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プロローグ
愛情
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――時刻は0時を過ぎる頃。
『Dreamhomemansion』と掲げられた看板。その3階に桃也は住んでいる。
「ただいま――って起きてたのか美結」
「どうせ酔っ払いに起こされるしね」
「人をダメ人間みたいに言うなよ」
「はいはい。なんか食べる?」
「いらない」
ソファに座っている美結にお土産のよっちゃんイカを投げ渡す。
「凛は?」
「寝てる。今日も元気だったよ」
「なら良かった」
「ほんと、桃也に似てる」
「あの子はお前似だろ。俺はもっとお淑やかだった」
「よく言うよ」
額には汗が滲んでいる。もう夏。夜でもジリジリとした暑さだ。風呂に入らないとやっていけない。ネクタイを緩めながら桃也は風呂場へと向かった。
風呂を出てもまだ美結は起きていた。パックをつけながらお土産のよっちゃんイカを食べている。
「おぉ舞子さんかな?」
「美人ってこと?」
「そうかもね」
キッチンでコップに水を入れて口に流し込む。酒で気持ち悪くなった内蔵が水道水で洗い流されていく。
肩を伸ばしながら美結の横へと座る。特に美結は反応しない。いつもの光景。故に桃也も息を吐いてリラックスしていた。
「――なぁ、話があるんだが」
真面目な顔。真面目な雰囲気。美結も耳を傾ける。
「どうしたの?」
「……引っ越ししないか?」
突然の提案。目を丸くする。
「引っ越しって……急だね」
「夢だったんだよ。田舎で静かに暮らしたいなー、なんて」
「私は別にいいけどさ……桃也は会社どうするの?凛も幼稚園があるし……」
イラストレーターの美結は突然の引っ越しに問題は無い。どこでもイラストは書くことができる。
だが桃也は会社員だ。凛だって楽しそうに幼稚園へと通っている。自分たちの勝手で連れてってもいいものか。
「課長にいびられるのも疲れたしな。ちょうど辞め時だよ」
「でも……」
「凛だって、田舎の新鮮な空気で育った方が元気になると思う。今よりも元気になってもらうと困るけどな」
「うーん……」
「あっちにも小中一貫の学校がある。新しい友達だってできるよ」
「……まぁいいかもね。田舎ののどかな風景を見ながら絵を描く……ロマンチック」
「――だろ?」
寝室――ではない。ほとんど物置になっているような部屋だ。真っ暗。部屋に明かりはついていない。
桃也はクローゼットから木箱を取り出した。重量はそこそこ。茶色で木材の独特な匂いがする。中では何かが擦れるような音がしていた。
箱には錠前。鍵がないと開けることはできない。普通じゃ開けられない――が、桃也は鍵を持っていた。
つまり開けられる。小さな錠前をゆっくりと外す。
中に入っていたのは――包丁。仮面。フード付きのロングコート。そして覆面が丁寧に敷かれていた。
「……」
手に取ったのは覆面。ツギハギの顔みたいな模様だ。しなやかな肌触り。まるで人の肌のようだ。
なぜこんなものがあるのか。なぜこんなに大事に持っているのか。
そんな疑問は無視するように桃也は覆面を持ち上げた。赤子の肌に触れるかのごとく優しく覆面に触れる。
――桃也は覆面に頬擦りをした。マラソンの後のように息を切らせて。性的な興奮を隠すこともなく。
舐める。唇の部分。頬の部分。額の部分。鼻の部分。唾液で覆面が濡れていく。徐々にしっとりとしてきた。
「あぁ……乙音。美味しいよ乙音。君を感じるよ……」
誰が見ても引くような姿。だが桃也からすれば冷たい空気とは真逆だ。
心と股間が熱を帯び始める。下が乙音の成分でいっぱいになる。それが桃也にとって幸せで堪らない。
「君は美しい……けど――」
「――贋作だ」
包丁で覆面を切り裂く。引きちぎる。叩きつける。踏みつける。
怒りだろうか。さっきまでの感情が反転したかのように荒ぶっている。
バラバラになった覆面をゴミ箱に投げ捨てる。激しく動いて疲れたのか、かなり息が切れている。
「……あんな偽物はもう要らないな。もうすぐで本物の乙音に会えるかも」
