レッドリアリティ

アタラクシア

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2日目

接近

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「それじゃあまたお昼に」
「うん。じゃあ後で」

長いようで短かった氷華との山登りも終了。自分の家へと歩いていく氷華を見ながら、桃也は自分の家へと――。


――帰らない。桃也にはひとつ気になる場所があった。久しぶりの単独行動。確認するなら今しかない。

来た道をまた逆戻りする。場所は覚えていた。しかし遭難が怖い。なので桃也は森の木に目印をつけていた。

常に氷華は桃也の数メートル前を歩いていた。気が付かれないように目印を付けるのは簡単。辿れば万が一遭難することも、場所を間違えることもない。

あんまり時間がかかりすぎると美結に心配をかけてしまう。時間はあまりかけられない。心なしか桃也の歩くスピードは速くなっていた。



「――ここだ」

遭難はしなかった。目印も消えてはいない。これなら帰る時も問題なく帰れるだろう。


桃也が気になっていた場所。それは喰走りの巣であった。

話を聞いた時から桃也は疑問を持っていた。あれだけの迫力を持つ八月村の猟師が、なぜ熊一匹を見逃したままでいるのか。

蓮見は言っていた。「この村に仇をなすのならば、猿といえども許さない」と。なら人を喰っている熊など殺すのは当然の思考のはず。

何人か犠牲になるくらいならそのまま放っておく、というのは分からなくもない。

――だが心が理解を拒んだ。昨日の衝撃はそれほどまでに凄かった。本当に悪魔でも殺せるような説得力を感じた。

そんなヤツらが熊を放っておくわけが無い。だから桃也は気になっていた。


朝日は空へと出ている。早朝よりも山は明るくなっていた。暗い洞窟も少しずつ見えてきている。

――洞窟に足を踏み入れた。土の地面から、石の多い地面へ。感覚が変わったことで背筋がゾワッと騒ぎ立てた。

光が出てきたとはいえ、まだ洞窟の中は暗い。そして生き物の気配はしなかった。

だが別に桃也は野生動物でもない。ただ気配がしないだけ。普通に居るという可能性がある。

そもそも氷華の発言が嘘、と確定したわけではない。言ったことが本当だった場合、桃也は凄まじく危険な状況にいる。

「――ふぅ」

しかし桃也は確信していた。ここにはなにか秘密が隠れている、と。



じっくり。ゆっくり。瞳孔が猫のように開いていく。徐々に暗闇に目が慣れてきた。

嫌な汗が背中に流れる。花粉が器官にでも入ったかのようだ。じんわりと暖かいものが胸から体全体にかけて広がってくる。

呼吸は浅く多く。深呼吸をしたくても、緊張がそれを許してくれなかった。


「――?」

何かが靴に当たった。石ならなんとなく分かる。足の感覚はそれが石ではないと伝えていた。

じゃあなんだと言うのか。熊が集めた木の実とかだろうか。それにしては重い感じがする。もっとなんだろうか。なにかののような――。


ゆっくりと当たった物を手に取る。固くない。だからといって柔らかくもない。そして細長い。太さは魚肉ソーセージよりちょっと大きいくらいだ。

持ち上げてみる。軽い。手のひらサイズに収まる。底の部分は冷たい。液体が着いているのか。真ん中には芯のような物を感じる。

「……おい。おいおい」

――もう察することは簡単だ。そして桃也の考えは当たっていた。





暗闇に慣れた目が映したのは――であった。

人差し指。爪も感じる。血の気が引いて青くなっている指だ。桃也の指よりも細い。女性の指だろうか。

鼻に近づければ血の匂いを感じ取ることもできる。親指の腹で撫でれば、関節のコリコリした部分を確認できる。

1つ気になるのは、爪の部分だ。ちょうど真ん中辺りに穴がある。針……それかネジ。太いもので貫通させられていた。


桃也は思考を巡らせていた。今持っているのがただの指ならば、氷華の言っていた通り、熊の食べこぼしと思うことができる。

だが桃也は自分の視覚や嗅覚、指の感覚と過去の記憶から異常な点を発見していた。

――それは指の断面である。斬ったのなら断面が綺麗なはずだ。しかし断面はグチャグチャである。噛みちぎったわけでもなさそうだ。

捻れている。信じ難いことだが、この指はのだ。人間の指を、である。

異常。異常も異常。何人も拷問してきた桃也ですら絶句していた。指を捻じ切るなど考えもしなかった。

「なんでこんなもんがあるんだよ……」

まだ断定はできない。でもこれで確信に変わった。

「この村は異常だ。そして人が殺されてる」










「――何をしてるの?」

後ろから声。止まる心臓。条件反射で振り向いた先には氷華が立っていた。
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