後宮の棘

香月みまり

文字の大きさ
上 下
125 / 234
第9章 使、命

第341話 潜

しおりを挟む
「報告いたします!敵軍に援軍到着の様子、その数1万」

兵の報告に、堯牙浪は鼻で笑う。

「1万か」



「よく出しましたね」

答えるように言ったのは丘江だ。


「まぁ出せて1万だろうな。報告では今日は随分とあちらは激戦だったようだからな」

きっと疲れた兵達だろう。と、堯牙浪は侍従が差し出した剣を手にすると腰に携える。


「まぁ1万増えたところでうちが多いのは変わらん。夜は長いからな。じっくり行こうか。」

クックと笑ってまたゆったりと座り直した。




++++

援軍到着により、戦況は一気に膠着状態に陥った。



翠玉はひんやりと淀んだ空気の中から僅かに顔を出して、その様子を眺めた。


「まだだわ」

穴の中に戻り、腰を下ろすと、後ろに控えた2人が頷いた、、、気配がした。

というのも、穴の中は月の光も入らない真っ暗闇である。


ここは、この地にある無数の鍾乳洞の一つである。

以前の戦の折に、散々潜りまくった翠玉の頭の中には、この穴がどこに繋がるのかが正確に記憶されている。

この鍾乳洞の出口は、現在の敵軍本陣の少し手前だ。他にも似たような場所に出る穴はいくつかあり、そしてその全てに現在兵を潜ませてある。


敵軍本陣が、もう少し前進したならば、そこから一気に敵軍を包囲できる。

それが今回、いや前回から翠玉が温めていた策だ。


狙うのは膠着状態に焦れた敵軍が前進したタイミング。
彼らの背後に兵を展開して挟み込む。
挟み込んだ敵を川沿いに両側から追い込み、捕縛する。


配備はすでに完璧に完了している。



しかし、敵もなかなか動かない。



+++




事態が動いたのは、そろそろ日を跨ぐであろうころであった。

おそらくはこの時間と、翠玉が当てていた時間である。

敵の後衛軍が前進をみせた。一気に攻め込んで、力技で突破するつもりらしい。

目の前に展開した部隊を破り、闇に紛れて主要な街を襲い、そして明るくなる頃に廿州府の正面を包囲する。
これにより湖紅軍は州府に閉じ込められ、その間に彼ら湖紅の領土を侵略していく。

それが彼らの筋書きだと翠玉は読んでいた。


「いくわよ!」

二人に声をかける。


少し穴を下ると、火が灯されて、足元が鮮明になる。
隆蒼が松明を手にしている。

流石に凹凸が激しく、足元が滑りやすい鍾乳洞の中を明かりなしで歩くのは危険すぎる。

3人でその狭い中を並んで歩いてて行く。

いくつかの分岐をやり過ごして、さほどかからず、新鮮な空気が頬をくすぐった。

視線で合図を送り合い頷くと、隆蒼が松明の火を消した。

暗闇に戻った穴の中は、一気にしんと静まり返り、耳に入るのはチョロチョロとどこからかわく水音と、天井から滴が落ちるぴちゃんぴちゃんと言う音だけだ。



ゆっくり出口に向かって、そろりと外に顔を出してみる。

目の前を敵軍が前進していく所だった。

このまま1隊残らず前進してくれ、と願いながら翠玉は目を凝らして様子を見る。


少しの時間が、もどかしくてずいぶん時間が経っているように錯覚する。


残り1部隊が、動き出した。


よし、これで狙い通り全軍が前進する事になる。あとは頃合いを見て包囲するのみだ。



そう拳を握った時、


前進する集団の中に、不規則な動きをする一団が翠玉の目を引いた。


暗がりの中なのでよく見えない。
しかし目を凝らして見てみれば、その一団は、集団から離れてこちらに向かってきている。


バレてしまったのだろうか。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【改訂版】ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒異世界最強カップル

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,867pt お気に入り:10,281

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。