【完結】没交渉の婚約者より、図書館で会った人の方が素敵でした

ぽぽよ

文字の大きさ
2 / 5

2

しおりを挟む

 レイチェルには、キリアン・バーンズという婚約者がいた。爵位も家格も財力も釣り合った相手だった。

 レイチェルが幼い頃、祖父同士が酒の席の勢いで決めた婚約だったらしい。盛り上がったのは祖父たちだけで、両家の両親は寝耳に水だった。勝手に決めた祖父たちと相当に揉めたそうだ。結果、両家の関係はぎくしゃくし、婚約を苦々しく思うようになった。祖父たちは決めるだけ決めて、後は放置し、お互いの家が関わらないまま、年月だけが過ぎていった。

 両親たちは祖父たちに隠れて話し合い、本人たちが望むなら婚約を白紙にすると決めた。

 そんな経緯もあり、婚約者といっても交流は皆無に等しかった。贈り物や手紙をやり取りしたこともなければ、誕生日を祝い合ったこともない。会ったのは子供の頃に一度きりで、今では顔もよく思い出せない。かろうじて名前だけは覚えていた。

 なんとも奇妙な婚約だった。

 将来を考えれば、今の関係性は深刻な状況だろう。しかし、レイチェルにロマンチックな結婚観はなかった。所詮は政略結婚、こんなものなのだろう。レイチェルから関係を改善する気はなかった。それは婚約者も同じだったようで、あちらから接触してくることもなかった。異常性を認識しつつも、交流は断たれたまま、とうとう婚約して10年が経とうとしていた。

 



 ある日、レイチェル宛に婚約者から手紙が届いた。真っ先に感じたのは不信感だった。喜びではなく疑いを抱いている。その事実が二人の関係の破綻を物語っていた。眉間に皺を寄せたまま、レイチェルは封筒を見つめた。至って普通の白色封筒だった。

 女性に媚びるようなデザインではないことに、ほっと息をつく。見た目に怪しいところはなかった。それなのに、どうしても疑念が拭えなかった。傍らで家令も渋い顔をしていた。

「そりゃそうよね、誕生日でさえ何の音沙汰もなかったのに。それが、今になって…」

 レイチェルは呟いた。机に頬杖をついて、封筒の端をつまむと、視線の先でぷらぷらと揺らした。

「不幸の手紙だったりして」

 自嘲気味に笑った。良好な関係を築いていない以上、良いことが書いてあるとは思えない。開けねばならないが、読む気が起きなかった。詐欺や、融資の勧誘。はたまた、借金の相談かもしれない。結婚適齢期になったからと、下心で近づいてきたのだとしたら、それも気持ちが悪い。

 レイチェルは、ため息をつきながら手紙を開いた。神経質そうな細く角ばった字が紙面を走っていた。手紙は、季節の挨拶文からはじまった。畏まった貴族らしい、だらだらと回りくどい表現で書かれていた。途中、読むのをやめようかとも思ったが、最後まで読み切った。

 ざっくり要約すると、『好きな女性ができたので、婚約を解消してほしい』というものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】さようなら、私の初恋

蛇姫
恋愛
天真爛漫で純粋無垢な彼女を愛していると云った貴方 どうか安らかに 【読んでくださって誠に有難うございます】

婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました

よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。 理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。 それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。 さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。

僕の我儘で傲慢な婚約者

雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。 一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。 大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

ひまわりを君に。

水瀬瑠奈
恋愛
ずっと好きだった君が見ていたのは、私じゃなくて親友だった。

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

【3話完結】愛する人の恋のため私は身を引きましょう。どうぞお幸せに。…なんて言うわけないでしょう?

リオール
恋愛
私は知ってるの。あなたには他に好きな女性がいることを。 愛するあたなの幸せが私の幸せ。 私は身を引くから、どうぞ彼女とお幸せに。 ……なんて言うと思うの?

私はアナタから消えます。

転生ストーリー大好物
恋愛
振り向いてくれないなら死んだ方がいいのかな ただ辛いだけの話です。

処理中です...