫌われますよ?」
「はっ。女なんてどうでもいいさ。あんなおっかない生き物、こっちから願い下げだ」
「なるほど、僻みですね」
「うるせーよ。イケメン騎士様」
「あ。アルカ、そこの薬草です」
「ん、これか?」
「あ、待って! その横に生えてるでかいキノコ、油断してると食べられちゃうんで――」
無造作に手を伸ばしたアルカに、彼が注意を促した瞬間。
「うわっ! あっぶね! 早く言え!」
危機一髪、手に噛みつこうとしたキノコをひらりと躱し、アルカは自分の手を擦りました。
「はは。でも躱したじゃないですか。すごいなあ」
「ふん。褒めたって俺は誤魔化されな……危ない!」
「え?」
キノコがアルカを仕留め損ね、項垂れた瞬間、一匹の野ウサギがキノコの真横を通りました。それはまさに格好の餌食で……。
ばくり。
「ちょ、なんでアルカが庇って……?!」
キノコに食われたのは、真っ白く可愛らしいウサギではなく、ボロ布を纏った陰気な男でした。キノコは、アルカの手に食いつくと、あっという間にアルカを丸呑みにしてしまいました。
か弱いウサギが逃げてゆく姿を見届けた後、彼がキノコに振り返ると、アルカは内側からナイフを突き立て、キノコを引き裂いていました。
「うわ、大丈夫ですか?」
「くそ。ドロドロじゃねーか。ってか、お前も突っ立ってないで、さっさと助け……」
「いや、だって。もうすぐ来ちゃいますから」
「来るって、なにが……」
キノコの分泌液を拭いながら尋ねたアルカは、近づいてくる不思議な音に口を噤みました。
「キノコに餌が引っかかったのを、アレが嗅ぎつけたんですよ」
「餌って……」
「もちろん貴方のことです」
「じゃあ、アレってのは……?」
「そこだ!」
彼が叫び、足元にナイフを突き立てると、真っ黒い蔦が地面に縫い付けられていました。
「わ、なんだこれ」
「森に住んでるくせに知らないんですか?」
「こんな広い森の全てを把握しているわけないだろう!」
「小屋から結構近いんですけど」
「……」
「もしかして引きこもりってやつですか?」
「外に出てるだろうが!」
「でもやっぱり慣れてないみたいだ」
「なっ……!」
後ろから伸びてきた蔦があっという間にアルカの足を捕らえるのを見て、彼は低く呟きました。
「くそ!」
体を締め上げられるより先に、アルカの手の平から炎が現れ、蔦を焼き尽くしました。が。
「その炎。やはり貴方は只者ではない。ねえアルカ。貴方は一体何者なんです?」
「何って……。俺はただの変人で……」
「嘘を吐くのはおススメしませんが?」
焼け焦げた蔦に向かって彼が魔術で水を掛けた瞬間、力を取り戻した蔦はアルカの体を縛り上げてゆきました。
「お前!」
「貴方は一体誰なんです?」
「放せ」
「貴方は余りにも怪しすぎる。だから……」
彼は、身動きの取れないアルカの腕に、魔力を封印するブレスレットをはめると、ゆったりと微笑みました。
「何を……」
「見せてくださいよ。貴方の本当の力を」
「は、力が、出ない……? お前、これ、くそ、外せ!」
「なんだ。こんなブレスレットすぐに壊すと思ったのに。まだ演技を続ける気ですか?」
「そんな魔力、俺にはないって…… 」
「嘘ですね。貴方からは膨大な魔力の匂いがするんですよ。だからほら、蔦も貴方を執拗に狙うんです」
「ひっ、なんだこいつ……!」
「これは人間や動物の精力を吸う植物で、特に力を持った者を好むんです」
「は、嘘だろ……」
服の下ににゅるりと蔦が入り込んだ途端、アルカは青ざめながら彼を見ましたが、彼はそれを黙って見つめるだけでした。
「い、嫌だ、た、助けてくれ……!」
「嫌です」
「お前、それでも騎士か!?」
「だって貴方は魔王でしょう?」
「ッ……。あ、くそ、やめ……!」
蔦がアルカの身体中を撫で回す中、彼は今までの態度と違う冷たい瞳でアルカの正体を見抜きました。
「何が目的だ。何故私を助けた?」
「あ……、うう……」
アルカの頬を彼が撫で上げると、蔦から分泌される成分も手伝って、欲に溺れかけた声は更に色を増してゆきました。
「なあ魔王。何故力を使わない? こんな植物にいいようにされて、随分楽しそうだな?」
「は……」
「そんなにいいか? ん?」
彼がアルカの胸に張り付いた蔦を剥がし、代わりに弄ってやると、可哀想なくらいアルカは甘く喘ぎ、その身を震わせました。
「あ。あッ……! ん、やめ……!」
「はは。下もこんなに張り詰めちゃってさあ」
「あ、ああっ!」
「ここも、いいように突っ込まれて」
「っあ!」
「気持ちいい? 魔王様」
「う、ほんとに、助け……」
どこもかしこもぐずぐずになったアルカを見て、彼は首を捻りました。
「え。これだけやって抵抗しないなんて。……まさか本当に普通の人間なのか?」
「は、頼む、許して、くれ。助けて、くれ、ニール……!」
「っ……。クソ!」
碌に抵抗できないまま欲に沈んだアルカから目を逸らし、彼はその蔦を叩き斬り、悪態を吐きました。
「は……」
「なんでこんな蔦にいいようにされてんだよ。アンタは魔王だろうが」
「ッ……」
「アルカ?」
「は、あ……。ニール……」
「お前……」
彼は、アルカの誘うような瞳から目が離せなくなりました。揺れる瞳に涙を浮かべて彼の名を呼ぶアルカに、いつしか彼すらも当てられてしまったのです。
「アルカ、これはアンタが悪いんだからな」
「あ……」
彼に抱き寄せられたアルカは、恐怖と喜びが混じり合い、その瞳をより一層揺らしました。
そして。不気味な森の中、二人はただひたすらに己の欲を吐き出したのです。
そうして、奇妙な関係のままに師弟ごっこを続けて更に数日。二人はついに互いの技術をある程度まで吸収し合いました。そして。
「ニール、お前はそろそろ町に戻った方がいい」
ある夜、アルカは彼の誘いを断り、真剣な眼差しでそう告げました。
「生贄を寄越す日まではまだ時間があるはずだ。私はまだアルカから学ぶことがある」
「いいや。お前の剣術はぐんと成長した。俺が教えることなんてもうないさ。それに、俺も白魔術を充分覚えた。後は自分でなんとかしていくさ」
「私から逃げるつもりなのか?」
「逃げるも何も。俺はここから出られない」
「私だって、魔王を倒さないと帰れない」
「ニール、駄目だ。お前は魔王と戦うべきではない」
「それは、貴方が魔王だから、ですか? 私とは戦いたくないという意味ですか?」
「お前を巻き込みたくないんだ。俺はお前が思っているような魔王ではないんだ……」
「だったら尚更。私と勝負してください。私はこの目で貴方を見極めたい」
彼は、夢から醒めたように静かな声で呟くと、アルカに向かって剣を放りました。
「俺は、お前とは戦いたくない」
「私は貴方と戦いたい。そして、貴方が何者なのか。本当のことを知りたい」
「俺が魔王だとしたら、お前は俺を殺すのか?」
「魔王が命乞いですか? 言ったでしょ。私は娘を助けたいのだと」
「……やめろといっても聞かないんだろうな」
「ええ。恋人ごっこももうお終いです」
かんっ。どちらからともなく剣がぶつかり合い、夢現の甘さを吹き飛ばし……。
「チッ。こんなことなら剣術を教えるんじゃなかった」
幾何かの剣戟の後、彼の切っ先がアルカの喉を捕らえました。
「ほら、いい加減本気出したらどうです? 魔王さん」
「……っ」
「そっちが来ないんだったら。こっちから行きますよ?」
唇を噛みしめたまま動かないアルカに向かって、彼は容赦なく氷の柱をぶつけました。
「くそ……!」
アルカは、頭上に迫る氷に向かい、あらん限りの力で炎を投げつけましたが……。
「それじゃあ私には届かない」
「ぐがっ……!」
ついに力負けしたアルカは、氷に押しつぶされてしまいました。
「う……あ……」
「ねえ。どうしたんです? 私に情でも湧きましたか?」
猫なで声で問いかけながら、彼は這い出そうとするアルカの真横に剣を突き刺し、冷たい目で見下ろしました。
「は、そんなわけ……」
「それじゃあ、どうして力を使わない」
「っ……」
「いや、使わないんじゃない。使えないんだ。そうなんだろう?」
「……」
否定するでもなく、ただ拳を握りしめたアルカに、彼は確信を持ちました。
「誰かに封じられているのか?」
「それは……」
「貴方が望むのならば、私は貴方を助けよう」
「……」
「教えてくれ、貴方は何に怯えている?」
「それ、は……」
「ニールソルユ様!」
瞳を揺らしながらアルカが口を開こうとしたそのとき、彼の背後から可憐な声が聞こえてきました。
「君、どうしてここに?」
彼が振り返ると、そこにはどういうわけかあの少女、サシェリアが立っていました。
「ワタシは、生贄として森に置かれたのです。ああ、ニールソルユ様、そのお方は?」
可愛らしい唇から零れ出た問いに、アルカが急に顔を上げて、彼に手を伸ばしました。が、もう遅いのです。
「ニール、呼んじゃ駄目――!」
「魔王アディハラルカだよ。ね?」
どくん。
「あ、あああ……」
アルカの心臓が嫌な音を立てた瞬間。
「き、きゃあああ!」
みちみちと体が黒くなり……。
『ガアアアアアアア!』
おぞましい角、鋭い爪、不気味に広がる翼、剥き出しの牙。アルカは、すっかり狂気を携えた化け物の姿に変わり果ててしまったのです!
そしてその殺気を帯びた赤い瞳は、すぐに二人の姿を捕らえ、襲い掛かりました。
「危ない!」
「きゃっ!」
振るわれた爪を避けるように娘を抱き上げ、彼は後ろに飛びました。サシェリアのいた場所は魔王の爪によって、見事にえぐり取られていました。これが直撃したら一溜まりもありません。
『グルル……』
「ああ、勇者様……。貴方が魔王の真名を呼んでしまったから……。魔王の封印が解けてしまったのです……!」
「真名……。なるほど。だから誰一人としてアディラハルカの名を口にしなかったわけだ」
『ガアアアアアアア!』
「そして……」
「ニールソルユ様! ワタシのことはいいから、どうかお逃げください!」
「お嬢さん、そうはいかないよ」
「きゃっ! な、なにを」
彼は、抱えていたサシェリアを荒々しく地面に落とすと、剣を振り抜き……。
「お前は魔女だな」
彼は、サシェリアの胸元に光る宝石を粉々に砕きました。するとどうでしょう。
「アアアアアア!」
可憐な少女はけたたましい叫びをあげて、蛇のような女に姿を変えたのです。
「やはりそうか」
「ふふ。残念。あともう少しだったのに。なんでわかったのかしら」
「人間ごときに魔王の力を封印できるはずがない。いや、むしろ魔王の力を封印できるのは魔女しかいない。そして、お前は不自然に綺麗過ぎた」
「ふ~ん。最初っから気づいていたと?」
「いや。初めは私もお前に惚れていた。他の人間たちと変わらない。むしろ本気でアルカを疑っていたさ。でも。アルカに触れて気づいた。彼は“悪”ではないということに。そうなると、怪しいのは誰かって話だ」
「さすがワタシが見込んだ人間だわ。ああ、でも駄目よ。貴方はもう助からないの」
「お前は人喰い魔女だな?」
「ふふ。バレちゃってるのね。でも、遅いのよ。ねえ勇者ニールソレユ、貴方はどんな味がするのかしら」
魔女は己の唇を舐めながら綺麗に笑いました。そして――。
*
あるところに魔王がいました。彼は、生まれたときから自分の存在に疑問を持っていました。何故なら、彼の心は優しかったのです。
