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2章

27 これも義務?

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♢♢
ぼんやりと天蓋を見上げて、あれ? いつの間に眠ったのだろうか? と自問する。

窓の方に視線を送ってみるものの、まだ日の光も差し込まないような時間らしく、部屋は薄暗い。

聞こえるのは、自分の立てる衣擦れの音と、隣で眠る彼の息遣い。

そしてトクントクンと低く規則正しい鼓動の……音。

「っ―――!!」

そこでようやく私は自分のいる場所…正確には自分が収まっている所がどこなのかを理解して、息をのんだ。

彼の……夫の胸に頭を乗せられるような形でいるのだ。しかも恐らく行為のあと、すぐに眠りについてしまったのだろう。
一糸まとわぬ状態の腰を彼の大きな手が支えているのだ。

今すぐに、声を上げて抜け出して、服を着たい! そんな衝動に駆られるけれど、それをしたら間違いなく、隣で眠っている彼を起こしてしまいかねない。

疲れているのを起こすのも忍びないが、むしろ目を覚まされてこの状況で裸体を見られるのも恥ずかしい。
視線だけを周囲に巡らせてみても、私が身に着けていた着衣が今現在どこにあるのかも分からない状況である。

「どうしよう‼︎」

そんな風に混乱しながら、わずかにモゾリと身じろぎすると。

「んんっ……」

違和感を感じたのか、彼が動き始めた。

まずい!

慌ててとりあえず手元のシーツを手繰り寄せて体をしっかり隠す。

こんな格好で、しかも私の枕になるような状態で、寝苦しくはないだろうか?
そう思って、この隙に身体を離そうとしたのだが、腰をつかむ彼の手が手繰り寄せるように引くので、結局私は彼に密着せざるを得なかった。

幸い彼は目を覚ますことはなく少し体の向きを変えただけで、結局私は抱き込み直された形となってしまった。

すぅっと彼の気持ちよさそうな吐息が耳にかかるのを聞いて、私の脳裏には昨晩、何度も耳元で感じた彼の吐息を思い出してしまい、途端に頬が熱くなる。

昨晩の行為は、自分の人生史上初めての事が多すぎた。
確かに、初夜の晩も戸惑う事は多かったのだが、昨日のはなんというか……

気持ちが良すぎて、どうにかなってしまいそう……いや、きっとどうにかなっていたのだ。

もう駄目、やめて欲しいと思いながら、自分の中の奥底にもっと彼が欲しいと切望する感情があって。

そして彼に求められるように名を呼ばれると、とても満たされるような、愛おしさのようなものが、こみあげてきた。


契約上の関係のはずなのに、私も彼も随分と互いに夢中になって、まるで本物の恋人同士のようだった。

こんな事……ないと思ったのに。

それどころか、婚姻後すぐに体の関係を持つなどと、想像もしていなかったのに二晩連続でだ……


でも……それが、嫌かと言われると、そうでもない。
わけが分からなくて、恥ずかしくて、自分自身でも制御が利かないあのような行為は、義務でなければなるべくしたくない……と前までの自分であれば思ってもおかしくないのに。


なぜかとても満たされて、幸せなもののように感じたのだ。

かと言って……

お疲れでないのかしら?


昨日だって、結局彼は一日仕事もこなしていたのだ。夕方には私につられて眠ってしまうくらいには疲労もあったのではないだろうか?
それなのに、夜もあんなに激しく動かれて……

思い出して再び顔が熱くなる。その熱が、なおも自分を抱き込む彼の肌にも伝わってしまいそうで、慌てて思考を他所に動かす。

明日も彼は仕事なのだ、変に身動きをして起こしてしまってはいけない。

通常結婚後は、休暇を取って新婚旅行に出かける夫婦も多い中、王太子付きの彼は現在とても忙しいらしい。
そうであるならば結婚式も婚姻ももう少し先延ばしにしても……とは思ったのだが、彼と父それからなぜか王太子殿下のご意向で、結婚式だけはどうにか、捻じ込んだという状況なのだ。

その裏にはおそらくグランドリーの動向も関わっているのかもしれないけれど、彼から暴力を受けた私にはその辺りの事は徹底的に触れないようにされているらしい。

新婚旅行も仕事が落ち着いた時期で考えているらしい事は、聞いている。

「あら、でもその前に懐妊……という事もあるのではなくて? あまり先延ばしにせず、なるべく早めになさってくださいませね!」とその話を聞いた時に一緒にいた母が彼に釘を刺して慌てた記憶はまだ新しい。


その時は、そんな頃までなら大丈夫だろうと何も考えずに思っていたのだが、いざこういう状況になってみると、その可能性だって否定できない。

そうか……跡取りだって産まないと……

ここへきて、ようやく落ち着いて思考が回って来た。

跡取り……という言葉がなんだか突然私の頭を冷やした。


彼が侯爵位を継いで2年が経つ。そろそろ落ち着いてきた頃で、そこに結婚が重なった。そうなれば早めに後継を持つ事はロブダート家の将来にも大切なことではあるのだ。


もしかしたら……だから、彼はこんなにも精力的なのだろうか?

ちくりと、胸の奥に何かが刺さった気がして、私はきゅうっとシーツを握る手に力を入れる。

義務なのはわかっているでしょう。そのための契約結婚なのだから。なぜ、今になってそんながっかりするの?


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