47 / 119
3日目
再会
しおりを挟む
上から降ってくる葉。突き刺さるような日差しが皮膚に張りついてくる。熱が体の中から発生していた。まるで内蔵に太陽があるみたいだ。
踏み込む脚が筋肉を振り上げる。歯を食いしばってそれでも登る。ブツブツの木目が自分を見ているようで気分が悪くなってきた。
遠藤家から逃げて1時間が経過。極度の緊張とストレスから解放され、もう小次郎の体力は無くなっていた。
「ハァハァ……」
しぼみ続ける肺を無理やり広げて呼吸をする。喉が渇いたが、水は無い。液体がない。喉を潤したい。
「……どうするっかな」
道はあまり覚えていない。逃げるためにひたすら走ったからだ。ここがどこなのかも小次郎には分からない。
かといって村には戻れられない。秘密を知った以上、八月村の住人たちは小次郎を口止めしに来る。絶対にだ。
「携帯は――」
――圏外。電波を切られたのか。それともこの場所に電波は届かないのか。もう分からない。これからどうすればいいのかも。
その時――近くで音がした。距離にして3m。後ろを振り向くと、男が立っている。
黒衣。身長は180近く。血管の浮かんだ手の甲。右手には刀が握られている。明らかな銃刀法違反。
それが誰か。分かりはしないが、八月村の者だということだけは分かった。死体の服装と一致しているからだ。
「――お前っ」
拳銃を向ける。男とは距離がある。もう戦う準備はできていた。いつでも撃つ準備はできている。
今度は当てる。本気だ。引き金に指を入れた時、男は刀を握りなおした。――躊躇ったら殺される。
勝負は一瞬。撃つのが速いか。それとも斬るのが速いか。本当の殺し合いだ。
危険な目には会ったことがある。さすがに人を殺した経験は無い。問題はそこ。本気で殺すことができるのか。心配だ。
(大丈夫だ。正当防衛……にはならないか。でも死ぬよりはマシだ)
殺意を感じる。自分が震えるのを感じる。飲み込んだ唾が喉を通るのを感じる。それでも目は開けたまま。まばたきはしない。
引き金にはずっと指をかけていた。ちょいと引けば弾が発射される。狙いは頭。それも鼻の位置。当たれば無力化できる、はず。
真っ黒の衣装に見合ったどす黒い殺意。――動く。動く前に殺す。殺さないと。殺さないといけないのに引き金が引けない。引き金が錆びているのかと思うほどに硬い。
光った刃。反射した光が小次郎の視界に入ってくる。峰は小次郎とは逆方向に向く。つまり刃は小次郎の方向へ――。
――真っ黒の獣が男に襲いかかった。
唖然。思わず小次郎は声を上げた。それは実際には獣じゃない。真っ黒な人間であった。
「はぁ――!?」
黒い人間は男の首に何度も刃物を突き刺す。噴水のように吹き出る血が周りの植物を赤く染めていった。
小次郎はただ呆然と見ていた。止めることも逃げることもしない。体が動かなかった。なにもする気が起きなかったのである。
警察としての指名など忘れた。流れる冷や汗に気がつくのが遅れた。拳銃を持っている力は消えていく。
これが夢だと信じたかったのか。舌を軽く噛む。……痛い。痛みを感じる。これが現実だと告げられた。
男は死んだ。黒い人間が立ち上がり、小次郎の場所まで歩いていく。手には紅くなった包丁。血の匂いがする。
ちゃんと質量を持っていた。幽霊や妖怪、ましてや悪魔なんかでもない。完全な人間。自分と同じ人間である。
深く被った黒いフード。膝下にまで伸びるロングコートが歩く度にゆらゆらと揺れる。包丁から滴る血が地面に落ちた。
かろうじて見える口元は不気味だ。顔の変化はない。無感情。人の命を奪っておいて無感情であった。
立ち止まる。動かない。両者ともに動かない。小次郎は見上げたまま。黒い人間は見下ろしたまま。
「お前――」
小次郎が男の正体に気がつくのは、対面してから10秒ほど後であった。
「――桃也」
小次郎が口にした瞬間、フードは後ろに下げられた。――桃也だ。小次郎の言う通りである。この前会った時と変わらない。
「お前……」
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ま、待てよ。普通に話はできないぞ」
「まぁ……そうだよな。とりあえずここで話はしない方がいい。場所を変える」
桃也は手を出した。これを握れば楽に立てる。力の抜けた脚は支えを必要としていた。
だが――小次郎は手を取らない。自力で無理やり立ち上がる。桃也は少し悲しそうな顔をした。
