だいすきなひと

高塚しをん

文字の大きさ
上 下
10 / 10

#10

しおりを挟む
ある日掃除の時間に、クラスメートの智美が声をかけてきた。この智美というのが正直言うと私がゾッとしてしまうレベルの苦手なタイプだとここで告白したい。女子感をパーセンテージにして表すならば250%くらいはいくだろう。

サラサラのロングヘアは綺麗にブローされ、ツヤツヤの唇。くるんと上がった睫毛に囲まれた目はパッチリとした二重の目。メイクも全パーツ仕上がっていて、それらは一体朝どれくらいの時間をかけているのだろうと感心する。その女子力の高さは尊敬するにしても、口の中にスライムを入れてるんじゃないかってくらいにネトッとした喋り方をするのが何とも私には耐え難い。ここまで言っておいて何のフォローもしようがないが、男にはモテそうな感じだ。出るところは出て、細いところは細い。まぁ、一言で言えば、めちゃくちゃ可愛い。

「ねぇねぇ珠理、こないだ沙絵さんが珠理に会いに教室来てたでしょ?沙絵さんと仲いいの?」

そもそもこの手の質問が苦手な私だが、苦手なタイプの人から聞かれると余計に警戒してしまう。

「うーん、すれ違えば挨拶するくらいだよ」

嘘はつけないので真実を言うまでだが、あまりこれ以上掘り下げないで欲しいのが本音だ。

「学校の外では会ったりしないの?」

「しないしない。連絡先も知らないしね」

「へー。でも珠理と沙絵さんって、接点無さそうじゃない?」

ちょっと待ってくれ。これらの質問の真意が知りたい。何の為に沙絵先輩と私の仲について知ろうとしているんだ。それがわからないうちに色々話すのは避けたい。

「接点ないよ。ちょっと前に借り物しただけ」

「借り物?何借りたの?」

どーでもよくないか?借りたのが傘だろうがハンカチだろうがパンツだろうが、何を借りたのかまでお知らせする義務が私にあるだろうか。いや、ないはずだ。

「傘、借りたの」

「へー。傘かぁ。それ以上はないの?」

借り物に以上とか以下とかなくないか?と一瞬思ったのだが、智美の言う「以上」は借り物に対する「以上」ではなく、関係性に対する「以上」のことを言っているような気がする。

「ないない」

とりあえずこの会話を一秒でも早く終わらせる方法を考えつかなければ。ここは掃除に集中する私を演出だ。ひたすらモップを、理科室の隅から隅まで走らせた。

「そっかぁ。じゃあ、トモとも仲良くしてくれるかなぁ」

知らねえよ。私は「うん、智美とも仲良くしてくれると思うよ!」とか無責任なことを言える立場にはない。適当に笑ってごまかすしかないのだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...