アズアメ創作BL短編集

アズアメ

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(122)ショタコン作家と成長ショタ

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成長ショタ×作家
最終的にショタが成長して立場逆転するやつが好きです!
視点が藍→紺→高原になってます

 汐田 紺:ショタコン(厳密に言うとそうではない)作家。自らの精神を保つために藍を傍に置くサイコパス。ネーミングはショタコン。
 藍:児童養護施設から貰われてきた少年。紺に監禁されている。ネーミングは愛。
 高原:汐田の編集担当。シングルマザー。ネーミングは原稿。
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「ああ、藍くん。私の可愛い藍くん……」
 抱きしめられた反動で腕の鎖がじゃらりと音を立てる。
「先生、苦しいです……」
 昨日どころか一昨日だって風呂に入っていないはずなのに、男の体からは甘い匂いしかしない。僕が一度、好きだと言った香水を毎日律儀につけているのだろう。
「ああ、ごめん。でも、やっと脱稿できたんだ。だから、勿論、褒めてくれるよね? 私の可愛い藍くん」
 隈のできた目を蕩けさせた男が、甘えるように僕の肩に頭を乗せる。
「うん。先生、偉い」
 小さな手で短い黒髪を撫でてやると、男は満足そうに微笑む。
 汐田 紺。本好きなら誰もが知っている恋愛小説作家。その整った顔立ちと落ち着いた大人の色気のせいで女性ファンが多く、以前開いた握手会では握手されて泣き出す女の子が続出し、連絡先が書いてあるファンレターをうんざりするほど貰い、ついにはファン同士が喧嘩し始めて警察沙汰になったとか。
 そんな彼の精神を支えているのが僕。彼の愚痴をよく聞き、彼の要求を素直に聞き、彼の欲望を満たす為だけに飼われている存在。それが僕だ。


 僕は孤児だった。母親が外国人と浮気してできた子どもだったらしい。物心着いた頃から、僕は施設で虐められていた。田舎の古い価値観が刷り込まれた子どもたちは、こぞって僕をいびり、大人たちもそれを助けようとはしなかった。
 汚い色だと、金色の髪を引っ張られ、青い目を殴られた。いつも怖くて、隅で震えて泣いていた。
 僕がおとぎ話のお姫様だったら、王子様が助けに来てくれるのかな。
 施設の片隅で埃を被った絵本のお姫様は、金髪で青い目だった。僕が女の子だったら良かったのに。そんなどうしようもない逃避をする僕の目の前に現れた“王子様”が彼だった。
『本当に、この子でよろしいのでしょうか?』
「ああ。この子がいいんだ」
 隅で蹲る僕の目の前にしゃがんだ彼は、真っすぐに手を伸ばす。
「私と一緒に来てくれるかい?」
 王子様の目の奥にある暗い闇に気づきはした。けれど、ここから連れ出して貰えるのなら、なんでもよかった。
 頷いてからその手を取ると、彼は綺麗に微笑んで僕を抱き上げた。
「……いい匂い」
「香水をつけてみたんだ。今日は大事な日だからね」
「だいじなひ?」
「そう。私の可愛い宝物を選ぶ日だから」
「たからもの……」
「君のことだよ」
 そう言って、彼は僕の額にキスをした。
「藍。今日から君の名前は藍だ」
「あ、い……?」
 怯える僕に向かって、男が切れ長の瞳を優しく細めて言った。
「そう。少し、安直かな。でもね、今日から君は、私の愛を受けて鳥籠の中で過ごす青い鳥。君は私の幸せの象徴なんだよ」
「しあわせ……」
 口の中で転がした言葉は荒んだ僕の心に甘く溶け込んだ。みすぼらしいこの僕が、青い鳥になれるのならば。得体の知れない王子様に運命を委ねるのも悪くないと思った。


 それから十年が経ち、僕は十五歳になった。
 先生以外で僕の存在を知る人間は、先生の昔からの担当編集者であるらしい高原さんしかいない。書類上の僕は、先生に引き取られた時に抹消されたらしい。孤児が一人“病死”したところで世界は何も変わらない。
 高原さんは僕を見る度に気の毒そうな顔をする。彼女の子どもも丁度僕ぐらいの年齢らしい。彼女と直接話したことはないどころか、ちらりとしか会ったことがないのだけど……。なんだか心配されているのが面白い。だって。実際のところ。先生は“法に触れるようなこと”を僕に求めては来ないのだから――。

