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4日目
損失
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――桃也の前には焼け落ちた小屋があった。小屋があった場所はミステリーサークルのように真っ黒な四角の模様があるだけ。
それだけなら美結と凛が仕方なくやったと思うことができる。見た感じは死体もない。それだけなら。
しかし甘い妄想を目の前の光景は許してくれない。燃え尽きた小屋も。焼き跡も。それよりも1つ。その物に目が惹かれた。
仮面。昨日も自分が付けていた。あの仮面。それが小屋の前に捨てられている。
その意味。その理由。想像にかたくない。――連れ去られた。美結と凛が。片方だけかも。そうだとしても放っておくわけにはいかない。
そしてもうひとつ。『お前の大事な人は俺らが捕まえている。返して欲しかったら来い』という意味。
「……」
宣戦布告。人質。『必ず殺してやるぞ』という警告だ。
「これ……は……」
氷華が唖然としている。
「……ごめん。私のせい」
「想定内。むしろあんな小屋が夜までバレなかったのが不思議なくらいだ」
元あった小屋の場所。その中心に桃也は立った。
「全部俺のせいか……。そうだよな。そうだ。さっさと逃げてればよかったな」
「桃也……」
「なぁ氷華。全部俺のせいだよな」
――氷華は首を振る。縦に
「うん……」
「えらくハッキリだな。もっと俺のこと怖がると思ったんだが」
「怖い。けど……私は望んでる。あなたがこの村に残ることを」
殺人鬼『羽衣桃也』に氷華はゆっくりと歩み寄る。
「どういうことだ?」
「私はずっとこの村で暮らしてきた。でもこんな儀式は間違ってると思ってた。こんな儀式は止めるべきって」
真っ直ぐに。氷のような色の瞳。だが視線は太陽のように熱い。
「止めようとはしたけど……ダメ。遅すぎたの。200年近くも欠かさずに行われてきた儀式は皆の根っこから染み付いてる。今さら変えることはできない」
覚悟は決まっている。
「じゃあどうやって変える――?」
「――全員殺す」
言葉を。出した。
「染み付いた根っこごと切り倒す」
「お前の家族も含めてか?」
「……」
頷く。
「お前がこの村で生きてきた16年間。その間にお世話になった人も殺すんだぞ」
「それ……でも……」
「確か住人は……1000人くらいだったっけ。俺は――皆殺しにするつもりだ」
「……うん」
「それでもか。それでも覚悟は変わらないんだな」
「――うん」
「――わかった」
拾った仮面。思い出す。昔に人を殺していた時のこと。――過去の記憶を思い出しながら仮面を付けた。
「お前を信用する。これからはお前を信用する前提で戦う――」
太陽が山から顔を覗かせる。真っ暗闇は辺りから消え、光が空の上からシャワーのように降り注いでいる。
森林は気持ちよさそうに日光浴。吹き抜ける風が心地いい。気温も過ごしやすいくらいだ。
動くには最適の日。最高の気分。ピクニックにでも行きたい。だが――八月村はそのような雰囲気ではなかった。
「――これで全員か?」
村の猟師が一同に並んでいる。数は30人ほど。初日に見た顔ぶれが多い。
だけどその顔には怒りが宿っている。あの時と一緒。初日の『山駆け』の時と。
初日のように大声を出すことはない。静かに。全員がその場に佇んでいる。しかし顔には殺意がこもっている。
前と変わらない、それよりも強い気迫が。圧が。目の前に壁が迫ってきているような威圧が。覚悟が。
「――猟虎。わかってるな」
「おう。羽衣桃也は必ず殺す」
「それもだが――」
「それ以上は言うな」
ライフルを握りしめる。
「……信じてるぞ」
「そうかい」
狩人たちは整列している。軍隊。旧日本軍のように。
「――全員わかっているだろう。羽衣桃也は八月村で殺人を犯し、ましてや儀式の邪魔までした。これは許されることではない」
話さない。呼応しない。
「我らの同士を殺した。いつものようにして欲しいところだか、今回は状況が何もかも違う」
言わなくてもいい。全員の顔がそう言っているかのようだ。
「何もかもが今までと違う。氷華まで裏切った。八月村史上、最大のピンチと言ってもいいだろう」
気を引きしめるため。覚悟をさらなる硬度にするため。
