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第10章 後宮
第374話 浮腫
泉妃との謁見が叶ったのはそれから半月ほどの後だった。
彼女の姿を見て、始め翠玉は驚きで言葉が出なかった。華奢だった彼女は、ふっくらとしていて、しかし顔色は相変わらず青白かった。
本当にこの人が泉妃なのだろうか?と目を疑った。
「お恥ずかしい姿で……あまり食欲もないのに。やはり伏せているせいか、太ってしまって……」
翠玉の反応に、予想していたと彼女は恥じるように苦笑した。
「とんでもないです。ご体調が優れないと伺っておりますが、お加減は大丈夫でしょうか?」
慌てて取り繕うが、動揺は隠しきれなかった。
太ったと言うよりもこれはどちらかというと……
「えぇ、今までの子たちはこんな事無かったのだけど……歳のせいかしら、身体がだるくて、少し動悸もあって、浮腫が酷いのよ」
そう言って、彼女がちらりと見せた足は、おおよそ華奢で折れてしまいそうだった頃の彼女からは想像がつかないくらいに象の足のように浮腫んでいた。
「どうも身体の水分がうまく排出できないみたいで……夜になると特に痛みがひどくて……。こんなに外見も変わってしまったから、あまり外に出る気にもならなくて……」
そこでハッとしたように彼女は両手を振る。
「でもこんな事初めてなのよ!他の子ども達の時は全然体調も良く過ごしていたの、だから心配しないでくださいね」
妊娠中である翠玉を不安にさせないように言添える。
「悪阻はもう終わられましたか?」
「はい、どうやらこちらに戻る少し前に終わったようで……いまは自分が本当に妊娠中なのかと疑わしいくらいなんです」
泉妃に促されて、室内に入ると、茶が用意されていて、互いに席につく。
「たしかに、この頃はあまりお腹も大きくないですものね。あと数週間もしたら胎動がありますから、それが分かるとまた気分的にも変わると思いますわ」
ふふふっと嬉しそうに言った泉妃は随分と大きくなっている自分の腹を撫でる。
その姿に、少しだけ翠玉の肩の力が抜ける。
今日は、彼女に聞きたいことが沢山あって訪ねてきた事を思い出す。
「その、、胎動ってどんなものなんです?」
興味津々に身を乗り出せば、泉妃も楽しそうに肩を上げた。
「んー、初めはお腹の奥の方で、ニュルンとした……小さな魚が泳いでいるような感覚かしら?」
うまく説明できないのですけど……と小首を傾げた。
「なるほど……勉強になります。もう本当に色々未知の事過ぎて、今日は色々聞きたいと思って参じさせていただいたのです」
素直に本当の目的を話すと、泉妃も理解していると言うようにクスクスと笑った。
「はじめはそうでしょうね、何か有れば遠慮なく聞いて下さいね。4人分は経験しておりますから」
4人……あらためて、彼女の凄さに感嘆する。
「頼もしい限りです。頼りにさせていただきます」
「まぁ、翠玉様にそんな事を言っていただける日が来るなんて嬉しい限りですわ」
パチンと、ふっくらとした手を胸の前で合わせた泉妃の笑顔は以前の少女のような笑みのままで、少しだけ翠玉は安堵した。
+++
「泉妃様のお体は、少し心配ですわね」
帰宅して、部屋に戻る道すがらつぶやかれた華南の言葉に翠玉も同意して頷く。
「あの浮腫や動悸がお産の障りにならないといいのですが……」
あんなにも外観が変わるほどの浮腫が、普通のものとは到底思えなかった。
おそらく後宮の医師も分かった上で治療に当たっているのだろうが……。
「そうね……ただでさえ、ご体調が悪くて調子を崩されて体力も消耗しているしね」
顎に手を当てて、考え込む。
「自分の今後のためもあるし、少し調べてみようかなぁ」
「それもいいかもしれませんね」
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