後宮の棘

香月みまり

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第9章 使、命

第339話 奇襲

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ここに配される事を命ぜられた時から、こうした事が起こる事は予測できていた。

敵の目論見が読めない以上、この地が奇襲の標的となる可能性は十分に理解できた。

そして、ここに多くの兵を当てられないことも。

そのために、自分が選ばれた意味もわかっていた。

1万の兵と、策でなんとしても凌がなければならない。



それが始まったのは、日が落ちてあたりが闇に包まれた頃だった。


その気配を李蒙は、敏感に察知していた。
前線を退いてから数年。いまだその勘は衰えていなかったらしい。

結局どこまでも自分は武人なのだと、苦笑した。


しかしその冴え渡る勘は、都合の悪いことも察知する。

敵の数が尋常ではないと、地面の揺れが教えている。

これでは作戦決行まで持っていけるだろうか。

さてどうすべきか。

天幕の外からは兵達の騒ぐ声が聞こえている。

今日は予めこうなる事を予測していた。
ゆえに彼らもただ馬鹿騒ぎしているわけではない。

みな、鎧を当て剣を持っているはずだ。


「奥方様の予測は当たりましたね」

同じように大地のわずかな揺れに神経を向けていた、景眞けいしんが呟く。
彼は、長く副官を務めてくれている男だ。同じように死地を潜ってきた彼も、今自分と同じものが見えているのだろう。


「あぁ、流石翠玉様だ。」
誇らしい思いで頷く。

自分の半生をかけて愛した女性の娘が、まさかこれほどまでの才を持っていた事。
そして自分が育てた男の妻となり、直接的に仕えることが出来ることは、李蒙にとって喜びでしかない。 

隠居して、ぼんやり日々を過ごして、いずれは天に召された彼女のもとにいくものと思っていた自分に突如もたらされた使命は、その彼女に似た娘を見守ること。そして有事の際には盾となることだ。


「殿下は良い方を娶られましたねぇ」

景眞が感慨深い様子で呟く。
彼はずっと自分の下にいた。
それこそ冬殿下が4つか5つ、剣を持ち始めた頃から知っている。


幼い頃から、真面目で勤勉だったあの子供が、立派な武人となり、将となるのを親のような気持ちで見ていたのだろう。

殿下が翠玉を妻を娶ったと聞いた時には2人で、運命の悪戯に驚きつつも、祝酒だと杯を交わしたのも覚えている。
まさかその翠玉がこれほどまでに武に才のある者だとはその時は夢にも思わなかった。

「必ずこの策は成功させねばならん。命に変えても、だ」

地の揺れが少しずつ間近に迫ってきた。

そう思った矢先。


カンカンと敵襲を知らせるけたたましい鐘の音が響き渡った。



敵の奇襲部隊は3万ほど、対してこちらは1万だ。
随分と厳しい戦いになるだろう。
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