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第9章 使、命
第347話 挑発
しおりを挟む出口を出たのはそれからしばらくしてからだ。
予想通り自軍の兵が配備されていた。
隆蒼が敵に見つかってないといい、そう願いながら、兵を今出てきた穴から投入して
翠玉と華南は他の兵を連れて、ひとつ手前の出口へ戻り、後ろから敵兵を挟んで隆蒼を救出しようと言う作戦だ
下に降り、進んでゆけば、剣を交える音がわずかに響いた。
早足で、上がって行くと、松明の明かりが見えて丁度、隆蒼を隠したあたりで、自軍の兵と敵兵が剣を交えている。
狭い中の戦闘だ。敵も味方もやりづらい。
剣を抜き、駆けつけると敵の最後衛にいた男が、こちらを振り返った。
松明の明かりに照らされたその男に翠玉は、見覚えがあった
たしか、緋堯軍の天幕で火事を起こして、、、
男もピンときたのだろう。翠玉の顔を凝視して
「見つけた!お前だけは!」
次の瞬間、ものすごい圧を感じて翠玉は剣を抜いた。
ギィィンと鋭い音を上げて。重たい刃が翠玉の喉元で止まった
寸でのところで、男の剣を翠玉が受け止めた。
そして、男の喉元には、翠玉の後ろから華南が突き出した刃が当てられている。
「チッ」
男がすぐに飛び退く。
剣撃を受けた翠玉の手は、まだじんわりと痺れていた。
どうやら相手は力技系らしい。
あまり接近したくないなぁと思いながらそれでも指揮官らしい彼を打ち負かせば、あとの兵達は戦意を喪失するだろう。
隆蒼の毒の周りが心配だ。早めに片付けなければ。
それに、腹にあまり力を入れたくない。
ここまで随分と無理をしてしまった。
華南に任せるか、
しかし相手は翠玉に執着しているらしい。早めに片をつけるなら、やはり翠玉が手を下すのが一番だ。
剣を構えると、男の前に突き出す。
「騙されたお前達が馬鹿なのよ。恨むなら己の指揮官の浅はかさを恨みなさい。」
たしかあの時の、自分はこんな感じだったはず!と思い出してみる。
男の顔が憤怒に歪む。
とりあえず挑発には成功したらしい。
「翠玉様!!」
何やってるんですか!?と嗜める華南の声がするが、翠玉はつかつかと男の前に歩いてゆく。
男の豪剣が突き出されてくる。
それを翠玉はヒラリと交わす。
良かった、あまり速さはないらしい。
そしてここは狭い。身をかがめる彼より翠玉の方が自由に動ける。
そして彼は挑発に乗って悪手を取った。
やはりどこかで翠玉を女と侮ったのだろう。
避けた反動のまま、手にした切先で男の太い腕を薙ぐ。
次の瞬間、翠玉の目の前に血飛沫が上がる。
「翠玉様!」
華南の声と、激しい男の雄叫びが洞内に響くのは同時だった。
次いでガランと金属と石がぶつかる音と、ボトンと何か重たいものが落ちる音が響く。
翠玉の足元にしぶきを上げて落ちたのは、男の剣を握ったままの右腕だ。
そして、男は一瞬の内に切り落とされた腕のあった場所を見つめながら、ハクハクと息をしている。
「よくも、よくも、よくも!!」
雄叫びのように声を上げる男は、鬼のような形相で翠玉につかみかかろうとする。
しかしそれも虚しく、男の視界から翠玉が消える。その代わりに、どすんと胸に衝撃が走って、そして彼の意識はそこで途切れた。
華南は唖然とその光景を見ていた。あとから考えれば。お前がなぜ行かなかったと雇主である殿下から叱られる事なのだが。
この狭い中で、彼女はその狭ささえも味方につけたように、華麗にたちまわっていた。
感情のままに切りかかってきた男をヒラリと交わしながら、軽い動作で男の太腕を断ち。
そして激昂して飛びかかった男の胸をなんの躊躇もなく挿し貫いた。
これが本当に一国の皇女様だったひとなのだろうか。
そして、あれほど殿下が身を案じて守れと言った女性なのだろうか。
強いのは知っていたし、武の技術もあることは知っていた。
しかし、これは……
守る必要ないんじゃ……
ゾクゾクと鳥肌が立った。
こんな感覚久しぶりだ。
声も出せずにいる華南と、他の兵達をよそに翠玉は倒れた男の胸から剣を抜かず、倒れ込んでくるその身体を上手いこと避けた。
そうしてこちらを振り向いて
「さっさと隆蒼回収にいき、ましょっ」
不敵に笑ったかと思ったら、ぷつんと糸が切れたように崩れ落ちた。
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