レッドリアリティ

アタラクシア

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3日目

再会

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上から降ってくる葉。突き刺さるような日差しが皮膚に張りついてくる。熱が体の中から発生していた。まるで内蔵に太陽があるみたいだ。

踏み込む脚が筋肉を振り上げる。歯を食いしばってそれでも登る。ブツブツの木目が自分を見ているようで気分が悪くなってきた。


遠藤家から逃げて1時間が経過。極度の緊張とストレスから解放され、もう小次郎の体力は無くなっていた。

「ハァハァ……」

しぼみ続ける肺を無理やり広げて呼吸をする。喉が渇いたが、水は無い。液体がない。喉を潤したい。

「……どうするっかな」

道はあまり覚えていない。逃げるためにひたすら走ったからだ。ここがどこなのかも小次郎には分からない。

かといって村には戻れられない。秘密を知った以上、八月村の住人たちは小次郎を口止めしに来る。絶対にだ。

「携帯は――」

――圏外。電波を切られたのか。それともこの場所に電波は届かないのか。もう分からない。これからどうすればいいのかも。



その時――近くで音がした。距離にして3m。後ろを振り向くと、男が立っている。

黒衣。身長は180近く。血管の浮かんだ手の甲。右手には刀が握られている。明らかな銃刀法違反。

それが誰か。分かりはしないが、八月村の者だということだけは分かった。死体の服装と一致しているからだ。


「――お前っ」

拳銃を向ける。男とは距離がある。もう戦う準備はできていた。いつでも撃つ準備はできている。

今度は当てる。本気だ。引き金に指を入れた時、男は刀を握りなおした。――躊躇ったら殺される。

勝負は一瞬。撃つのが速いか。それとも斬るのが速いか。本当の殺し合いだ。

危険な目には会ったことがある。さすがに人を殺した経験は無い。問題はそこ。本気で殺すことができるのか。心配だ。

(大丈夫だ。正当防衛……にはならないか。でも死ぬよりはマシだ)

殺意を感じる。自分が震えるのを感じる。飲み込んだ唾が喉を通るのを感じる。それでも目は開けたまま。まばたきはしない。

引き金にはずっと指をかけていた。ちょいと引けば弾が発射される。狙いは頭。それも鼻の位置。当たれば無力化できる、はず。


真っ黒の衣装に見合ったどす黒い殺意。――動く。動く前に殺す。殺さないと。殺さないといけないのに引き金が引けない。引き金が錆びているのかと思うほどに硬い。

光った刃。反射した光が小次郎の視界に入ってくる。峰は小次郎とは逆方向に向く。つまり刃は小次郎の方向へ――。





――真っ黒の獣が男に襲いかかった。

唖然。思わず小次郎は声を上げた。それは実際には獣じゃない。

「はぁ――!?」

黒い人間は男の首に何度も刃物を突き刺す。噴水のように吹き出る血が周りの植物を赤く染めていった。

小次郎はただ呆然と見ていた。止めることも逃げることもしない。体が動かなかった。なにもする気が起きなかったのである。

警察としての指名など忘れた。流れる冷や汗に気がつくのが遅れた。拳銃を持っている力は消えていく。

これが夢だと信じたかったのか。舌を軽く噛む。……痛い。痛みを感じる。これが現実だと告げられた。


男は死んだ。黒い人間が立ち上がり、小次郎の場所まで歩いていく。手には紅くなった包丁。血の匂いがする。

ちゃんと質量を持っていた。幽霊や妖怪、ましてや悪魔なんかでもない。完全な人間。自分と同じ人間である。

深く被った黒いフード。膝下にまで伸びるロングコートが歩く度にゆらゆらと揺れる。包丁から滴る血が地面に落ちた。

かろうじて見える口元は不気味だ。顔の変化はない。無感情。人の命を奪っておいて無感情であった。


立ち止まる。動かない。両者ともに動かない。小次郎は見上げたまま。黒い人間は見下ろしたまま。

「お前――」

小次郎が男の正体に気がつくのは、対面してから10秒ほど後であった。



「――桃也」

小次郎が口にした瞬間、フードは後ろに下げられた。――桃也だ。小次郎の言う通りである。この前会った時と変わらない。

「お前……」
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ま、待てよ。普通に話はできないぞ」
「まぁ……そうだよな。とりあえずここで話はしない方がいい。場所を変える」

桃也は手を出した。これを握れば楽に立てる。力の抜けた脚は支えを必要としていた。

だが――小次郎は手を取らない。自力で無理やり立ち上がる。桃也は少し悲しそうな顔をした。
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