魔王として生まれた彼は、慈しみの対象である人間たちに大層怖がられました。どれだけ彼が仲良くしようと思っても、彼らは逃げ、酷い時には魔王を傷つけさえしました。
彼は悟りました。自分が魔王である限り、人間たちと仲良くすることはできないのだと。しかし、やはり彼は優しさを殺すことなどできなかったのです。
あるとき彼は、一つの街に辿り着きました。そこの住人は皆信仰心が強く、一つの宗教に固執していました。なので、しきたりや弾圧が厳しく、中には毎日怯えながら自分の心を殺し、無理やり周りと合わせている者もいました。それを知った彼は、思いついたのです。
魔王として街を支配しながら、街から出たがっている子を生贄に選び、こっそり外に逃がしてやる。それこそが、彼が魔王としてできるたった一つの善行でした。そうすることで、彼は良心を満たしていたのです。
しかし。それはそう長く続きませんでした。人喰い魔女が食料と見定めた娘と重なり、魔女の怒りに触れてしまったのです。
魔女は街を滅ぼし、それを庇おうとした魔王に呪いを掛けました。後は知っての通り。魔王は力を封じられ、森に閉じ込められ。魔王を退治するために町を訪れた力ある勇者を喰らうため、魔女は可憐な少女を演じていたのです。
*
『グルアアアアアアアア!』
「うふふ! 二対一じゃあ流石の勇者様でも敵わないわよね!」
「っ!」
魔女の言う通り、彼は二人の攻撃を躱すのに精一杯でした。
「悪趣味な腐れ魔女め」
「何を。お前とてワタシの美しさに惑わされたくせに」
「ああ。だからこそ最悪な気分だ。そして何より、お前はアルカを弄んだ」
「ふふ。魔王に同情するなんて、勇者失格ね、王子様。だけど、大丈夫」
「貴方のハッピーエンドはこれからなんですもの!」
『ガアアアア!』
魔女が魔王に触れると、魔王の瞳は更に毒々しく赤く染まり、揺らめきました。
「ワタシだってね、さっさと御馳走にありつきたかったのに。あろうことか、コイツは魔物から貴方を守ったじゃない? その上、ワタシを忘れてお楽しみだなんて。なんて愚かな魔王かしらね」
「どうやらアルカはお前と違って本当に良い奴らしい」
「ええ。コレは愚かな男よ。ワタシに力を奪われて尚、他を助けようとするんですもの。コレがどうして白魔術を教わりたかったのか知ってるかしら? ワタシが悪戯に甚振った人や動物たちを治療するため、だそうよ。ふふ、本当に馬鹿な男よねえ? か弱い命なんて、治したところで、すぐに葬ってあげるのに」
「なるほど。よくわかった。お前が悪でアルカは善だ」
「あら。善悪の判定なんて貴方如きが決めていいものではないわ。現に、ワタシの支配する町の人間たちはとっても幸せなんですから。彼らにとっての善は間違いなくワタシ……」
「うるさいな」
気分よく語る魔女に向かって、彼はナイフを投げ、その腕に傷をつけてやりました。
「ぐっ。よくも。どうやら勇者様は早く死にたいらしいわね。アディラハルカ!」
『ぐるがるるるる!』
魔女が魔王を呼んだ瞬間、魔王はその瞳を狂わせて叫びました。が。
「アンタこそ、人間を舐め過ぎているんじゃないか?」
「は?」
「アルカ!」
空気を震わす澄み切った彼の声が魔王に届いた瞬間、その赤い瞳は少しずつ理性を取り戻し……。
『……ッ! チカラ、が……!』
「な……、何をしているの?! アディラハルカ! 早くこの餌を仕留めて……」
「アルカ。アンタの封印は僕が解いた。感じるだろう? 己の本来の力を。アンタはそれを正しく使えるはずだ」
「ニール……」
「何を言ってるの? いくら魔法が使えるとはいえ、人間如きがこんな短時間でワタシの呪いを解けるはずがない。なんのハッタリかは知らないけれど――」
「勿論、ハッタリなんかじゃないさ。何しろ、解呪のために私はアルカの体に時間を掛けて幾度か深く触れたのだから」
「は……?」
彼の言う通り、魔王の体に注がれていた彼の力は、魔女の呪いをすっかり喰らってしまいました。そして。
「アルカ、行くよ。この質の悪い魔女を二人の手で始末する!」
「……ああ」
力を取り戻した魔王と勇者の手から炎が放たれ、あっという間に魔女を包んでゆきました。
「あああああああああああ!」
炎の中で揺らめく魔女の叫びは、人々の目を覚ましてゆきました。こうして、魔女の支配が終わりを告げたのです。
*
「それからというもの、魔女に操られていた町の人々は、ようやく意志を取り戻し、幸せに暮らしましたとさ。おしまい」
賑やかな市場の一角でお話を終えた青年は、子どもたちに向かって微笑みました。
『え~。それで、勇者と魔王はどうなったの?!』『知りたい!』
「え~。それはね~?」
『それは?』『それは~?』
「おい。人に買い出し行かせといて、自分はサボりか、ニール」
「サボりじゃないよ。未来ある子どもたちに良い魔王もいるんだよって教えてるとこ」
「お前のソレは話を美化し過ぎていて、聞くに堪えないんだが?」
「そうかな? 魔王は充分善良で美しいんだけど?」
「は~。なんでもいいから。ほら、薬草買ってきたんだから、往診再開するぞ」
「魔王様は人使いが荒いな~」
『えっ、魔王様?』『この人が魔王様なの?』
「あ、いや。俺は……」
『魔王様~! 怖い魔女を倒してくれてありがとう!』『お花、あげる!』
「え、えっと……。俺が魔王だとして、その、怖くないのか……?」
『え? どうして?』『魔王様はいい人なんだよね?』
「だって、人間は皆、魔王を怖がるはずで……」
「ああ、この街は平和だからな。これといった信仰心もないし。アルカが見てきた人間たちは魔王を悪だと過剰に教育されていたんだろう」
「でも、俺は……」
『魔王様、お花は嫌い?』
戸惑いを隠せないアルカに、純真無垢な少年少女がそっと花を差し出しました。
