レッドリアリティ

アタラクシア

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2日目

拷問

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その後も儀式は続いた。同じ手順で女性の指を1本ずつ丁寧にねじ切っていく。女性の痛みに悶える声も行動も、どんどんと小さくなっていった。

誰も目を背けない。誰もが凝視している。慣れているのだ。このような状態が見慣れているのだ。


全ての指がネジ切られる。もう終わり――では無い。

「――亜依あい
「あいあいさー」

語尾に音符がつくような、このどす黒い雰囲気に合わない声で蓮見の横まで移動する。

台の下から取り出したのは――ノコギリだ。刃の部分は錆びている。どう使うのかは予想するまでもなかった。


刃を女の手首に当てる。躊躇することなく。一切の戸惑いも見せず。――ノコギリを引いた。

生々しい肉を切り裂く音。ボチャボチャとグチャグチャと血が吹き出る。血管が詰まっている場所だ。こうなるのは当然である。

突き進んでいけば骨にたどり着く。関節なのでそこまで抵抗もない。さらにさらに刃を押し引きする。

押して引いて。押して引いて。押して引いて。そして刃は手首を切り落とした。



これで終わり――でもない。他の四肢は根元から切り落とされている。なら左手だけ手首で終わり、なんてことは無い。

今度は肘。肘の内側に刃が当てられる。この場にいる誰も良心はない。1


――引く。また刃は肉を切り裂く。細かい血飛沫が女性の前腕に飛び散った。

噛み締める歯もない。耐えたくても耐えれない。でも耐えないといけない。この矛盾が脳を狂わせていく。

刃は肉を突き進み、血管を突き進み、骨を突き進む。手首よりも太い。そして骨も硬い。さっきよりも苦戦している。

亜依が悪戦苦闘している様子を村人は黙ったまま見ていた。念仏のような言葉は聞こえなくなっていた。

今は肉を切り裂く音――それと、桃也の死角で嘔吐しそうになっている音が聞こえた。


ついに前腕も切り落ちた。手首から先がない前腕は食材としても売り出せそうなほど綺麗だった。

重労働のはずだ。だが切り口はかなり綺麗だ。手馴れている。亜依の年齢は小さく見えた。それこそ氷華よりも小さいくらい。

なのに手馴れている。こんなことを何回もしている。


「狂ってる……」

思わず声が出てしまった。目の前の惨劇。目の前の狂劇。

次は刃を肩にかけていた。どうなるかなど想像に難くない。これ以上は見る必要も無い、桃也はそう判断した。





扉を閉める。バレてはいないはずだ。そう思うことにしておく。

「えっと……」

スマホの動画を見直した。当たり前だが、ちゃんと動画を撮っている。決定的な証拠だ。決定的な事実を映した。

法律のことは分からない。だが警察がこれを見て動かないなんてことはないはずだ。村人も捕まるだろう。

まさか殺人鬼である自分が警察を頼ることになるなど思いもしなかった。しかし躊躇ってる場合ではない。

このままなら自分と家族にも――。美結があんな目に会うことなど、考えたくもない。そんなことさせない。



階段を登って扉を開ける。外はまだ暗い。永遠にも思えた時間だった。外は明るくなってる頃かもと思っていたが、時間はそんなに経っていない。

一応外に捨てていた死体を確認する。執行教徒の死体は茂みに隠していた。――死体は触られてすらない。

つまり誰にも見られてないし触られてもない。ということはバレてなかった。ひとまずは安心だ。


できればスマホのライトを付けたかったが、バレるのは避けたい。暗闇のまま頭にインプットした地図を思い浮かべながら、来た道を歩いて帰る。

違和感はなかった。誰かにつけられている気配もない。自分が見ていた事実は誰にも知られていないはず。

けどやはり怖いものは怖い。緊張と似た恐怖だ。カエルのコーラス。セミの鳴き声。草木の揺れる音。

どれも不思議なことは無かった。どこにも人の足音は聞こえてこなかった。神経が研ぎ澄まされていたのだから、聞き逃すわけが無い。


門から外へ出る。道路には人っ子一人いない。コートにバッタが当たって、小石が当たった時のような音がした。意外と質量がある。

コバエがブンブンと飛び回って顔面から衝突した。仮面をしていなかったら気持ち悪さに悶えていただろう。

「あー気持ちわる……」

おそらくコバエが仮面に付いたと考えた桃也が仮面を払う。手袋をしているので、付いているのかは手の感覚だけは分からなかった。


――カチャ。

自身の懐にしまっていた包丁が鳴ったようだ。今はバレたくない。なので包丁を鞘に入れ直そうと手を突っ込んだ。





「――あれ」

ここで1つ。桃也の中で疑問が出てきた。よく考えてみれば鞘なんて持ってきてない。というか包丁を鞘にしまうとか聞いたことがない。

そして包丁以外の金属は持っていなかった。だからさっきの音が鳴る理由なんてない。……じゃあなんで鳴ったんだ?

そういえば音は違う場所から鳴った気がする。どこか?と聞かれれば分からないが。

そうして桃也はなんとなく。何気なく。ゆっくりと後ろを振り向いた。
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