だいすきなひと

高塚しをん

文字の大きさ
上 下
9 / 10

#9

しおりを挟む
私は女の子を「お気に入り」だと思ったことはない。小学生の頃、隣のクラスに転校してきた女の子のことがなぜか気になることはあった。

背が高くてスラッとしていて、眼鏡が知的な子だった。話をしてみたいと思っていたが、違うクラスで共通の友達もおらず、接点が全くなかったので結局卒業まで話す機会もなく、別々の中学に進学した。

あの子は私の「お気に入り」だったのだろうか。未だにどういった意味であの子のことが気になっていたのかはわからずじまいだ。


沙絵先輩は友達と3人でいることが多い。この間のサヤカさんと、もうひとり小柄で髪の長い、和風美人の先輩だ。沙絵先輩とサヤカさんの会話からはそれらしき感じはなかったが、もしかしたら和風美人先輩とはそれらしき仲である可能性もある。

背が高くてボーイッシュな沙絵先輩と、小柄で女子力高めの和風美人先輩、これはなかなかのお似合いなのではなかろうか。私もどちらかといえば和風の顔立ちだが、美人かと問われるとこれまた「人によります」としか言えないような微妙なラインだと自己分析している。しかもこの愛想の無さと、コミュニケーション能力の低さだ。街頭で和風美人先輩と私を並べて、つき合いたい方にシールを貼るなんていう企画があれば、和風美人先輩は顔が見えなくなるほどシールを貼られることだろう。一方私の方はといえば顔丸見えで閑古鳥が鳴くであろうこと間違い無しだ。

これは和風美人先輩とデキているな。証拠?そんなもの、ない。ただ私がそうなのではないかと思う、というそれだけだ。だって美人だし。女子力高いし。街頭アンケートでは私に圧勝だし。間違いなかろう。沙絵先輩と和風美人先輩はそういう関係だ。

しかしながら和風美人先輩という存在がいながらにして、沙絵先輩は日々取り巻きの後輩へのスキンシップや声かけに余念がない。後輩たちは一体沙絵先輩にどんな気持ちを抱いて近寄っているのだろう。

しおりを挟む

処理中です...