踏み込む脚が筋肉を振り上げる。歯を食いしばってそれでも登る。ブツブツの木目が自分を見ているようで気分が悪くなってきた。
遠藤家から逃げて1時間が経過。極度の緊張とストレスから解放され、もう小次郎の体力は無くなっていた。
「ハァハァ……」
しぼみ続ける肺を無理やり広げて呼吸をする。喉が渇いたが、水は無い。液体がない。喉を潤したい。
「……どうするっかな」
道はあまり覚えていない。逃げるためにひたすら走ったからだ。ここがどこなのかも小次郎には分からない。
かといって村には戻れられない。秘密を知った以上、八月村の住人たちは小次郎を口止めしに来る。絶対にだ。
「携帯は――」
――圏外。電波を切られたのか。それともこの場所に電波は届かないのか。もう分からない。これからどうすればいいのかも。
その時――近くで音がした。距離にして3m。後ろを振り向くと、男が立っている。
黒衣。身長は180近く。血管の浮かんだ手の甲。右手には刀が握られている。明らかな銃刀法違反。
それが誰か。分かりはしないが、八月村の者だということだけは分かった。死体の服装と一致しているからだ。
「――お前っ」
拳銃を向ける。男とは距離がある。もう戦う準備はできていた。いつでも撃つ準備はできている。
今度は当てる。本気だ。引き金に指を入れた時、男は刀を握りなおした。――躊躇ったら殺される。
勝負は一瞬。撃つのが速いか。それとも斬るのが速いか。本当の殺し合いだ。
危険な目には会ったことがある。さすがに人を殺した経験は無い。問題はそこ。本気で殺すことができるのか。心配だ。
(大丈夫だ。正当防衛……にはならないか。でも死ぬよりはマシだ)
殺意を感じる。自分が震えるのを感じる。飲み込んだ唾が喉を通るのを感じる。それでも目は開けたまま。まばたきはしない。
引き金にはずっと指をかけていた。ちょいと引けば弾が発射される。狙いは頭。それも鼻の位置。当たれば無力化できる、はず。
真っ黒の衣装に見合ったどす黒い殺意。――動く。動く前に殺す。殺さないと。殺さないといけないのに引き金が引けない。引き金が錆びているのかと思うほどに硬い。
光った刃。反射した光が小次郎の視界に入ってくる。峰は小次郎とは逆方向に向く。つまり刃は小次郎の方向へ――。
――真っ黒の獣が男に襲いかかった。
唖然。思わず小次郎は声を上げた。それは実際には獣じゃない。真っ黒な人間であった。
「はぁ――!?」
黒い人間は男の首に何度も刃物を突き刺す。噴水のように吹き出る血が周りの植物を赤く染めていった。
小次郎はただ呆然と見ていた。止めることも逃げることもしない。体が動かなかった。なにもする気が起きなかったのである。
警察としての指名など忘れた。流れる冷や汗に気がつくのが遅れた。拳銃を持っている力は消えていく。
これが夢だと信じたかったのか。舌を軽く噛む。……痛い。痛みを感じる。これが現実だと告げられた。
男は死んだ。黒い人間が立ち上がり、小次郎の場所まで歩いていく。手には紅くなった包丁。血の匂いがする。
ちゃんと質量を持っていた。幽霊や妖怪、ましてや悪魔なんかでもない。完全な人間。自分と同じ人間である。
深く被った黒いフード。膝下にまで伸びるロングコートが歩く度にゆらゆらと揺れる。包丁から滴る血が地面に落ちた。
かろうじて見える口元は不気味だ。顔の変化はない。無感情。人の命を奪っておいて無感情であった。
立ち止まる。動かない。両者ともに動かない。小次郎は見上げたまま。黒い人間は見下ろしたまま。
「お前――」
小次郎が男の正体に気がつくのは、対面してから10秒ほど後であった。
「――桃也」
小次郎が口にした瞬間、フードは後ろに下げられた。――桃也だ。小次郎の言う通りである。この前会った時と変わらない。
「お前……」
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ま、待てよ。普通に話はできないぞ」
「まぁ……そうだよな。とりあえずここで話はしない方がいい。場所を変える」
桃也は手を出した。これを握れば楽に立てる。力の抜けた脚は支えを必要としていた。
だが――小次郎は手を取らない。自力で無理やり立ち上がる。桃也は少し悲しそうな顔をした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。
荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる