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3日目
不知
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小屋の中には美結と凛がいた。美結は隣で眠っている凛の胸をポンポンと優しく叩いている。凛の頭には畳まれた毛布がある。枕替わりだろう。美結自身が使う予定だった物だと思う。
火のついたランタンが机の上で光を放っている。綺麗だ。この現代ではあまり見られない美しさがある。
それ以外は質素。必要最低限の生活道具があるだけ。潜伏場所と考えたら妥当ではあるが。
「――小次郎さん!?」
「あぁ良かった、無事だったんですね」
「はい……」
美結は小次郎を見てにっこりと微笑む。自然では無い。無理して作っているのが小次郎には分かった。
「こんな小屋いつ作ったんだ?お前が引っ越してきたの2日前くらいだろ?」
「俺は作ってないよ。作ったのは氷華だ」
「氷華……?」
「あぁ。ここは氷華が教えてくれた場所。逃がしてくれたのも氷華だ」
小次郎は氷華と会ったことはない。その事に気がついた桃也は「ハッ」と声を漏らした。
「お前ここに独断で来たのか?」
「そうだな」
「じゃあ応援とかは呼んでるのか?」
「呼んでない。今も無理だ。もう電波を切られてると思う。時間が経てば他の刑事が来ると思うが……」
「そうか――ならちょうどいい」
桃也は美結の元まで歩いていく。眠っている凛の頭を優しく撫でた後、美結の両手をギュッと握った。
「また外に出る。凛を頼んだぞ」
「……分かった。ちゃんと帰ってきてね」
「うん」
――2人はまた山を歩く。今度は村の方面へと移動していた。
「……なぁ」
「ん?」
「やっぱり聞いてもいいか?」
「俺が人を殺してた理由?」
「うん……」
行きと違って2人は並走していた。こうして見てみると、桃也の方が少し大きい。
「どうしてまた急に?」
「なんとなくだよ。お前が美結さんと凛ちゃんを愛してるのは分かった。俺から見たらだけどな」
「それで?」
「……家族を愛してる。そんな気持ちがあるのに、なんであんなことをしたんだ?恨みでもあったのか?」
言葉は強い。だが優しさも含んでいる。とにかく小次郎は聞きたかった。
自分の親友が世間を揺るがした殺人鬼。刑事として捕まえなくてはならない。でも幼馴染だ。大切な親友だ。
桃也の優しいところも知ってる。悪いところも知ってる。仕方なしに殺してしまった。可能性はゼロに近いが、なんとかして理由をつけたかったのだ。
「先輩から写真を見させてもらった。……酷い状態だったよ。どんな拷問をすればあんなになるのかも考えたくないほどにな」
「最初はすぐ殺しちゃってたけど」
「……子供も殺してた。大人も殺してた。被害者には家族がいたんだぞ」
「そうだろうな」
「なんで……なんでお前は……」
――少しの間。近くを通った小鳥の鳴き声。同時に桃也は喋り始めた。
「――俺はある時まで生きてる実感が湧かなかったんだ」
「……どういうことだ?」
「そのまんまだよ。飯を食ってても、誰かと喋ってても、動いても、呼吸をしてても。生きているって思えなかった。『もしかしたら自分は死んでるんじゃないか』なんて毎日のように思ってたよ」
平然と自分が理解できないことを話している。ポカンと聞いている小次郎に桃也は話し続けた。
「……たまたまだった。ネズミを踏み潰しちゃったんだ。まだ生きててウニョウニョ動いてた。苦しんでた。震えてきた。蔑むように、怖がるように俺の方を見てたんだ。……なんか心の中が明るくなる感じがしたのを覚えてる」
「……」
「それからだよ。『生き物を痛めつけてみよう』と思ったのは。猫や犬、ハムスターに雀、小鳥。やればやるほど心の中が明るくなって行ったんだ。そうして考えてみた。『人間ならもっと明るくなるんじゃないか』ってな」
「っ……」
「結果的に言うと、俺の予想通りだった。初めて拷問したのはホームレスのオッサンだったな。まぁ漫画みたいに上手くいかず、すぐに死なせちゃったけど」
「初耳だ……」
「そりゃ事件にもならなかったからな。運が良かったよ」
まだ桃也は言葉を紡ぐ。
「拷問は別に楽しくてやってたわけじゃない。それが性癖ってわけでもない。相手はうるさいし。血は嫌な匂いがするし。見てるだけで痛そうだし」
「じゃあなんで……!?」
「でも辞められなかった。それで気がついたんだ。――心が晴れてる。自分は生きているって思えるようになっていたんだよ」
「は……?」
口を開けている小次郎。無視して話を続ける。
「痛みは人間の本質だ。痛みを感じなければ人間として欠陥品。呼吸をしているだけの屍人。単なる人間の紛い物だ。なら人間の本質を引き出している俺は死んでいるのか?それとも生きているのか?」
「……」
「――生きている。俺は生きているんだ。誰かが俺の手によって苦しんでいる。それを見ているだけで生きていると感じたんだ」
狂っている。言葉はソレしか思いつかない。自分が知っていると思っていた友人。それが全く知らない別人のように見えた。