「受け取ってやりなよ。この国の花は魔力を宿している。アルカが触れたくらいじゃ壊れないよ」
「っ……。ありがとう」
『どういたしまして!』
花をそっと抱きしめたアルカは、魔王とは思えない優しい笑顔を浮かべて喜びました。
「さてアルカ。私が君の可愛さに殺されない内に、往診を再開しようか」
「ああ、そうだな。可愛さ云々は癪だが、お前と共に歩むのは嫌いじゃないからな」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
こうして、勇者と魔王は手を取り合い、その力を人々のために使い、幸せに暮らしましたとさ。おしまい。
騎士×魔王
善良な魔王が被害者してるのが好きです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あるところに騎士がいました。騎士の名をニールソレユ。彼は若くして国を渡り歩き、人々を助けるものですから、民衆から大変慕われていました。
剣の腕で彼の右へ出る者はいないというくらい強く、顔立ちも整った優しい青年だったため、その名は国から国へと伝わり、彼は行く先々で歓迎されました。
いつものように彼が新たな町を訪れたときのことです。
その町に足を踏み入れた途端に、彼はその異様な空気に気づきました。
そこにいた住人たちは皆おいおいとすすり泣いていました。
彼は、すぐに何か困っていることがあるのだと勘づき、
「これは一体どうされたのですか?」
と一同に問いかけました。
すると、人々が一斉にこちらを向き、一瞬こちらが殺されるのではないかというくらい強烈な視線を突き刺し――、どうやら彼が敵ではないことに気づき、取り繕ったように困った顔で微笑みました。
「どうもこれはすみません。いえね、もう魔王が来てしまったのかと思いまして」
「魔王、ですか?」
彼の顔を申し訳なさそうにチラチラと伺う住人に彼がさらに問いかけると、
「ええ、ええ。ここには来るのですよ。あの恐ろしい悪魔が」
と老人がガタガタと体を震わしながら声を絞り出しました。
「それは……」
彼は更に言葉を紡ごうとしましたが、人々の中心にいた少女と目が合ったことで頭が真っ白になりました。
すすり泣く住民たちに囲まれた少女。その金色に光る髪の毛、どこまでも澄んだ湖のように蒼い瞳、透き通るほどに真っ白い肌、桃色に染まった頰、悲しげに結ばれた唇。どれもがとても可憐で、とても儚く、今までに見たこともないくらい美しかったのです。
その美しさはたくさんの女性に言い寄られてきた彼をも魅了するほどで……。
「ああ、美しい……」
彼は彼女を一目見て、すっかり恋に落ちてしまったのです。
「あら、貴方はもしや、ニールソレユ様ではありませんか!?」
「本当だ! これは間違いない!」
「ああ! まさかこの町に来てくださるとは!」
「なんて運命的なタイミング!」
ふいに少女の隣にいた女性の声があがり、その縋るように紡がれた希望は、瞬く間に周りを巻き込み、膨れ上がりました。こうなれば、彼も答えないわけにはいきません。
「ええ、いかにも。もしお困りなれば、このニールソレユが騎士の名において皆様のお力になりましょう!」
彼が高々と宣言すると、人々はわっと湧き上がりました。
「よかった!」「もう怯えなくていいんだ!」「ああ! 神様!」
話を聞くとこの町には魔王が封印されていて、十年に一度だけ魔王が目覚める年があり、その時に町から一人生贄を捧げるシキタリがあるようでした。
「封印された魔王は、生贄を取り込むことにより、再び眠りにつくんです」
「それが丁度今年であり、魔王はこの子を生贄として選んだというわけでして……」
美しい少女の傍で、人々の顔は暗く沈んでゆきました。
「ワタシたちは、彼女が大好きなんです」「彼女はこの町の希望なんです」
「もしも、魔王を無視すればどうなるのですか?」
「そんな! 恐ろしい! この町どころか国までもが滅ぼされてしまうでしょう……。魔王を怒らせてはいけないのです!」
「昔、ご先祖様が一度だけ魔王を怒らせてしまったことがあるらしく、それはもう酷い有様だったと記されておりました」
「そうか」
「あの、だから、やはり騎士様でも危険かと……」
「いいや、問題ない。私が必ずや魔王を討ち取ってみせよう」
「ああっ。ニールソレユ様!」「なんと慈悲深い!」「ありがたや!」
再び湧き上がった住人たちが肩を抱き合い安堵し合う中、彼は少女に目を向けました。
周りにいた人々によかったよかったと頭を撫でられ背中を叩かれ幸せそうにする彼女の笑顔を見て、彼は絶対に魔王を討ち、少女を守ろうと決意しました。
そして。彼は住人たちに促されるままに、魔王が封印されているという森の中へと足を踏み入れました。
「ああ、なんて薄暗く不気味な森だろうか」
彼は、進むごとに襲ってくる魔物たちを払いながら、不安な気持ちになりました。
払っても払っても襲い来る魔物たちは、次第にその強さを増してゆき……。
『ギシャアアアアアア!』
「っ、しまっ……!」
不快な姿をした魔物の爪を受け止めきれず、ついに彼は己の死を悟り、目を閉じました。が。
「退け!」
「え……?」
ざしゅ、と肉を切る音がして目を開けると、目の前で血が躍り、剣が煌き……。突然現れた男は、見事魔物を切り伏せました。
「あの……。ありがとう、ございます……」
「帰れ。ここはお前のような未熟者が来るような場所ではない」
鋭い瞳でこちらを睨んだ男は、ボロボロの黒装束に身を包み、きっぱりと言いました。
「ですが、肩に傷が……」
彼を庇ったせいで傷ついた男の肩からは、真っ赤な血が染み出していました。
