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第9章 使、命
第341話 潜
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「報告いたします!敵軍に援軍到着の様子、その数1万」
兵の報告に、堯牙浪は鼻で笑う。
「1万か」
「よく出しましたね」
答えるように言ったのは丘江だ。
「まぁ出せて1万だろうな。報告では今日は随分とあちらは激戦だったようだからな」
きっと疲れた兵達だろう。と、堯牙浪は侍従が差し出した剣を手にすると腰に携える。
「まぁ1万増えたところでうちが多いのは変わらん。夜は長いからな。じっくり行こうか。」
クックと笑ってまたゆったりと座り直した。
++++
援軍到着により、戦況は一気に膠着状態に陥った。
翠玉はひんやりと淀んだ空気の中から僅かに顔を出して、その様子を眺めた。
「まだだわ」
穴の中に戻り、腰を下ろすと、後ろに控えた2人が頷いた、、、気配がした。
というのも、穴の中は月の光も入らない真っ暗闇である。
ここは、この地にある無数の鍾乳洞の一つである。
以前の戦の折に、散々潜りまくった翠玉の頭の中には、この穴がどこに繋がるのかが正確に記憶されている。
この鍾乳洞の出口は、現在の敵軍本陣の少し手前だ。他にも似たような場所に出る穴はいくつかあり、そしてその全てに現在兵を潜ませてある。
敵軍本陣が、もう少し前進したならば、そこから一気に敵軍を包囲できる。
それが今回、いや前回から翠玉が温めていた策だ。
狙うのは膠着状態に焦れた敵軍が前進したタイミング。
彼らの背後に兵を展開して挟み込む。
挟み込んだ敵を川沿いに両側から追い込み、捕縛する。
配備はすでに完璧に完了している。
しかし、敵もなかなか動かない。
+++
事態が動いたのは、そろそろ日を跨ぐであろうころであった。
おそらくはこの時間と、翠玉が当てていた時間である。
敵の後衛軍が前進をみせた。一気に攻め込んで、力技で突破するつもりらしい。
目の前に展開した部隊を破り、闇に紛れて主要な街を襲い、そして明るくなる頃に廿州府の正面を包囲する。
これにより湖紅軍は州府に閉じ込められ、その間に彼ら湖紅の領土を侵略していく。
それが彼らの筋書きだと翠玉は読んでいた。
「いくわよ!」
二人に声をかける。
少し穴を下ると、火が灯されて、足元が鮮明になる。
隆蒼が松明を手にしている。
流石に凹凸が激しく、足元が滑りやすい鍾乳洞の中を明かりなしで歩くのは危険すぎる。
3人でその狭い中を並んで歩いてて行く。
いくつかの分岐をやり過ごして、さほどかからず、新鮮な空気が頬をくすぐった。
視線で合図を送り合い頷くと、隆蒼が松明の火を消した。
暗闇に戻った穴の中は、一気にしんと静まり返り、耳に入るのはチョロチョロとどこからかわく水音と、天井から滴が落ちるぴちゃんぴちゃんと言う音だけだ。
ゆっくり出口に向かって、そろりと外に顔を出してみる。
目の前を敵軍が前進していく所だった。
このまま1隊残らず前進してくれ、と願いながら翠玉は目を凝らして様子を見る。
少しの時間が、もどかしくてずいぶん時間が経っているように錯覚する。
残り1部隊が、動き出した。
よし、これで狙い通り全軍が前進する事になる。あとは頃合いを見て包囲するのみだ。
そう拳を握った時、
前進する集団の中に、不規則な動きをする一団が翠玉の目を引いた。
暗がりの中なのでよく見えない。
しかし目を凝らして見てみれば、その一団は、集団から離れてこちらに向かってきている。
バレてしまったのだろうか。
兵の報告に、堯牙浪は鼻で笑う。
「1万か」
「よく出しましたね」
答えるように言ったのは丘江だ。
「まぁ出せて1万だろうな。報告では今日は随分とあちらは激戦だったようだからな」
きっと疲れた兵達だろう。と、堯牙浪は侍従が差し出した剣を手にすると腰に携える。
「まぁ1万増えたところでうちが多いのは変わらん。夜は長いからな。じっくり行こうか。」
クックと笑ってまたゆったりと座り直した。
++++
援軍到着により、戦況は一気に膠着状態に陥った。
翠玉はひんやりと淀んだ空気の中から僅かに顔を出して、その様子を眺めた。
「まだだわ」
穴の中に戻り、腰を下ろすと、後ろに控えた2人が頷いた、、、気配がした。
というのも、穴の中は月の光も入らない真っ暗闇である。
ここは、この地にある無数の鍾乳洞の一つである。
以前の戦の折に、散々潜りまくった翠玉の頭の中には、この穴がどこに繋がるのかが正確に記憶されている。
この鍾乳洞の出口は、現在の敵軍本陣の少し手前だ。他にも似たような場所に出る穴はいくつかあり、そしてその全てに現在兵を潜ませてある。
敵軍本陣が、もう少し前進したならば、そこから一気に敵軍を包囲できる。
それが今回、いや前回から翠玉が温めていた策だ。
狙うのは膠着状態に焦れた敵軍が前進したタイミング。
彼らの背後に兵を展開して挟み込む。
挟み込んだ敵を川沿いに両側から追い込み、捕縛する。
配備はすでに完璧に完了している。
しかし、敵もなかなか動かない。
+++
事態が動いたのは、そろそろ日を跨ぐであろうころであった。
おそらくはこの時間と、翠玉が当てていた時間である。
敵の後衛軍が前進をみせた。一気に攻め込んで、力技で突破するつもりらしい。
目の前に展開した部隊を破り、闇に紛れて主要な街を襲い、そして明るくなる頃に廿州府の正面を包囲する。
これにより湖紅軍は州府に閉じ込められ、その間に彼ら湖紅の領土を侵略していく。
それが彼らの筋書きだと翠玉は読んでいた。
「いくわよ!」
二人に声をかける。
少し穴を下ると、火が灯されて、足元が鮮明になる。
隆蒼が松明を手にしている。
流石に凹凸が激しく、足元が滑りやすい鍾乳洞の中を明かりなしで歩くのは危険すぎる。
3人でその狭い中を並んで歩いてて行く。
いくつかの分岐をやり過ごして、さほどかからず、新鮮な空気が頬をくすぐった。
視線で合図を送り合い頷くと、隆蒼が松明の火を消した。
暗闇に戻った穴の中は、一気にしんと静まり返り、耳に入るのはチョロチョロとどこからかわく水音と、天井から滴が落ちるぴちゃんぴちゃんと言う音だけだ。
ゆっくり出口に向かって、そろりと外に顔を出してみる。
目の前を敵軍が前進していく所だった。
このまま1隊残らず前進してくれ、と願いながら翠玉は目を凝らして様子を見る。
少しの時間が、もどかしくてずいぶん時間が経っているように錯覚する。
残り1部隊が、動き出した。
よし、これで狙い通り全軍が前進する事になる。あとは頃合いを見て包囲するのみだ。
そう拳を握った時、
前進する集団の中に、不規則な動きをする一団が翠玉の目を引いた。
暗がりの中なのでよく見えない。
しかし目を凝らして見てみれば、その一団は、集団から離れてこちらに向かってきている。
バレてしまったのだろうか。
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