レッドリアリティ

アタラクシア

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3日目

無駄

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「ど、どうする!?入るか!?」
「――いや、回り込もう」

燃えてる建物の中に入るのは危険。それもある。しかし椿は違う理由があった。――聞こえていたのだ。

小屋が壊れる音。燃えてるとはいえ壊れるのが早すぎる。つまり焼け落ちたのじゃなく、誰かが壊した。

中に入っていた人物が出てきたと推測ができる。じゃあ誰かを確認する。それが普通だ。


2手で挟み込むように。右は3人。左は2人ゴキブリのように素早く小屋を回り込む。

「――っ」

――見つけた。五人全員が同時期に視界に収めた。凛を抱えている美結の姿を。

「凛――逃げて――!!!」

速い。子供を抱えていては当然だ。そもそもスピードは椿を含めた執行教徒の方が上。まともな追いかけっこは圧倒的に不利だ。

……最初からこれは想定内だ。そしてこれからやることも。最初から決めていたこと。

凛だけでも逃がす。自分が1人でも食い止めれば全滅だけは避けられる。凛だけでも逃がすことができる――。


凛は走る。5歳ながら全力で走る。後ろで母が自分のために……。凛には何が起こっているのか理解なんてできていない。

それでも母のため。父のため。誰かが助けてくれている。凛は頭のいい子だ。誰が敵で誰が味方かくらいは分かる。後ろにいるのは――だ。

森にさえ入れば敵を撹乱できる。小さい子供を暗闇で捉えるのは、いくら力の差がある大人でも厳しいはず。


――後ろでぶつかる音がする。今は、今だけは無視だ。

泣きそうな顔で。声を出してしまいそうな喉を。嗚咽を。全て耐えて走り続ける。木々までは残り2m。

美結のおかげで凛を捕まえるのに遅れる執行教徒。距離は十分すぎるほどある。

走る。幼稚園に通っていた時を思い出しながら。友達とかけっこをした時を思い出しながら。地面を踏み込みながら――。





「うぁ――」

――木々に入る直前、凛は倒れた。後頭部からの打撃。衝撃。目の前まで来ていた暗闇。入る直前に――暗闇へと入る。

魂が抜けたように地面へと倒れた。逃げようという意思も地面へと逃げる。暗闇と同じ色で。墨汁と同じ色で。塗りつぶされていく。


「――なんで」

後方。美結は多少の抵抗を示したようだが、無意味に終わったようだ。

「なんで――が」

――猟虎だった。ライフルを片手に持ち、木を背もたれに立っている。

「悪いか?」
「悪い……とかじゃないけど。村にいたんじゃ」
「ちょっと気になってな」

倒れている凛を踏みつける。

「――だがこれで終わりだ」
「終わり……?」
「こいつらを餌にすればあの男は喰いつく。必ずな」
「ま、待ってよ。猟虎なんか変だよ」


――ライフルを木に叩きつけた。怒りに任せて。憎悪に任せて。

「氷華が寝返った」
「……は?」
「そのまんまだ。羽衣桃也と手を組んだらしい」

音と猟虎の怒り。全てが繋がった。それはそれとして。目の前の猟虎に椿は恐怖した。

背筋が凍るような。名の通り、虎に睨まれたような威圧感。浮かび上がった血管がまるで虎の模様のように見える。

「あの野郎……俺の妹に……」
「な、なにかの間違いじゃ」
「……そうだ。なにかの間違いだ。氷華は仕方なく裏切ったんだ」
「猟虎……」
「教育なんてさせないぞ……拷問なんてさせないぞ……」
「みんな分かってるよ。大丈夫」
「……そうだな」

言葉は落ち着く。しかし血管は浮かんだままだ。


小屋の前。猟虎は桃也の家から盗んできたを捨てた。真っ赤で幼稚な笑顔が月を眺めている。

「それ……昨日の?」
「宣戦布告だ。散々この村を掻き回してくれたあの男にな」

炎は未だに燃えている。紅の空気は猟虎を照らしている。

「殺し方は分かる。人間も獣も。殺し方は同じだからな」
「……」
「――あの男は必ず殺してやる」
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