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崖っぷち
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「もっ……あっ……む、りっ……」
井岡が助けを求めるように手を伸ばす。譲は彼の背中にのし掛かり、体重をかけて彼を湿ったシーツに押し潰し、後ろから激しく突いた。
「ひっ、あっ……ああっ……」
十分にほぐしたおかげか、彼が痛がる様子はない。けれどびっしょりと汗ばんだ体は見るからに辛そうだ。強制的に何度も射精させられたペニスはくったりと萎んでいるが、ひと突きするごとに透明な液体を撒き散らす。
「んあっ……あっ、うあっ……ひっ……」
掠れた声に、しなやかな筋肉に覆われた体に、興奮する。これに至る経緯を無視すれば、自分はとんでもなくいい思いをしている。
でも彼は違う。彼にとっては、真剣勝負を放棄されるのと同じかそれ以上に、男に犯されることは屈辱で、苦痛で、最悪な気分になる行為なのだ。
「ひっ、ああっ……もっ……どっ……と、めっ……」
ガツガツと乱暴に腰を使う。自分でもやめ時がわからなかった。ギュッと中が締まり、井岡の声がもう一段、高くなった。
「んあああっ……」
体を起こし、井岡にも同様の動きを強いる。腰を高く持ち上げ、「無理」と力無く首を振る彼を獣の姿勢で突いた。
「ああっ……やっ、んうっ……ああっ、やあっ……」
股間に手を運ぶ。すっかり萎えたペニスをやんわりと握っただけで、彼は嫌がるように身悶えた。
「あっ……や、っ……ああっ……」
井岡はブルっと痙攣し、しなやかな背中を軋ませる。きゅうきゅうときつく締め上げられて、譲は思わず動きを止めた。尻を鷲掴んだ手に力が入る。井岡の小さな尻はゴム鞠のように張りがあった。
ペニスを咥え込んだ肛門が呼吸するようにヒクヒクと動く。眺めながら、ゆっくりと腰を引き、生じた空間をすぐさま埋める。ぬちっぬちっと卑猥な音を聞かせるように、動きを荒くしていく。
「ああっ……ひっ、ん、あっ、あんんっ」
井岡の頭が、もう限界だという風に、激しく左右に振られる。毛先から汗が散った。すでにシーツはぐっしょりと湿っている。水分補給させた方が良いかもしれない。
腰を止め、ペニスを引き抜くと、糸が切れたように彼の体から力が抜けた。腰が崩れ、ぐったりと横たわった姿があまりに悲惨で、ここまでにしようと譲は思った。
ベッドを下りる。濡らしたタオルと水を持ってベッドに戻ると、「早川」と名前を呼ばれた。
「もうしないよ」
抱き抱えるようにして体を起こし、キャップを外してペットボトルの水を差し出した。井岡はぼんやりとそれを受け取り、唇の端から水をこぼしながら一気に半分ほど飲んだ。前髪が汗で額に張り付いていて、実年齢よりもずっと幼く見えた。両手でペットボトルを持つ姿が可愛らしく、譲は目をそらしたが、
「ごめんな」
という声に、思わず彼を見た。
「こんなことさせて、ごめんな」
彼はまるで恥じるように目を伏せる。憎まれ口を叩かれはしても謝られるとは思ってもみなかった譲は返答に困った。
「俺な」
舌足らずに井岡は言った。
「お前の気ぃ引けたら、自信がつくと思ったんだ。会社経営したり、頼られたりしてるお前が、すごく上等なものに見えて……それで、お前の気も知らずに、あんなこと言った」
結婚式の日のことを言っているのだろう。
「お前、が……俺を憎んでるなんて、思いもしなかった。お前の返事聞いて、優位に立てた気になって……なんか、嬉しかった。嬉しかったんだよ。だからホテルに行った。お前が、俺とやりたがってると思ったら、……やっぱりなんか、嬉しかった」
プライドも意地も捨てたような、素直な物言いだった。
「最悪の上書きって……俺も、そのつもりだったけど……でもなんか、嫌じゃなかった。慰められた……みたいな」
「……なんだよ、それ」
低い声が出た。井岡は怒らせたと思ったのか、びくりと肩を震わせる。
いわゆるエリートと呼ばれる男に抱かれることをステータスと考える者は一定数いるが、それは自己評価の低い人間だ。井岡がそこまで自分を卑下していたことに、譲は胸が痛くなった。好きでもない男に性対象として見られたことに、彼は嫌悪感どころか喜びを感じたのだ。そこまで追い詰められていたとは思わなかった。