酒は切れている。息も元に戻った。なのに桃也は真っ赤な顔をしていた。
『Dreamhomemansion』と掲げられた看板。その3階に桃也は住んでいる。
「ただいま――って起きてたのか美結」
「どうせ酔っ払いに起こされるしね」
「人をダメ人間みたいに言うなよ」
「はいはい。なんか食べる?」
「いらない」
ソファに座っている美結にお土産のよっちゃんイカを投げ渡す。
「凛は?」
「寝てる。今日も元気だったよ」
「なら良かった」
「ほんと、桃也に似てる」
「あの子はお前似だろ。俺はもっとお淑やかだった」
「よく言うよ」
額には汗が滲んでいる。もう夏。夜でもジリジリとした暑さだ。風呂に入らないとやっていけない。ネクタイを緩めながら桃也は風呂場へと向かった。
風呂を出てもまだ美結は起きていた。パックをつけながらお土産のよっちゃんイカを食べている。
「おぉ舞子さんかな?」
「美人ってこと?」
「そうかもね」
キッチンでコップに水を入れて口に流し込む。酒で気持ち悪くなった内蔵が水道水で洗い流されていく。
肩を伸ばしながら美結の横へと座る。特に美結は反応しない。いつもの光景。故に桃也も息を吐いてリラックスしていた。
「――なぁ、話があるんだが」
真面目な顔。真面目な雰囲気。美結も耳を傾ける。
「どうしたの?」
「……引っ越ししないか?」
突然の提案。目を丸くする。
「引っ越しって……急だね」
「夢だったんだよ。田舎で静かに暮らしたいなー、なんて」
「私は別にいいけどさ……桃也は会社どうするの?凛も幼稚園があるし……」
イラストレーターの美結は突然の引っ越しに問題は無い。どこでもイラストは書くことができる。
だが桃也は会社員だ。凛だって楽しそうに幼稚園へと通っている。自分たちの勝手で連れてってもいいものか。
「課長にいびられるのも疲れたしな。ちょうど辞め時だよ」
「でも……」
「凛だって、田舎の新鮮な空気で育った方が元気になると思う。今よりも元気になってもらうと困るけどな」
「うーん……」
「あっちにも小中一貫の学校がある。新しい友達だってできるよ」
「……まぁいいかもね。田舎ののどかな風景を見ながら絵を描く……ロマンチック」
「――だろ?」
寝室――ではない。ほとんど物置になっているような部屋だ。真っ暗。部屋に明かりはついていない。
桃也はクローゼットから木箱を取り出した。重量はそこそこ。茶色で木材の独特な匂いがする。中では何かが擦れるような音がしていた。
箱には錠前。鍵がないと開けることはできない。普通じゃ開けられない――が、桃也は鍵を持っていた。
つまり開けられる。小さな錠前をゆっくりと外す。
中に入っていたのは――包丁。仮面。フード付きのロングコート。そして覆面が丁寧に敷かれていた。
「……」
手に取ったのは覆面。ツギハギの顔みたいな模様だ。しなやかな肌触り。まるで人の肌のようだ。
なぜこんなものがあるのか。なぜこんなに大事に持っているのか。
そんな疑問は無視するように桃也は覆面を持ち上げた。赤子の肌に触れるかのごとく優しく覆面に触れる。
――桃也は覆面に頬擦りをした。マラソンの後のように息を切らせて。性的な興奮を隠すこともなく。
舐める。唇の部分。頬の部分。額の部分。鼻の部分。唾液で覆面が濡れていく。徐々にしっとりとしてきた。
「あぁ……乙音。美味しいよ乙音。君を感じるよ……」
誰が見ても引くような姿。だが桃也からすれば冷たい空気とは真逆だ。
心と股間が熱を帯び始める。下が乙音の成分でいっぱいになる。それが桃也にとって幸せで堪らない。
「君は美しい……けど――」
「――贋作だ」
包丁で覆面を切り裂く。引きちぎる。叩きつける。踏みつける。
怒りだろうか。さっきまでの感情が反転したかのように荒ぶっている。
バラバラになった覆面をゴミ箱に投げ捨てる。激しく動いて疲れたのか、かなり息が切れている。
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酒は切れている。息も元に戻った。なのに桃也は真っ赤な顔をしていた。
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