4 / 5
4
しおりを挟む彼は思い詰めた顔をして話を切り出した。
「実は僕、先日婚約を解消したんです」
レイチェルは驚いた。まさか、我が家以外にも婚約破棄している人間がいるとは。思わず「私もです」と言いそうになったが、思いとどまった。
彼には婚約者がいない。
新事実にレイチェルは頬が緩みそうになった。胸が高鳴った。もしかしたらと、期待をしてしまう。しかし、そんな姿を少しでも感じ取られたら、きっと彼はレイチェルを軽蔑するだろう。
「ま、まぁ、そうなんですね」
平静を装って返したが、心の中は嬉しさでいっぱいだった。これから先も彼と話せる。もしかしたら、一緒にいられるかもしれない。
ピアノの曲が聞こえ、ダンスホールに人が集まり出した。会話が途切れそうになった。レイチェルは焦った。このまま終わってしまうのは嫌だった。何か話題を――そう思った矢先、男性が口を開いた。
「あの、もし良ければ、その…名前をお聞きしてもいいだろうか」
男性が躊躇いながら聞いた。そういえば、お互い名前すら告げていなかったことに、レイチェルは今さらながら気付いた。
レイチェルは、改まって男性に身体を向けた。
「わたしは、レイチェル・クレイブと言います」
少しでも印象が良くなるようにしたつもりが、男性は目を見開き、ひどく驚いた顔をした。何か変なことを言っただろうか…レイチェルが困惑している間に、男性の顔色が悪くなってゆく。
「き、君の…ご尊父様のお名前は?!」
男性は焦ったように声を上げた。変なことを聞くものだ…レイチェルは小首を傾げながら答えた。
「ルーミス・クレイブですが」
そう告げると、男性の顔色は更に悪くなった。狼狽した様子で、男性が一歩近づいてくる。様子のおかしい男性に警戒して、レイチェルは後ずさった。
「君がレイチェルなのか?」
また問われた。
「えぇ、さっき伝えた通り、レイチェルですがなにか?」
「違う!そうじゃない!」
男性は叫ぶように声を上げた。突然の大声にレイチェルは肩をびくりと震わせた。
レイチェルは大きな声が苦手だ。声を荒げる男性はもっと苦手だ。図書館で会った時は穏やかそうだったのに、今は正反対に気性が荒く見えた。あまりの変わりように少し怖くなった。
青年は片手で顔を覆った後、大きなため息をついた。
「僕の名前は、キリアン・バーンズ。君の元婚約者だ」
54
あなたにおすすめの小説
婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました
よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。
理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。
それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。
さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。
僕の我儘で傲慢な婚約者
雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。
一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。
大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。
【3話完結】愛する人の恋のため私は身を引きましょう。どうぞお幸せに。…なんて言うわけないでしょう?
リオール
恋愛
私は知ってるの。あなたには他に好きな女性がいることを。
愛するあたなの幸せが私の幸せ。
私は身を引くから、どうぞ彼女とお幸せに。
……なんて言うと思うの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる