15 / 75
2章
14
しおりを挟む
「今日はこの辺にしようか」
未だ少し明るい夕暮れ時。陸の一声でこの日の野営場所が決まった。
街道脇を少し入った広場、このあたりはしばらく山道で、街がない。多くの旅人達が野宿をするせいか、こうした草の低い場所はよくある。
「川の音がするから、水の調達にも困らないな」
あたりを見渡した周がそう言って、まだ馬上にいる苓を見上げる。
「水浴びもできるんじゃないか?」
「確かにそれはありがたいかも」
周の手を借りて馬から降りると、苓は荷を解く。
「水汲みついでに見てくるね」
そう言って、陸が川の方向へ降りていくのを二人で見送って、周は薪を探して、苓は積み荷から食料を出して裂いていく。
野宿にもずいぶんと慣れてしまって、自然と役割が決まってきた。
野菜の切れ端や少し硬い部分を馬に投げてやる。
一通り作業を終えたので水浴びのための準備を整えていると、こんな短時間によく集まったなぁと感心するほどの薪を抱えて周が戻ってきた。
彼が慣れた手つきで火を起こし始めると、川に降りていた陸が戻ってきた。
「足はつくけど、少し深めかな。あまり奥までいかないようにすれば大丈夫そうだよ。明るいうちに済ませたほうがいいから苓行っておいで」
言われて苓は頷く。すでに準備はしていたので、着替えを持って立ち上がる。
「周はどうする?水汲んでこようか?」
そう振り返って聞くと、周はそうだなと言って立ち上がる。
実は周は泳げないらしいのだ。というのが分かったのもつい最近で、どうやら彼は川で大けがを負ってから川に浸かれなくなってしまったというのだ。
「釣りは大丈夫なのに不思議ね?」そう聞けば彼は「釣りはこっちの足が陸にあるからな」とどうやら全く近寄れないわけではないらしい。
怪我をする前は泳げたというのだが、今は膝以上の深さになる川は浅瀬でも体が固まってしまうのだという。
こんなに大柄で体を動かすことが得意そうなのに、意外だ。
彼は苓の隣までやってくると、苓が手にしかけていた水桶を取り上げた。
「一人は危ないから見張りについてく」
「私は溺れないわよ?」
首を傾けると、ちらりとこちらを見下ろした周がいたずらめいた笑みを向ける。
「蛇や、トラやクマもいるぞ?」
「う、、、オ願イシマス」
流石の田舎育ちの苓もサルはともかく、クマやトラや蛇に襲われたら太刀打ちができない。
周が用心棒として近くにいてくれるのなら心強い。
「じゃあ僕は今のうちに夕食を作っておくよ」
そんな二人のやり取りをくすくす笑って見ていた陸に見送られ、二人で川辺に降りていく。
川は陸の言った通り少し深めで、かがめば苓はすっぽり浸かれそうな深さがあった。
周に水を汲んでやると彼は大きな岩陰に入り、そこで体を拭き清めるらしい。
周の姿が見えないことを確認して服を脱いで水に浸かる。
「ひゃぁっ、っ冷たい~」
足を浸けて、思わず身震いする。それでも慣れなのか体を沈めていけば徐々に慣れてきて冷たさを感じない。
それでも体を冷やしすぎるのはまずいから早めに出ようと決めて、水の中に手ぬぐいを入れて、こすり上げていく。
顔と髪を洗って、さてそろそろ出ようかと思ったところ、ポコンポコンと下の方から気泡が上がってくる場所に気づいた。
それは今いる場所から、三歩ほど先の位置で、「こんなの出ていたっけ?」と首を傾ける。
吸い寄せられるようにその気泡に向かって歩いて行くと。
クンッ
突如として踏みしめた足場が崩れて足を引かれた。
「え?」と思った時にはすでに遅くて、何かとてつもない力に、足を吸い込まれて頭まで水の中に引きずり込まれる。
慌ててもう片方の足で踏ん張ろうとするが、踏みしめても踏みしめても、川底の丸い石が滑ってしまって、足を着くことができない。
まずい、まずい!