「これくらいどうということはない」
吐き捨てるようにそう告げた男は、彼から目を逸らし、そのまま去ろうとしましたが。
「待って! せめて手当だけでもさせてくれ!」
「……チッ。わかったよ、ついてきな律儀な騎士サン」
腕を掴み、有無を言わさぬ力強い瞳を向けた彼の気迫に押され、男は森の寂れた小屋へと赴きました。
「貴方はこんなところに一人で住んでいるのか?」
「悪いか?」
「ここは魔王が封印されている森だと聞いている」
「はっ。だからなんだ。お前は魔王を恐れているのか?」
「私は恐れてはいない。だが、住人たちは、それは酷い具合に怯えていた」
「魔王なんて大したことはないさ。滅多に外に出ることもない臆病な奴だよ」
「貴方は魔王を見たことがあるのか?」
「そりゃああるよ。この森に住んでりゃ嫌でも、ね」
「どこにいるのか教えて欲しい」
「それを知ってどうする?」
「私が魔王を討つ」
澄んだ瞳で告げる彼に、男は急につまらなさそうに視線を逸らしたかと思うと、挑発的な瞳でにやりと笑ってみせました。
「いくら魔王が臆病だからって、お前ごときに殺せはしない」
「いいや。私はやると決めた。貴方が口を割るまでここを動かない」
「何を勝手に」
「頼む。貴方が頼りだ」
「駄目だ。ここに住んでいる危険な者は魔王だけではない。お前はきっと取って食われる」
「私は決めたのだ。あの娘を助けると」
「はは。騎士様でも惚れた腫れたにゃ弱いんだな」
「……何故、私が惚れたとわかる」
「なんだ。やっぱりそうだったか」
「……」
「そう怖い顔をするな。誰にも喋りはしない」
喋る相手もいないしな、と呟いた男が少し不憫に思えて、彼は態度を改めました。
「貴方は寂しくないのか?」
「この森じゃ、寂しがってる暇なんかないさ」
「どうしてこんな森にわざわざ一人で暮らしている?」
「そう怪しがるな。俺は一人が性に合っているってだけだ。この森は誰も入ってこないからな。都合がいいんだ」
改めて小屋を見渡すと、あるのは渦高く積まれた本。それも魔導書ばかり。まるで生活感のない小屋で、果たしてどうやって暮らしているのかと、彼は不信感を強めました。
「貴方は変わっている」
「ああ。きっとそうだろうな」
「申し遅れたが、私はニールソレユ。騎士だ」
「……ああそうかい」
「人が名乗ったら自分も名乗るのだと教わらなかったか?」
彼は、差し出したまま掴まれずにいた手を引っ込めて不服を示しました。が。
「生憎、騎士様のようなお堅い教育は受けてないんでね」
男はせせら笑うように肩を竦めるばかりです。
「教育は受けてなくとも本は読めるのか?」
「……は~。そう睨まないでくれよ。俺はアルカ。森に暮らす変人さ」
「アルカは何故私を助けてくれたんだ?」
「別に。森が騒がしいと思えば、未熟な騎士様が魔物に甚振られてたもんで。つい助けちゃったってわけだ」
「……アルカは何故そんなに剣術に長けているんだ?」
「別に。これぐらいは普通さ。騎士様が弱いだけじゃないのか?」
「……私は決して弱くなどないんだが」
彼が苦虫を噛み潰したような顔をしながらアルカの肩に薬を塗り、手を翳すと、みるみるうちに血が止まり、傷が塞がれてゆきました。
「うわ。これはすごい。傷が一瞬で……」
「こういうの意外と得意なんですよね」
「これ! 教えてはくれないか?!」
「え? ちょっと……」
アルカの食い気味な態度に驚きつつ、彼は掴まれた腕をやんわりと解きました。
「あ、すまない。その、まともに白魔術を見たことがなくて……」
「こんなに魔導書があるのに?」
「実は、魔導書通りにやってるのに、白魔術だけは扱えなくて」
「ああ。白魔術はコツが要りますもんね」
「なあ、提案なんだが、俺はお前に剣術を教える。だから代わりにお前は白魔術を俺に教えるってのはどうだ?」
「は? いや、でもそんな時間は……」
「生贄にされんのは二週間後だろ? それまでにお前としても力をつけておきたいはず。悪い話じゃないだろう?」
「……ひとつ。アルカは何のために白魔術を学びたいんです?」
「そりゃ自分のためさ。こんなとこじゃ誰も助けてはくれないからな」
「……なるほど。いいでしょう。その話、謹んでお受けいたします」
こうして、生贄少女を救うための力が欲しい騎士と、自らの身を癒す力が欲しい森の変人の奇妙な関係が出来上がりました。
その修業は決して互いに簡単なものではありませんでしたが、二人は弱音も吐かず、時間を惜しんでそれぞれの修行に取り組んでゆきました。
数日後。白魔術のための材料を探す二人は、未だにぎこちない距離感でありながらも、少しずつ互いを認め合い、軽口を叩くまでになりました。
「ううん、植物なんて全部一緒に見えるんだが……」
「全然違うでしょう? アルカ、花とか見ないタイプですか?」
「花を見たって腹は満たされない」
「貴方ね、女性に嫌われますよ?」
「はっ。女なんてどうでもいいさ。あんなおっかない生き物、こっちから願い下げだ」
「なるほど、僻みですね」
「うるせーよ。イケメン騎士様」
「あ。アルカ、そこの薬草です」
「ん、これか?」
「あ、待って! その横に生えてるでかいキノコ、油断してると食べられちゃうんで――」
無造作に手を伸ばしたアルカに、彼が注意を促した瞬間。
「うわっ! あっぶね! 早く言え!」
危機一髪、手に噛みつこうとしたキノコをひらりと躱し、アルカは自分の手を擦りました。
「はは。でも躱したじゃないですか。すごいなあ」
「ふん。褒めたって俺は誤魔化されな……危ない!」
「え?」
キノコがアルカを仕留め損ね、項垂れた瞬間、一匹の野ウサギがキノコの真横を通りました。それはまさに格好の餌食で……。
ばくり。