「ヤツを獣と思うな。化け物と思うな。ましてや人間などとも思うな。――ヤツは悪魔だ。悪魔と思え。この世のモノではない悪魔と思って戦え」
それだけなら美結と凛が仕方なくやったと思うことができる。見た感じは死体もない。それだけなら。
しかし甘い妄想を目の前の光景は許してくれない。燃え尽きた小屋も。焼き跡も。それよりも1つ。その物に目が惹かれた。
仮面。昨日も自分が付けていた。あの仮面。それが小屋の前に捨てられている。
その意味。その理由。想像にかたくない。――連れ去られた。美結と凛が。片方だけかも。そうだとしても放っておくわけにはいかない。
そしてもうひとつ。『お前の大事な人は俺らが捕まえている。返して欲しかったら来い』という意味。
「……」
宣戦布告。人質。『必ず殺してやるぞ』という警告だ。
「これ……は……」
氷華が唖然としている。
「……ごめん。私のせい」
「想定内。むしろあんな小屋が夜までバレなかったのが不思議なくらいだ」
元あった小屋の場所。その中心に桃也は立った。
「全部俺のせいか……。そうだよな。そうだ。さっさと逃げてればよかったな」
「桃也……」
「なぁ氷華。全部俺のせいだよな」
――氷華は首を振る。縦に
「うん……」
「えらくハッキリだな。もっと俺のこと怖がると思ったんだが」
「怖い。けど……私は望んでる。あなたがこの村に残ることを」
殺人鬼『羽衣桃也』に氷華はゆっくりと歩み寄る。
「どういうことだ?」
「私はずっとこの村で暮らしてきた。でもこんな儀式は間違ってると思ってた。こんな儀式は止めるべきって」
真っ直ぐに。氷のような色の瞳。だが視線は太陽のように熱い。
「止めようとはしたけど……ダメ。遅すぎたの。200年近くも欠かさずに行われてきた儀式は皆の根っこから染み付いてる。今さら変えることはできない」
覚悟は決まっている。
「じゃあどうやって変える――?」
「――全員殺す」
言葉を。出した。
「染み付いた根っこごと切り倒す」
「お前の家族も含めてか?」
「……」
頷く。
「お前がこの村で生きてきた16年間。その間にお世話になった人も殺すんだぞ」
「それ……でも……」
「確か住人は……1000人くらいだったっけ。俺は――皆殺しにするつもりだ」
「……うん」
「それでもか。それでも覚悟は変わらないんだな」
「――うん」
「――わかった」
拾った仮面。思い出す。昔に人を殺していた時のこと。――過去の記憶を思い出しながら仮面を付けた。
「お前を信用する。これからはお前を信用する前提で戦う――」
太陽が山から顔を覗かせる。真っ暗闇は辺りから消え、光が空の上からシャワーのように降り注いでいる。
森林は気持ちよさそうに日光浴。吹き抜ける風が心地いい。気温も過ごしやすいくらいだ。
動くには最適の日。最高の気分。ピクニックにでも行きたい。だが――八月村はそのような雰囲気ではなかった。
「――これで全員か?」
村の猟師が一同に並んでいる。数は30人ほど。初日に見た顔ぶれが多い。
だけどその顔には怒りが宿っている。あの時と一緒。初日の『山駆け』の時と。
初日のように大声を出すことはない。静かに。全員がその場に佇んでいる。しかし顔には殺意がこもっている。
前と変わらない、それよりも強い気迫が。圧が。目の前に壁が迫ってきているような威圧が。覚悟が。
「――猟虎。わかってるな」
「おう。羽衣桃也は必ず殺す」
「それもだが――」
「それ以上は言うな」
ライフルを握りしめる。
「……信じてるぞ」
「そうかい」
狩人たちは整列している。軍隊。旧日本軍のように。
「――全員わかっているだろう。羽衣桃也は八月村で殺人を犯し、ましてや儀式の邪魔までした。これは許されることではない」
話さない。呼応しない。
「我らの同士を殺した。いつものようにして欲しいところだか、今回は状況が何もかも違う」
言わなくてもいい。全員の顔がそう言っているかのようだ。
「何もかもが今までと違う。氷華まで裏切った。八月村史上、最大のピンチと言ってもいいだろう」
気を引きしめるため。覚悟をさらなる硬度にするため。
「ヤツを獣と思うな。化け物と思うな。ましてや人間などとも思うな。――ヤツは悪魔だ。悪魔と思え。この世のモノではない悪魔と思って戦え」
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