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第一章
物語の中からこんにちは
しおりを挟むリーナの話は私だけでなく、この世界のことだった。
「まずここアルディオール王国は、私の前世で読んだ小説の舞台となる地でございます」
その言葉を皮切りに、彼女は全てを話し出した。
まず彼女は前世で山田理香子と言う、平凡な女子大生であった。
当時たまたま目に入って読み始めた小説シリーズ、「公爵令嬢は殿下のお気に入り」こそがこの世界なのだ。
このアルディオール王国は現国王、ハイン・アルディオール・クライツをはじめクライツ家により世界最大の領地をもつ国である。
その昔領地を拡大していく中で、作物を育てる為に尽力したのが、ハウス家だと言うのは国中が知っている事実。
そんなハウス家はクライツ家にとって無くてはならない存在で、クライツ家の次に権力を持つとも言われる公爵の爵位を授かった。
公爵と言う爵位を授けたクライツ国王と初代ハウス公爵は、主従関係などよりもお互いを一番に信頼した友でもあったとされ、その親交は現在にも続く。
その頃に交わした一つの約束は、果たされる事がないままクライツ家に継がれていた。
「ここから物語が始まるのです」
リーナが一拍おくように、これから話す事が本当に話したい事なのだと言うように告げた。思わず息を飲んで、姿勢を正してしまう。
ここまでを今と照らし合わせれば、リーナの前世と言っていた最初の部分と最後の約束以外は、それこそ国中が知っている事実である。
だからこそ私たちハウス家は、クライツ家の方々と同じ様に皆様からの信頼を頂いている。その信頼を頂けるように私たち公爵家は人々を大切にしなくてはならない、というのがハウス家に伝わる教えなのだ。
とは言えリーナに質問したい事があるので、静かに手を挙げてみる。
「なんでしょうか?」
リーナは首を傾げてみせて、さも理解出来ませんでしたか?とでも言いた気だ。リーナ、いちをあなたが仕える人間ですよ、私。
そんなリーナの態度は昔からなので、今更咎めるつもりもないけれど。
「なぜリーナは前世と今で、名前が違うのかしら?」
一つずつ疑問を解決していこうと思って、一つ目の質問をしたところ本気で怪訝そうな顔をされてしまった。
「流石はお嬢様でございますね」
嫌味とも取れるように、リーナは呆れた様子を隠さなかった。
今の質問の何がまずかったのか、全く理解出来ないわという顔をして見せれば、彼女は息を吐き出して口を開いた。
「そもそも私の前世は、ここアルディオール王国ではございません。日本という国なのです」
聞き馴染みのない国の名前を、彼女はさらりと言ってのけた。
日本という国を、私は知らない。私が無知なのではなく、その様な国は地図にないのだ。
「その日本に置いて、山田理香子という名前はとても一般的な名前にございます。リーナ・アルトの名前の方が、むしろ馴染み難い名前と言っても過言ではございません。」
リーナの言う日本という国では、名前からして違うということかしら。
山田がリーナの元々のファーストネームと言うことね。理香子家は、日本ではどんなご家庭だったのかしら。
そんな事を考えている私の頭を覗いたかのように、「ちなみに理香子がファーストネームですよ、日本では」と付け加えた。
「リーナはいつ日本からこちらに?」
二つ目の質問に対しても、やはり先ほどと同じ態度を取られてしまった。
何かおかしな質問を、してしまってるのかしら。なんて、そんなはずはないと思いたい。
「日本では不慮の事故により、山田理香子は死にました。そして目覚めた時、ハウス家に代々仕えるアルト家の娘リーナとしてここにおりました」
淡々とリーナは話すけれど、彼女は前世の日本という国で死んだと言った。
「リーナ、寂しくはない?大丈夫?」
口から自然と出ていた。
リーナは常に私の側にいてくれたけど、リーナには日本での記憶もあるのだ。
だとするならば大切な家族や友人などもいたはずで、もしかしたら戻りたいと思っているかもしれない。そう思うと私の方が悲しくなってしまう。
少し驚いた様に目を見開いて、一度目を閉じた。
「お嬢様はこちらが驚くほどに、優しいお方ですね。だからこそ私は寂しくなどありませんし、このお話をすると決めたのです」
私の目を真っ直ぐに見据えて、とても優しい声で彼女は言う。
そして彼女の中でこの話をするかどうかは、私が思った以上に悩んでいたのだと気付く。
「では、話を進めてもよろしいでしょうか?」
私の質問のせいで止めてしまっていたお話の、再開を促される。もちろん私も気になっているので、返事の代わりに頷く。
「では、戻ります」
リーナも同じように頷いて、話し始めた。
主人公は第一皇子の、リーアム・アルディオール・ハインツ。
そしてヒロインは、サーシャ・ハウス。
タイトルの公爵令嬢はサーシャで、殿下は第一皇子のリーアム・アルディオール・ハインツを指すのである。
果たされる事がないままハインツ家に継がれた約束こそが、ヒロインの姉であるリディア・ハウスを悪役令嬢にする悪しきものなのだ。
「そのリディア・ハウスこそが、お嬢様でございます。つまりお嬢様はヒロインを邪魔する意地悪な姉で、この物語の悪役令嬢でございます」
リーナがはっきりと通る声で、私を見据えて言い切った。
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