「藍くんには、ただこの家に居て欲しい。その可愛さで私の目の保養になってほしい。私の温かいぬいぐるみになってほしい」
 そう言って、彼は僕のか細い手足に錠をかけた。
「ごめんね。でも、逃げないように。君はこの部屋でしか生きられない人間なんだ。だから、外に出たら駄目なんだ」
 鎖はトイレや風呂に行く分には問題ない長さだった。僕が退屈しないようにと監禁部屋には本やテレビ、ゲームに子どもが好きそうな玩具がたくさん置かれていた。
 初めの頃、僕はいつ“そういうこと”を求められるのかと怯えながら過ごしていた。だけど、彼が僕にそういう風に触れることは決してなかった。
「ごめんね、怖いよね。でも、私には“そういう感情”がどうにも欠けているらしいんだ。書くのは好きなんだけど……。自分に向けられるそれが苦手で……。人間が嫌いで……。だから、安心して……というのは無理だろうけど……」
「じゃあ、どうして僕を……」
「……うん。ごめんね。でも、寂しくて」
「え?」
 僕をそっと抱きしめた彼の弱々しい言葉にどきりとした。このまま泣いてしまうのではないかと思い、そわそわした。
「私は人間が嫌いなんだ。他人に触れられただけでも吐き気がする程の人間嫌い。他人の裸を見るのも嫌。だから、“そういうこと”を見るのも嫌で」
「潔癖ってこと……?」
「うん。そうかもしれないね。でも、私は所詮人間で……。人間は嫌いだけど、どうしたってこの寂しさは人の温もりでしか埋まらないんだ。だから、思ったんだ……。他人じゃなければいいのかも、って。自分が育てた綺麗な子なら、触れても大丈夫なんじゃないかって」
 そう思って、何人か監禁してきたけど、みんな精神に異常を来して駄目になったのだと説明された。みんな最後には私を嫌って外に出たがるのだ、と悲しそうに彼は話した。
「ただ、黙って抱きしめられてくれるだけでいい。私の愚痴に頷いてくれるだけでいいんだ。頭がおかしくなるほど人との会話に飢えてしまう日があって、原稿に手がつかなくて……。だから、どうしても私専用の人形が欲しいんだ!」
 彼は狂っていた。だけど、その狂い方は余りにも可愛いものだった。人を金の力で人形扱いするのは戴けないが、こんな快適な暮らしが約束されているのならば、僕は喜んで彼の物になろうと思った。
「僕は逃げない」
「ああ、藍くん……。ありがとう……」
 僕を抱きしめる彼の温もりは、確かにささくれ立った心を軽くした。そう言ったら、彼は笑って「人間は単純だろう? そういう風に出来てるんだ。だから私はそれが気持ち悪くてどうしようもないんだ」と言った。
 生き辛そうな人だな、と思った。人間に向いてないこの人が、人間の娯楽を担っているのが不思議で堪らなかった。


「先生の作品は、相変わらず綺麗です」
「藍くん、それ、褒めているのかい?」
「勿論。綺麗な人にしか書けない文章だ。だからこそ、大衆はその芸術性に惹かれるんでしょう?」
「……う、うん」
 素直に褒めた僕から目を逸らし、彼は原稿を僕の手から取り上げた。
「お風呂、一緒に入りますか?」
「え、いや……。藍くんはもう入っただろう? 一人で入ってくるよ」
「そうですか。じゃあ、ご飯の用意しておきますね」
「うん、ありがとう……」
 ……またこれだ。内心で舌を打つ。
 少しずつ、彼が僕に抱き着く回数が減っていた。頬やら額にキスされて猫可愛がりされていたのが、もう随分昔に感じられる。執筆ですり減った精神状態の時はまだ甘えてはくれるが、正気を取り戻した途端、余所余所しい反応をする。
 原因はわかっている。
「僕が、ショタじゃなくなったから……」
 先生は所謂ショタコンというやつだ。十五にもなれば、僕はその域から脱してしまう。捨てられるのも時間の問題だろう。
 僕の前に飼われた少年たちは、その後一体どうなったのだろうか。やはり、殺されたのだろうか。僕も殺されてしまうのだろうか。
「冗談じゃない」
 仄暗い狂気が腹の中で暴れる。ああ、僕は本当に可愛くなくなってしまった。



