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007 独立

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 それから数日が経った。
 残念ながら救助が来ず、未だに謎の島での生活が続いている。
 流石に数日も経つと救助を期待する者はいなくなっていた。

 その間、俺は皆にサバイバル術を伝授していた。
 火の熾し方を始め、最低限の必要な知識を叩き込んだ。

「あー風呂に入りたい!」

「体が汗でベトつくし、臭いったらありゃしない!」

 サナエやミズキが不満を呟く。
 俺を含む他の連中にしても同意見だった。

 幸いにもこの島では食糧に困ることがない。
 とはいえ、このままでは精神・肉体ともに危険だ。
 なかには常用薬が飲めずに苦しんでいる者もいた。

「おめぇよぉ! 偉そうにするだけでダメダメじゃねぇか!」

「どうすりゃいいんだよ! おら! リーダーさんよ!」

 複数の男子が寄って集って霧島に暴行を加えている。

「やめろ! お前ら救助は来たら退学にさせるぞ! 傷害罪で告訴もするぞ!」

 霧島は必死に抵抗するが多勢に無勢だ。

「やめろ、お前たち。こんな状況で争ってどうする!」

 誰も止めなかったので俺が止めた。
 霧島には良い感情を抱いていないが、ここで揉めるのは愚の骨頂だ。

「止めるなよユウマ。お前は部外者だから知らないだろうけどよ、コイツはここだけじゃなく学校でもウザい奴だったんだ。それでも今までは我慢できたが、どうせ救助は来ないんだ。だったら今までの鬱憤を晴らさせてもらうぜ!」

「部外者だけど霧島がクソ野郎なのは分かるよ」

 霧島が「なっ……!」と驚いている。
 どうやら自分は皆の人気者とでも思っていたようだ。
 愚か者である。

「だがこんな状況で暴力を振るったらもう止まらなくなっちまう。最初は霧島だけで済むが、じきにエスカレートして力の強い奴が幅を利かせる状況になる。そうなってからじゃ遅いんだよ」

 この発言に大半が納得し、「すまん」と謝る。
 しかし、一人だけ「うるせぇ!」とキレる者がいた。
 2メートル近い身長を誇り、右の腕と肩に刺青を入れた強面野郎だ。
 名前は板東。三年だ。

「邪魔するならお前も同罪だあああああ!」

 板東が殴りかかってきた。

「仕方ない……」

 俺は彼の攻撃を回避し、カウンターの右ストレートをお見舞いした。
 相手の拳が空を切ったのに対し、こちらの拳は顔のど真ん中を捉える。

「グハッ!」

 板東は派手に吹き飛んだ。
 当たり所が悪かったようで気を失っている。

「嘘だろ、あの板東が……!」

「信じられねぇ」

「ユウマって喧嘩もつえーのかよ」

 野次馬の男子たちがざわついている。
 どうやら板東は学内だと強くて有名みたいだ。
 そんな奴を一発でのしてしまった。

「悪いがこちとら北海道の山奥でクマと毎年戯れてるんだ。油断している大男に負けるほどヤワじゃない」

 振り返って霧島を見る。
 彼は目に涙を浮かべて尻餅をついていた。

「あ、ああ、ありがとう、よく、よくやったぞ!」

 霧島は立ち上がると、失神する板東の顔を蹴った。
 何とも情けない男だ。

「お前もやめろよ」

「やられた分を返しただけだ!」

 あっさり離れる霧島。

(どうにか場が落ち着いたが、ここいらが限界だな)

