ダンジョンを探索すると、色々な事が分かるかも

一 止(イチ トマル)

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第5話  ダンジョンの誕生はとつぜんに!!

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 雫斗達は探索者協会の建物を出ると、帰りをどうしようかと話し合う。来る時は初めてという事もあり案内アプリを使って、電車とバスを乗り継いできたが、スマホの地図によると目の前に広がって居るのは、かつては大きな運動公園だったであろう、鬱蒼とした雑木林を突っ切ると駅へとたどり着けそうなのだ。

 「どうする?この道を行くと駅に着きそうだけど」弥生が地図アプリを表示させたスマートフォンの末端と、横断歩道の向こうにある雑木林へと消えて行く歩道を見比べている。

 すぐそこには''探索者協会前''と書かれたバス停があるが、いつ来るかわからないバスを待つより、歩いた方が駅まで早く着きそうだった。

 「そうだね 歩いて行く?時間もあるし」と雫斗が言うと、「そうだね、行こうか」と全員が歩き出す。

 かつては公園内を巡る遊歩道が見る影もない、流石に歩道の周辺は伐採されて開けているが、それ以外は伸びたい放題に伸びきった木々や枝が絡まって足の踏み場もない。
 村の林道を歩き慣れている雫斗達には違和感はないが、都会の街並みにはそぐわない様な気がする。

 「何か村の山道を歩いているみたいね~、・・・でも何か嫌な雰囲気があるわね。オーガでも出てきそう」百花のいきなりの発言に、雫斗たちはお互いに顔を見合わせ百花を凝視する。

 「何よ! ちょっとした冗談よ」いきなり注目されて百花は慌てているが、彼女はフラグを立てやすい。

 良い悪いは別にしてこのご時世だ夢やお告げ、予知などと言ったものを馬鹿にしてはいけない、当然無視してよいはずがない。この5年間で雫斗たちは色々学んできた、特に百花に関しては、無視すると酷い目に遭うという事を。

 何も言わずに道端の大きめの小石を拾う雫斗。太めの木の枝を見つけ軽く振り回す恭平。ポシェットの中の医薬品やポーションを確かめる弥生。それを見た百花は道端にあった木の枝を拾って軽く素振りをして気合を入れる。

 皆の準備が整うのを確認して、雫斗達はダンジョンカードを出してパーティを組む。この四人でパーティを組む時には、なぜか雫斗がリーダーになる。
 百花は猪突猛進気味で、チームメンバーのすべての状態を見るのを嫌がるので、必然的に雫斗が全体の指揮を執る事になる。

 先頭は百花と雫斗が務める。真ん中に弥生を置いて最後尾は恭平と隊列を組み、周りを警戒しながら歩き始める。

 「百花が言ったからじゃ無いけど、こうして見ると嫌な感じね」と弥生が言う、確かに気を付けて周りを見ると生き物の気配がない、鳥のさえずりはおろか飛び回っているはずの虫の動きさえない。

 「これは当たりかもね、生き物が身を潜めている虫の鳴き声も聞こえない」雫斗がそう言うと。

 「私のせいじゃないわよ」と百花が愚痴る。

 「分かっているよ、誰も百花のせいだって言っていないって」と雫斗。口喧嘩を始める二人を無視して恭平が「やっぱりダンジョン?」と確信をついてくる。

 ダンジョンは生成されるとき魔物が多数湧き出てくることで知られている、浅いダンジョンなら湧き出る魔物も弱いので問題無いが、深いダンジョンになると湧き出てくる魔物も強くなる。
 過去にオーガやオークが10数匹湧き出て周りに壊滅的な被害を出したことがある。その時のニュースを覚えていて''オーガ''というワードを百花は出してきたのだろう。
 だからといってオーガはないと雫斗は思う、ダンジョンが出来始めて5年、オーガがダンジョンの外で確認されたのは、ダンジョンが崩壊して、魔物がわんさか出てきた時くらいなものだ。

 「その可能性が高そうだねどっちにしろそのまま進んで何も無ければ、''気のせいでしたー''ですむしね」雫斗の意見に「そうね気のせいが一番無難ね」と弥生が同意する。

 周りを警戒しながら進む雫斗達は当然歩みが遅くなる、そうすると後ろから来る人達に追いつかれるわけで「おめーたち何をしているんだ?」と声をかけてくる。
 百花がちらっと振り向いて”ちっ”と舌打ちする、リーゼントの強面君一行だ。自然と最後尾の恭平が説明する。

 すると”ギヤハハハハハ”と笑い出す強面君「おまえら探索者カードをもらってすぐに探索者ごっこか、厨二病が入っているんじゃねぇーかァ~?」とのたまう。後ろの何名かもにやにやしている。

