後宮の棘

香月みまり

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番外編

あの日僕は知ってしまった②



「殿下はもしかして、産まれてくるお子様に、お二人を取られてしまうのではないかと不安なのではありませんか?」

「っ……」

泰誠から率直に聞かれた言葉に息を飲んだ。

そんな自分の反応を、泰誠は肯定と取ったらしい。

「実は僕も過去に2回、妹達が産まれた時に同じ事を思った経験があるんです。妹が産まれるまで僕は兄弟が居なかったので、両親が自分でなくて産まれてくる赤ん坊に目が行って、その内捨てられるかもしれないと、思ったものです」


まぁ喜憂だったんですけどね。と彼は自嘲する。

「実際産まれてみたら、妹はかわいかったし、両親は何も変わりもしませんでした。でも2人目の妹の時も同じ不安に苛まれました。まぁ、長子の悲しい性ですかね」

そう言って泰誠の瞳がしっかりとこちらを捉えた。

「今殿下の中に、本当の親子ではないから……という思いはありませんか?」

その問いに、またしても息を飲むしか無かった。今まさに泰誠の話を聞いてそう思っていた所だったのだ。

そうしてその反応をまた肯定と捉えた泰誠はゆっくりと首を横に振った。

「関係ありませんよ。同じ血が繋がっていても殺し合い、貶め合うことだって有るんですから。結局はどれほど相手を大切に思っているか、それに限ります。殿下は、叔父上と叔母上から今現在大切にされている事をわかっているから、それを失うのがこわい。違いますか?」

そう聞かれて、確かにそうだとすぐに頷いた。

「大切にされている実感はお有りのようですね」

安堵したように泰誠に言われて、少しばかり恥ずかしくなる。

「大丈夫です。殿下が産まれてくるお子様に嫉妬してしまうというのは、そうなるくらいにはお二人に我が子のように大切にされているという事ですから」


泰誠の言葉が胸のどこかのポッカリ穴が開いた所にストンと落ちた気がした。
同時に喉の奥がツンとするような感覚が上ってきた。





「実はですね。今日僕がここに来たのも偶然ではないんです」

込み上げてきた涙を堪えて引っ込めたところを見計らって、腰を浮かせて伸びをした泰誠が、少し意地悪い顔で笑った。


どういう事だと訝しむ視線を送れば、彼は視線をつっと邸の東側の棟に目を向ける。

「翠玉様も弟君が産まれた時に同じお気持ちを経験されたそうです。だからきっと殿下も不安になるんじゃないかって、その時は声をかけてやって欲しいって言われたのです」


「叔母上が?」
信じられない思いで聞き返せば、泰誠が力強く頷いた。

「殿下の事をわが子のように思っていなければ、そんな発想思いつきませんよね?すでに翠玉様にとっては殿下はわが子同然って事だと思うのですが」

いかがでしょう?と窺うように顔を覗き込まれて、ぐっと喉に力をいれる。

そうでなければ、安堵から泣き崩れてしまいそうだった。





結局この晩の夕餉も叔父叔母は現れなかった。

しかし不思議な事に、朝に感じた寂しいという感情は湧かなかった。


そうして眠りについて、いつもより少し早めに目を覚ますと、
邸内が騒がしくて、なんだか浮き足立っている。

「もしかして?」

部屋にやってきた葉鈴に問えば、彼女がしっかり頷いて。

「今朝方。元気な姫さまがお生まれになったようです」

「姫か」

不意に昨夕の泰誠の言葉を思い出す。妹はとても可愛いいものなのだという。
少し楽しみに感じている自分がいた。






小さい!

初めて見た赤子の姿は、信じられないくらい小さくて、儚くて、それでいてとてつもなく可愛らしかった。


覗き込んだ籠の中で小さな手を開いたり閉じたりしながら、モゾモゾと動いているその姿から目が離せなくて、じっと見下ろした。

「ふふ。可愛いでしょう惺?」

「はい。すごく、可愛いです」

叔母の問いかけに、噛み締めるように呟く。視線は赤子から外すことは出来なかった。

「春李って言うのよ、貴方の妹」

しゅんり……口の中で小さく呟く。
本当にわずかな呟きなのに、それに応えるかのように、赤子……春李が手を伸ばして「クーン」と小さく声を上げた。

パッと開かれた小さい掌に、反射的に指を当てると。きゅうっと指を小さな手に握り返された。

そしてそのまま、手を握り込んだ春李は口をムグムグと動かしながら、とろんと眠りについていく。


可愛すぎて、どうにかなりそうだ。
こんなにも胸がときめくような経験は今まで無かったように思う。

こんなに小さくて儚くて心許ないのに、暖かくて柔らかくて、どこか力強い。


あぁ、この子は自分が守るものなのだと思った。

この子を守るために自分はいるのだとすら思えたのだ。



そこには、昨日までの不安な気持ちなんて微塵も残っていなくて、むしろ春李と過ごすこれからにワクワクした。




これが自分の……惺眞の第2の人生の始まりだったのかもしれない。

そして受難の始まりでもあったのかもしれないが、それはまぁ仕方がない。







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