「ちょ、なんでアルカが庇って……?!」
キノコに食われたのは、真っ白く可愛らしいウサギではなく、ボロ布を纏った陰気な男でした。キノコは、アルカの手に食いつくと、あっという間にアルカを丸呑みにしてしまいました。
か弱いウサギが逃げてゆく姿を見届けた後、彼がキノコに振り返ると、アルカは内側からナイフを突き立て、キノコを引き裂いていました。
「うわ、大丈夫ですか?」
「くそ。ドロドロじゃねーか。ってか、お前も突っ立ってないで、さっさと助け……」
「いや、だって。もうすぐ来ちゃいますから」
「来るって、なにが……」
キノコの分泌液を拭いながら尋ねたアルカは、近づいてくる不思議な音に口を噤みました。
「キノコに餌が引っかかったのを、アレが嗅ぎつけたんですよ」
「餌って……」
「もちろん貴方のことです」
「じゃあ、アレってのは……?」
「そこだ!」
彼が叫び、足元にナイフを突き立てると、真っ黒い蔦が地面に縫い付けられていました。
「わ、なんだこれ」
「森に住んでるくせに知らないんですか?」
「こんな広い森の全てを把握しているわけないだろう!」
「小屋から結構近いんですけど」
「……」
「もしかして引きこもりってやつですか?」
「外に出てるだろうが!」
「でもやっぱり慣れてないみたいだ」
「なっ……!」
後ろから伸びてきた蔦があっという間にアルカの足を捕らえるのを見て、彼は低く呟きました。
「くそ!」
体を締め上げられるより先に、アルカの手の平から炎が現れ、蔦を焼き尽くしました。が。
「その炎。やはり貴方は只者ではない。ねえアルカ。貴方は一体何者なんです?」
「何って……。俺はただの変人で……」
「嘘を吐くのはおススメしませんが?」
焼け焦げた蔦に向かって彼が魔術で水を掛けた瞬間、力を取り戻した蔦はアルカの体を縛り上げてゆきました。
「お前!」
「貴方は一体誰なんです?」
「放せ」
「貴方は余りにも怪しすぎる。だから……」
彼は、身動きの取れないアルカの腕に、魔力を封印するブレスレットをはめると、ゆったりと微笑みました。
「何を……」
「見せてくださいよ。貴方の本当の力を」
「は、力が、出ない……? お前、これ、くそ、外せ!」
「なんだ。こんなブレスレットすぐに壊すと思ったのに。まだ演技を続ける気ですか?」
「そんな魔力、俺にはないって…… 」
「嘘ですね。貴方からは膨大な魔力の匂いがするんですよ。だからほら、蔦も貴方を執拗に狙うんです」
「ひっ、なんだこいつ……!」
「これは人間や動物の精力を吸う植物で、特に力を持った者を好むんです」
「は、嘘だろ……」
服の下ににゅるりと蔦が入り込んだ途端、アルカは青ざめながら彼を見ましたが、彼はそれを黙って見つめるだけでした。
「い、嫌だ、た、助けてくれ……!」
「嫌です」
「お前、それでも騎士か!?」
「だって貴方は魔王でしょう?」
「ッ……。あ、くそ、やめ……!」
蔦がアルカの身体中を撫で回す中、彼は今までの態度と違う冷たい瞳でアルカの正体を見抜きました。
「何が目的だ。何故私を助けた?」
「あ……、うう……」
アルカの頬を彼が撫で上げると、蔦から分泌される成分も手伝って、欲に溺れかけた声は更に色を増してゆきました。
「なあ魔王。何故力を使わない? こんな植物にいいようにされて、随分楽しそうだな?」
「は……」
「そんなにいいか? ん?」
彼がアルカの胸に張り付いた蔦を剥がし、代わりに弄ってやると、可哀想なくらいアルカは甘く喘ぎ、その身を震わせました。
「あ。あッ……! ん、やめ……!」
「はは。下もこんなに張り詰めちゃってさあ」
「あ、ああっ!」
「ここも、いいように突っ込まれて」
「っあ!」
「気持ちいい? 魔王様」
「う、ほんとに、助け……」
どこもかしこもぐずぐずになったアルカを見て、彼は首を捻りました。
「え。これだけやって抵抗しないなんて。……まさか本当に普通の人間なのか?」
「は、頼む、許して、くれ。助けて、くれ、ニール……!」
「っ……。クソ!」
碌に抵抗できないまま欲に沈んだアルカから目を逸らし、彼はその蔦を叩き斬り、悪態を吐きました。
「は……」
「なんでこんな蔦にいいようにされてんだよ。アンタは魔王だろうが」
「ッ……」
「アルカ?」
「は、あ……。ニール……」
「お前……」
彼は、アルカの誘うような瞳から目が離せなくなりました。揺れる瞳に涙を浮かべて彼の名を呼ぶアルカに、いつしか彼すらも当てられてしまったのです。
「アルカ、これはアンタが悪いんだからな」
「あ……」
彼に抱き寄せられたアルカは、恐怖と喜びが混じり合い、その瞳をより一層揺らしました。
そして。不気味な森の中、二人はただひたすらに己の欲を吐き出したのです。
そうして、奇妙な関係のままに師弟ごっこを続けて更に数日。二人はついに互いの技術をある程度まで吸収し合いました。そして。
「ニール、お前はそろそろ町に戻った方がいい」
ある夜、アルカは彼の誘いを断り、真剣な眼差しでそう告げました。
「生贄を寄越す日まではまだ時間があるはずだ。私はまだアルカから学ぶことがある」
「いいや。お前の剣術はぐんと成長した。俺が教えることなんてもうないさ。それに、俺も白魔術を充分覚えた。後は自分でなんとかしていくさ」
「私から逃げるつもりなのか?」
「逃げるも何も。俺はここから出られない」
「私だって、魔王を倒さないと帰れない」
「ニール、駄目だ。お前は魔王と戦うべきではない」
「それは、貴方が魔王だから、ですか? 私とは戦いたくないという意味ですか?」
「お前を巻き込みたくないんだ。俺はお前が思っているような魔王ではないんだ……」
「だったら尚更。私と勝負してください。私はこの目で貴方を見極めたい」
