レッドリアリティ

アタラクシア

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3日目

邪巣

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義明だ。遠藤義明だ。小次郎はもちろん見たことがない。義明とは離れているはずなのに、その異様な威圧感に気圧されていた。

肺が痛い。呼吸が止まる。誰かに肺を握られているかのようだ。目の血管が限界まで引き伸ばされているかのように痛い。

3人の会話に耳を傾けようとするが、心臓の音が邪魔をしてくる。それでもなんとか聞くことができた。



「言いたいことはあるが、今は目の前のことに集中しろ」
「分かったよ……んで?アイツの居場所はわかったのか?」
「まだだ。手がかりすら見つからん」

舌打ち。ため息が小次郎の場所まで聞こえてくる。

あの男……話の流れからして桃也だ。生きている。それだけで黒いモヤが晴れた。嫌な予感をしなくても済んだ。

正直これだけでも情報としては十分だ。しかし怪しい言葉がいくつも出てきている。このまま聞かないなんて選択肢は選べない。


3人は廊下を歩きながら話していた。このまま離れられれば話が聞こえなくなる。ついて行かないと。

小次郎はネズミのようにそそくさと移動した。床下に潜り込む。わざわざ床下を覗き込む人もいないだろう、との考えだ。

「パパはそのまま儀式の準備をしてるけど、どうするの?」
「狩人も執行教徒も総出で探させてる。見つかるのは時間の問題だ」
「――そうやって油断したから殺されたんだぞ」

猟虎が怒りを込めた言葉を放つ。

「……すまない。油断はしない。あの男は必ず殺す。そして炎疼登竜舞は必ず成功させる」
「当たり前だ」


気になる情報だらけだ。儀式やら狩人やら執行教徒やら炎疼登竜舞やら。全く知らない外国語を見ているかのようだ。

確かに桃也は生きている。でもヤバい状況なのは間違いない。

「……そういえば。さっき『桃也の友人』とか言ってる人が来たよ。刑事だった」
「なっ――ついに本格的な捜査を始めたか」
「多分違うよ。あくまでも羽衣桃也を探しているだけみたい。まぁすでに怪しまれてるらしいけど」
「厄介だな……羽衣桃也だけでも手一杯だというのに」

――自分のことだ。怪しんでいることもバレている。

「殺しとくか?刑事の車はパンクさせてるし」
「――阿呆が」

静かに、とても低い声だ。床下が揺れるような錯覚が見えた。

「そんなことをしたら怪しまれるのは当然だ。亜依、今すぐ電波を切らせてこい」
「わ、分かった」

亜依が走っていく。音がどんどんと離れていった。――今度は自分もヤバい状況になってきた。

助けが呼べないとなると、桃也を探す所の騒ぎじゃない。さっきから殺す殺すと物騒な言葉も出てきている。

もはや黒なことは確定なのだ。見逃すこともできない。せめて電波が切れる前に電話をしないと――。





ピタッ。

足音が止まった。真上に2人がいる。話し声もしない。なぜ。なんで。気が付かれたのか。逃げなくては。

頭の中で『動け』と命令が下される。なのに体が動かない。唾を飲み込む。小次郎はゆっくりと上を向いた――。



突然だ。床を突き抜けて手が飛び出てくる。まるで巨像。子供の頭なら覆い隠せそうなほど大きい手だ。

手は小次郎の首を掴む。畑に植えられた野菜を引っこ抜くように、小次郎はその手によって床下から引き上げられた。

「ぎ――が――!?」

手の主は義明だ。ギリギリと握る力が強くなる。呼吸器が締まっていく。血管が詰まっていく。首がへし折れる――。


かろうじて残っていた意識を使って体を動かした。義明の首に親指を突っ込む。一瞬止まった呼吸。

怯んだ隙に義明に蹴りを入れ、手から脱出した。そのまま2人から距離をとる。場所は和室。家の中へと追い詰められた。

「ぐふっ……っちぁ――」
「なんだお前……!?」

壊れかかった喉をさする。折れてもないし潰れてもない。安心で息を吐いた。


すぐに正常な思考へ。腰から取り出した拳銃を2人へ向けた。

「――動くな!!お前らを逮捕する!!」

逮捕状なんてない。現行犯でなにかをしていたわけでもない。反射的にその言葉を放ったのだ。

「亜依の言っていた刑事か。1人でノコノコと……」
「全部聞かれてたみたいだな」

焦っている小次郎。背筋を走る冷や汗。重力が逆になったように、汗が坂上がってくるイメージが頭に刷り込まれる。

反対に2人は驚くほど冷静だった。まるでずっと聞かれているのに気がついていたかのように。その反応も焦る原因となった。

「逮捕する必要は無いぞ刑事。――捕まるのは逆にお前だ」
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