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突飛な内容で面食らったが、レイチェルはほっと胸をなで下ろした。これがデートの誘いだったなら、暖炉にくべて燃やしていただろう。
正直にいって、彼への思い入れはない。嫌いでもないが、好きでもない。会いにも来ず、こんな手紙を送ってくるのだから、彼も同じ思いに違いない。
異論はなかった。むしろ、喜ばしい。
レイチェルはすぐに両親に報告した。
その日のうちに話はまとまり、数日後、婚約解消の同意書に署名をした。
長く不毛だった婚約は、こうして終わった。
婚約解消後、レイチェルはどこか開放的な気分になった。身体に張り付いた重りのようなものが溶けて消えた、そんな軽やかさを感じていた。揶揄されることも覚悟していたが、理由を話すと、誰もレイチェルを責めなかった。改めて、自分の婚約の異常性を認識した。
婚約解消を知った友人が、夜会に誘ってくれた。以前は婚約者がいる身だからと避けていたが、今はもう気を使う必要もない。レイチェルは久しぶりの夜会を楽しんだ。
様々な夜会に出席するうちに、婚約の打診をもらうようになった。前回の経験から、両親はレイチェルに意見を聞いた。
「誰かこの人はと思う男性はいるかい?」
問われ、レイチェルの脳裏に以前会った男性が浮かんだ。図書館で会ったあの男性だった。ハンカチを拾って渡しただけの、名も知らない男性だ。彼のことは気になっていた。しかし、彼には婚約者がいるかもしれない。下手なことは言わない方がいい。レイチェルは、淡い想いに蓋をした。
そして――
何度か目の夜会でのことだった。図書館で会ったあの男性と再会した。
「こないだはハンカチを拾ってくれてありがとう」
男性はレイチェルを覚えていた。はにかんだ笑顔。胸が締め付けられる。
「いいえ、お役に立ててよかったです」
思わず頬が緩んだ。男性は眩しそうに目を細め、視線を彷徨わせながら掌を差し出した。
「えっと、もしよかったら、僕と二人きりで話せませんか?」
眉尻を下げて笑う。レイチェルは飛び上がりそうになった。
「も、もちろんです!」
二つ返事で、男性の掌に手を預けた。テラスに移り、他愛もない話をした。最近あった出来事、好きな本。話しながら表情を変える彼に、心臓はずっと忙しなく跳ねていた。
**************************
いいね・エール、ありがとうございます!
励みになります!
残り2話もお付き合いいただけると嬉しいです。
正直にいって、彼への思い入れはない。嫌いでもないが、好きでもない。会いにも来ず、こんな手紙を送ってくるのだから、彼も同じ思いに違いない。
異論はなかった。むしろ、喜ばしい。
レイチェルはすぐに両親に報告した。
その日のうちに話はまとまり、数日後、婚約解消の同意書に署名をした。
長く不毛だった婚約は、こうして終わった。
婚約解消後、レイチェルはどこか開放的な気分になった。身体に張り付いた重りのようなものが溶けて消えた、そんな軽やかさを感じていた。揶揄されることも覚悟していたが、理由を話すと、誰もレイチェルを責めなかった。改めて、自分の婚約の異常性を認識した。
婚約解消を知った友人が、夜会に誘ってくれた。以前は婚約者がいる身だからと避けていたが、今はもう気を使う必要もない。レイチェルは久しぶりの夜会を楽しんだ。
様々な夜会に出席するうちに、婚約の打診をもらうようになった。前回の経験から、両親はレイチェルに意見を聞いた。
「誰かこの人はと思う男性はいるかい?」
問われ、レイチェルの脳裏に以前会った男性が浮かんだ。図書館で会ったあの男性だった。ハンカチを拾って渡しただけの、名も知らない男性だ。彼のことは気になっていた。しかし、彼には婚約者がいるかもしれない。下手なことは言わない方がいい。レイチェルは、淡い想いに蓋をした。
そして――
何度か目の夜会でのことだった。図書館で会ったあの男性と再会した。
「こないだはハンカチを拾ってくれてありがとう」
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「いいえ、お役に立ててよかったです」
思わず頬が緩んだ。男性は眩しそうに目を細め、視線を彷徨わせながら掌を差し出した。
「えっと、もしよかったら、僕と二人きりで話せませんか?」
眉尻を下げて笑う。レイチェルは飛び上がりそうになった。
「も、もちろんです!」
二つ返事で、男性の掌に手を預けた。テラスに移り、他愛もない話をした。最近あった出来事、好きな本。話しながら表情を変える彼に、心臓はずっと忙しなく跳ねていた。
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