「まぁ凛が産まれてからはそうじゃなくなったがな。拷問を辞めたのはそれが理由でもある」
微笑む桃也。その顔に恐怖を浮かべる小次郎。もはや感想を出せる状態ではなかった。どう話せばいいのかも分からなかった。
火のついたランタンが机の上で光を放っている。綺麗だ。この現代ではあまり見られない美しさがある。
それ以外は質素。必要最低限の生活道具があるだけ。潜伏場所と考えたら妥当ではあるが。
「――小次郎さん!?」
「あぁ良かった、無事だったんですね」
「はい……」
美結は小次郎を見てにっこりと微笑む。自然では無い。無理して作っているのが小次郎には分かった。
「こんな小屋いつ作ったんだ?お前が引っ越してきたの2日前くらいだろ?」
「俺は作ってないよ。作ったのは氷華だ」
「氷華……?」
「あぁ。ここは氷華が教えてくれた場所。逃がしてくれたのも氷華だ」
小次郎は氷華と会ったことはない。その事に気がついた桃也は「ハッ」と声を漏らした。
「お前ここに独断で来たのか?」
「そうだな」
「じゃあ応援とかは呼んでるのか?」
「呼んでない。今も無理だ。もう電波を切られてると思う。時間が経てば他の刑事が来ると思うが……」
「そうか――ならちょうどいい」
桃也は美結の元まで歩いていく。眠っている凛の頭を優しく撫でた後、美結の両手をギュッと握った。
「また外に出る。凛を頼んだぞ」
「……分かった。ちゃんと帰ってきてね」
「うん」
――2人はまた山を歩く。今度は村の方面へと移動していた。
「……なぁ」
「ん?」
「やっぱり聞いてもいいか?」
「俺が人を殺してた理由?」
「うん……」
行きと違って2人は並走していた。こうして見てみると、桃也の方が少し大きい。
「どうしてまた急に?」
「なんとなくだよ。お前が美結さんと凛ちゃんを愛してるのは分かった。俺から見たらだけどな」
「それで?」
「……家族を愛してる。そんな気持ちがあるのに、なんであんなことをしたんだ?恨みでもあったのか?」
言葉は強い。だが優しさも含んでいる。とにかく小次郎は聞きたかった。
自分の親友が世間を揺るがした殺人鬼。刑事として捕まえなくてはならない。でも幼馴染だ。大切な親友だ。
桃也の優しいところも知ってる。悪いところも知ってる。仕方なしに殺してしまった。可能性はゼロに近いが、なんとかして理由をつけたかったのだ。
「先輩から写真を見させてもらった。……酷い状態だったよ。どんな拷問をすればあんなになるのかも考えたくないほどにな」
「最初はすぐ殺しちゃってたけど」
「……子供も殺してた。大人も殺してた。被害者には家族がいたんだぞ」
「そうだろうな」
「なんで……なんでお前は……」
――少しの間。近くを通った小鳥の鳴き声。同時に桃也は喋り始めた。
「――俺はある時まで生きてる実感が湧かなかったんだ」
「……どういうことだ?」
「そのまんまだよ。飯を食ってても、誰かと喋ってても、動いても、呼吸をしてても。生きているって思えなかった。『もしかしたら自分は死んでるんじゃないか』なんて毎日のように思ってたよ」
平然と自分が理解できないことを話している。ポカンと聞いている小次郎に桃也は話し続けた。
「……たまたまだった。ネズミを踏み潰しちゃったんだ。まだ生きててウニョウニョ動いてた。苦しんでた。震えてきた。蔑むように、怖がるように俺の方を見てたんだ。……なんか心の中が明るくなる感じがしたのを覚えてる」
「……」
「それからだよ。『生き物を痛めつけてみよう』と思ったのは。猫や犬、ハムスターに雀、小鳥。やればやるほど心の中が明るくなって行ったんだ。そうして考えてみた。『人間ならもっと明るくなるんじゃないか』ってな」
「っ……」
「結果的に言うと、俺の予想通りだった。初めて拷問したのはホームレスのオッサンだったな。まぁ漫画みたいに上手くいかず、すぐに死なせちゃったけど」
「初耳だ……」
「そりゃ事件にもならなかったからな。運が良かったよ」
まだ桃也は言葉を紡ぐ。
「拷問は別に楽しくてやってたわけじゃない。それが性癖ってわけでもない。相手はうるさいし。血は嫌な匂いがするし。見てるだけで痛そうだし」
「じゃあなんで……!?」
「でも辞められなかった。それで気がついたんだ。――心が晴れてる。自分は生きているって思えるようになっていたんだよ」
「は……?」
口を開けている小次郎。無視して話を続ける。
「痛みは人間の本質だ。痛みを感じなければ人間として欠陥品。呼吸をしているだけの屍人。単なる人間の紛い物だ。なら人間の本質を引き出している俺は死んでいるのか?それとも生きているのか?」
「……」
「――生きている。俺は生きているんだ。誰かが俺の手によって苦しんでいる。それを見ているだけで生きていると感じたんだ」
狂っている。言葉はソレしか思いつかない。自分が知っていると思っていた友人。それが全く知らない別人のように見えた。
「まぁ凛が産まれてからはそうじゃなくなったがな。拷問を辞めたのはそれが理由でもある」
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