 確かに雫斗達は中二だが自分の空想に酔うほど現実を否定していない。恭平は立ち止まり強面君を見下ろす。

 迫力のある恭平に見下ろされて「なんだよ!!」とたじろぎながら強面君が言う。

 「ふむ、いやなんでもない」と歩き出す恭平。無視することに決めたようだ。こういう手合いは無視するに限る。百花と弥生も同じく無視している。
 しかし強面君一行は後ろから付いて来て”ギャースカギャースカ”五月蠅く付きまとう。とうとう百花が切れた。

 「五月蠅いわねハエみたいに集ってきて、金魚の糞みたいに付いて来ないでさっさと行きなさいよ」

 「へっ、最強パーティー様のやり方を勉強させてもらっているのさ、せいぜい楽しませてくれよな」と強面君が釣れたとばかりに囃し立てる。

 「おあいにく様、あなた達とはレベルが違い過ぎて勉強にもならないわよ、ほらササっと行きなさい!!」百花が”シッシッ”とハエを払うしぐさをする。

 どうやら強面君一行を斥候代わりに使うつもりの様だ、百花は頭に来ているように見えて結構冷静だなと雫斗が考えていると、緩やかに曲がっている遊歩道の先から悲鳴が聞こえる。

 遊歩道の先から聞こえてきた悲鳴に、雫斗と百花の目が一瞬かち合うと素早く走り出す。

 恭平と弥生も後に続く、訳が分からずポカンと立ち尽くす強面君たち、気持ちの面で覚悟の出来ている者とできていない者の違いがここで出る。

 緩い曲道の先に何かを庇ってうずくまる人影と、剣の様な物を振り上げ今にも打ち下ろそうとする小人の様な人影が一つ、その後ろにもう一つの同じ様な人の影が見える。

 ”ゴブリンか?”今日何度も映像で見せられたダンジョンの5層以降で出現する魔物の代表格だ、緑色の肌色に小さな体、尖った鼻と尖った耳、ほとんど裸で腰に布の様なものを巻いている、間違いなさそうだ。

 「百花!!」射線上にいる百花に雫斗が大声で叫ぶ、と同時に剣を振り上げているゴブリンに向かってこぶし大の石を投げつける、声に驚いたゴブリンが振り向くと同時に、横にずれた百花の後ろから石の礫が飛んでくる。

 雫斗にしてみると大声と石の礫で気をそらせればいいくらいのつもりだったのだが、見事に顔面に命中する。
 しかしかなりの威力で投げつけ、もろに顔面に当たった事で仕留めたつもりの雫斗はよろけただけのゴブリンを見て「百花!、強い!!」と注意を促す。

 百花は雫斗の声に反応して脇腹へのとどめの一撃をやめて、武器の排除に切り替える。

 踏み込んだ前足はそのままに低い姿勢から木の棒を片手を伸ばして下から上に振り上げる、片手の為力は出ないが距離が稼げる、狙いは武器の持ち手「がっああ!」ゴブリンの拳を砕いて武器の排除に成功する。

 しかしゴブリンの目は死んでいない、百花をにらみつけて距離を取ろうとする。

 逃がすまいと百花が前足をさらに前に踏み込んで、大上段に振り上げた木の棒を片手から両手に持ち替えて”とどめ”とばかりに振り下ろす。

 頭へと打ち下ろされる木の棒を首を傾けて何とか躱したゴブリンだったが、首筋を打ち据えられてたたらを踏む。

 そこへ雫斗が飛び込んでくる、ゴブリンの首を脇で抱え込んでそのまま滑り倒すと同時に首をへし折る。

 ここまでやってまだ生きていると雫斗達にはお手上げだが、引きずり倒したゴブリンはピクリとも動かない。どうやら死んだようだ、魔物を死んだと表現していいかは分からないが、とにかくこいつはもう動かない。

 もう一匹はと見ると、恭平の棒の横薙ぎに頭をおかしな方向に曲げて吹き飛んでいくところだ、2・3回バウンドして止まった後ピクピク痙攣している、追い打ちとばかりに恭平が木の棒を振りかぶる姿・・・”南無”あれは終わったな。

 雫斗が立ち上がると百花が倒したゴブリンを棒の先でツンツンつついながら「これほんとにゴブリン?、結構しぶとかったんだけど」と首を傾げながら聞いてくる、確かに今日の講習で見た討伐映像のゴブリンはまるで素人の様にあっけなく倒されていたが、こいつは戦い慣れていた。

 「ゴブリンの上位種ハイゴブリンかもしれないね」雫斗は”まさかね~”と思いながらそう話す。確かハイゴブリンや特殊なゴブリン、ゴブリンアーチャーやゴブリンファイターは10層以上でしか確認されていない。ゴブリンキングに至っては15層のボスじゃなかったか?

 雫斗が考え込んでいるうちに倒したゴブリンが光に還元されていく、それを見ながら雫斗は”きれいだなー”と思う。戦いに勝利した人を祝福する様に、いろいろな色彩にキラキラと煌めいて空へと昇っていく。

 後に残ったのは紫がかった親指大の丸い球、魔晶石だ。これで魔物の種類が分かる、ダンジョン協会で売却する時に鑑定する機械があるらしい。

 雫斗が魔晶石を拾うと「ねえねえ、見てみて」と百花がさっきのゴブリンが持っていた剣を振り回している、よく見ると綺麗な両刃の刃がついた、短剣というより少し長めの剣だ、普通のゴブリンだとせいぜい錆びたボロボロの短剣がドロップすると聞いたのだが。

 「ドロップしたのか?これはハイゴブリンかゴブリンファイターで決まりかな~」とため息を吐きながら雫斗が言う。

 10層辺りの魔物を探索者になりたての雫斗達が倒せたのは奇跡に近い、今更ながら恐怖に雫斗がプルプル震えていると、「コッチはこれだけだ」と恭平が魔晶石を投げて寄越す。

 慌てて受け取った雫斗は二つの魔晶石を比べて見ると違いがよく分かる。大きさは変わらないが色がかなり薄い、どうやら恭平が倒したのは普通のゴブリンだったようだ。貴重な証拠品なので慎重にリュックサックの前ポケットにしまう。

 雫斗達がこのように連携して動けるのも、カードでパーティーを組んでいる事と、日ごろから村のくそ爺…違った。
 師匠相手に手ほどきを受けているからにほかならない。このご時世だ、護身術ぐらいは身に付けておかなければ命を落としかねない。

  襲われていた人はと見ると、子供を庇って肩を切り裂かれたらしい。弥生が傷口に布を押し当ててポーションをかけている。低級と言われるポーションでも止血ぐらいにはなる。

 魔物に襲われたショックで固まっていた2歳くらいの女の子が母親の怪我を見てギャン泣きしだした。慌てて百花があやし始める。

 治療のためとはいえ服をはだけている人を見るのは躊躇われるので、なるべく見ないように周りの警戒をする雫斗。

 恭平がスマートフォンで救急車の要請をしている。ダンジョンが出来始めてから設置された異世界害獣対策課、通称(魔物111番)”何をおいても異世界害獣が出たら111番”の宣伝文句通りに、今までの経緯と救援の要請とけが人がいる事、それと今から探索者協会へ戻ることを伝えている。

 流石に政府もおとぎ話の様に魔物と称するのが憚られたのか、ダンジョンが出来た当初その空間を異なる世界と言う事で異世界と称し、ダンジョンの中やダンジョンから湧き出してくる生物を異世界害獣と呼称していたのだが。

 しかし5年も経った現在では一般的にその空間をダンジョン、湧き出してくる生物を魔物と呼ぶことが定着している。

 「おいおい一体全体何があったんだ」今頃追いついた強面君一行が何事かと聞いてくる。恭平が電話している内容からダンジョンが生成されていることを知ると「おおすげぇー…俺たちでダンジョンを探そうぜ」と訳の分からない事を言い出した。

 「おい!、聞いていなかったのか?オーガが出るかもしれないんだぞ」とたまらず雫斗が言う

 「うるせえー!お前たちの指図はうけねえ!!」と一喝する強面君。

 雫斗達はいちいち相手をしても居られないので、無視して撤収の準備をする「お母さんは恭平にお願いしていいかい?」と雫斗。

 「わかっている」と恭平が上掛けをお母さんにかけながら背負う。「女の子は・・・」と言いながら雫斗は言葉に詰まる、弥生にしがみついて梃でも動きそうにない。

 「弥生にお願いするとして、最後尾は僕しかいないか?先行百花だけで大丈夫かい?」と雫斗が最後尾を務めることを知らせる「任せておいて」と百花が”サムズアップ”で答える。

 すると「しんがりは俺がやろう」と強面君一行から声が上がる「おい! 山田!!」と強面君が咎める。

 「けが人が優先だ」と切って捨てる、男前である。そういえば百花と強面君がいがみ合っている時仲裁(首根っこを摑まえて引き離す)をしていた人だ。

 「頼めるかい」と言う雫斗に「ああ大丈夫だ」と答えるのを確認して、百花と雫斗は先行して走り始める、魔物が確認された以上長居は禁物だ。

 走り出した雫斗達の後ろを、強面くん一行がドタドタとついて来る、どうやら''山田君''が強面くん達の最強戦力だったのか、山田君の離脱宣言にダンジョン探索を諦めた様だ。

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