孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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1章

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夕食の調達を済ませて宿に戻ると、ちょうど陸も戻ってきた頃合いだったので、3人で部屋に戻る。

自分に与えられた部屋に一度戻り、荷の中から母の形見の櫛を取り出すと、それをもってすぐに隣の部屋へ向かった。

「これが母の形見の櫛よ」

そう言って二人の前に差し出してみれば、すぐさま二人が言葉を失った。

「周、これって」

自身の見ているものが信じられないというように陸が周を伺う。

「あぁ、俺も多分同じことを思ってるぞ」

手にした櫛から目を離せずに、周もうなずいて同意する。

「何か、わかったの?」

そしてそんな彼らの反応を苓は不安そうに見つめる。



「苓、これはその辺の露天で買えるような代物じゃねぇ。まして旅の商人の男が妻に贈ることなんてできない」

意を決したように周が話し出す。手にしていた櫛を、大切そうに布に巻いて丁寧に苓の掌の上に戻した。

「どういうこと?」

戸惑う苓に、周はその内容をかみ砕くように、彼女の眼を見てゆっくりと語りかける。


「この櫛の細工や、装飾に使われている石、そして材質。どれを取っても一級品のものだ。特にこの飾り石は、最近では産出が困難で希少価値が高い。普通のしちじゃぁ買取もできないほどの価値がある」


「そんなに、すごいものなの?」


苓の問いかけに問われた周の他に、彼の後ろにいる陸もうなずいている。

「でも、母は普通の農婦だったのよ?それなのになぜそんなものを?」

「それは分からん。だがきっとお前の母さんには、お前に話していない何か重要な秘密がありそうだな」

周は顎に手を当てて考え込む。

「そうなると苓が訪ねる予定の項さんって人も、結構な身分の方かもしれないね。少し調べてみた方がいいかもしれないな」

陸も神妙な顔でそう言って、苓の手の中にある櫛にちらりと視線を送る。

「とにかく苓、これからはその櫛を肌身離さず持ち歩こうか。絶対落とさない所に入れておくんだ。間違っても今迄みたいに宿に置いて出かけちゃだめだよ」

「あ・・・うん。わかった」

あまりにも真剣な顔で言われて、苓は反射的に背筋を伸ばして頷いた。

「でも、どうして二人とも見てすぐわかったの?そんな上等なものなんてそうお目にかかれるものじゃないでしょう?」

急いで胸の袷の中に布で包んだ櫛を収めると、不意に湧いてきた素朴な疑問をそのまま投げかけてみた。

「「え!?」」

二人同時にまずい!とでもいう顔でこちらを見られて、あぁこれはなんかまずい事に触れてしまったのだという事に気づいた。

う~ん、私のばか。
そう思ったけどすでに遅かった。

視線をさ迷わせる二人はどうやら何かいい誤魔化しを考えているらしい。

最近なんとなくわかるのだが、この二人、苓に対しては結構気を抜いているのだと思うのだ。だって詰めがいろいろ甘いのだ。
まぁそれだけ苓がちょろいと思われているのかもしれないのだが・・・。

「あ、盗賊時代の名残?」

仕方なしに助け舟を出してやる。

「そう!そうそう!お宝を質に流したりしてたからさ!」

「自然と目利きになっちゃったんだよね!!」

ははは~と笑う二人に苓は「そうなんだぁ」と笑って流した。

多分彼らも苓が何かを勘づいていることを理解しているだろうが、踏み込んでこないことを分かっているのだ。

何の茶番なのだろうかとも思いつつ、それでもまぁいいやと苓は心の中で息をついた。

とにかく苓は今他人の何者なのかにかまっていられる余裕なんてないのだ。

それよりも母が何者で、自分はどうしてこうして王都に向かわされているのかの方が重要だ。
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