焦る気持ちが強くなってくる。
呼吸をしなければと伸びあがって顔を上げようとするけれど、水面にわずかに顔が出るものの、肺に空気を入れるよりも、口の中に入ってくる水の方が多い。
そうなってくるともうパニックだ。手をばたつかせて、何とか周に気づいてもらおうとするけれど、体はどんどん沈んでいく。
あぁ、もう駄目だ、、、。
そう半分あきらめが頭をよぎった時、グンッと伸ばしていた手をつかまれて、驚くほどの力で体を引き上げられた。
未だ少し明るい夕暮れ時。陸の一声でこの日の野営場所が決まった。
街道脇を少し入った広場、このあたりはしばらく山道で、街がない。多くの旅人達が野宿をするせいか、こうした草の低い場所はよくある。
「川の音がするから、水の調達にも困らないな」
あたりを見渡した周がそう言って、まだ馬上にいる苓を見上げる。
「水浴びもできるんじゃないか?」
「確かにそれはありがたいかも」
周の手を借りて馬から降りると、苓は荷を解く。
「水汲みついでに見てくるね」
そう言って、陸が川の方向へ降りていくのを二人で見送って、周は薪を探して、苓は積み荷から食料を出して裂いていく。
野宿にもずいぶんと慣れてしまって、自然と役割が決まってきた。
野菜の切れ端や少し硬い部分を馬に投げてやる。
一通り作業を終えたので水浴びのための準備を整えていると、こんな短時間によく集まったなぁと感心するほどの薪を抱えて周が戻ってきた。
彼が慣れた手つきで火を起こし始めると、川に降りていた陸が戻ってきた。
「足はつくけど、少し深めかな。あまり奥までいかないようにすれば大丈夫そうだよ。明るいうちに済ませたほうがいいから苓行っておいで」
言われて苓は頷く。すでに準備はしていたので、着替えを持って立ち上がる。
「周はどうする?水汲んでこようか?」
そう振り返って聞くと、周はそうだなと言って立ち上がる。
実は周は泳げないらしいのだ。というのが分かったのもつい最近で、どうやら彼は川で大けがを負ってから川に浸かれなくなってしまったというのだ。
「釣りは大丈夫なのに不思議ね?」そう聞けば彼は「釣りはこっちの足が陸にあるからな」とどうやら全く近寄れないわけではないらしい。
怪我をする前は泳げたというのだが、今は膝以上の深さになる川は浅瀬でも体が固まってしまうのだという。
こんなに大柄で体を動かすことが得意そうなのに、意外だ。
彼は苓の隣までやってくると、苓が手にしかけていた水桶を取り上げた。
「一人は危ないから見張りについてく」
「私は溺れないわよ?」
首を傾けると、ちらりとこちらを見下ろした周がいたずらめいた笑みを向ける。
「蛇や、トラやクマもいるぞ?」
「う、、、オ願イシマス」
流石の田舎育ちの苓もサルはともかく、クマやトラや蛇に襲われたら太刀打ちができない。
周が用心棒として近くにいてくれるのなら心強い。
「じゃあ僕は今のうちに夕食を作っておくよ」
そんな二人のやり取りをくすくす笑って見ていた陸に見送られ、二人で川辺に降りていく。
川は陸の言った通り少し深めで、かがめば苓はすっぽり浸かれそうな深さがあった。
周に水を汲んでやると彼は大きな岩陰に入り、そこで体を拭き清めるらしい。
周の姿が見えないことを確認して服を脱いで水に浸かる。
「ひゃぁっ、っ冷たい~」
足を浸けて、思わず身震いする。それでも慣れなのか体を沈めていけば徐々に慣れてきて冷たさを感じない。
それでも体を冷やしすぎるのはまずいから早めに出ようと決めて、水の中に手ぬぐいを入れて、こすり上げていく。
顔と髪を洗って、さてそろそろ出ようかと思ったところ、ポコンポコンと下の方から気泡が上がってくる場所に気づいた。
それは今いる場所から、三歩ほど先の位置で、「こんなの出ていたっけ?」と首を傾ける。
吸い寄せられるようにその気泡に向かって歩いて行くと。
クンッ
突如として踏みしめた足場が崩れて足を引かれた。
「え?」と思った時にはすでに遅くて、何かとてつもない力に、足を吸い込まれて頭まで水の中に引きずり込まれる。
慌ててもう片方の足で踏ん張ろうとするが、踏みしめても踏みしめても、川底の丸い石が滑ってしまって、足を着くことができない。
まずい、まずい!
焦る気持ちが強くなってくる。
呼吸をしなければと伸びあがって顔を上げようとするけれど、水面にわずかに顔が出るものの、肺に空気を入れるよりも、口の中に入ってくる水の方が多い。
そうなってくるともうパニックだ。手をばたつかせて、何とか周に気づいてもらおうとするけれど、体はどんどん沈んでいく。
あぁ、もう駄目だ、、、。
そう半分あきらめが頭をよぎった時、グンッと伸ばしていた手をつかまれて、驚くほどの力で体を引き上げられた。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる