後宮の棘

香月みまり

文字の大きさ
85 / 161
第10章 後宮

第374話 浮腫


泉妃との謁見が叶ったのはそれから半月ほどの後だった。


彼女の姿を見て、始め翠玉は驚きで言葉が出なかった。華奢だった彼女は、ふっくらとしていて、しかし顔色は相変わらず青白かった。

本当にこの人が泉妃なのだろうか?と目を疑った。



「お恥ずかしい姿で……あまり食欲もないのに。やはり伏せているせいか、太ってしまって……」

翠玉の反応に、予想していたと彼女は恥じるように苦笑した。



「とんでもないです。ご体調が優れないと伺っておりますが、お加減は大丈夫でしょうか?」

慌てて取り繕うが、動揺は隠しきれなかった。

太ったと言うよりもこれはどちらかというと……


「えぇ、今までの子たちはこんな事無かったのだけど……歳のせいかしら、身体がだるくて、少し動悸もあって、浮腫が酷いのよ」


そう言って、彼女がちらりと見せた足は、おおよそ華奢で折れてしまいそうだった頃の彼女からは想像がつかないくらいに象の足のように浮腫んでいた。


「どうも身体の水分がうまく排出できないみたいで……夜になると特に痛みがひどくて……。こんなに外見も変わってしまったから、あまり外に出る気にもならなくて……」


そこでハッとしたように彼女は両手を振る。

「でもこんな事初めてなのよ!他の子ども達の時は全然体調も良く過ごしていたの、だから心配しないでくださいね」


妊娠中である翠玉を不安にさせないように言添える。

「悪阻はもう終わられましたか?」



「はい、どうやらこちらに戻る少し前に終わったようで……いまは自分が本当に妊娠中なのかと疑わしいくらいなんです」

泉妃に促されて、室内に入ると、茶が用意されていて、互いに席につく。


「たしかに、この頃はあまりお腹も大きくないですものね。あと数週間もしたら胎動がありますから、それが分かるとまた気分的にも変わると思いますわ」

ふふふっと嬉しそうに言った泉妃は随分と大きくなっている自分の腹を撫でる。

その姿に、少しだけ翠玉の肩の力が抜ける。

今日は、彼女に聞きたいことが沢山あって訪ねてきた事を思い出す。

「その、、胎動ってどんなものなんです?」

興味津々に身を乗り出せば、泉妃も楽しそうに肩を上げた。

「んー、初めはお腹の奥の方で、ニュルンとした……小さな魚が泳いでいるような感覚かしら?」

うまく説明できないのですけど……と小首を傾げた。

「なるほど……勉強になります。もう本当に色々未知の事過ぎて、今日は色々聞きたいと思って参じさせていただいたのです」

素直に本当の目的を話すと、泉妃も理解していると言うようにクスクスと笑った。


「はじめはそうでしょうね、何か有れば遠慮なく聞いて下さいね。4人分は経験しておりますから」


4人……あらためて、彼女の凄さに感嘆する。


「頼もしい限りです。頼りにさせていただきます」


「まぁ、翠玉様にそんな事を言っていただける日が来るなんて嬉しい限りですわ」

パチンと、ふっくらとした手を胸の前で合わせた泉妃の笑顔は以前の少女のような笑みのままで、少しだけ翠玉は安堵した。



+++



「泉妃様のお体は、少し心配ですわね」

帰宅して、部屋に戻る道すがらつぶやかれた華南の言葉に翠玉も同意して頷く。

「あの浮腫や動悸がお産の障りにならないといいのですが……」

あんなにも外観が変わるほどの浮腫が、普通のものとは到底思えなかった。

おそらく後宮の医師も分かった上で治療に当たっているのだろうが……。


「そうね……ただでさえ、ご体調が悪くて調子を崩されて体力も消耗しているしね」

顎に手を当てて、考え込む。


「自分の今後のためもあるし、少し調べてみようかなぁ」

「それもいいかもしれませんね」
感想 260

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「君を愛することはない」と言われて三年、そろそろ白い結婚をやめようと思います

千乃
恋愛
伯爵家の娘・セシリアには、幼い頃からの許婚がいた。 公爵家当主にして王国宰相、ユーリス・シルヴェイン――初恋の相手でもある彼と、セシリアはついに結婚する。 しかし結婚初夜、彼は静かに告げた。 「君を愛することはない」と――。 ユーリスはほとんど帰宅せず、聞こえてくるのは他の女性との浮いた話ばかり。 没落寸前だった伯爵家の借金を肩代わりしてもらった身では、反論する術もない。 セシリアに求められるのは、ただ"完璧な公爵夫人"でいることだけだった。 しかし"ある夜"をきっかけに、ふたりの関係はより歪になる。 彼が稀に邸へ戻る夜――ユーリスは決まって、セシリアの隣で眠るのだ。 理由も、意味も、分からない。でも、怖くて聞けない。 そんな折、社交界である噂が囁かれ始めた。 他国の王女との縁談、そして「本命の女性がいる」という声。 結婚して三年。愛されなくとも、傍にいられればそれで良かった。 けれど、もう――潮時なのかもしれない。セシリアは静かに、離婚を決意する。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

夫の幼馴染が「あなたと結婚できなかった」と泣いた日、私は公爵夫人をやめると決めました

柴田はつみ
恋愛
舞踏会で、エレノアは聞いてしまった。 「あなたと結婚できなかったことが、今でも苦しいの」 そう泣いたのは、夫アレクシスの幼馴染ローズだった。 優しい夫。けれど、その優しさはいつも彼女へ向けられる。 公爵夫人として隣にいるのは自分なのに、彼の心だけは別の場所にあるのだと思っていた。 だからエレノアは、静かに決める。 もう、あなたの妻でいることを望みません。

【完結】愛していると気づいたから、私はあなたを手放します

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
愛しているのに、触れられない。 幼なじみの夫は、こう言った。 「もう、女性を愛することはできない」と。 それでも「君がいい」と言い続ける彼と、 子どもを望む現実の間で、私は追い詰められていく。 だから決めた。 彼のためにも、私は他の誰かを探す。 ――そう思ったのに。 なぜあなたは、そんな顔で私を追いかけてくるの? これは、間違った優しさで離れた二人が、 もう一度、互いを選び直すまでの物語。 ※表紙はAI生成イラストを使用しています。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。