孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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2章

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「今日はこの辺にしようか」


未だ少し明るい夕暮れ時。陸の一声でこの日の野営場所が決まった。

街道脇を少し入った広場、このあたりはしばらく山道で、街がない。多くの旅人達が野宿をするせいか、こうした草の低い場所はよくある。


「川の音がするから、水の調達にも困らないな」

あたりを見渡した周がそう言って、まだ馬上にいる苓を見上げる。

「水浴びもできるんじゃないか?」

「確かにそれはありがたいかも」

周の手を借りて馬から降りると、苓は荷を解く。

「水汲みついでに見てくるね」

そう言って、陸が川の方向へ降りていくのを二人で見送って、周は薪を探して、苓は積み荷から食料を出して裂いていく。
野宿にもずいぶんと慣れてしまって、自然と役割が決まってきた。


野菜の切れ端や少し硬い部分を馬に投げてやる。

一通り作業を終えたので水浴びのための準備を整えていると、こんな短時間によく集まったなぁと感心するほどの薪を抱えて周が戻ってきた。

彼が慣れた手つきで火を起こし始めると、川に降りていた陸が戻ってきた。

「足はつくけど、少し深めかな。あまり奥までいかないようにすれば大丈夫そうだよ。明るいうちに済ませたほうがいいから苓行っておいで」

言われて苓は頷く。すでに準備はしていたので、着替えを持って立ち上がる。

「周はどうする?水汲んでこようか?」

そう振り返って聞くと、周はそうだなと言って立ち上がる。

実は周は泳げないらしいのだ。というのが分かったのもつい最近で、どうやら彼は川で大けがを負ってから川に浸かれなくなってしまったというのだ。

「釣りは大丈夫なのに不思議ね?」そう聞けば彼は「釣りはこっちの足が陸にあるからな」とどうやら全く近寄れないわけではないらしい。

怪我をする前は泳げたというのだが、今は膝以上の深さになる川は浅瀬でも体が固まってしまうのだという。

こんなに大柄で体を動かすことが得意そうなのに、意外だ。

彼は苓の隣までやってくると、苓が手にしかけていた水桶を取り上げた。


「一人は危ないから見張りについてく」

「私は溺れないわよ?」

首を傾けると、ちらりとこちらを見下ろした周がいたずらめいた笑みを向ける。

「蛇や、トラやクマもいるぞ?」

「う、、、オ願イシマス」

流石の田舎育ちの苓もサルはともかく、クマやトラや蛇に襲われたら太刀打ちができない。
周が用心棒として近くにいてくれるのなら心強い。



「じゃあ僕は今のうちに夕食を作っておくよ」

そんな二人のやり取りをくすくす笑って見ていた陸に見送られ、二人で川辺に降りていく。


川は陸の言った通り少し深めで、かがめば苓はすっぽり浸かれそうな深さがあった。


周に水を汲んでやると彼は大きな岩陰に入り、そこで体を拭き清めるらしい。

周の姿が見えないことを確認して服を脱いで水に浸かる。

「ひゃぁっ、っ冷たい~」

足を浸けて、思わず身震いする。それでも慣れなのか体を沈めていけば徐々に慣れてきて冷たさを感じない。 

それでも体を冷やしすぎるのはまずいから早めに出ようと決めて、水の中に手ぬぐいを入れて、こすり上げていく。

顔と髪を洗って、さてそろそろ出ようかと思ったところ、ポコンポコンと下の方から気泡が上がってくる場所に気づいた。

それは今いる場所から、三歩ほど先の位置で、「こんなの出ていたっけ?」と首を傾ける。

吸い寄せられるようにその気泡に向かって歩いて行くと。

クンッ

突如として踏みしめた足場が崩れて足を引かれた。

「え?」と思った時にはすでに遅くて、何かとてつもない力に、足を吸い込まれて頭まで水の中に引きずり込まれる。

慌ててもう片方の足で踏ん張ろうとするが、踏みしめても踏みしめても、川底の丸い石が滑ってしまって、足を着くことができない。

まずい、まずい!

焦る気持ちが強くなってくる。

呼吸をしなければと伸びあがって顔を上げようとするけれど、水面にわずかに顔が出るものの、肺に空気を入れるよりも、口の中に入ってくる水の方が多い。

そうなってくるともうパニックだ。手をばたつかせて、何とか周に気づいてもらおうとするけれど、体はどんどん沈んでいく。


あぁ、もう駄目だ、、、。

そう半分あきらめが頭をよぎった時、グンッと伸ばしていた手をつかまれて、驚くほどの力で体を引き上げられた。
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