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3日目
真実
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数分。数十分。時間が経った。痛いのは変わらない。でも呼吸は整った。
「……見ろ」
寝転がっている氷華にスマホを見せる。――あの儀式の時の動画だ。拷問されている女性をズームしている。
嫌な光景に目を背けそうになるが、それをしたら桃也にまた拷問されるかもしれない。死ぬ気で動画を凝視する。
「この女性の名前は分かるか?」
「……」
首を縦に振る。
「教えろ」
「山井……乙音。って言ってた気がする」
「気がするじゃない」
「……そう言ってた」
――山井乙音。桃也が目的としていた人。拷問されている場面を見た。実際にこの目で見た。なのに気が付かなかった。
「そう……か。分かった」
スマホを消して座り込む。その顔はどこか悲しそうな感情を含んでいた。
「……『みんなでひとつ』っていうのは事実か?」
「半分事実……。この村は御三家に統治されてる。その言葉を正確に言うなら『御三家を除いて、みんなでひとつ』になる」
「だろうな。怪しいと思ってたんだ」
「……」
「まぁいい」
ナイフをくるくると回しながら質問を続ける。
「なんであんな儀式をしている」
「……全部?」
「お前が知ってる範囲全てだ」
「うん――」
八月村はある神様を崇拝している。名前は輪廻様。輪廻と森を司る神であり、恵みと豊作をもたらすと言われている。
しかし神は無償でなんでもくれるのではない。あくまで物々交換。森に供物を捧げないといけないのだ。
それこそが生贄。そして生贄は常に捧げないとダメだ。一日でも欠ければ村に災いが起こってしまう。
「――供物?生贄?なんで繋がるんだ。意味が違うだろ?」
「いや……結果的な意味は同じ」
「どういうことだ?」
頭で結びつかない。気になる。桃也は氷華に聞き返す。
「捧げる供物は物じゃない」
「は?……じゃあ人間?」
「違う。捧げるものは――『痛み』」
……繋がった。初日の猿を痛めつけていたこと。乙音への拷問。すべてが繋がった。
拷問そのものが目的だったのだ。肉体を捧げるとか、生贄とか。考えていたようなものじゃない。もっとおぞましいものだった。
「痛み……」
考えれば考えるほど狂っている。頭がおかしいとしか思えない。それ以上の感想が出てこないのだ。
「いつからだ。なんでこんな儀式をすることになったんだ?」
「だいぶ昔の話になる……」
「かいつまんで話せ」
「分かった……」
時は江戸時代後期にまで遡る。
その時期は大雨による洪水や冷害による大凶作により全国的な大飢饉が起きていた。『天保の大飢饉』と呼ばれるものだ。
特に東北地方の被害が酷かったが、当時の徳島も被害を受けている。そして八月村も例外ではなかった――。
作物は枯れ果てて狩猟もままならない。当時は今ほど狩人がおらずに取れる獲物もかなり少なかった。
どんどんと弱っていく村人たち。これを好機と睨んだのか、村を襲撃してくる動物も時間が経つほどに増えていく。
空腹は収まらない。水すらも満足に飲めない。村人は限界だった。木の実を食い尽くし、家の木材すらも貪り始める。
それでも腹は満たされない。脚は体を支えることができないほど短くなり、腹は内蔵の形が見えるのではと思うほどへこんでいた。
お乳はでない。栄養がないからだ。飲めなければ赤子は死ぬ。死んだら母親の子供ではない。ただの肉塊である。
まさに地獄絵図。誰もかもが限界であった。
ある時、村に1人の宣教師が訪れた。宣教師は村の惨状を見てとても心を痛めた。『なんとかしなくては』と思った宣教師は村人たちに助言をした。
「――人柱を立てなさい」
一切躊躇しなかった。数は多い方がいいと考えた村人たちは、自分の村だけじゃなく、他の村の人々をも連れ去り人柱にした。
それで空腹が収まるのなら。それで物が食えるのなら。引き返せる場所などとっくの昔に通り過ぎている。
しかし――飢餓は収まらない。これ以上は無いほど悪化していく。村人たちの怒りは爆発寸前となっていた。
ある時、村人のひとりが人柱に八つ当たりをしたのだ。相手は他の村から攫ってきた巫女である。
巫女は他の平民と比べて裕福な暮らしをしていたそうだ。そういう意味での八つ当たりもあったのだろう。
それはもう酷い八つ当たりだ。もう拷問と大差ない。人柱として機能するよりも前に巫女は殺害されてしまった。苦痛に満ちた死であった。
――その後すぐのことだ。今までのことが嘘のように作物が実り始めたのだ。狩りも順調。村を襲う獣も突然居なくなった。
『神の恵み』『神は私たちを見捨てなかった』と口々に放つ村人たち。だが疑問があった。
――なぜ飢餓が突然止んだのか?
――人柱は効果がなかったのになぜ?
そこで気がついた。村人が人柱の巫女に八つ当たりをしたことを。拷問まがいのことをしたことを。
『森への供物となったんだ。巫女の苦痛が供物となって飢餓を救ってくれたんだ』
誰かがそう言いだした。誰も否定しなかった。
村の儀式が始まったのはそこからである。
――最初に巫女を拷問した鴨島龍之介。
――生き残った唯一の猟師である坂野秀三郎。
――戦を何度も経験してきた遠藤剛玄。
この三人。三家を中心として村を引っ張っていくことになった。
「……見ろ」
寝転がっている氷華にスマホを見せる。――あの儀式の時の動画だ。拷問されている女性をズームしている。
嫌な光景に目を背けそうになるが、それをしたら桃也にまた拷問されるかもしれない。死ぬ気で動画を凝視する。
「この女性の名前は分かるか?」
「……」
首を縦に振る。
「教えろ」
「山井……乙音。って言ってた気がする」
「気がするじゃない」
「……そう言ってた」
――山井乙音。桃也が目的としていた人。拷問されている場面を見た。実際にこの目で見た。なのに気が付かなかった。
「そう……か。分かった」
スマホを消して座り込む。その顔はどこか悲しそうな感情を含んでいた。
「……『みんなでひとつ』っていうのは事実か?」
「半分事実……。この村は御三家に統治されてる。その言葉を正確に言うなら『御三家を除いて、みんなでひとつ』になる」
「だろうな。怪しいと思ってたんだ」
「……」
「まぁいい」
ナイフをくるくると回しながら質問を続ける。
「なんであんな儀式をしている」
「……全部?」
「お前が知ってる範囲全てだ」
「うん――」
八月村はある神様を崇拝している。名前は輪廻様。輪廻と森を司る神であり、恵みと豊作をもたらすと言われている。
しかし神は無償でなんでもくれるのではない。あくまで物々交換。森に供物を捧げないといけないのだ。
それこそが生贄。そして生贄は常に捧げないとダメだ。一日でも欠ければ村に災いが起こってしまう。
「――供物?生贄?なんで繋がるんだ。意味が違うだろ?」
「いや……結果的な意味は同じ」
「どういうことだ?」
頭で結びつかない。気になる。桃也は氷華に聞き返す。
「捧げる供物は物じゃない」
「は?……じゃあ人間?」
「違う。捧げるものは――『痛み』」
……繋がった。初日の猿を痛めつけていたこと。乙音への拷問。すべてが繋がった。
拷問そのものが目的だったのだ。肉体を捧げるとか、生贄とか。考えていたようなものじゃない。もっとおぞましいものだった。
「痛み……」
考えれば考えるほど狂っている。頭がおかしいとしか思えない。それ以上の感想が出てこないのだ。
「いつからだ。なんでこんな儀式をすることになったんだ?」
「だいぶ昔の話になる……」
「かいつまんで話せ」
「分かった……」
時は江戸時代後期にまで遡る。
その時期は大雨による洪水や冷害による大凶作により全国的な大飢饉が起きていた。『天保の大飢饉』と呼ばれるものだ。
特に東北地方の被害が酷かったが、当時の徳島も被害を受けている。そして八月村も例外ではなかった――。
作物は枯れ果てて狩猟もままならない。当時は今ほど狩人がおらずに取れる獲物もかなり少なかった。
どんどんと弱っていく村人たち。これを好機と睨んだのか、村を襲撃してくる動物も時間が経つほどに増えていく。
空腹は収まらない。水すらも満足に飲めない。村人は限界だった。木の実を食い尽くし、家の木材すらも貪り始める。
それでも腹は満たされない。脚は体を支えることができないほど短くなり、腹は内蔵の形が見えるのではと思うほどへこんでいた。
お乳はでない。栄養がないからだ。飲めなければ赤子は死ぬ。死んだら母親の子供ではない。ただの肉塊である。
まさに地獄絵図。誰もかもが限界であった。
ある時、村に1人の宣教師が訪れた。宣教師は村の惨状を見てとても心を痛めた。『なんとかしなくては』と思った宣教師は村人たちに助言をした。
「――人柱を立てなさい」
一切躊躇しなかった。数は多い方がいいと考えた村人たちは、自分の村だけじゃなく、他の村の人々をも連れ去り人柱にした。
それで空腹が収まるのなら。それで物が食えるのなら。引き返せる場所などとっくの昔に通り過ぎている。
しかし――飢餓は収まらない。これ以上は無いほど悪化していく。村人たちの怒りは爆発寸前となっていた。
ある時、村人のひとりが人柱に八つ当たりをしたのだ。相手は他の村から攫ってきた巫女である。
巫女は他の平民と比べて裕福な暮らしをしていたそうだ。そういう意味での八つ当たりもあったのだろう。
それはもう酷い八つ当たりだ。もう拷問と大差ない。人柱として機能するよりも前に巫女は殺害されてしまった。苦痛に満ちた死であった。
――その後すぐのことだ。今までのことが嘘のように作物が実り始めたのだ。狩りも順調。村を襲う獣も突然居なくなった。
『神の恵み』『神は私たちを見捨てなかった』と口々に放つ村人たち。だが疑問があった。
――なぜ飢餓が突然止んだのか?
――人柱は効果がなかったのになぜ?
そこで気がついた。村人が人柱の巫女に八つ当たりをしたことを。拷問まがいのことをしたことを。
『森への供物となったんだ。巫女の苦痛が供物となって飢餓を救ってくれたんだ』
誰かがそう言いだした。誰も否定しなかった。
村の儀式が始まったのはそこからである。
――最初に巫女を拷問した鴨島龍之介。
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――戦を何度も経験してきた遠藤剛玄。
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