レッドリアリティ

アタラクシア

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3日目

死神

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「桃也――!!」

察した。桃也に叫ぶ。気がついた桃也は少し笑って壁から背中を離した。


拳銃をしまう。とにかく抑えないと桃也が危ない。2人が同時に襲いかかられては桃也じゃ対応できないだろう。

せめて片方を倒す。少なくとも執行教徒を3人は殺している。桃也なら1体1で倒し切れるだろう。そう信じて動きを進める。


左を通過しようとした男の足を引っかける。時間稼ぎだ。数秒だけ時間を稼ぐ。

もう一人の男は小次郎自身を狙ってきた。邪魔をするなら殺す。そもそもこの場所に来てる時点で殺害対象となっていた。

刀を横に。駒のように体をねじって力を溜める。ゲームのチャージ攻撃と聞くと放つのに時間がかかるイメージがあるが、現実は違う。

時間はほんの一瞬。1秒にも満たないほどの短時間だ。何もしなければ横凪一閃で胸から斬られる。頑張って鍛えた胸板など無意味になる。

「ちっっ――!!」

中途半端な距離にいたら斬られる。銃が使えないなら素手で戦うしかない。

刀と素手では範囲に圧倒的な差がある。真っ向勝負で挑むにはを捨て去らなくてはならない。


避けるんじゃない。逆に距離を詰めた。刃は右から左へ向かっている。

まずは持ち手。次に肩を掴む。自分の片脚を軸として、体を半分ほど回転させる。

相手の振るスピード。止められない。速度をそのままに力の向きを下へ。肘を捻って地面に叩き落とした。

「ぐふっ――!?」

アバラから鈍い音がする。地面は石。小次郎の体重と石の地面で勢いよく挟まれた。圧力で体全体がへし折れる気分になる。


止められたのは1人。残りの1人は立ち上がって桃也の方に走っていこうとする。

だが――転けたことにより数秒の隙が生まれた。残念ながら桃也は刀とまともに張り合おうとは思わない。

「しっっ――!!」

全力のサッカーボールキックを相手の顔面に叩きつけた。

「――」

鼻がへし折れる。壊れた噴水のように勢い鼻血が飛び出した。

これで意識は暗闇の中へと向かう。だが桃也はそんなことを知らない。これ以上の抵抗をさせないため、男の膝を全体重をかけて踏みつける。


「ぐっぃがぁぁ――!?!?」

完全に折れた。くの字に折れた。膝の皿が砕ける。痛みが流れるように。闘争心は完全に無くなっていた。

叫ばれても困る。痛みで悶える声が外にでも盛れたらバレてしまう。桃也は男の首を踏みつけ――


――ようとした桃也の足を小次郎が蹴飛ばした。

「殺しはなしって決めただろ」
「けどこいつうるさいぞ」
「ならさっさと終わらせればいいだけだ」
「……ふん」

素直だ。倒れている男を睨みつけ、また壁に腕を組んでもたれかかった。


両手に手錠。男2人を繋げる。片方は足が折れているので、逃げることはできない。仲間意識の高い執行教徒はそんなことしない。

「早く行くぞ」
「おう」

会話は最小限に。言い合いもすることなく2人は監禁部屋へと入っていった。





「――ごちそうさん」

おにぎりを食べ終えた執行教徒たちが氷華にお礼を言う。

「美味しかったよ」
「けど珍しいね。氷華ちゃんがおにぎり作るなんて」
「いつもは干し肉とかしか作らないのにな」
「私だって気分は変わるよ」
「まぁそうだな。この疲れきってる時に干し肉持ってこられたら逆に困るわ」

各々氷華の頭を撫でてから持ち場まで戻る。子供扱いされて氷華はご立腹……なんてしてる場合でもない。


(中、どうなってんのかな……)

最初の時間は稼いだ。あともう1回時間を稼がないといけない。

終わった時は合図がある。作戦開始前に決めたリズムで扉を鳴らすらというものだ。そんなことをしたらバレる。

そこでもうひとつの時間稼ぎ。『桃也を発見したから手伝ってくれ』だ。これで警備を引っ張り出す。

「いける……よね」

今は信頼するしか道がない。それよりも次の作戦の用意をしないと。逃走経路を確保して、できるだけ動きやすくする。

少し護衛の執行教徒たちに罪悪感を抱く。でも自分のため。正しいことのため。氷華は歩き出す――。



「――氷華」

――蓮見だった。ネコ科の動物のように毛が上へと逆立つ。極度のストレスが氷華に浸透した。

後ろを振り向くと見慣れた顔がある。しかも2人。蓮見の横に義明がいた。真っ黒な服で真っ黒な瞳を氷華に向けている。

「何をしていた?」

変わらない。声質が変わらない。一言語が耳に入る度に心臓の表面をむしり取られている感覚が襲ってくる。

どうするかを頭で巡らせる。どうしたらいいか。どうするか。早く考えないと。言い訳を考えないと。

口を開けようとすると震える。連動して腕も震える。心臓も小動物のように小刻みに震える。震えすぎて焦点が定まらない。

「え……あ……差し入れを」
「おにぎりを?お前が?」
「わ、悪い?」
「――我らを裏切るのは悪くないことか?」



考えられない。もう何も考えられない。もはや息が止まった。さっきまで震えていた心臓が完全停止した。

死んだ。死んだ。死んでしまった。実際には死んでないが、そう勘違いしてしまうほどの重圧とストレスが氷華に降り掛かっていている。

それは16の少女が受けるには大きすぎるほどだ。指先から内蔵の芯まで。名前と同じく氷のように固まった。

「……とりあえず地下に行こうか」

拒否なんてできない。できるはずがない。凍りついていた脚は自動的に動き出していた。
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