「お前が、怒るの……当然だよな。ごめん……俺っ」
怯える彼を、譲は強く抱きしめた。
「お前は、俺よりずっとすごいじゃないか。高校やめて、未経験から競技の世界に入って……十年も続けてきた。男に欲情されて喜ぶ必要はないんだ」
言うと、彼の弛緩した体が強張った。男に欲情されて喜ぶ、という強い言葉に抵抗を覚えたのかもしれないが、要はそういうことだ。本人が気づいていないのなら気づかせてやらなければならない。
「お前は魅力的だよ。好意を向けられるのは当然で、それが嫌いな相手だったら疎ましく思うべきなんだ。高校時代みたいに」
「ごめん」
と謝るから、譲は「責めてるわけじゃない」とかぶりを振った。
「俺がバカだったんだ。せっかく試験に受かったお前にあんなこと……俺は、お前の大切な日を台無しにしたんだ」
井岡、と改まった口調で名前を呼ぶ。
引退するかの瀬戸際で、大事な試合で1着を譲られた。彼の自己評価は今、どん底のはずだ。
「好きだ」
強張ったままの体がびくりと震えた。
好きでもない男からの好意で自分を慰めるな。喜ぶな。膨らむばかりの感情を抑え込むように、譲は抱きしめる手に力を込めた。言葉に偽りはない。年齢とともに、自分も含めて周りの人間は皆変わった。けれど井岡と話していると、ビジネスライクに陥っていた思考が高校時代まで巻き戻される感覚があった。律儀なところや繊細なところ、井岡は昔のままだった。
今度は自分が、と譲は思う。今度は俺が、彼の思考を巻き戻したい。男にそういう目で見られることは屈辱で、気持ちが悪い。当たり前の感覚を取り戻してほしい。お前のような人間は、他人の下心に媚びる必要はないのだから。
ゆっくりと体を引き剥がし、言葉の意味を測りかねている彼に顔を寄せる。何するんだよ、やめろ、そんな言葉を期待する。けれど疲労で頭が回らないのか、瞳は無防備で、嫌悪感を感じている様子はない。
「好きなんだよ……っ」
やっと聞こえたかのように、井岡の目が大きく広がった。譲はその目を覗き込む。その目に嫌悪感が宿るのを、怯みながら待つ。待ちきれず、唇を重ねた。
井岡が助けを求めるように手を伸ばす。譲は彼の背中にのし掛かり、体重をかけて彼を湿ったシーツに押し潰し、後ろから激しく突いた。
「ひっ、あっ……ああっ……」
十分にほぐしたおかげか、彼が痛がる様子はない。けれどびっしょりと汗ばんだ体は見るからに辛そうだ。強制的に何度も射精させられたペニスはくったりと萎んでいるが、ひと突きするごとに透明な液体を撒き散らす。
「んあっ……あっ、うあっ……ひっ……」
掠れた声に、しなやかな筋肉に覆われた体に、興奮する。これに至る経緯を無視すれば、自分はとんでもなくいい思いをしている。
でも彼は違う。彼にとっては、真剣勝負を放棄されるのと同じかそれ以上に、男に犯されることは屈辱で、苦痛で、最悪な気分になる行為なのだ。
「ひっ、ああっ……もっ……どっ……と、めっ……」
ガツガツと乱暴に腰を使う。自分でもやめ時がわからなかった。ギュッと中が締まり、井岡の声がもう一段、高くなった。
「んあああっ……」
体を起こし、井岡にも同様の動きを強いる。腰を高く持ち上げ、「無理」と力無く首を振る彼を獣の姿勢で突いた。
「ああっ……やっ、んうっ……ああっ、やあっ……」
股間に手を運ぶ。すっかり萎えたペニスをやんわりと握っただけで、彼は嫌がるように身悶えた。
「あっ……や、っ……ああっ……」
井岡はブルっと痙攣し、しなやかな背中を軋ませる。きゅうきゅうときつく締め上げられて、譲は思わず動きを止めた。尻を鷲掴んだ手に力が入る。井岡の小さな尻はゴム鞠のように張りがあった。
ペニスを咥え込んだ肛門が呼吸するようにヒクヒクと動く。眺めながら、ゆっくりと腰を引き、生じた空間をすぐさま埋める。ぬちっぬちっと卑猥な音を聞かせるように、動きを荒くしていく。
「ああっ……ひっ、ん、あっ、あんんっ」
井岡の頭が、もう限界だという風に、激しく左右に振られる。毛先から汗が散った。すでにシーツはぐっしょりと湿っている。水分補給させた方が良いかもしれない。