彼は、夢から醒めたように静かな声で呟くと、アルカに向かって剣を放りました。
「俺は、お前とは戦いたくない」
「私は貴方と戦いたい。そして、貴方が何者なのか。本当のことを知りたい」
「俺が魔王だとしたら、お前は俺を殺すのか?」
「魔王が命乞いですか? 言ったでしょ。私は娘を助けたいのだと」
「……やめろといっても聞かないんだろうな」
「ええ。恋人ごっこももうお終いです」
かんっ。どちらからともなく剣がぶつかり合い、夢現の甘さを吹き飛ばし……。
「チッ。こんなことなら剣術を教えるんじゃなかった」
幾何かの剣戟の後、彼の切っ先がアルカの喉を捕らえました。
「ほら、いい加減本気出したらどうです? 魔王さん」
「……っ」
「そっちが来ないんだったら。こっちから行きますよ?」
唇を噛みしめたまま動かないアルカに向かって、彼は容赦なく氷の柱をぶつけました。
「くそ……!」
アルカは、頭上に迫る氷に向かい、あらん限りの力で炎を投げつけましたが……。
「それじゃあ私には届かない」
「ぐがっ……!」
ついに力負けしたアルカは、氷に押しつぶされてしまいました。
「う……あ……」
「ねえ。どうしたんです? 私に情でも湧きましたか?」
猫なで声で問いかけながら、彼は這い出そうとするアルカの真横に剣を突き刺し、冷たい目で見下ろしました。
「は、そんなわけ……」
「それじゃあ、どうして力を使わない」
「っ……」
「いや、使わないんじゃない。使えないんだ。そうなんだろう?」
「……」
否定するでもなく、ただ拳を握りしめたアルカに、彼は確信を持ちました。
「誰かに封じられているのか?」
「それは……」
「貴方が望むのならば、私は貴方を助けよう」
「……」
「教えてくれ、貴方は何に怯えている?」
「それ、は……」
「ニールソルユ様!」
瞳を揺らしながらアルカが口を開こうとしたそのとき、彼の背後から可憐な声が聞こえてきました。
「君、どうしてここに?」
彼が振り返ると、そこにはどういうわけかあの少女、サシェリアが立っていました。
「ワタシは、生贄として森に置かれたのです。ああ、ニールソルユ様、そのお方は?」
可愛らしい唇から零れ出た問いに、アルカが急に顔を上げて、彼に手を伸ばしました。が、もう遅いのです。
「ニール、呼んじゃ駄目――!」
「魔王アディハラルカだよ。ね?」
どくん。
「あ、あああ……」
アルカの心臓が嫌な音を立てた瞬間。
「き、きゃあああ!」
みちみちと体が黒くなり……。
『ガアアアアアアア!』
おぞましい角、鋭い爪、不気味に広がる翼、剥き出しの牙。アルカは、すっかり狂気を携えた化け物の姿に変わり果ててしまったのです!
そしてその殺気を帯びた赤い瞳は、すぐに二人の姿を捕らえ、襲い掛かりました。
「危ない!」
「きゃっ!」
振るわれた爪を避けるように娘を抱き上げ、彼は後ろに飛びました。サシェリアのいた場所は魔王の爪によって、見事にえぐり取られていました。これが直撃したら一溜まりもありません。
『グルル……』
「ああ、勇者様……。貴方が魔王の真名を呼んでしまったから……。魔王の封印が解けてしまったのです……!」
「真名……。なるほど。だから誰一人としてアディラハルカの名を口にしなかったわけだ」
『ガアアアアアアア!』
「そして……」
「ニールソルユ様! ワタシのことはいいから、どうかお逃げください!」
「お嬢さん、そうはいかないよ」
「きゃっ! な、なにを」
彼は、抱えていたサシェリアを荒々しく地面に落とすと、剣を振り抜き……。
「お前は魔女だな」
彼は、サシェリアの胸元に光る宝石を粉々に砕きました。するとどうでしょう。
「アアアアアア!」
可憐な少女はけたたましい叫びをあげて、蛇のような女に姿を変えたのです。
「やはりそうか」
「ふふ。残念。あともう少しだったのに。なんでわかったのかしら」
「人間ごときに魔王の力を封印できるはずがない。いや、むしろ魔王の力を封印できるのは魔女しかいない。そして、お前は不自然に綺麗過ぎた」
「ふ~ん。最初っから気づいていたと?」
「いや。初めは私もお前に惚れていた。他の人間たちと変わらない。むしろ本気でアルカを疑っていたさ。でも。アルカに触れて気づいた。彼は“悪”ではないということに。そうなると、怪しいのは誰かって話だ」
「さすがワタシが見込んだ人間だわ。ああ、でも駄目よ。貴方はもう助からないの」
「お前は人喰い魔女だな?」
「ふふ。バレちゃってるのね。でも、遅いのよ。ねえ勇者ニールソレユ、貴方はどんな味がするのかしら」
魔女は己の唇を舐めながら綺麗に笑いました。そして――。
*
あるところに魔王がいました。彼は、生まれたときから自分の存在に疑問を持っていました。何故なら、彼の心は優しかったのです。
魔王として生まれた彼は、慈しみの対象である人間たちに大層怖がられました。どれだけ彼が仲良くしようと思っても、彼らは逃げ、酷い時には魔王を傷つけさえしました。
彼は悟りました。自分が魔王である限り、人間たちと仲良くすることはできないのだと。しかし、やはり彼は優しさを殺すことなどできなかったのです。
あるとき彼は、一つの街に辿り着きました。そこの住人は皆信仰心が強く、一つの宗教に固執していました。なので、しきたりや弾圧が厳しく、中には毎日怯えながら自分の心を殺し、無理やり周りと合わせている者もいました。それを知った彼は、思いついたのです。
魔王として街を支配しながら、街から出たがっている子を生贄に選び、こっそり外に逃がしてやる。それこそが、彼が魔王としてできるたった一つの善行でした。そうすることで、彼は良心を満たしていたのです。
しかし。それはそう長く続きませんでした。人喰い魔女が食料と見定めた娘と重なり、魔女の怒りに触れてしまったのです。
魔女は街を滅ぼし、それを庇おうとした魔王に呪いを掛けました。後は知っての通り。魔王は力を封じられ、森に閉じ込められ。魔王を退治するために町を訪れた力ある勇者を喰らうため、魔女は可憐な少女を演じていたのです。
*
『グルアアアアアアアア!』
「うふふ! 二対一じゃあ流石の勇者様でも敵わないわよね!」
「っ!」
魔女の言う通り、彼は二人の攻撃を躱すのに精一杯でした。
「悪趣味な腐れ魔女め」
「何を。お前とてワタシの美しさに惑わされたくせに」
「ああ。だからこそ最悪な気分だ。そして何より、お前はアルカを弄んだ」
「ふふ。魔王に同情するなんて、勇者失格ね、王子様。だけど、大丈夫」
「貴方のハッピーエンドはこれからなんですもの!」
『ガアアアア!』
魔女が魔王に触れると、魔王の瞳は更に毒々しく赤く染まり、揺らめきました。
「ワタシだってね、さっさと御馳走にありつきたかったのに。あろうことか、コイツは魔物から貴方を守ったじゃない? その上、ワタシを忘れてお楽しみだなんて。なんて愚かな魔王かしらね」
「どうやらアルカはお前と違って本当に良い奴らしい」
「ええ。コレは愚かな男よ。ワタシに力を奪われて尚、他を助けようとするんですもの。コレがどうして白魔術を教わりたかったのか知ってるかしら? ワタシが悪戯に甚振った人や動物たちを治療するため、だそうよ。ふふ、本当に馬鹿な男よねえ? か弱い命なんて、治したところで、すぐに葬ってあげるのに」
「なるほど。よくわかった。お前が悪でアルカは善だ」
「あら。善悪の判定なんて貴方如きが決めていいものではないわ。現に、ワタシの支配する町の人間たちはとっても幸せなんですから。彼らにとっての善は間違いなくワタシ……」
「うるさいな」
気分よく語る魔女に向かって、彼はナイフを投げ、その腕に傷をつけてやりました。
「ぐっ。よくも。どうやら勇者様は早く死にたいらしいわね。アディラハルカ!」
『ぐるがるるるる!』
魔女が魔王を呼んだ瞬間、魔王はその瞳を狂わせて叫びました。が。
「アンタこそ、人間を舐め過ぎているんじゃないか?」
「は?」
「アルカ!」
空気を震わす澄み切った彼の声が魔王に届いた瞬間、その赤い瞳は少しずつ理性を取り戻し……。
『……ッ! チカラ、が……!』
「な……、何をしているの?! アディラハルカ! 早くこの餌を仕留めて……」
「アルカ。アンタの封印は僕が解いた。感じるだろう? 己の本来の力を。アンタはそれを正しく使えるはずだ」
「ニール……」
「何を言ってるの? いくら魔法が使えるとはいえ、人間如きがこんな短時間でワタシの呪いを解けるはずがない。なんのハッタリかは知らないけれど――」
「勿論、ハッタリなんかじゃないさ。何しろ、解呪のために私はアルカの体に時間を掛けて幾度か深く触れたのだから」
「は……?」
彼の言う通り、魔王の体に注がれていた彼の力は、魔女の呪いをすっかり喰らってしまいました。そして。
「アルカ、行くよ。この質の悪い魔女を二人の手で始末する!」
「……ああ」
力を取り戻した魔王と勇者の手から炎が放たれ、あっという間に魔女を包んでゆきました。
「あああああああああああ!」
炎の中で揺らめく魔女の叫びは、人々の目を覚ましてゆきました。こうして、魔女の支配が終わりを告げたのです。
*
「それからというもの、魔女に操られていた町の人々は、ようやく意志を取り戻し、幸せに暮らしましたとさ。おしまい」
賑やかな市場の一角でお話を終えた青年は、子どもたちに向かって微笑みました。
『え~。それで、勇者と魔王はどうなったの?!』『知りたい!』
「え~。それはね~?」
『それは?』『それは~?』
「おい。人に買い出し行かせといて、自分はサボりか、ニール」
「サボりじゃないよ。未来ある子どもたちに良い魔王もいるんだよって教えてるとこ」
「お前のソレは話を美化し過ぎていて、聞くに堪えないんだが?」
「そうかな? 魔王は充分善良で美しいんだけど?」
「は~。なんでもいいから。ほら、薬草買ってきたんだから、往診再開するぞ」
「魔王様は人使いが荒いな~」
『えっ、魔王様?』『この人が魔王様なの?』
「あ、いや。俺は……」
『魔王様~! 怖い魔女を倒してくれてありがとう!』『お花、あげる!』
「え、えっと……。俺が魔王だとして、その、怖くないのか……?」
『え? どうして?』『魔王様はいい人なんだよね?』
「だって、人間は皆、魔王を怖がるはずで……」
「ああ、この街は平和だからな。これといった信仰心もないし。アルカが見てきた人間たちは魔王を悪だと過剰に教育されていたんだろう」
「でも、俺は……」
『魔王様、お花は嫌い?』
戸惑いを隠せないアルカに、純真無垢な少年少女がそっと花を差し出しました。
「受け取ってやりなよ。この国の花は魔力を宿している。アルカが触れたくらいじゃ壊れないよ」
「っ……。ありがとう」
『どういたしまして!』
花をそっと抱きしめたアルカは、魔王とは思えない優しい笑顔を浮かべて喜びました。
「さてアルカ。私が君の可愛さに殺されない内に、往診を再開しようか」
「ああ、そうだな。可愛さ云々は癪だが、お前と共に歩むのは嫌いじゃないからな」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
こうして、勇者と魔王は手を取り合い、その力を人々のために使い、幸せに暮らしましたとさ。おしまい。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる