レッドリアリティ

アタラクシア

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3日目

最悪

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四方が石に囲まれた空間。地下なので陽の光は一切届かない。見える光は古臭い電球のみ。

無機質に支配されたこの部屋に2人は踏み入った。鼻に潜り込んでくるのは石と鉄の匂い。そして――血の匂い。


「……んだよこれ」

予想はしていた。桃也が見せてくれた動画が本当なら、監禁場所が地獄絵図なのは簡単に考えられる。

その景色は予想を完全に超えていた。決めていた覚悟は消える。目の前のおぞましい光景に小次郎は血の気が引いた。


3つほど並ぶ牢屋。刑務所のように設備は良くない。江戸時代の牢屋でもこんなに汚くはなかったはずだ。

地面は石。壁も石。どこを見ても石しかない。長時間この場に居たら気が狂いそうだ。

中は血だらけ。黒くなった血液が飛び散っている。石しかないのに灰色よりも赤色の方が面積が多い。


乙音が寝かされていた。まるでゴミ箱にゴミを捨てるかのように。藁すら敷かれていない地面に。

四肢は無い。顔面も残っている部位がほとんどない。まともに残っている部位は額のみだ。傷口には焼けた痕があり、血は出ていない。

生きているのか。パッと見じゃ分からない。裸の胸は色気を感じない。そんな胸はかろうじて上下に動いているのが見える。

つまり生きているのだ。こんな状態で生きているのだ。生命の神秘を超えて恐怖しか感じない。『生きていてよかった』よりも『なんで生きてるんだ?』という言葉が頭の中で流れた。


言ったら悪いが、乙音の姿はのようだ。ただただ被害者の女性に生理的嫌悪感を抱いてしまう。

悪魔。――乙音の母親が言っていた言葉を思い出す。警察としてどうかと思う発言だが、今のこの女性を表すのには悪魔や悪霊という言葉が適切だ。

おそらく乙音の母親が見たのは拷問された人間の姿だろう。子供の頃にこんな姿の人間を見れば、あれ程のトラウマになるのは当然だ。


女を見て固まっている小次郎。こんな状態の人間など見たことがない。あらゆる情報が駆け巡り、体を動かすという簡単な動作すらできずにいた。

小次郎の背中を桃也が叩く。固まっていた体は動き出した。

「しっかりしろ」
「……おう」

檻には鍵がかけられている。しかし古くなっているようだ。錆びている。成人男性2人なら壊せるはずだ。

「いっせーので蹴るぞ」

答えない。だが桃也の隣に並んだ。2人は足に力を込め、同時に扉を蹴った。

「いっせーの――」


――扉が壊れた。錆びていた部分ははじけとぶ。すぐに近寄る。

「生きてるか?おい!」

乙音は反応しない。かすかな呼吸が空中で消えるのみ。

「村人じゃない。俺だ。桃也だ。小次郎もいる。覚えてるか?」

反応なし。

「……乙音。俺だよ。小次郎だ。中学生の時に同じクラスだった」

反応はなし。

「おい!反応しろ!俺がここにいる!助けに来たぞ!」
「桃也……桃也……」
「まだ待ってる人がいる。お前のことを待ってる人がいるんだ!」
「おい桃也……」
「俺も待ってるんだぞ!!ここにいる!!」
「――桃也」


……乙音は反応しない。ギリギリ分かる呼吸をしているだけだ。

「もういいだろ……」
「……はぁ」

包丁を取り出す。

「この殺しは見逃せよ」
「俺から頼むよ。殺してあげてくれ……」
「仕方ないな」

小次郎は上を向いた。今から起こることを見ない為だ。できるだけ情報を入れたくないからだ。

刃がゆっくりと乙音の首に触れる。比較的に綺麗だ。昔と変わらない美しい首。

「じゃあな」



――首に突き刺さる。血はあまり流れない。

「――」

胸は完全に動かなくなった。元々生きているかはどうか分からなかった。これで殺したのか、そもそも死んでいたのか。今となっては知りようがない。

ただちょっとだけ。乙音の顔は安らかであった。憑き物が取れたかのように。悪霊が成仏するかのように。


「……無駄足だったな。付き合わせて悪かった」

血で染まった包丁を袖で拭う。

「元々この子は死んでたんだ。そうじゃないと可哀想すぎる」
「そうか」
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