腰を止め、ペニスを引き抜くと、糸が切れたように彼の体から力が抜けた。腰が崩れ、ぐったりと横たわった姿があまりに悲惨で、ここまでにしようと譲は思った。
ベッドを下りる。濡らしたタオルと水を持ってベッドに戻ると、「早川」と名前を呼ばれた。
「もうしないよ」
抱き抱えるようにして体を起こし、キャップを外してペットボトルの水を差し出した。井岡はぼんやりとそれを受け取り、唇の端から水をこぼしながら一気に半分ほど飲んだ。前髪が汗で額に張り付いていて、実年齢よりもずっと幼く見えた。両手でペットボトルを持つ姿が可愛らしく、譲は目をそらしたが、
「ごめんな」
という声に、思わず彼を見た。
「こんなことさせて、ごめんな」
彼はまるで恥じるように目を伏せる。憎まれ口を叩かれはしても謝られるとは思ってもみなかった譲は返答に困った。
「俺な」
舌足らずに井岡は言った。
「お前の気ぃ引けたら、自信がつくと思ったんだ。会社経営したり、頼られたりしてるお前が、すごく上等なものに見えて……それで、お前の気も知らずに、あんなこと言った」
結婚式の日のことを言っているのだろう。
「お前、が……俺を憎んでるなんて、思いもしなかった。お前の返事聞いて、優位に立てた気になって……なんか、嬉しかった。嬉しかったんだよ。だからホテルに行った。お前が、俺とやりたがってると思ったら、……やっぱりなんか、嬉しかった」
プライドも意地も捨てたような、素直な物言いだった。
「最悪の上書きって……俺も、そのつもりだったけど……でもなんか、嫌じゃなかった。慰められた……みたいな」
「……なんだよ、それ」
低い声が出た。井岡は怒らせたと思ったのか、びくりと肩を震わせる。
いわゆるエリートと呼ばれる男に抱かれることをステータスと考える者は一定数いるが、それは自己評価の低い人間だ。井岡がそこまで自分を卑下していたことに、譲は胸が痛くなった。好きでもない男に性対象として見られたことに、彼は嫌悪感どころか喜びを感じたのだ。そこまで追い詰められていたとは思わなかった。
「お前が、怒るの……当然だよな。ごめん……俺っ」
怯える彼を、譲は強く抱きしめた。
「お前は、俺よりずっとすごいじゃないか。高校やめて、未経験から競技の世界に入って……十年も続けてきた。男に欲情されて喜ぶ必要はないんだ」
言うと、彼の弛緩した体が強張った。男に欲情されて喜ぶ、という強い言葉に抵抗を覚えたのかもしれないが、要はそういうことだ。本人が気づいていないのなら気づかせてやらなければならない。
「お前は魅力的だよ。好意を向けられるのは当然で、それが嫌いな相手だったら疎ましく思うべきなんだ。高校時代みたいに」
「ごめん」
と謝るから、譲は「責めてるわけじゃない」とかぶりを振った。
「俺がバカだったんだ。せっかく試験に受かったお前にあんなこと……俺は、お前の大切な日を台無しにしたんだ」
井岡、と改まった口調で名前を呼ぶ。
引退するかの瀬戸際で、大事な試合で1着を譲られた。彼の自己評価は今、どん底のはずだ。
「好きだ」
強張ったままの体がびくりと震えた。
好きでもない男からの好意で自分を慰めるな。喜ぶな。膨らむばかりの感情を抑え込むように、譲は抱きしめる手に力を込めた。言葉に偽りはない。年齢とともに、自分も含めて周りの人間は皆変わった。けれど井岡と話していると、ビジネスライクに陥っていた思考が高校時代まで巻き戻される感覚があった。律儀なところや繊細なところ、井岡は昔のままだった。
今度は自分が、と譲は思う。今度は俺が、彼の思考を巻き戻したい。男にそういう目で見られることは屈辱で、気持ちが悪い。当たり前の感覚を取り戻してほしい。お前のような人間は、他人の下心に媚びる必要はないのだから。
ゆっくりと体を引き剥がし、言葉の意味を測りかねている彼に顔を寄せる。何するんだよ、やめろ、そんな言葉を期待する。けれど疲労で頭が回らないのか、瞳は無防備で、嫌悪感を感じている様子はない。
「好きなんだよ……っ」
やっと聞こえたかのように、井岡の目が大きく広がった。譲はその目を覗き込む。その目に嫌悪感が宿るのを、怯みながら待つ。待ちきれず、唇を重ねた。
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