 私だけの可愛い子猫ちゃん。いつだって、純粋に微笑んで私に安らぎを与えてくれる唯一の少年。私の愛をたっぷり受けて、綺麗に育った藍くん。
 綺麗に育ったはずなのに。汚いものを一切見せないで育てたはずなのに。はず、なのに……。
「あ、い、くん……。これ、は、何……?」
 体に違和感を覚えて目覚めた先、彼の姿に血の気が引く。
「ああ、やっと起きてくれた。こんなにすっぽり挿ってんのに全然起きないから心配したんですよ? 薬、効き目がすごいんですね」
「く、すり……?」
 状況を飲み込めないまま、言われた言葉を反芻する。
 確か、夕食の後、やけに眠くなって……。
「高原さんに相談したら、本当に睡眠薬持ってきてくれて……。彼女が優しい人で助かりましたよ」
 まあ、まさかこんなことに使うとは思ってないでしょうけど、と笑った彼に言及したいのに上手く頭が回らない。
 彼は、本当に藍くんなのだろうか……?
 いつの間にか、彼の手足の錠が外されていた。そして、それは代わりに私を拘束していた。
「藍、くん、おね、がい、こんな、ヒッ!」
「こんなエッチなことをする僕は、もう貴方の人形じゃいられませんか?」
「やめ、こんな、怖いこと、だ、め……ッ」
「ふふ。僕よりずっと貴方の方が純粋ですね」
 彼の指が体を這う。その感覚が怖くて息を詰める。駄目だ、上手く喋れない。息が、上がって、なんか、駄目だ……。
「な、んで、こんなこと、知って、」
「こんなことって、男同士のやり方のことですか? それなら、貴方の秘蔵の本棚を読み漁ってみました。貴方もあんなの読むんですね」
 あんなの、と彼が言った本に思い当たって顔が熱くなる。
「っ、違う! あれは、同性愛を書いてみないかって、送られてきた参考資料で……」
「じゃあ、これで書けるようになりますね。先生」
「いッ!」
 胸の突起をいきなり指の腹で押し潰されて悲鳴を上げる。痛いのに、快感が伴って……。
「ナカ、そんなに締め付けないでくださいよ。先生」
「や、怖い、嫌だ、助けてッ」
「誰も助けに来ませんよ。だって、貴方は一人ぼっちなんですから」
 そうだ。私には家族も友人もいない。この家を訪ねてくるのは編集しかいない。一人ぼっちで寂しくて、それで、藍くんを手に入れたのに。藍くんは、私の唯一触れることのできる温もりだったのに……。
「あ、ああ……。どうして、どうして藍くん、こんな、風に、」
「僕が怖い?」
「ッ、」
「でも、ごめんなさい。僕だって貴方に捨てられる訳にはいかないんです。だって、僕には貴方しかいないから」
 くしゃりと顔を歪めた彼は、やはり私の可愛い藍くんだった。だけど、騙されるわけにはいかない。彼はもう違ってしまった。私は彼を傍には置けない。
「逃げればいいッ! もう、好きに、生きればいい……! 金ならいくらでもやる! だから、わざわざこんなこと、しなくても……!」
「……僕も、手錠の鍵を見つけたとき、逃げようと思ったんですよ? でもね、駄目だったんです」
「ッ!」
 ぐり、と奥にそれを擦りつけられて悲鳴を上げそうになる。唇を噛んで何とかそれをやり過ごし、息を吐く。
「貴方が言ったんですよ。この家に居て欲しいって。僕を縛ったのは貴方でしょう? 先生」
 違う……。私が縛っていた藍くんはもういない……。
「違う……。怖い、君の目が怖いんだ……。君の目は、日に日に私を欲していたから……だから……」
「ああ。なるほど。だから最近素っ気なかったんですね。ああ、なんだ。僕は貴方のことがそういう意味で好きだったのか。そうか……。僕は貴方に縛られているんじゃなくて、僕が貴方のことを縛りたいみたいです。うん、何だかすっきりしました」
 ゆっくりと彼が微笑む。私には理解ができない感情。それが彼の瞳に揺らめく。
「あ、ァ……」
 目の前の怪物に答えを教えてしまったことを後悔する。が、もう遅い。
「汐田先生。僕を愛して? 成長した僕でも受け入れてよ。ねえ、僕に愛を植え付けたのは貴方でしょう? 僕は悪くない。だから」
「あッ! やめ、」
「貴方が僕を愛してくれるまで、ずっと僕が教えてあげますね」
 彼の目が楽しそうに歪む。それに恐怖を覚える前に体がしなる。目の前がチカチカして。気持ち良くて。もう何も考えられなくなった。



「ああ、高原さん。お疲れ様です」
「え、藍君……?」
 汐田先生の原稿を取りに行くと、出迎えてくれたのはあの幽閉されていたはずの少年だった。
「これ、原稿です」
「えっと、先生は……?」
 封筒の中身を確認しながら、部屋の方に視線を流す。
「疲れて寝てますよ」
「その……、アナタ、脱走するつもりだったんじゃ……」
「いいえ。僕はずっと先生の傍に居ますよ?」
 小声で囁いたワタシに、藍君はにこりと微笑む。その顔は先生が見込んだだけあって、とても可愛らしい。
『高原くん! いるのか?!』
「あ。先生、起きたみたいね。でも、どうしたのかしら」
 奥の部屋から聞こえた声の違和感に首を傾げる。先生があんなに声を荒げるなんて。
『助けてくれ! 藍くんに、監禁されていて!』
「え?」
 先生の言葉に目を見開き、藍君を見つめる。
「……ちょっと待っててくださいね」
 笑顔を張り付けたまま、穏やかにそう言った藍君が部屋の奥へと消える。
 一瞬、扉の先に拘束された先生が見えた気がして、首を振る。まさかそんな。あの可愛い少年が、そんなことするわけが……。
『あ、待ってくれ、許して、悪かったから、もうしない、あ、藍くん、待っ――』
 声にならない悲鳴が聞こえた後、再び沈黙が訪れる。
「すみません。まだ躾け切れてなくって。でも、高原さんには迷惑をお掛けしないので……。黙っていてくれますよね?」
 戻ってきた藍君が、有無を言わせぬ表情で問う。
 ああ……、今更だ。全てを理解して目を閉じる。
 ワタシは、この少年のことを見ないフリしてきた。そのワタシに、彼を止める権利などない。何が起こっているのかは知らないが、知らなくても問題はない。
「原稿が頂けるなら、それで」
「小説の質は変わってしまったかもしれません。でも、これはこれで面白いものが出来たはずです」
「そうですか」
 奥の方から聞こえる呻き声を無視して原稿を鞄に仕舞う。
「これからも、よろしくお願いしますね。高原さん」
「勿論。先生の担当の座を奪われるわけにはいきませんから」
 少年の冷たい手を取り、握手を交わす。ワタシには養うべく家族がいる。だから、悪魔に恨まれるようなことは決してしない。寧ろ、先生が加害者として捕まる側じゃなくなった分マシだ。
「なんて。これじゃあワタシも彼らのことを悪魔呼ばわりできないわね」
 外に出て、新鮮な空気を思い切り吸い込む。夜の帳が降り始めた空は、藍と紺が混じり合った色をしていて。年甲斐もなく一番星に“二人の幸せ”というフワフワした無意味な願を掛けたのだった。


「ねえ先生。まだ僕から逃げたいと思ってたんですね」
「ッ……」
 高原を見送った後、藍くんがゆっくりと近づいてきて私を見下ろす。
「そんなモン尻に突っ込んどいて、よく助けが呼べますね。いいんですか? そんな姿、高原さんに見られちゃっても」
「やめてくれ、もう、許して、これ、もうずっと入ってる……」
「そうですね。貴方がいい子じゃないから」
 気色の悪い玩具を抜こうにも、手足ががっちりと拘束されている今、私にできることは助けを呼ぶしかなかった。なのに。
「振動強くしただけですぐイっちゃうようじゃ、助けてもらえませんよ?」
「も、いいだろ……。そろそろこれ抜いてくれ……。原稿も、ちゃんと書いたんだから……」
「そうですね。原稿書けたのはいい子でしたね。あんなエッチな原稿が書けるなんて。成長しましたね、汐田先生」
「……お前が、そう書けって、言ったんだろうが」
「ふふ。そうですね。先生は僕の言う事が聞けて偉いですね。そうだなあ、じゃあやっぱりご褒美あげないと」
「っあァ!」
 突然、それを引き抜かれて声が漏れる。
「感じちゃいました? エッチですね」
「ッ……。これも、解け」
「わあ、こんなに濡れてる癖に。よく偉そうに出来ますね」
「ン……、やめ、」
 噴き零れた液体を塗り込むような手つきで前をなぞられ、声が震える。
「ああ、可愛い。僕の可愛い紺。早く素直になってよ」
「や、それ、汚いから、駄目だって……!」
 躊躇うことなくそれを口に咥えた彼が意地悪く微笑む。
「ほら、出していいから。ね?」
「ん、や、あッ!」
 ごくり、と彼が喉を鳴らしてそれを飲み込む。また、彼が穢れてしまった。それなのに、火照る体が気持ち良くて。頭が、馬鹿になる。
 これは汚い事なのに。間違った事なのに。嫌いなはずなのに。
「あれ? もしかして、足りませんでした?」
「あ……」
 言われてから、まだ奥が疼いていることに気づく。
「僕が欲しい?」
「……」
「こんな玩具じゃ足りないですよね。先生はもう、ずっと奥まで暴かれてるんですから」
「ッ……」
 耳元で囁かれて目を瞑る。違う。私は、ただ、藍くんを抱きしめられればそれで満たされていたのに……。
「どうします? ねえ、こんなにひくひくしてますけど? これで押し広げてぐちゃぐちゃしてあげましょうか?」
「ぅ……」
 目の前に晒された藍くんの可愛くないそれから目を逸らす。汚い。そんなもの見たくない。そんなもの中に入れたくない。はずなのに。
「ほら。味を覚えてるから。くっつけただけですぐ吸い付いてきた。可愛いお尻ですね」
「んう……あ、勝手に、入る……ッ」
「っは、貴方が腰を揺らしてるから、ですよ。あ~、やば。じれったくて、我慢できないかも……。ね、いいでしょう? いいって言って。欲しいって言って?」
「ッ、いつも、勝手に、入れる、くせに……」
「うん。でも、たまにはわかってもらわないと」
 深く呼吸をする度にナカに彼のものが擦りつく。耐えなくては……。ここでいいようにされては、一生彼から逃げられない……。
「ほら。素直になりましょう、ね?」
「あ、駄目、胸、や、ンッ~!」
 やわやわと触られた後、胸を両方抓られた快感で腰が動き、ぐぷりと彼がナカに押し進む。
「は、ほら、早く、言ってください……。こんなに、自分で吸い付いてる方がよっぽど恥ずかしいですよ……?」
「ッ~」
「あ、キスしてほしい? ほら、そんな唇噛まないで?」
「ンぅ……」
 唇が重なり、食まれ、舌を吸われて口内をぐちゃぐちゃにされる。その快感に、更に腰が揺れ、彼を求め始める。
「ね、どう?」
 唇を離し、覗き込んできた彼の表情にも余裕がなくて。それがどうしようもなく愛おしくて……。
「藍くん……、もう、挿れて……、欲しい……」
 気づけば、誘導されるまま、言葉を紡いでいた。
「良かった……。拒絶されたらどうしようかと思いました」
「っあ!」
 もしかして、これは拒絶するべきだったのだろうか、と後悔したのも束の間、奥を突かれて嫌っていたはずの欲に全てを支配される。
「ね、気持ちいい、ですか?!」
「あっ、気持ち、いい、から、あ、焦らさないでッ」
「ああ、愛してます、先生。僕は一生貴方を離さない」
「ッ……」
「ねえ、先生は? 紺は? 僕を愛してますか? 愛してない訳ないですよね? ねえ、答えて? ほら、愛してるって言って?」
「あ、ああッ、だめ、激しいッ、壊れるって、」
「愛してる?」
「あい、してる! 愛、してる、からッ……!」
「良かった」
 嫌いなはずだった情事の薄っぺらい言葉を交わして、口づけを受け止める。
 ぐちゃぐちゃに暴かれ、全てを明け渡した今、妙に満たされていることに気づいて息を吐く。
 カーテンの隙間から見える星が、どうしてかいつもより輝いて見えた。
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