 俺は大きなため息をつくとサナエたちのもとに向かった。

「サナエ、アキノ、ミズキ、コトハ」

「え、何!? 急に私らの名前を呼び出して」

 サナエが言う。
 他の三人も同様の反応を示す。

「俺たちの拠点を洞窟に移そう。ここで他の連中と過ごすのはもう限界だ」

 先ほどの一件はきっかけに過ぎない。
 今後も暴力行為が横行するだろう。
 この場にいると不要なトラブルに巻き込まれる。

「いいよ! ユウマがそう言うなら」とサナエ。

「私もユウマに従うわ」

「私たちのリーダーはユウマ君だもんね」

 アキノとコトハが続く。

「じゃあ引っ越しちゃおー!」

 ミズキも賛同した。

「決まりだな」

 俺はこの場から去ることを霧島に報告した。

「い、行かないでくれよ。お前が消えたら、誰も暴力を止められなくなってしまう」

 昨日まで俺を煙たがっていた霧島が手の平を返す。

「すまんが自分の身は自分で守ってくれ。どうやらお前はかなり嫌われているようだから、不安ならお前もこの場から去るといい。幸いにも付近には食糧が豊富なんだ。野垂れ死ぬことはないだろう」

「そんなことを言わずに頼むよユウマぁ」

「悪いな」

 霧島に背を向けて歩き出す。
 その後ろにサナエたち四人が続く。

「ユウマ、俺も連れて行ってくれよ」

「私も連れて行って!」

「俺も!」「私も!」

 多くの男女が同行を申し出てきた。

「すまないが今回はパスさせてくれ。まずは気の知れた仲間と少数で活動したい。数を増やすのはもう少し落ち着いてからにしたい」

 本当は追加で10~15人は連れていきたかった。
 少数精鋭と言えば聞こえがいいものの流石に5人は少なすぎる。

 だが、この場ではそうすることができなかった。
 追加で一人でも受け入れると、「なんで奴はよくて俺はダメなんだ」となる。

「ユウマには世話になったし、あんまりしつこく言えないな」

「そうね。ユウマ、火熾しとか色々と教えてくれてありがとう!」

「我が校のアイドル四天王だけ連れていくとは隅に置けないぜ!」

「いつか俺たちも混ぜてくれよなー!」

 思ったよりあっさり納得してもらえた。
 食い下がるだけ無駄だと思ってくれたのだろう。

「すまんな」

 改めてそう言うと、俺はサナエたちを連れて草原を後にした。

 ◇

「これよりこの洞窟を我々の拠点とする!」

 草原の北に位置する洞窟へやってきた。
 相変わらず洞穴生物は見当たらず、涼しくて湿度が低い。

「さっそく水浴びだー!」

「「「おー!」」」

 女性陣は松明を片手に洞窟の奥に向かう。
 どうやら最奥部の湖で体を清めるようだ。

「煮沸するとはいえ湖の水は飲むのに使う予定なんだが……まぁいいか」

 俺は洞窟の出入口付近に腰を下ろした。
 胡座あぐらを掻いて今後の行動について整理する。

 まずは生活環境を構築だ。
 悪天候に見舞われてもいいように保存食を準備しよう。
 快適な生活を送れるよう寝具や替えの衣類もほしいところだ。
 常に焚き火を維持できるよう薪の備蓄も必要である。
 未踏の地を歩き回るのはそれらが済んだ後だ。

 次に現在の手持ちを確認した。
 皆で作った石包丁や石斧、それに竹槍と即席松明しかない。
 決して悪くはないが、獣と戦うために弓矢がほしいところだ。
 今の装備だとイノシシは倒せてもクマには太刀打ちできない。

「あと洞窟に獣が来ないようにもしないといけないし……あああ! クソッ! やることが多すぎる!」

 考えるとムシャクシャしてきた。

「こんな時は……」

 チラリと後方を見て、誰もいないことを確認。

「今だ!」

 スッと手をズボンに入れる。
 綺麗とは言いがたい手でペニスをしごく。

 目を瞑ると脳内にキングサイズのベッドが映った。
 そこに俺たち五人が全裸でいて、女性陣がご奉仕してくれる。

「ああ……! やばい……!」

 俺は慌てて洞窟から飛び出し、外で射精した。

「はぁ……はぁ……危なかった……」

 もう少しでパンツにぶちまけるところだった。
 こんな状況でそんなことをしたら最悪の事態になる。

(ここだと抜くのにも一苦労だな……!)

 汚した地面に砂を掛けて隠蔽したあと洞窟に戻った。
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