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番外編ー清劉戦ー
1日目 謁見2
皇帝の母であり、母と兄弟の仇であるその女は皇帝の後方、数いる側室達の中にどうやら密かに同席していたらしい、その老女の姿を認めて、翠玉は口元の笑みを深くする。
「これは皇太后陛下、お久しぶりにございます。そのような所に居られたとは、気づきませんでした」
嫌味を交えた翠玉の言葉に、立ち上がったその女は扇を畳んで忌々しげに手の内で鳴らす。
「ふん、其方に挨拶などするものか!華遊に何をした!外戚まで利用していつから計っておったのだ!」
息子の即位後は表に出ることも少なく、この場にも出てくる可能性は低いかと思っていたのだが、なるほど、これを言うためにわざわざ出てきたのだろう。
たしかに異母姉の華遊は彼女の第1子で、なんなら彼女の激しい性格をどの弟妹よりも色濃く次いでいた。晩年は国外に嫁出た娘に大した手を差し伸べてはいなかったらしいが、やはり母親の愛情と言うものは僅かばかりか、残っていたらしい。
ならば最初から翠玉を湖紅に嫁がせなければ良かったものを。
「なんのことやら全くわかりません。わたくしは、皇帝である異母兄様のお命じのままに嫁いだまで。そこに華遊姉様がいらっしゃる事を知った上で私を嫁がせる事を決めたのは皇帝陛下でございましょう?私には何の選択肢も無かったことは、陛下が一番分かっておいでではないでしょうか?」
あの頃翠玉は、何の選択権もなく後宮の片隅で飼い殺されていたのだ。計れることなどあるはずもない。
それはここに連なる者達であれば誰もが周知の事実である。
「華遊姉様が私に惺眞を託したのは、あちらに嫁いでからできた信頼関係によるもの。それを鑑み我が皇帝陛下が私に惺眞を託したのです。いくら実母といえど、他国の皇室の取り決めに口を出されるのはやりすぎではございませんか?」
そう言って徐に冬隼を見上げる。
「このような場で兄上の御決断を否定されて、御気分を悪くされましたでしょうか?ここは私の顔に免じて兄君様には内密にしていただけると嬉しいのですが?」
許しを乞うように冬隼に問いかければ、水を向けられた冬隼は、複雑な笑みを浮かべる。
「ここまでのお話であれば其方の顔に免じよう」
優しく言い聞かせるような声で「安心しろ」と翠玉の肩に手を置くと、「しかし」と言い添えて皇太后に視線を向ける。
「これ以上不服を仰るならば、後ろに控える書記官に記録を取らせて、兄にもお伝えいたしましょう。兄も随分と劉貴妃のことには心を痛めておりましたゆえ、その祖国に禍根を残していると知ったらそれは見過ごせないと言うでしょう。」
その少々厳しい言葉に、その場の皆が息を飲んだ。
「っ、、そこまで大事にしていただく必要はございません!母上、お下がりください」
慌てた、皇帝が立ち上がり、後方の母に厳しい声を上げる。
「っ、、、」
翠玉を睨みつけながら、皇后は言葉を飲んで椅子に座り直す。
「姉の死は、貴国からの報せの通り、病死ということは疑っていない。湖紅の皇帝には、姉に対する寵愛と慈悲を感謝すると伝えて欲しい」
取ってつけたように取り繕う皇帝の言葉に、内心みっともないと思いつつ、翠玉も口をつぐむ。
「承知しました」
冬隼が、この話はここまでだとでも言うように答えて、その場は何とも言えない雰囲気のまま終わった。
謁見の間を出て馬車に乗る頃には、同席した者達はみな疲れ切っていた。
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